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嚥下障がいや摂食障がいの方向けの調理家電「DeliSofter(デリソフター)」を販売しているギフモ株式会社。起案した水野時枝に、近年の活動内容や「DeliSofter」で叶えたい未来について話を聞きました。
水野 時枝(みずの ときえ)
1983年に松下電器株式会社に入社し、炊飯器や洗濯機といった家電事業に携わる。2016年にGCカタパルトのビジネスコンテストに参加。「ケア家電」をテーマに取り組みを続け、2019年にギフモ株式会社に立ち上げる。嚥下障がいがある方のために、味や見た目を保ったまま料理を柔らかくするケア家電「DeliSofter」の発案者・介護食アドバイザーとして活動を続けている。
「SKS Japan」で感じた手ごたえと成果。「DeliSofter」の新たな可能性
水野時枝。ギフモメンバーとSKSJの展示ブースに立ち、デリソフターの試食提供と実機の紹介をしました。
──「食xテクノロジー&サイエンス」をテーマにしたイベント「SKS Japan」(以下SKSJ)に参加されましたが、いかがでしたか?
水野展示会やラウンドテーブルを通じて意見交換できたことが大きな収穫でした。SKSJでは、さまざまな分野で食に関わる方々が参加されていますが、ホテルと冷凍食品という2つの業界にアピールできました。
特に、ホテル業界は「DeliSofter」の起案当初からターゲットに想定していました。今回のイベントでお話をして、やはりホテルでも嚥下に障がいを抱える方が宿泊されるケースがあり、その方たちにどういった料理を提供できるのかが課題としてあったそうです。
──冷凍食品業界にはどのようにアプローチされたのでしょうか?
水野冷凍食品に関しては、お弁当に使う具材を柔らかくできないかという提案ができました。先方も「何かできればいいね」とかなり前向きでしたね。「DeliSofter」は、嚥下障がいだけではなく、口腔がんや入れ歯などが原因で食事に問題を抱えている方にも有効です。冷凍食品業界に参入することで市場が広がり、より多くの方に商品を届けられるのではないかと考えています。
──展示会では、どんな料理を提供されましたか?
水野「DeliSofter」で調理したブロッコリーとから揚げを食べていただきました。実は、ギフモを立ち上げる前、GCカタパルトで「DeliSofter」を検討推進していた時にもSKSJに参加したことがあって、当時を知る人からは「実現できたんだね」という声をいただけました。また、本体の見た目も当時の試作機と比べてスマートになっているので、そこに驚かれた方もいましたね。
「DeliSofter」で調理したブロッコリーと唐揚げの試食風景。普通食とほとんど変わらない見た目に参加者からは驚きの声も
──ピッチセッションにも登壇されましたね。
水野はい。高齢者向け施設での導入事例をはじめ、「DeliSofter」がいかに新しい食の形を提供できるかを強く訴えました。今まで嚥下障がいがある方は、食卓を囲んでいても家族と同じものが食べられないという課題がありました。しかし「DeliSofter」を使うことで、みんなと同じ見た目と味を楽しめる。これを私たちは食のバリアフリー化と呼んでいるのですが、その重要性を伝えられたかなと思います。
安心して使ってほしい。「DeliSofter」導入にあたり試食会を開催
──先ほど導入実績の話がありましたが、飲食店での実績についてお聞かせください。
水野「DeliSofter」を使用している方に「人生で最後に食べたいものは?」と聞くと、お寿司、天ぷら、うなぎといった和食の人気が高いです。中でもうなぎは、「DeliSofter」で調理するのに適した食材なので、提供している飲食店へ積極的にアプローチをかけています。
──そんな中、京都にある老舗「柳馬場 梅乃井」さんで試食会を開催されたんですよね。
水野はい。導入して終わりというわけでなく、お店の方に使い方を教えて安心して使っていただけるように見届けるのが、私たちの役割だと考えています。そこで安全性という観点から、本当に嚥下ができない方でも大丈夫なのかを評価してもらうために、医療や介護現場で勤務されている方にも試食いただきました。
通常の鰻とデリソフターにかけた鰻の食べ比べ、デリカッターの体験をしていただきました。
──参加者からの反応はいかがでしたか?
水野「見た目も味もそのままなのに、柔らかい」「ご飯が飲める」「感動した」と言っていただけましたね。
ご協力いただいた京都の柳馬場 梅乃井さん。江戸焼き鰻の味を伝えて九十余年、老舗の鰻料理店です
──実際に導入にあたり何か課題はあったのでしょうか?
水野外食産業へ参入するにあたり、調理時間が通常よりかかるという課題があったので、事前予約制を提案しました。お客さまがご来店される前に調理準備ができるので、全員が同じタイミングで食べられるように考えましたね。
高齢者施設でも導入実績多数。加工の手間をなくし、職員の負担も緩和
付属のデリカッターの説明をしている共同起案者の小川
──高齢者向けの施設でも導入されていますよね。
水野そうですね。嚥下障がいがあることで、同じ料理が食べられない、入居者の方の食の尊厳が守れないという課題は多くの施設が抱えています。また、食材を刻むなど加工する側にも負担がかかり、スタッフが腱鞘炎になるという問題もあります。
そういう問題を抱えた施設が、展示会などで「DeliSofter」に出会い、即決で施設へ導入いただくこともありました。
──即決はすごいですね。導入後はどのようにフォローされているのでしょうか?
水野使い方の勉強会以外にも、一緒にレシピも考えます。ウェブサイトにたくさんの情報は掲載されていますが、「DeliSofter」は、嚥下障がいを持つ本人が望む食事の実現を通してお客様に寄り添える調理家電です。私たちが積極的に施設の中に入り、コミュニケーションを取りながら使い方の手順や調理すべき品数などの提案を行い、課題を解決することを大切にしています。
──導入されている現場も実際に見られたんでしょうか?
水野もちろん、見ました。普段の食事やお菓子など「DeliSofter」で調理したものを食べているとみなさん、自然と笑みがこぼれていました。細かく刻まれた食事やソフト食では、見た目があまりに違うので、食欲が湧かず体重が落ちてしまうこともあると聞いていたので、本当に感無量でしたね。
「食べる」の次は「飲む」。「DeliSofter」が変える食の未来
──「DeliSofter」は、最近プチリニューアルしましたね。
水野食材の繊維を切り、調理工程で熱が通りやすいように穴を開ける「デリカッター」を、従来の72刃全4列仕様から11刃1列に改良しました。コンパクトで手入れも簡単にすることで、家庭でも使いやすくすることが目的です。 しかし、大量調理の場合は、従来のカッターの方が使いやすいと思うので、そのあたりは希望に応じて販売できればと思っています。
片手で使えるよう改良したデリカッター(左)。食材の形を崩さず繊維を細かく分断することが可能
──お店や施設だけでなく、家庭でも販売実績があるのでしょうか?
水野BtoBとBtoCは、現状半々の比率だと思っています。ケアが必要なお子様やお年寄りがいるご家庭が多いですね。家庭で使う場合は、まず家族がおいしく食べてくれるかが重要なので、購入前に試食会を案内したり商品を一定期間レンタル(*)もしています。
──今後の展望があればお聞かせください。
水野うなぎ店への導入が大阪、京都、静岡と徐々に広がりつつあります。お店の方も商品を気に入り「これから広めていきたい」と言っていただけているので、まずは47都道府県を制覇したいですね。
広めるにあたって「DeliSofter」をただ届けるだけではなく、不安なく使っていただけることがゴールだと考えています。勉強会を含めて、さまざまなアドバイスができるように私たちは介護食アドバイザーの資格も取得しました。「DeliSofter」は、食のバリアフリー化を叶える唯一無二の存在だと思っています。人は好きな物を食べることで笑顔になり、噛むという行為は健康寿命と関連性があります。さらに「DeliSofter」で調理することで脂が落ちヘルシーになるのではないかと考えているので、健康という観点でも研究をしていきたいと考えています。
一方でまだ、うまく調理できない食材があるので、改善していきたいですし、将来的には「食べる」ことだけでなく「飲む」ことへの課題も解決したいという想いがあります。私たちは、GCカタパルト時代からさまざまな課題に直面し、乗り越えてきたので、その経験を活かしながら強い想いを持ってこれからも進んでいきたいですね。
*レンタルについて
https://gifmo.co.jp/delisofter/news-release/news/dmm-rental-1c
■見た目そのまま様々な食事をやわらかくできる調理家電
「DeliSofter(デリソフター)」の製品情報はこちらから
https://gifmo.co.jp/delisofter/product-1c