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時空を超える空間を作る。オンラインギャラリー「Uttzs(ウツス)」の可能性
Written by Uttzs リーダー 田上 雅彦
「時空を超える空間を作りたい」。2020年度のGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)のビジネスコンテストに参加し、現在も事業化に向け進んでいる「Uttzs(ウツス)」についてそう語るのはプロジェクトリーダーの田上雅彦。Panasonic社内でのオンライン展示や、ギャラリーやアーティストとの交流を重ね着実に実績を積んでいる「Uttzs」ですが、さらなる高みを目指し、田上は日々サービスのブラッシュアップと課題の解決に取り組んでいます。
VRの普及も見据えたオンラインギャラリーという考え方
田上「『Uttzs』では、展示会場内を360度自在にウォークスルーが可能で、リアルな空間を再現できます。展示品も実際の展示会場よりもグッと近づいて、かつ高解像度で見られます。利用法は、展示会場全体を360度カメラで、展示品を一眼レフやスマートフォンなどの高解像度カメラで撮影。あとは、PCやタブレットなどにデータを取り込み『Uttzs』で編集します。さらに『Uttzs』はECサイトと連動することもでき、見る側は気に入った展示品があれば、その場で購入もできます」
展示場所や時間、空間にとらわれず、必要な機材さえあれば誰でも簡単にオンラインギャラリーが作れるという「Uttzs」。展示会の規模や作品数にもよるが、撮影と編集で所要時間は4時間程度。操作性にも配慮したと田上は言います。
田上「見る側はもちろんですが、作り手にも多くの方に使ってもらいたいという想いから、特別な技術も必要なく直感的に誰でも操作できるようにしました」
田上はパナソニックで洗濯機などの製品のデザイン開発をしており、その傍らで伝統工芸品などとコラボレーションし、造形作家としても活動しています。「Uttzs」の誕生背景にはそんな田上の個人的な想いがあったようです。
田上「さまざまクリエーターが展示会を催していますが、見る側にとっては興味があっても遠方であれば行きづらく感じる方も多く、作り手側においても展示場を借りる期限がある。このような場所や期限の制限にとらわれず、誰でもクリエーターが作る展示の世界観に触れられる機会を作りたいという想いから『Uttzs』が生まれました。展示会とは一つの空間に、アート、建築、デザイン、サイエンスなどが融合し、新たな創造が生まれる場所です。そんな融合領域で起こる多様な創造活動をエンパワーしたいと思っています」
アートや工芸を愛する人たちのために生まれた「Uttzs」。造形作家として活動する田上自身の体験から、このサービスの必要性を語ります。
田上「以前、私の関わった作品がリアルの展示会だと数枚しか売れなかったのに対しWeb上だとたくさんの方に購入いただけたことがありました。そのときに、世の中にはアートに興味を持ち購入したいと考えている方が多くいることを知りました。今後はVRも普及しますし、実物で見るよりも拡大して作品をみることができ、オンラインでもウォークスルーで展示会場の世界観を味わえる『Uttzs』の需要はもっと増えてくるのではないかと考えています」
「Uttzs」の可能性を知ってもらうために。さまざまな展示会に導入
田上「『Uttzs』は現在サービスを一般の方にも使用できるよう解禁しており、希望するユーザーには無料でβ版アプリを提供しています。芸術系の大学生や個人で活動する芸術家などから『Uttzs』を使いたいと問い合わせがあり、実際に活用いただいています」
事業化に向け確実に導入実績を積み重ねていく中で、新しい「Uttzs」の可能性に気づかされたこともあったようです。
田上「ある大学の展示会では、カメラを作品の内部に入れて作品内部から外側の世界を観客に見せていたケースがありました。そのアート表現はリアルに作品の中に入って見てもらわないと表現できなかったもので、『Uttzs』だからこそ、その体験をオンラインで表現できたものでした。やはり実際に使ってもらわないと気づかないことも多いと実感しました」
さらに田上は、「Uttzs」をもっと世の中に広めるため、一般のユーザーだけでなく大手アパレルメーカーや著名なアーティストとコラボレーションし大規模な展示会への参入にも取り組んでいます。「Uttzs」の事業化にあたっての課題は発信力だと、田上は言います。
『FUTURE LIFE FACTORY』の様子
田上「パナソニックの先行開発に特化して活動するデザインスタジオ『FUTURE LIFE FACTORY』の展示では、音声ガイドを活用いただきました。大手アパレルメーカーと「出土した玩具」をテーマに制作を行うアーティストがコラボした展示会では、ECサイトとも連携。人気のアーティストの作品を間近で見ることができるという意味でも『Uttzs』ならではのことができたのではないかと思っています。今後は、某世界的アーティストの展示会でも利用される予定で準備を進めています。このように世界的にも影響力のあるアーティストたちと力を合わせることで『Uttzs』を使う魅力を発信していきたいと考えています」
その他にも京都の伝統工芸士様によるアートの展示会や、古生物復元画家様の展示会、高級キッチンショールームなどのVR化も進めており、場所や時間にとらわれず、さまざまな作品を楽しめる世界が「Uttzs」で実現しつつあります。しかし田上は導入実績を重ねる中で課題も多いことに気づいたと言います。
田上「『Uttzs』の操作性や画面の切り替えなど使い勝手の良さという意味では、まだまだ改善の余地があります。また、作品を手に取っているかのように360度から見たいという声も多くあり、機能面でのアップデートの必要性も感じています」
時間も空間も超える存在に。「Uttzs」が実現する新しいギャラリーのあり方
Uttzsギャラリーサイト
着実に導入実績を重ねている「Uttzs」ですが、初期のアイデアは今のようなサービス内容ではなく、ロボットを用いたサービスでした。
田上「どこでも展示会を楽しめるというコンセプトは一緒だったのですが、当初はもっと臨場感のある体験をしてほしいという想いからカメラ付きのロボットを会場に置き、それを観客が操作をして...というアイデアでした。しかしそれでは技術面から考えてもいつ実現できるか分かりません。ところがお客様候補の方にヒアリングすると、少しでも早い実現が求められていたためハードウェアを持たない今の形に転換しました。自分一人ではなく、いろいろなメンバーと意見を交わせるGCカタパルトのおかげで実現できたのだと思います。私は今まで製品のデザインを担当してきたので、事業者としての考え方や収益化の方法論など多くのことを学びました」
「Uttzs」の主な収益源は、ツールの使用料やECサイトですが、サービスの本格的な展開の仕方も含め、実際に使ってもらう中で模索中だと言います。
田上「展示会以外の用途として、遠隔地でのプロダクト確認を効率的に行えるという方向性でも可能性を感じます。具体的には、社内で海外メンバーとプロダクトについての会議の際にデザインモデル展示の様子を「Uttzs」で共有したところ、海外のメンバーにも細かなディテールも確認してもらうことができ、業務の効率化を図ることができたという声がありました。
今は過去に撮った展示会や作品の映像をアーカイブとして楽しむサービスですが、もっとリアルタイムに近い空間、実際にその場にいるかのような追体験ができるものにしたいと考えています。例えば、空間の中に作家本人がいてやり取りをしたり、会場の物音なども聞けるようにできれば『時空を超える空間』が作れます。ただそれには、カメラで撮影し、Webにアップロードするという仕組みも変えなければいけません。技術的な問題もありますが、時代の流れとともに着実に進化していくものなので、もっと長いスパンで『Uttzs』を育てていければいいなと考えています」
時代の流れとともに技術も進化し「Uttzs」のあり方も変わりますが、アートに関心を寄せる人々がいる限り、田上の挑戦は続きます。
「Uttzs」をご利用になりたい方は以下よりご連絡ください。
問合せ先 https://www.about.uttzs.art/contact
「Uttzs」ギャラリー
https://www.uttzs.art/