Index
パナソニックくらしビジョナリーコラボは、定期的に社内向けのセミナー・勉強会を開催しています。今回はCVCや新規事業開発の担当者に向けて、スタートアップへの寄り添い力強化を目的に当社の汐留・京都拠点で経営シミュレーションゲーム「T2D3」を行いました。その模様を振り返ります!
T2D3とは?
売上高が、前年を基準に毎年3倍(Triple)、3倍(Triple)、2倍(Double)、2倍(Double)、2倍(Double)と上昇し、「5年で72倍」に成長すること。スタートアップ企業の成長スピードの一つの基準とされています。経営シミュレーションゲーム「T2D3」は、ARR(年間経常収益)100億円を目指してSaaS企業を経営し、経営者視点の意思決定や戦略の立案、実行を通じて、スタートアップ経営におけるグロース(成長)のポイントや、事業と組織運営のバランスの取り方など、リアルな経営判断を疑似体験できるもの。100社以上の事業グロース支援の実績を持つリブ・コンサルティングにより開発されました。

ゲームは各チーム3名で構成された9チームで競いました。汐留拠点(A~Eの5チーム)は「ドキュメント電子化SaaSの企画・開発・運営・販売」事業、京都拠点(G~Jの4チーム)は「セールステックSaaSの企画・開発・運営・販売」事業を展開。1ターン(期)を1年として3期目の経営(ARR 5千万円、営業利益 −1億円、社員数10人)からスタートし、3つの意思決定(資金調達・市場選択・各種施策の実行)を繰り返し、10期目のARRを競います。
はじめに、会社の特徴を初期設定として「プロダクト志向」「マーケティング志向」「バランス志向」「組織力重視」「経営力重視」の5つから選択肢、それにより手持ち資金が決まります。ここから3期目の経営がスタートです!



資金調達・市場選択・施策検討の繰り返しで経営手腕を競う
ゲームは各ターンが12分で構成され、1ターン毎に、「資金調達をするか」「市場はどこにするか」「どんな施策をするか」をそれぞれ決定し、実行します。市場は「金融」「IT」「医療/介護」「全市場」の4つから、施策は「マーケティング」「プロダクト」「組織」「セールス」「経営」の5カテゴリから選択。打てる施策の数はCxOの数によって変化し、ターゲットとしている市場や企業の状況により、実行に必要な予算や効果も変化する仕組みで、各ターンを終えるごとの結果発表に沸きました。




前半戦4ターンを終え、トップに立ったのは京都拠点のGチーム。「IT」市場を選択し、人材育成、マーケティング、カスタマーサクセスの強化などバランスの取れた施策でベンチャー企業を攻める戦略が功を奏し、収益を伸ばしました。初期の段階で倒産することも多いというこのゲームですが、無事に全チームが前半戦を乗り越え、後半戦に挑みます。

ハードシングス、市況の悪化などリアルな経営リスクも発生
後半戦を前に「資金調達環境の悪化」のお知らせが。ハードワークによる家庭崩壊、出社できなくなる社員の発生など、グロースの一方でチームごとにさまざまなハードシングスが襲い掛かります。

ここへ来て、第8期で2チーム(汐留拠点)が倒産、第9期で1チーム(京都拠点)が倒産する波乱の展開に。


段階的な市場攻略、盤石な財務基盤を守り抜いたチームが優勝
しかしながら波乱の後半戦にはスタートアップブームも到来し、労働市場でスタートアップ転職が流行する追い風も発生。10期目を終えてトップに立ったのは前半戦で第3位だった関西(セールステック)のHチーム。初期は「IT」市場で小規模企業を対象にサポートを行い、商品力と営業力を強化した後、「全市場」、「金融」市場へとシフトを図る戦略を実行。「自己株式比率が50%を下回ると自社でなくなるのでそれを死守するつもりでやった」というCFOの強固な財務施策により安定した経営を継続し、見事第1位(ARR約79億円)となりました。

優勝したHチームの皆さんは、「マーケティングやプロダクトなどの施策実行は、スタートアップの成長度合いによって、適切なタイミングがいつなのかの判断が非常に難しい。人事、組織、株主との関係性もタイミングによっては困難になるなど、スタートアップ経営のグロースに伴うリスクもうまく織り込まれていて勉強になった。また、ゲームではダッシュボードを見ながら、競合の状況や社内環境などを俯瞰して戦略を立てることができたが、実際のスタートアップ経営にはその手段はなく、かつ時間的制約がある中で判断していることと思う。我々CVCメンバーが客観的な情報を踏まえた上で、アプローチできるようにしていきたい」と振り返りました。

講師をしていただいたリブ・コンサルティングの笹川さんからは、「スタートアップ経営においては、一定のセオリーの中で戦略検討をすることが重要。他方、思い通りにならないことはたくさんある。不確実性の中で、軌道修正しながら意思決定できるかが、スタートアップ経営においては重要 」と講評をいただきました。
参加者の振り返り
・昨年何があったかを踏まえ、長期的な視点を持ちながら経営をしていくことの難しさを学ぶことができた
・当初、「実直な経営」という目標を立てた所、色々なステークホルダーの意見を聞きすぎて、目標を見失ってしまうことがあった。どのような場面ではアクセルを踏んで、どのような所ではブレーキを踏むべきかを学ぶことができた。今後、スタートアップの皆さんとお話しするときに、「相手がどのような状況なのか」「何を必要としているのか」「自分たちが何を与えられるか」を意識して向き合っていきたい
・人の投資はお金をかけてから効果が出るまでに時間がかかる。施策はバランス良く使わないと成長に繋がらないと思った。また、スタートアップとの面談時、これまではプロダクトを中心に見ていたが、今後はその裏にある人、マーケティング施策なども見ていきたい
最後に、講師のリブ・コンサルティング笹川さんからコメントをいただきました。
―「T2D3」研修を作られた背景を教えてください
日頃スタートアップや大手企業の新規事業部門向けのコンサルティングビジネスを展開している中で、コンサルは労働集約型のビジネスであり、提供範囲が我々のリソースによって限定されてしまう、もどかしさを感じていました。一方で、さまざまなお客さまのお話を聞いていく中で、共通した課題に直面していることが分かり、これを再現性のある形に落とし込んで多くの方へ提供することで、我々が実現したい「100年後の世界を良くする会社を増やす」理念をより早く実現していけるのではないかと考えました。
―ゲームという手法に落とし込んだ背景を教えていただけないでしょうか
B2B SaaSの市場においては、既に一定のプレイブック(特定の業務やタスクを遂行するための手順書や戦略集)があり、情報格差は埋まりつつあると思います。しかしながら、実行経験の差において課題があると感じており、実行を模擬的に経験できる「場」を作るために、シミュレーションゲームが適切なのではないかと考えました。
―ゲーム内容を作るにあたり、ヒアリングしたところを教えていただけないでしょうか
1つ目は、我々が元々スタートアップやベンチャー企業を支援してきた中で積み上げてきたナレッジをロジックに組み込んでいます。2つ目は、実際にARR100億円を達成したSmartHRのCOOの倉橋さんへ、達成に至るまでの道筋について意見をいただきながら、ゲームのリアリティさを高めていきました。
―実際に体験された方からどのような反応をいただいていますか
当初はスタートアップ向けに開発したのですが、大手企業の新規事業担当者やCVC担当者からの反響が大きいことが嬉しい気づきでした。大手企業の方はそもそもスタートアップ経営について学ぶ場がない課題感があり、また、既存事業のやり方から脱却した意思決定にも貢献できるのではないかと感じています。日頃、スタートアップの支援をさせていただく中で、単独では難しい場面も出てくるので、「T2D3」研修を多くの方に体験いただくことで、スタートアップと大手企業との協業機会創出に貢献できると嬉しいです。

「ゲームを通じて、スタートアップと大企業との戦い方の違いを体感していただけたら」との笹川さんの言葉が印象的で、今回の参加者の感想からも、状況に応じてさまざまな施策をバランス良く、タイミングを見極めて実行する意思決定の難しさが学びになったことが感じられました。リアルな経営を疑似体験したCVCメンバーの皆さんの今後の活動に期待です!
(くらしビジョナリーコラボ広報担当)