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パナソニックくらしビジョナリーコラボでは、業界の垣根を越えてパートナーとの新事業創出にチャレンジする社員の活動を紹介しています。
今回取り上げるのはパナソニック株式会社エレクトリックワークス社が2025年2月25日より提供開始した、電気自動車(以下、EV)の充電管理を最適化する戸建てEV所有者向け「おうちEV充電サービス」です。EVユーザーの便利なカーライフをサポートするため、電力会社、自動車関連会社、保険会社、スタートアップなど多様なパートナーとの協業により生まれたこのサービスはどのようなもので、どのように実現したのか、立ち上げをした山本悠斗さんに話を聞きました。
EVライフをサポートする「おうちEV充電サービス」とは?
「おうちEV充電サービス」は利用者に最適な電気料金プランをアプリ上で提案し、電気代節約をサポートします。IoT EVコンセントと組み合わせて使うことで、充電量や電気代を見える化し、電気代が安い時間帯での充電制御が可能となります。
また、外出先で充電スポットを検索できる機能や、アプリを使うたびにオンラインショップやQR決済で利用可能なポイントが貯まる機能を搭載。EV乗換前後のコストや車両の下取り価格に関するシミュレーションや、EVに対応した自動車保険の案内などの機能も搭載し、EV乗換前から乗換後までをトータルでサポートするサービスです。
国や業界団体とも連携し、企画と施工ルール策定に取り組んできた日々
―はじめに、山本さんのご経歴を教えてください。
電気自動車用充電設備の設計からキャリアをスタートし、企画にも関わってきました。具体的には2017年頃、当時の日本では電気自動車用充電設備の施工ルールは3kWまでしかありませんでしたが※、業界団体を通し国や自動車連合会などと折衝を重ね、6kWの施工ができるルール策定をするとともに、対応する商品も同時発売しました。その後、電気自動車用充電設備のIoT化を進め、HEMSとの連携やV2H※の企画、それらの充電設備を活用した様々なサービス立ち上げにも挑戦してきました。
※施工ルールに制約があることの課題について...3kWでは40kWhのEVをフル充電するのに約13時間以上かかり、社用車を多数保有する法人など1日に複数回・複数台の充電が必要なケースにおいて実運用が困難な課題があった。
※V2H...「Vehicle to Home」の略称。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のバッテリーに貯めている電力を、自宅で使えるようにする機器。

脱炭素化社会に向けてEV充電の最適化ニーズが高まる
―キャリアの当初から多様なステークホルダーと連携し、業界のルール策定にも取り組んできたのですね。「おうちEV充電サービス」はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
脱炭素化社会に向けて社用車、公用車のEV化が加速していた中、法人においては複数台の充電管理をどのようにすべきかが共通課題としてありました。これを受け、充電設備のクラウド連携を通じて、日中の電力需要が高まる時間帯を避け、夜間などに充電を分散し最適化する「Charge-ment(チャージメント)」というソリューションを立ち上げました。サービス費用をいただいてもコスト削減を実現することができたため、提供価値と収益構造を両立したビジネスモデルの確立が可能となりました。
一方、戸建向けは、EV・PHEV市場の広がりにより高い成長が見込まれていましたが、住宅事情によりさまざまなお困りごとがあるため、新たなサービス企画とビジネスモデルの構築が必要でした。
―どのようなことから始めましたか。
戸建向けの企画にあたっては、改めてお困りごとの分析を行いました。商品企画をしていた頃から現場に行くことが好きで、お客様や施工会社様からもヒアリングを重ねていたのですが、「充電設備が良くなったことは分かるけれど、EVを買う時って充電設備は見ていないよね?」「電気代がどれだけ上がるのかが分からない」といった声をよくいただいていました。EVを購入するお客様もまだアーリーアダプター※が中心だったので、電気代を自ら計算されている方もいて、電気代の見える化に関する要望は多いと感じていました。また、Webニュースをはじめとしたデスクリサーチを通じ、「EVは街中で充電できる場所が少ないから、不便なのではないか」という不安の声も多く見られました。
※アーリーアダプター...流行に敏感で、自ら情報収集を行い、判断する層

こうした声を踏まえ、戸建てにお住まいのEV所有者を対象にアンケート調査を実施したところ、約86%の方が「主に自宅で充電している」ことが分かりました。また、「自宅でのEV充電にかかる電気代を知っていますか」という質問に「知っている」と回答した方に対し、自宅で充電を始めてからの電気代の変化を尋ねたところ、約35%の方が「電気代が1.3倍以上になった」ことも分かりました。
さらに、EV購入後に電気料金プランや電力会社の見直しを行ったかを聞いたところ、約30%の方がプランを変更しており、そのうち約9割が年間1万円以上の電気代削減を実現していました。

―年間1万円以上とは大きいですね。
そうなんです。外出先での充電に関する不安の声は以前から耳にしていましたが、実際には多くの方が自宅充電を基本としており、電気料金の見直しによってコスト削減が可能であることも明らかになりました。一方で、約70%の方は電気料金プランの見直しを行っておらず、自宅充電における改善の余地がまだあると感じました。こうした実態を踏まえ、自宅での充電をより効率的にし、電気代削減につなげることで、EV導入時の不安を解消し、乗換後のくらしをより快適にできるのではないかと考え、今回のサービス企画に至りました。
目指す世界観から共有し、異業種共創を推進、社内知見からも学び
―EV乗換の前後で、電気代に対する不安や課題が共通していたんですね。これを解消するために、パートナー企業様とどのように連携を進めてきたのでしょうか。
設計・企画や各種サービス立ち上げに携わっていた当時から、100社を超える企業と会話をしてきました。その中でも電力会社様と会話する機会も多くありましたが、今回のサービス企画においては、これまでの関係性を活かしながらも、まず目指す世界観から共有することを心がけました。電力会社様に対しては、「脱炭素社会に貢献していくために、戸建て向けのEVの充電設備をIoT化し、日中の電力需要が逼迫した際に各家庭での電力使用をコントロールするような制御を一緒にやりませんか」とお話しし、共感を得て「電気料金プランのシミュレーション」の検討がスタートしました。
―実際に電気代節約を実現するにおいては、各家庭での電力使用をモニタリングするIoTコンセントの活用も肝となっているかと思います。ここはどのように連携先を開拓したのでしょうか。
元々EVユーザーの中には、夜間の電気代が安い時間帯になったら外へ出て充電するなど、手動で制御されていた方もいたため、利便性を高めるためには自動制御をやっていくべきと考えていました。IoT化に関し迅速に対応できる企業を調査し、アプローチしたのですが、そこで候補に挙がったのがIoT機器によるエネルギーマネジメント事業を展開するNature株式会社(以下、Nature)様です。長年、電気設備業界にいるので、家電をスマートフォンから操作できるスマートリモコン「Nature Remo(ネイチャー リモ)」を展開されている企業として元々知っていたのですが、決め手となったのは社会全体でのエネルギー効率化という目指す未来への「共感の深さ」と「スピード感」です。スタートアップなので社長と直接お話しできたことも大きかったですが、とにかく意思決定がすごく早い。最初の相談から約1か月で連携が決まり、約1年で開発に至りました。
一方、販売ルートの検討においては、長く当社が電設資材事業を展開し、蓄積してきた知見が参考になりました。様々な販売ルートに携わる方に相談していく中で、「本サービスの特性や、新規サービスの立ち上げ期というフェーズを踏まえると、顔が見える連携先にリソースを投入し、学びながら徐々に展開先を増やしていく方がよいのでは」と意見をもらえたことは新たな気づきでした。企画と営業、それぞれ異なる知見を持ち寄り、並走できる環境から学びを得ています。

お客様の課題起点で連携の幅を広げ、共創先の業界活性化も目指す
―電気代の節約一つとっても、さまざまなパートナーとの連携があるのですね。他にはどのような工夫をしているのでしょうか。
乗換検討時に「今の車を売ったらいくらになるのか」という疑問があることも聞いていたため、中古車販売データを保有する自動車関連会社様と連携し、「下取りシミュレーション」を検討しました。これは、将来的にEVの再販価格を高めることに貢献したい狙いがあります。EVは電池の劣化が懸念されることから、再販価格が低くなってしまう課題があるのですが、「おうちEV充電サービス」により充電の最適化をすることで電池の劣化を抑え、査定価格の向上へ繋げられないかと考えています。我々のデータを活用いただくことで、中古車市場の活性化とEVの普及拡大に貢献したい思いからお話し、共感いただきました。
また、乗換検討向けにEVに対応した自動車保険の案内もできるよう、保険会社様とも連携をしているのですが、各種保険プランの中には車の運転実績に応じ保険料を算出するものもあるため、EVに関しては過去の充電実績が今後参考になるのではないかと考えました。EV向けの自動車保険の充実化という将来構想に共感いただき、連携に至っています。
―各業界の活性化も意識して連携を進めているとは、目指す世界観の幅広さに驚きました。乗換後のお困りごとについてはどうでしょうか。
自宅で充電する方が多い実態ではありましたが、「遠出をする時にどこで充電するのがよいのか」という不安も解消するために、自動車関連の会社様と連携し、充電スポットを検索できる機能を作りました。先方が保有する自動車走行履歴を参考にし、ルートの最適化について、一緒に取り組みながら今後の方向性を考えていきたい、という思いに共感いただき、連携に至っています。先方も、我々のアプリと連携する方が新たな開発投資を伴うことなく、より多くの走行データ収集をすることができるため、メリットがあると感じていただけました。
―ポイントが貯まる機能も搭載しているようですが、これはどのような狙いなのでしょうか。
ユーザー向けのアプリサービスなので、まずはアプリを便利にご利用いただけるようにポイント機能を実装しました。社会全体のエネルギー効率化に貢献していくためには、ユーザーの皆さまに継続的にお使いいただくことが不可欠です。将来的には、電力需要が逼迫している時間帯に充電制御に協力いただいた方へインセンティブを提供することを考えています。「電気代が安くなるよう自動で制御してくれて、しかも稼げる」―そんな仕組みであれば、お客様にも喜んでいただけるのではないかと考えました。このような仕組みの構築は自社単独では難しかったため、SaaS系の企業様と連携し、ポイント機能を構築しています。
自社が得意とする領域は自社で構築し、既に世の中で広く普及しているサービスがあれば、その業界の活性化にも貢献する視点から連携の構想を描き、協業をお願いする、両利きのアプローチで今後もこのサービスを発展させていきたいです。

電気設備業界のプラットフォーマーを目指したビジネスモデル構築
―異業種と共創していく上で、視座の高さも大切であることがよく分かりました。「おうちEV充電サービス」は無料で使えるアプリのようですが、ビジネスモデルはどのように検討しているのでしょうか。
お客様の電気代などの課題を解決しようと考えた際に、我々も何か収入を得る仕組みがないとサービス運用ができないので、この分野におけるプラットフォーマーを目指すべく、さまざまな業界で展開されているマッチングモデル※を参考としています。お客様にはアプリを無料で使っていただく一方で、サービス運用に関わるコストは受益者側で負担する仕組みを構築しています。
データを利活用し、お客様に対してメリットを最大化し、社会全体のエネルギー利用を最適化するとともに、ユーザーに対しても、電気代を安くすることが社会貢献にも繋がっていることを発信していきたいです。
※マッチングモデル...顧客同士をマッチング(紹介)することによって、紹介料を得て利益を上げるモデル。不動産仲介会社、転職支援サービスなどさまざまな業種で展開されている。

新規事業で心がけるべきこととは
―今回、多方面との調整が必要で、困難もたくさんあったことと思います。新規事業を進めることでどのようなことを意識していますか。
まず社内外とも「信頼感」を大切にすることです。真摯に言うべきことは言い、嫌なことは嫌と言う。誠実にオープンに接することで、信頼関係が構築されていくと感じます。
加えて「スピード感」です。新規事業で、とりわけ変化の激しいスタートアップ業界との連携で、「持ち帰って検討します」はあり得ません。状況に応じて即座に意思決定をしていくことが大切であり、スムーズな連携に繋がっていくと思います。
社内でとりわけ肝となるのは「チームビルディング」です。これは結構難しい。新規事業なので、企画、マーケティング、開発、法務、調達、広報などの部門ごとにリレー形式で進めるのではなく、チーム全体で状況を共有し、連携しながら対応していく必要があります。この中で心がけてきたことはまず、「会社にとってやるべき」というレイヤーで賛同をいただくことです。当社は、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立を目指した「Panasonic GREEN IMPACT」という長期環境ビジョンを掲げていますが、「EV充電器販売を伸ばしていくためには、EVユーザーを増やしていくことが必要」「これはエネルギー課題の解決に繋がるので、会社にとって新しくチャレンジすべきビジネスである」といった考え方ですね。
また、「自分の担当ではないから関わらない」というスタンスではなく、ビジョンに共感してもらい、味方になってもらうことも意識していました。お互いがモチベーション高く、「やりたい」気持ちを持って参画してもらう姿が理想だと思っています。
電気設備に関わる新規事業は、関わる業界も職種も幅広く、法整備や補助金など国の施策にもアンテナを張り、ありとあらゆることを勉強しなくてはなりません。しかしそれが本当に楽しくやりがいがあります。

見えないところでくらしを支える社会インフラを目指して
―忌憚なく意見を言い合うチームの皆さんの雰囲気もとても素敵だなと感じました。最後に、今後実現したい世界や、連携したいパートナーについて教えてください。
「EVライフになってよかった」と皆さんが思えるような社会にしていきたいですね。「便利さを失うけれど、国が薦めているから」とか、「コストがかかるけれど、環境に良いから」など何かを妥協するのではなく、利便性と低コストが両立するくらしの実現に向けて、このサービスを普及させていきたいです。そして、多くの方にお使いいただくことで、平常時も災害時も社会全体でエネルギーの効率利用が進み、見えないところでくらしを支える社会インフラを目指していけたら。同じ未来を目指している企業様であれば是非、どのようなことができそうか、是非ディスカッションからさせていただけると嬉しいです。
また、パナソニックは長年ハードウェアをメインで販売してきた会社ですが、これから高齢化や人口減少などの社会課題に直面していく中で、一人のお客様と長くお付き合いし、より生活の多様な場面でお役立ちしていけるよう、ハードウェア単品売りから収益構造も変えていく必要があります。このサービスも契機に、ユーザーのデータに基づく利便性のあるサービスをどんどん世の中へ打ち出していける会社にしていけるよう、私たちのチャレンジを広めていきたいです。
EVライフを更に快適に、そして社会全体のよいくらしをより良くしていくために、EVの走行や充電に関するデータにはまだまだ大きな可能性があると考えています。データの利活用に知見のあるAI分野の方など、是非、更なる連携の機会を楽しみにしています。
・「おうちEV充電サービス」のアプリダウンロードはこちらから

(編集後記)
電気設備というインフラ領域のサービスを広く普及させていくためには、ユーザーのくらし全体に寄り添いながら解決していくこと、そしてその実現に向けて、さまざまなパートナーとの連携が欠かせないことを改めて実感しました。また新規事業を進めていく上では、同じ目標に共感してもらえる仲間を集め、チーム全員で状況を共有しながら、スピード感をもって課題に向き合っていく大切さも強く印象に残りました。
中でもひときわ印象的だったのは、チームの皆さん一人ひとりが企画の主体者として、日頃から出会う人たちに積極的に意見を求めながら、常にサービスのアップデートを意識している姿勢です。
「おうちEV充電サービス」で提供されている「電気代シミュレーション」は、EVを所有していなくても使うことができ、実際に年間1万円以上の削減に繋がるプランもあることに驚きました。EVライフを始める前から、潜在ユーザーとして共創に参画しているような世界観にもワクワクします。今後も更なる進化に期待です!
(くらしビジョナリーコラボ広報担当)