Index
未来の冷凍輸送を変えるパナソニックの真空断熱技術「VIXELL(ビクセル)」。そんなVIXELLとスタートアップの新しい取り組みが始まっています!
VIXELLとはどのようなものなのか、スタートアップとの協業でどんなことを得たのか、開発者の小島さんにお話を伺いました。
VIXELLとは?
~「真空断熱保冷容器」VIXELLとはどんなものですか?
VIXELLは、パナソニックが冷蔵庫で培ってきた省エネ技術とものづくりの技術を結集させた、次世代の保冷容器です。その機能は、従来品の倍以上!電力無しで2℃~8℃を5~10日間維持できます。
長時間保冷を可能にしたコア技術が、真空断熱筐体「VIC」というバスタブ状の一体成形構造です。
従来の保冷ボックスは6枚の真空断熱パネルを組み合わせて構成されているため、パネルの継ぎ目から冷気が漏れやすいという課題がありました。VIXELLはボックスのVICをバスタブ形状の一体成形構造とすることで、冷気の漏れが大幅に減り、長時間保冷が実現できました。また、非常に頑丈にできているため、繰り返しの輸送にも耐えうる設計となっています。
さらに、真空断熱は真空度によって断熱性能が変化するため、真空度の検査は非常に重要です。しかし、これまでは真空度を簡単に計測する方法がありませんでした。そこで、VIC内の真空度を計測できるセンサーを搭載したことで、常に適切な真空度を維持したVIXELLを提供できるようになりました。

~VIXELLを開発した経緯を教えてください。
くらしアプライアンス社 冷熱デバイスビジネスユニットでは、冷蔵庫に使用されるコンプレッサーや真空断熱パネルを生産しています。真空断熱パネルとは、アルミパウチの中にグラスウールと、乾燥剤、空気吸着剤を入れて真空パックしたものです。パウチ内を真空にすることで高い断熱性能が実現でき、パネルの片側面の熱が反対面に伝わりにくい構造になっています。こちらを冷蔵庫に採用したのは当社が初めてで、その性能が評価され、国内外のメーカーからも販売の依頼をいただいき、大きく売上を伸ばすことができました。
しかし、パネルが比較的シンプルな構造であったため中国メーカーによる類似品の製造が増加し、市場が非常に大きく成長していく一方で、当BUの収益力は低下傾向でした。この状況に危機感を感じ、「冷蔵庫以外で真空断熱パネルを活かせる用途を探そう」という想いから保冷ボックスの開発に踏み出したことが、VIXELL誕生のきっかけです。
~モノ売りからサービスへの転換について教えてください。
真空断熱パネルを全面に入れた保冷容器自体は世の中に存在していました。製品の性能やコストだけで競ってしまうと、いずれコスト競争に陥ってしまいます。そこで、製品そのものではなく、製品を活用したサービスへと競争軸を移すことで、当社の強みを最大限に活かしたビジネスができないかと考えました。
また、実際にお客様のお話を伺う中で、私たちが重視しがちな「より性能の優れた容器が欲しい」というよりも、「手間をかけずに、安心して輸送したい」というニーズの方がずっと大きいことが分かりました。そこで、いかにお客様の手間を減らし安心して荷物を運べるかに重点を置き、レンタル形式を採用し"手間を省くサービス"、"温度を守るサービス"として提供することにしました。
現在では、厳格な温度管理が求められる医薬品の輸送で多く採用されており、コロナワクチンの職域接種や、高額なアルツハイマー病の治療薬の輸送にも利用されています。
スタートアップとの協業が生んだ、新たな価値共創
~当社の出資先でもある株式会社デイブレイクとの協業について教えてください。
食品輸送については「単価が合わない...」との思いから、これまで積極的な営業活動を行っていなかったのですが、デイブレイク社とのやり取りを通じて、冷凍寿司(サーモン)やカリフォルニアロールをアメリカで販売し、国際輸送の際に課題があることも知りました。国際輸送では、フライト中の温度維持よりも、貨物をトラックから飛行機や倉庫へ積み替える際に外気にさらされる影響をいかに抑えるかが重要です。
トライアルの結果、VIXELLを使用した輸送は、積み替えの際でも−20℃以下を確実にキープできました。デイブレイク社からは、『温度逸脱のリスクが高いラストマイルデリバリーにまで利用したい』とのコメントをいただいています。

~協業してみた感想をお伺いさせてください。
急成長するスタートアップでは、製品やサービスを支える周囲の仕組みが追いつかない場面もあり、当社の技術が貢献できることがあると感じました。また、提案に対する反応が非常に早く、成功・失敗にかかわらず率直なフィードバックが得られる点もありがたかったです。
さらに、スタートアップとの対話を通じて、私たちが知らなかった新しい活用領域や市場の可能性を教えてもらえることも多く、思いもよらないヒントがたくさんありました。今回のデイブレイク社との取り組みでは、収益性を見込んでいなかった食品輸送であっても、海外展開や新規市場開拓の場面では、サンプルの空輸が企業のマーケティング活動を支える重要な工程であることに気づかされました。
また、スタートアップの方たちは、実際に会ってみると若くエネルギッシュで、協業から多くの刺激を受けました。一歩踏み込んで関わることで、新しい世界が開け、ビジネスのきっかけにもつながる可能性があると感じています。
スタートアップとの協業が開く新たな扉
VIXELLはボックスだけでなく、パレットやコンテナといった大型サイズにも対応しており、保冷材の種類を入れ替えることで、輸送する製品に適した温度帯や保冷時間に対応できます。今回の取り組みをきっかけに、VIXELLは長距離輸送や国際輸送の課題解決に貢献し、"温度を守るサービス"という価値を世界に届けていきます。
スタートアップとの協業により、新たな可能性や気づきが得られることも実感し、スタートアップのアイデアや現場の知見を尊重し、共に進めていくことで、双方が新たなドアを開く良いきっかけとなりました。
【関連記事】