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次世代Bluetooth®「Auracast™」が変える"音の届け方"と、すべての人がつながる社会へ

次世代Bluetooth®「Auracast™」が変える

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    Auracast™は、Bluetooth®の次世代規格「LE Audio」によって実現された新しい音声配信技術です。この通信規格は、低遅延・低消費電力を実現しながら、一台の発信機から複数の人に同時に音を届けることを可能にし、従来のBluetooth®の枠を超えて、公共空間での情報提供など社会課題の解決にもつながる可能性を持っています。

    長年パナソニックで開発をリードしてきた補聴器事業推進室 室長 藤井成清さんにインタビューしました。

    音の届け方を変える、新しい仕組みとは

    ―Auracast™とはどんな技術でしょうか

    藤井さんAuracast™は、Bluetooth®の新しい無線機能の一つで、ラジオで聴きたい番組や音楽を選ぶような感覚で音声を受信できる技術です。今後、送信機の設備が普及していくと、空港や電車の中などで、周囲の環境に左右されることなく、自分が効きたい音声を直接クリアに聴くことができるようになります。
    さらに、低遅延・低消費電力といった特長を持ち、補聴器のように長時間使用する機器にも適しています。

    1つの送信機から多数の受信機へ同時に音声を配信し、受信側がアシスタントで音声を"選んで受信"する仕組み

    ―どのような背景から生まれたのでしょうか

    藤井さんBluetooth®の新しい機能「Auracast™」は、もともと補聴器分野の課題から発展した技術です。
    開発の出発点は、「送信機のメーカーが変わると補聴器に接続できない」という相互接続性の問題でした。以前は各メーカーが独自の無線方式を採用していたため、テレビや会場の音声を補聴器に送信しようとしても接続できないケースが多くありました。

    また、Auracast™が登場する以前は、公共施設などでは「ヒアリングループ(テレコイル)」という仕組みが広く使われてきました。これはホールや床に設置した磁気ループからの信号を、補聴器で受信することで、対応機器であればメーカーを問わず音声を聞くことができる仕組みです。一方で、設備が大掛かりで設置できる場所や受信範囲が限られることや、電磁波干渉を受けやすいなどの課題がありました。

    こうした背景の中で、特に北欧の補聴器メーカーが中心となり、相互接続性の高い無線音声技術の検討が進められました。補聴器の利用シーンである「テレビや、ホール・教室で音をクリアに聞きたい」といったニーズに応えるため、低遅延・低消費電力・低コストで複数機器に音声を届ける仕組みを追求して開発されたのが、Auracast™です。

    実用化に向けて乗り越えるべきポイント

    Auracast™の送信機(ヒビノ社製)、受信機(当社補聴器・Technicsのイヤホン)

    ―Auracast™を補聴器やイヤホンに実装していく中で、どんな課題がありますか

    藤井さん実装における課題は大きく分けて2つあります。
    1つ目は、補聴器やイヤホンの中で複数の無線機能をどのように制御するのかということです。
    例えば、Auracast™で会場の音声を聞いている最中に、スマートフォンへ着信があった場合、「通話音声を優先するのか」「Auracast™の音をバックグラウンドで流し続けるのか」といった切り替えの制御が非常に重要になります。単に受信するだけでなく、ユーザーの状況に合わせてストレスなく音声をハンドリングする設計が求められます。

    そして2つ目が、より本質的な課題である「ユーザー体験(UX)の設計」です。
    Auracast™では、周囲で飛び交っている複数の音声の中から、自分が聞きたいものを選ぶというステップが発生します。例えば空港であれば、案内放送、テレビの音、多言語アナウンスなど、多くの選択肢がアプリ上にリストアップされることになります。
    ここで重要なのは、「迷わずに目的の音を見つけ、スムーズに切り替えられるか」という点です。「音を選ぶ」という新しい体験を、いかに直感的なものにするかが鍵となります。

    また、実際の利用環境を広げていくうえでは、プラットフォーム側の対応も重要になります。Androidでは一部でAuracast™対応が進み始めていますが、iPhone(iOS)は現時点では標準機能として対応している段階ではなく、今後の拡張が期待されている状況です。そのため当面は、メーカー独自のアプリなどで利便性を補完していく必要があります。

    一方でハードウェア面では、すでに対応ICが普及し始めており、技術的な制約は少なくなっています。そのため現在は、「どの音を、どう選び、どう切り替えるか」といったUXの完成度を高めることが、開発のメインテーマになっています。

    音のインフラはどこまで広がるのか

    補聴器事業推進室 室長 藤井成清

    ―Auracast™は今後、どのように社会に広がっていくと考えていますか?

    藤井さんAuracast™は技術としてはすでに形になりつつありますが、今後は「どこで使われ、どのような価値を感じられるか」が普及の鍵になると考えています。

    たとえば空港や駅、映画館、美術館、介護施設といった場所では、すでに音声案内や補助的な仕組みが存在していますが、現在はそれぞれが個別に運用されているのが現状です。Auracast™はこれらを一気に置き換えるのではなく、既存の仕組みとどう組み合わせていくかがポイントになります。

    特に「困りごと」が明確な領域ほど、導入は早いと考えています。 たとえば介護施設では、スタッフの声や音楽に合わせて体操する場面がありますが、耳が聞こえにくい方は声や音を明瞭に聞き取れず、うまくリズムに乗れない課題があります。また、大きなホールや教室では声の減衰や残響で、話者の声が聞き取りづらい課題もあります。このような切実なニーズがある場所から、まずは実証的に広がっていく可能性があります。

    一方で、普及には「インフラ設備をどう整えるか」と「ユーザーがどう迷わず使えるか」という両面の設計が必要です。空港のような多言語環境であれば、多くの選択肢から迷わず目的の音声に辿り着ける設計が必要ですし、日常使いであれば切り替えの手間を極力なくすことも重要になります。

    ただ、この領域は一社だけで完結できるものではありません。受信機やイヤホンだけでなく、送信機を設置する施設側、さらに空港・鉄道・映画館などの運営事業者、そしてアプリやサービスを提供する企業が一体となって初めて成立します。Auracast™は、製品単体の技術ではなく、複数のプレイヤーが共通のインフラとして支えていく仕組みです。当社単独で完結するものではなく、むしろパートナーと連携しながら社会全体で作り上げていく技術だと考えています。

    Auracast™は、音の伝え方そのものを変える可能性を持つ技術です。私たちは、音が届くことを前提に生活していますが、実際には同じ音を聞くことが難しい方もおられます。そうした「音にアクセスできない」という状況をどう解消するか、そこから生まれてきた技術です。

    最終的には、誰もが同じ音に、同じようにアクセスできる環境が整っていくこと。それがAuracast™の目指す社会の姿だと思いますし、その未来は少しずつ形になっていくと感じています。

    「Bluetooth®」という名称には象徴的な由来があります。
    Bluetooth®は、10世紀に実在したデンマーク王ハーラル・ブルートゥース(青歯王)にちなんで名付けられました。当時バラバラだった地域を統合した人物で、異なる勢力を一つにまとめ上げたことで知られています。Bluetooth®技術もまた、乱立していた無線規格を統一し、異なる機器同士をつなぐことを目的に発展してきました。お話をお伺いして、その考え方はAuracast™にも受け継がれ、企業や機器の枠を超えて音声を届ける"共通インフラ"へと広がりつつあると感じました。

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