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子どもの特性を「強み」に変える──Ipsum(イプソマ)が描く、共創型次世代育成支援

子どもの特性を「強み」に変える──Ipsum(イプソマ)が描く、共創型次世代育成支援 | くらしビジョナリーコラボスタートアップと、くらしでつながるパナソニックのオープンイノベーション活動

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    こんにちは。山崎です。
    私は、子どもの強みを見つけて育てる事業として、「Ipsum(イプソマ)」を立ち上げてきました。
    障がいがあるなしを問わず「できないこと」よりも、「その子が本来持っている良いもの」に目を向けられたら。そんな思いが、私自身の中に長くありました。
    その問題意識を起点に、パナソニックの新規事業創出活動「Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)」に参加し、事業化に向けた検証を進めてきました。
    現在は、一般社団法人として独立し、イプソマの取り組みを社会に向けて展開しています。

    今回は、イプソマが向き合っている社会課題と、その課題に対するアプローチ、そして、子どもと家族の毎日に安心と手応えを届けるための取り組みを紹介します。

    「できない」を直すのではなく、「強み」を起点に考える

    山崎 智史
    パナソニック(株) 事業開発センター Ipsum(イプソマ)プロジェクト 主幹(25年12月時点)

    子どもの「できないと捉えられがちな部分」を修正することから始めるのではなく、その子が本来持っている特性の中にある強みに目を向けること。その視点から、私たちはこの取り組みを考え始めました。

    イプソマを立ち上げる過程で保護者から多く寄せられたのは、「できないことを無理に直したいわけではない」「その子の強みを生かしてあげたい」という切実な声でした。
    一方で、「強みが何かわからない」という声や、強みが見えてきたあとでも「具体的にどう関わればいいのかわからない」という戸惑いも、少なくありませんでした。

    抽象的な言葉や精神論だけでは、日常は変わりません。
    今日から何をどう変えればいいのか。その具体性が求められていたのです。

    そこで私たちは、専門家の知見をもとにエビデンスを取り入れ、実証段階では、一人ひとりの子どもの状況に合わせた調整を重ねながら、少しずつ行動を変えていくための方法を設計しました。

    声のかけ方、関わる順序、環境の整え方。
    大きな変化ではなく、ほんの小さな調整を積み重ね、その結果を実践データとして次の判断につなげていきます。

    この事業の原動力には、私自身の原体験があります。
    私の弟は重い障がいを持ち、日常生活の中で「できない」ことがたくさんありました。障がいと呼ばれるだけあって、それをできるようにすることは難しいことなんですよね。一方、できることもある。できることがあれば、それを強みにして社会に出れたり、活躍できる可能性も高まったりすると感じていました。

    しかし、社会では、できることや得意なことは忘れられがちで、できないことや苦手なことに注目が集まりやすい。そしてそれは、障がいあるなしに関わらず、色々な子どもに当てはまるし、大人にも言える大きなテーマだと思いました。
    そのため、私は、マイナスをゼロに戻すのではなく、ゼロからプラスを生み出す仕組みをつくりたいと考えるようになりました。

    子どもが自分の強みを認識し、「自己肯定感」を持って生きていくこと。
    保護者が、テストや評価軸だけでは見えないその子の強みを実感し、確かな手応えとして理解すること。
    この二つが重なり合ってはじめて、イプソマが届けたい親子の姿が形になると感じています。

    強みを「日常」に落とし込むための実証プロセス

    イプソマのレポートのイメージ

    イプソマは、強みを「診断して終わり」のサービスではありません。
    強みを可視化するだけでなく、家庭の中でどう活かすかまでを含めて設計をします。

    まずは、子ども一人ひとりの強みを知るために、WEBアンケートを起点とした評価を行います。保護者だけでなく、学校の先生や療育の先生など、その子を取り巻く複数の大人に回答してもらい、一方向の評価ではなく多角的に捉えることを重視しました。

    集めたデータは、独自のアルゴリズムで整理・分析し、レポートとして可視化します。
    ・どういう場面で力が出るのか
    ・どんな関わり方だと育てやすいのか
    ・何を「足す」と前に進めるのか

    このレポートを手がかりに、家庭での関わり方を具体化していきます。
    ここでは保護者の方が実際の行動につなげやすいことを重視しました。日常の中で試しやすい形に落とし込み、保護者と子どもが無理なく取り組めようにすることです。
    実証実験では、フリースクールや教育団体などとも連携しながら、こうしたレポートをもとに、家庭での実践を重ねてきました。

    たとえば、親御さんが宿題を一緒にやる際、最初は自由にやらせるのではなく、ある程度順序を整えることで、取り組みやすくなるケースがありました。不透明なことに不安な子どもは、関わり方や進め方の順序が見えることによって、強みが表に出てくるのです。
    こうした実践から、強みは単体で存在するのではなく、環境や関わり方といった条件によって表出のされ方が異なるという重要な事実をあらためて認識させられました。

    また、長期的な取り組みを前提とするのではなく、まずは短期間で一区切りのある形で実践していく設計が、保護者と子どもの双方にとって取り組みやすいことも見えてきました。最初の一歩を踏み出しやすくすることが、その後の継続につながると考えています。

    そのような事業検証を進めていた時に、大阪・関西万博に出展するパナソニックグループのパビリオンが、子どもたちに向き合い、子どもたちの可能性を解き放つことができるような場にしたいという企画だと社内で耳にし、子どもの特性に向き合ってきた私たちの知見が役に立てる機会かもしれないと思いました。

    万博で確かめたイプソマのアプローチ

    パナソニックグループが出展したパビリオン「ノモの国」において、私たちは来場する子どもたちの行動を分析して特性を分類する設計に関わりました。
    「ノモの国」は、子どもを中心とした来場者が、遊びや体験を通じて感性や可能性に出会うことをテーマにした、体験型のパビリオンです。

    家庭とは異なる公共空間で、子どもたちがどのような行動を見せるのか。
    そこで、これまでの実証で培ってきたイプソマの設計コンセプトをもとに、子どもたちの行動の傾向に目を向ける試みを行いました。
    パビリオン内では、カメラなどの技術を活用しながら、子どもたちがどのエリアに関心を示し、どのような体験に惹かれていくのかを記録・整理しました。

    この体験は、体験そのものを評価したり、正解を示したりすることが目的だったわけではありません。
    来場者の方が子どもたちの可能性を感じたり、考えたりしてもらう等、"体験を一過性に終わらせないための考え方"を、公共空間の中で提供する機会にするということです

    会期中は、子どもたちがどのような反応を見せているのかを、現場の様子を踏まえながら検討していく時間でもありました。
    想定していた反応とは異なる場面に出会う中で、体験のさせ方や見せ方について工夫を重ね、より関心を持ってもらえる形を模索していきました。

    完成した体験を提供するというよりも、その場の反応に向き合いながら考え続ける。プロトタイプは、生活の中で使われてこそ意味を持つ。
    家庭という限られた環境だけでなく、より開かれた場においてそのことを、あらためて強く実感しました。

    これからのイプソマが向き合うもの

    GCカタパルトのビジネスコンテストを経て事業化を進める中で、社内の支えも大きな力になりました。
    2026年1月からは、イプソマは一般社団法人として独立し、取り組みを社会に向けて広げています。
    独立したことで、他者との連携の幅も広がりました。
    イプソマは、それぞれの現場や家庭の状況に応じて活用されることを前提にしているため、関わる主体が変わっても応用しやすい余地があります。

    現在は、フリースクールや支援機関、教育団体など、すでに子どもや家庭と向き合っている現場に対して、サービスとしての提供を進めながら、知見やコンテンツを共有する取り組みを広げています。

    私たちが提供しているのは、特定の場に限定されたプログラムではなく、レポートやマニュアル、オリジナルシートといった形で子どもの強みや関わり方を整理した知見です。
    これらを目に見える形で残すことで、家庭の中でも継続的に活用しやすくすることを大切にしています。

    また、年齢とともに、子どもの状態や環境は変化していきます。
    そうした変化に応じて、成長の節目ごとに活用できる余地を残した設計を意識しています。

    イプソマは、目の前の一人ひとりと向き合う姿勢を何より大切にしています。
    急成長やスケールのみを目的とするのではなく、課題が存在する現場に対して、事業としてどのように応えていくのか。その問いに向き合い続けることが、この取り組みの軸になっています。

    特性を課題として捉えるのではなく、可能性として見つめ直すこと。その考え方を、家庭の中だけにとどめず、教育や支援の文脈へとどうつないでいけるのか。私たちは事業を通じて、その接点を模索しています。

    このプロジェクトを通じて向き合ってきたのは、特定の家庭だけの課題ではありません。特性をどのように捉え、どのように社会の中で受け止めていくのか。
    その問いは、教育や支援の現場に限らず、広く共有されているテーマだと感じています。

    イプソマは、特定の立場や領域だけで完結するものではありません。
    家庭、教育現場、支援機関、企業など、それぞれの現場での知見が重なり合うことで、より持続的な形が見えてくると考えています。
    すでにある仕組みをどう活かし、必要とする人にどう届けていくのか。その問いに向き合いながら、イプソマはこれからも、社会の中でどのような役割を果たせるのかを丁寧に確かめていきます。

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