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パナソニックのGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)は、社会の課題を解決し、暮らしに役立つ新しい価値を生み出す活動として、社内外で事業アイデアを出し合い、議論する機会づくりを進めています。
そうした新規事業のアイデアを生むきっかけにつなげようと、宇宙ビジネスの分野で幅広く活躍する野村総合研究所の森裕和さんを講師に招き、オンラインセミナーを開催しました。セミナーには約450名の申し込みがあり、40の事前質問が寄せられました。パナソニック内でも宇宙業界に高い注目があることが伺えます。
宇宙ビジネスに民間企業が参入する動きが活発化している今、私たちはどのようなことに取り組むべきか。今回は「宇宙ビジネスセミナー -衛星データから考える『未来のカデン』-」と題して、宇宙ビジネスの現状やパナソニック参入の可能性について森さんに語っていただきました。
ゲスト講師:森 裕和(もり ひろかず)
2018年に英エジンバラ大学理論宇宙物理学部を首席卒業。2019年に株式会社野村総合研究所に入所後、アナリティクス事業部や、グローバル製造業コンサルティング部などを経て2022年4月からコンサルティング事業本部事業DXコンサルティング部デジタルストラテジーグループでコンサルタントを務める。宇宙業界やICT(主に通信やデータセンター)を中心に、経営戦略とデータサイエンスの幅広い知見を生かして活動。一般社団法人SPACETIDEのCxOアドバイザー、株式会社WARPSPACEのCSOなど、多くの宇宙関連の企業や団体に所属し業界をリードしている。
今後は「宇宙データ利活用」「資源開発」「宇宙旅行」などの分野が発展する
29歳という若さで宇宙ビジネスを中心に活躍する森さんは、高校退学後にプロダイバーのライセンスを取得し、エジンバラ大学を飛び級入学して首席卒業という異色の経歴の持ち主。現在は衛星データ活用などの経営コンサルティング、特に宇宙の技術、経営、事業戦略に詳しく、セグメントとしては衛星データ解析、宇宙輸送、宇宙政策、宇宙デブリ、有人宇宙開発、宇宙美容などの領域で、専門的な知識を活用して、さまざまな宇宙ビジネスをけん引しています。
はじめに、森さんは宇宙業界の全体像を解説。「宇宙産業は主に6つのセグメントに分類できます」として、以下を挙げました。
- 宇宙データ・技術利活用:人工衛星からのデータを利用した地球上での事業
- 輸送:宇宙空間に人や物を送る事業
- 衛星インフラ構築・運用:宇宙空間に人工衛星のインフラを構築・運用するビジネス活動
- 軌道上サービス:デブリ除去など地球周辺の人工物に対する事業
- 宇宙旅行・滞在・移住:宇宙ホテルの運営や旅行を目的としたビジネス活動
- 探査・資源開発:宇宙探査機や探査車の開発、宇宙空間(月や火星)で行われるビジネス活動
なかでも「宇宙旅行・滞在・移住」のビジネスは近い将来発展するとされ、森さんは「宇宙に人が滞在すれば、生活のために家電も必要になります。家電を手掛けるパナソニックにも有効な市場です」と話しました。
実際に世界の宇宙産業市場は成長を続けており、2040年ごろには100兆円規模になると予想されています。宇宙開発の民営化も進んでおり、2021年には国際宇宙ステーションへの宇宙旅行が実現。国内でも話題になりました。
国内の動向については、2018年ごろから宇宙関連のスタートアップ企業や、これまで宇宙とは関連性がなかった異業種企業の参入が増えてきています。特に「宇宙データ・技術利活用」「探査・資源開発」「宇宙旅行・滞在・移住」の分野に進出する企業が多く、大手自動車メーカーや、光通信を扱う電子機器メーカーといった電気・機械・自動車業界の参入に注目が集まっています。
衛星データは企業が取り組むサステナビリティ活動にも利用できる
今後成長すると予測する「宇宙旅行・滞在・移住」の市場ですが、2030年の国際宇宙ステーションの運用終了が迫るなか、すでに米国を中心に民間宇宙ステーションを構築する動きが出ています。
森さんはその動向を踏まえて「宇宙ステーションには居住区があります。つまり人の生活をサポートする家電が必要。パナソニックのような企業であれば、家電はすでにベースがあるので開発費用は削減できます。宇宙空間のようなリソースが限られた環境でも使える家電を開発できれば、そこで培った知識や技術は従来の地球向けの製品の品質向上に活用できる可能性があります」と、宇宙向け家電の需要や利点について解説。民間企業の持っている技術力を活かしてほしいと話しました。
さらに、家電をはじめとするものづくり以外にも、近年重要視されているサステナビリティ貢献のために衛星データを利用できるとして「衛星でカーボン関連の数値をモニタリングしたり、さまざまなデータを観測したりすることで環境問題や社会課題の解決方法が生まれる可能性もあります」と活用方法を紹介。加えて「現在は観測するためのセンサーも種類が増え、精度も上がっています。光学観測やマイクロ波でのSAR観測を活用すれば、オゾンホール、海面水温、土壌成分などを分析できます」とテクノロジーの進化についても触れました。
最後に「パナソニックが宇宙産業に参入するメリット」を以下のようにまとめました。
- 全業界の中でも今後の想定CAGR(年平均成長率)が相対的に高く、企業価値が高まる
- 社会問題・サステナビリティと親和性の高い分野であり、企業価値が高まる
- 各業界の大手が続々と参画しており、会社の相対ブランド力向上維持となる
森さんは「今参入すれば、パナソニックは宇宙業界で戦える企業になれるのではないか」として期待を寄せています。
民間企業の開発力が、宇宙ビジネスの成長を促す。非宇宙系企業の可能性
セミナー後の質疑応答では、参加者から森さんに多くの質問が寄せられました。「宇宙ビジネスはいつごろ本格化するのか」「宇宙ビジネスと自動車産業の関係は」といった質問に対して森さんは「宇宙ビジネスの中でも衛星通信に関してはすでに事業化しています。ロケット打ち上げや宇宙ステーションがビジネスとして注目されたのは最近で、今後本格化すると予測しています。それから自動車産業は耐久性の高いものづくりができるという点で、宇宙ビジネスとの相性が非常に良い産業です。自動車は厳しい条件でも壊れないように設計しているので、宇宙という環境にも対応するものづくりができるのは強みです」と説明しました。
続けて「宇宙ビジネスの経験がなくても参入できるのか」という質問には「むしろ、これからの宇宙産業に必要なのは、これまで宇宙に関わってこなかった企業です。専門家は、衛星データなどを集めることはできても、製品に活用したり事業化したりすることはできません。宇宙で使う家電にしても、民間企業との協力が重要になります」として、今後の宇宙産業の発展には宇宙との関連性が薄い民間企業の参入こそが大切だと語りました。
そして森さんは「宇宙ビジネスにはロマンがあり、成長分野の市場を引っ張っていくというやりがいがあります。日本はハードウェアに強い企業が多く、宇宙ビジネスにも十分対応できると感じています」という言葉でセミナーを締め括りました。
森さんのセミナーは、私たちパナソニックの強みや性質を踏まえた内容の濃いもので、新しいアイデアづくりのきっかけになる有意義な時間になりました。今回は宇宙ビジネス全般を広く解説していただきましたが、この分野はまだまだ掘り下げるポイントがあります。
GCカタパルトでは、こうしたセミナーのシリーズ化なども検討しながら、さまざまなイベントを通じて「新しい価値を生み出したい」と考えている人のサポートを続けます。