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王道のおいしさを追求しながらも、未来を感じさせる購入体験ができるおにぎり店「ONIGIRI GO」。おにぎり店運営支援サービス「OniRobot」として事業化を目前にした今、プロジェクトリーダーの池野 直也がここに至るまでの苦難と葛藤、そして同プロジェクトが目指す新しい飲食店のカタチについて語ります。
研究所で働いていた自分が、まさか「おにぎり」に携わるとは
「OniRobot(オニロボ)」は、パナソニックで家電事業を担当するアプライアンス社の社内公募制新規事業アクセラレーションプログラム「Game Changer Catapult」(ゲームチェンジャー・カタパルト、以下 GCカタパルト)で事業化が進められており、池野 直也がプロジェクトリーダーを務めています。
池野はもともと電機業界に興味を持ち、中でもいろいろな挑戦ができそうな環境に魅力を感じた松下電器産業(現パナソニック)に2007年入社しました。
池野「生産技術研究所に配属され、そこで熱や気体の流れを研究していました。実際にラボで実験したり、実験結果を解析できるようなシミュレーターを開発したり。そんな研究生活を2013年まで続けました」
池野は6年間の勤務を経て、社費でMBA留学した後、ライフソリューションズ社で経営企画を1年半担当しました。2017年よりGCカタパルトに参加し企画を担当、2018年から「OniRobot(オニロボ)」プロジェクトに参加しています。
池野「OniRobotプロジェクトは、別のメンバーがプロジェクトリーダーを務めていたのですが、兼任だったこともあり、100%フルコミットでプロジェクトに携われるメンバーの方が良いのでは、という議論から、2019年8月から私がプロジェクトリーダーを引き継ぎ、今に至ります」
OniRobotプロジェクトがGCカタパルトのビジネスコンテストに応募したとき、池野が在籍していたのはビジネスコンテストの運営側。まさか自分がプロジェクトリーダーになるとは思ってもみなかったと当時を振り返ります。
池野「OniRobotプロジェクトとは、『できたて』『安心安全の無添加』のおにぎりを、『待ち時間ゼロ』でお届けする顧客体験を、最小限の人数で無駄のない店舗運営で実現するソリューションビジネスです。アプリによる注文・決済システムを備えています」
求められていたのは握る技術ではなく「できたての温かさ」
OniRobotプロジェクトは、もとは自社でおにぎりを自動でつくるロボット「OniRobot(オニロボ)」を開発し事業化を目指すものでした。しかし、現在はOniRobotを使わず、市販のおにぎりロボットを活用し、おにぎりを販売しています。
池野「OniRobotはもともと職人の握りを再現することに特化していました。どれくらいの圧力で握った、どの程度のやわらかさならおいしいか。当初はそればかり考えていましたが、お客様の声を拾っていくと、実は握り方よりも温かいことが求められていたことがわかりました」
不特定多数の人々に実証実験を行い、ABテストやヒアリングなどを実施した結果、中食に求められる価値は大きく3つあることがわかりました。ひとつ目は、できたてで温かいこと。ふたつ目に、待ち時間がないこと。最後に、安心安全の無添加であること。そこで、2019年からOniRobotプロジェクトの方向性を転換することになります。
池野「開発メンバーにはOniRobotへの思い入れもあり、反対意見が出るなどチームとしてまとまらないこともありました。しかし、お客様起点で物事を考えなければ、事業として成立しません。今は、本当にお客様が求めている価値に寄り添う形でプロジェクトを進めています」
実証実験を経て、専用アプリの改良や、店舗オペレーションの改善をし、2020年2月、東京・浜松町に新しいスタイルのおにぎり店「ONIGIRI GO」をオープンしました。
池野「実際に自分たちで飲食店の運営を体験すると、飲食店が抱える困り事がわかります。大きな問題は3つありました。まず、人の問題。飲食店は「しんどい」というイメージから人材確保が難しい。また、人材を確保できたとしても人件費がかかります。次に、物件探しの問題。適度な広さ、適度な家賃の物件を見つけるのに苦労しました。最後に、食材廃棄の問題です」
「ONIGIRI GO」はこれらすべての問題を解決することができると池野は語ります。
池野「まず、注文や決済をデジタルで行うことで人件費を抑えられます。物件探しに関しては、店頭スタッフひとりでも店舗を運営できるので、小さいスペースで出店が可能になります。そうすると、物件が見つけやすくなったり、家賃が安くなったりします。また、注文に応じ、おにぎりを握るので廃棄も限りなく減らすことができます」
「ONIGIRI GO」にとって、今がまさにチャンスのとき
2020年2月にオープンしてから、近所で働いている人など、毎日来てくださるお客さんも増えていました。そして、初めて来店するお客さんの中には「今からつくるのですね!」とできたてを提供していることに驚かれる方が多かったと、池野は言います。
池野「『できたての温かさ』は実証実験の中で出てきた価値だったので、狙い通りお客様に刺さりました。一方で、日本のキャッシュレス浸透スピードの遅さから、専用アプリで注文から会計まですることに抵抗を持たれるお客様も少なからずいらっしゃいます。その点に関しては、国内でやるからには多少時間がかかると覚悟しています。現在は直接店舗での注文も受けつけていますが、将来的にはすべて事前注文、キャッシュレス決済を目指しています」
しかし、新型コロナウイルス感染症の流行はやはり大きな影響を与えています。「ONIGIRI GO」も感染拡大防止の対応要請を受け、3月から5月まで臨時休業を余儀なくされました。
池野「しかし、『ONIGIRI GO』は『待ち時間ゼロ』の提供で、店員を介さずにおにぎりを買える『非接触・非滞在』のソリューションです。この形がお客様に認知されれば、こういう環境下だからこそ、大きく化ける可能性があるのではないかと考えています」
店舗を実際に運営すると集客やオペレーションの改善など改善点が毎日のように見つかります。池野は「店舗運営には直にお客様と接しながら検証できるというメリットがある」と語ります。
池野「いろいろと課題が出てくるので、それをいかにスピーディーに修正するかが成功の道になると思っています。実際に直接お客様と接する店舗を運営しているからこそわかったことですが、大企業の社員は直接お客様の声を聞くチャンスは想像以上に少ないのです。
OniRobotプロジェクトでは、自らお客様にアプローチし、チームが立てた仮説を検証することは不可欠です。自分たちが生み出そうとしている商品やサービスがお客様にとって本当に必要なものなのか、確かめる必要があります。
時間をかけて立てた仮説が思い通りにならないこともありますが、お客様からポジティブなフィードバックを得られた際に池野は達成感を感じていると言います。
モットーは「やらないで失敗するよりやってから後悔する」
新しい飲食店のカタチ、新しい世界をつくっていけていることが、池野にとっても、チームにとっても、何よりのモチベーションになっています。
池野「今はない、でも、これから出てくるであろう未来のカタチをつくっていっているので、それが将来の食産業における新しいフォーマットになる可能性だってあります。それができれば本当に達成感を得られると思うので、ぜひ実現したいです」
OniRobotプロジェクトの直近の目標は、正式な事業化が認められるようになること。その後は、会社の収益源として「ONIGIRI GO」の店舗を拡大していきたいというビジョンを池野は掲げています。そのためにどういう戦略を練って、どう実行していくかを今まさに構想している段階です。
池野「中国のコーヒーチェーン『luckin coffee(ラッキンコーヒー)』は、2018年1月に北京と上海に店を構え、そこから店舗網を急拡大し、わずか1年で総店舗数は2000店舗を超え、2019年末には4500店舗に達しています。それくらいインパクトのある数字を出したいと考えています」
池野個人として、ゆくゆくはOniRobotのようなプロジェクトを何件も牽引し、会社の新しいコア事業を創出していきたいという野望を抱いています。
池野「大切にしていることは、『やらないで失敗するよりやってから後悔する』ということ。挑戦しないと何も始まりません。興味を持ったことはなんでもやってみようというスタイルで取り組んでいきます」
当初のプロジェクトから形を変え、「ONIGIRI GO」というカタチへ至った「OniRobot」プロジェクト。試行錯誤の日々を繰り返しながらも、徐々に未来へ向けて新しいカタチを形成し始めています。
その熱源となるのは池野をはじめとするプロジェクトチームの熱い想いとお客様の貴重な声。事業化と店舗数拡大を目指し、手を取り合いながら一歩、また一歩と前進していきます。