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2026年4月、パナソニックグループは新たな体制へと舵を切ります。この大きな転換点を前に、私たちは改めて問い直しました。これまでの新規事業活動において、一体何に挑み、何を学び、そしてその先に何を見据えているのか。2013年の事業開発センター発足から歩んできた、挑戦と葛藤の10年を振り返ります。
成熟した企業にとって、新規事業が避けては通れない最重要課題であることは間違いありません。しかし、その根底にあるのは決して義務感だけではないはずです。安定した既存事業の傍らには、常に「もっとできるはずだ」「未知の領域へ挑戦したい」という熱いエネルギーが渦巻いています。苦難の連続でありながら、同時に未来への希望でもある――そんな二面性を持つ「新規事業」は、次の10年、どのようなストーリーの中で語られていくのでしょうか。
実態として、大企業における新規事業への挑戦は困難を極めます。成功確率の壁に阻まれ、無制限に挑戦を続けることは許されません。かといって領域を絞れば既存事業との調整に追われ、絞らなければ社内の協力が得られない。「右にも左にも振り切れない」というジレンマの中で、私たちは自社アセットを新天地へ解き放つ術を必死に模索してきました。アクセラレータープログラム、ビジネスコンテスト、シェアオフィス、そして投資ファンド。この10年は、あらゆる外部協業の道を切り拓き、試行錯誤を積み重ねてきた歴史でもあります。
このたび、事業開発センターの解散という節目に際し、パナソニックグループでスタートアップ投資を牽引する二名のキーマンをゲストに迎えました。当事者の視点から、当社の新規事業が歩んだ軌跡と、その裏側にあった本音を改めて語り尽くします。
(※本動画は、年末に社内向けに行われたセミナーを再編集したものです)
パナソニックのスタートアップ投資活動について
―はじめに、Conductive Venturesとパナソニックくらしビジョナリーファンドについて教えてください
菊池Conductive Venturesは、米国を拠点に革新的なテクノロジー企業の起業家を支援するベンチャーキャピタルです。2017年に1号ファンドを設立し、現在は2号・3号ファンドを含め、運用資産総額4億5,000万ドル規模のファンドを運営しています。
産業の大きな変化は、必ずしも自社の事業領域の中だけで起こるとは限らず、一見関係のない分野で生まれた技術やビジネスモデルが、後に既存事業へ大きな影響を与えることも少なくありません。Conductive Venturesはこうした考えのもと、既存事業の枠にとらわれず、広い視野で将来の成長領域を見極めています。
CVC投資には「財務リターン」と「戦略リターン」という二つの目的がありますが、Conductive Venturesでは前者の財務リターンを重視しています。まずはスタートアップが持つ競争力や成長性によって高い財務リターンを生み出せるかを見極め、その先に事業連携や新たな価値創出の可能性が広がると考えています。
郷原パナソニックくらしビジョナリーファンドは、くらしに密接に関わる領域を中心に、国内外の有望なスタートアップへの投資を行っています。2022年に設立され、運用期間10年間、総額80億円規模のファンドです。
短中期、特に直近3年程度の時間軸を意識しながら、事業部門が新しい事業分野へ踏み出していくための取り組みを支援しています。スタートアップとの連携を通じて、次の成長につながる事業機会の創出を後押しすることを目指しており、「財務リターン」と合わせ、「戦略リターン」も重視しています。
過去10年の新規事業創出活動を振り返って
―投資領域や目的の違いが改めてよく分かりました。
ここに、ファンドも含めて2016年から2025年にかけての当社を含む大企業の新規事業に対する取り組みをまとめてみました。大きく分けてアクセラレータープログラムやビジネスコンテストのようなボトムアップでアイデアを募る「コンテスト」、「ファンド」、そしてスタートアップに場所を提供する「スペース」の3つの形式があると考えています。また、新規事業開発を行う組織として当社には事業開発センター(2013年~2025年)、スタートアップとの共創を推進する活動としてくらしビジョナリーコラボ(2024年~)も生まれました。菊池さんは、「ファンド」に加え「コンテスト」においても、2016年から8年間続けられた社内公募型の新規事業創出活動「Game Changer Catapult(GCC)」の代表を務めていましたが、振り返ってどのように感じていますか。
郷原大企業では「100億円規模の事業を生み出せるか」が問われますが、ボトムアップの活動では残念ながらその点は厳しかったと感じています。
菊池新規事業の取り組みは既存事業とあわせて企業価値の向上に一定の役割を果たしてきたと思います。一方で、「これまでの新規事業取り組みだけで、どこまで貢献できたか」と考えると、まだ十分とは言えないのが正直なところです。時間軸や手法を変えながら、いわゆる両利きの経営を目指してきましたが、新規事業は短期間で成果が出るものではありません。だからこそ、今後も試行錯誤を続けていく必要があると思います。
―個々の具体的な取り組みの観点からも振り返ってみたいと思います。
「デリソフター」
GCCの1期生テーマとして始動した調理家電。噛み応えのある食事や歯を使って咀嚼して飲み込むお料理を、見た目と味、そのままにやわらかくすることができます。嚥下障害など食の課題を抱える方に食の楽しみを提供したい、創業メンバーの思いから始まりました。GCCへの応募後、新規事業の創出促進を目的とした投資会社「株式会社BeeEdge」から出資を受けて法人化しています。(※2024年3月に販売終了、会社解散)

「ミツバチプロダクツ」
チョコレートドリンク事業を手がけるスタートアップ。栄養価の高いスーパーフードとしてのカカオの可能性に強く惹かれた創業者が、「新しい食文化をつくりたい」想いで立ち上げました。短時間で出来立ての香り高いチョコレートドリンクができる機器販売に加え、表参道にて店舗も運営しています。(関連記事)

「VIXELL(ビクセル)」
冷蔵庫に使用されるコンプレッサーなどの部材を生産する事業部の基幹技術、真空断熱材を軸に生まれたテーマ。物販からサービス化を目指し、事業開発センターで事業化を実現。事業部へ引き継がれました。(関連記事)

大企業の新規事業創出活動における課題・学びとは?~経営層視点より
―個々の事例を見ていくと、顧客の課題やニーズを起点にしたテーマが多かったように感じます。一方で、そうした取り組みは価値がある反面、事業として大きくスケールさせていく難しさもあったかと思います。GCCは2024年に活動終了し、スタートアップとの共創により新規事業創出を目指す「くらしビジョナリーコラボ」に舵を切っていくこととなりましたが、この辺りの経緯について教えてもらえますか。
郷原やはり、大企業で新規事業に取り組む以上、自社のアセット(ヒト・技術・ブランド・商流など)を活かせなければ事業として成立させるのは難しいと感じています。GCCは顧客課題を起点に新規事業を立ち上げるプロセスを学ぶ意味では大きな意義があったと思います。一方で、顧客価値を追求すればするほど、事業部が向き合っている顧客層から離れたサービスに着地してしまうこともありました。
もう1つの背景として、顧客価値を起点にゼロから事業を立ち上げること自体の難しさがあります。スタートアップは限られたリソースの中で仮説検証を高速に回し、顧客価値に刺さる事業へ磨き上げしていくことを得意としています。一方、大企業には豊富なアセットがある反面、同じスピード感で試行錯誤を重ねることは容易ではありません。
そういった背景もあり、事業開発センターは、事業性を確認できている領域で実績を持つスタートアップと連携し、取り組む形にシフトしていきました。
―大企業で新規事業に取り組む上での課題を踏まえ、アプローチを変えてきた経緯が改めて分かりました。
新規事業推進には、経営戦略としての側面と、人材育成としての側面の両方があると思います。この二つはどのようなバランスで取り組んでいくのが望ましいでしょうか。
菊池GCCも、当初から人材育成を目的に掲げていたわけではなく、あくまで新しい事業を生み出すことを第一に取り組んできました。その過程では、多くの意思決定や試行錯誤が求められるため、結果的に成長に繋がる側面は確かにあると思います。
ただ、私たちは事業会社です。新規事業の取り組みにおいても、まず優先すべきは事業を創ること。そのうえで、挑戦の積み重ねが人材の成長につながっていく、と捉えています。
郷原私も、第一に事業成果のみを追求、最前線で事業開発をしていくことで結果的に人材が成長していく姿にしていくことが今後も必要と感じています。
今後目指したいこと
―最後に今後の展望について教えてください
菊池企業が挑戦を続けることは、新規事業に限られるものではありません。日々の事業活動の中でお客様と向き合い、既存事業をアップデートし続けることも同様に重要です。既存事業と新規事業を両輪として捉え、会社全体として取り組み続けることで、結果として持続的な企業価値の向上につながっていくと思います。
郷原これまでの活動を通じ、大企業のアセット投入を見据え、新規事業の領域策定を形式化することはできてきたかと思います。また、この仕組みはリソースが限定されている海外でも活かせるものと感じています。次期中期経営計画ではより大粒の事業創出に向け、横展開していくとともに、過去の学びを引き継いでいく仕組み構築にも取り組んでいきたいと思います。
大企業における新規事業の推進には、事業部との連携を見据えた領域選定や進め方が欠かせません。今回の取材を通じ、経営層・現場双方から多くの気づきが寄せられ、学びを横断的に共有し、次の組織へと引き継ぐ仕組みづくりの重要性を改めて確認する機会となりました。これまでの10年間の挑戦で得た知見を糧に、新体制のもとでどのような進化を遂げていくのか、今後の活動にご期待ください!
(くらしビジョナリーコラボ広報担当)