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「起業の科学」の著者が語る、次世代のイノベーションを生み出す7つのポイント

「起業の科学」の著者が語る、次世代のイノベーションを生み出す7つのポイント | くらしビジョナリーコラボスタートアップと、くらしでつながり新しい価値や事業を創出するオープンイノベーション活動

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    2016年から展開している新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト、以下GCC)」。これまでに、306テーマもの応募があり、さまざまな新規事業アイデアが生まれました。
    今回は、新規事業開発のバイブルといえる「起業の科学」の著者である田所雅之さんをゲスト講師に招き「イノベーションを生み出す7つのポイント」をテーマにオンラインセミナーを開催しました。

    ゲスト講師:田所雅之(たどころ まさゆき)
    田所雅之 氏・著書「起業の科学」
    株式会社ユニコーンファームCEO。日本で4社、シリコンバレーで1社起業を実現した連続起業家。主な著作は「起業の科学 スタートアップサイエンス」「御社の新規事業はなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学」など。スタートアップ経営のプロとして、毎年数多くの講演を行う。

    言語化されていない課題を見つけることがイノベーションを起こす鍵

    本講演を始めるにあたり、田所さんはまず、ChatGPTをはじめとするAIが台頭してきた現代において、多くの人が自分の仕事がなくなるのではないかという不安を抱えていると分析。田所さんはそのような中でも、ゼロからイチを生み出す新規事業は人間にしかできないと言及しました。
    田所さんは、「ChatGPTは、すでにある情報や事象を基に推論をしているに過ぎません。新規事業は、まだ言語化されていないゼロの状態の課題を見つけることから始まります。この過程だけは人間にしかできません」とし、さらに課題を探索するために顧客を起点にすることが重要であり、「何かモヤモヤするけど、仕方がないと諦めている」事象の中にイノベーションの可能性があると伝えました。
    「現在世界をリードしているGAFAも最初はスタートアップ企業でした。スタートアップは世界を変える力がありますが、方法論が形式化されていません。そこで今回は、イノベーションの型を身につける7つのポイントと合わせて、次世代の産業を作るためのヒントをお伝えできればと思います」と、話しました。

    問題の本質を捉え、新しい軸でソリューションを開発する

    1つ目のポイントとして挙げたのは、前回のセミナーでも言述した「破壊的イノベーションを理解し、活用する」という点です。
    田所さんは、従来の製品を「より高性能に」「より安く」「より優れたものを」といったニーズに合わせて改良を行う持続的イノベーションも重要だとしながらも、ニーズを超過した過剰性能を持つ製品が開発され、逆に使いづらくなることがあるという問題点を指摘。だからこそ、顧客の潜在的なニーズを掘り下げ、既成概念にとらわれない新たな価値を提供する破壊的イノベーションが大切だと言います。
    「エンジニア的な志向だとイノベーションは"足し算"になりがちですが、本来は"引き算"であるべきだと考えています。iPhoneも実際にバージョンアップのたびに何かの機能を削っています」と実例を交えて解説しました。

    2つ目のポイントは「良いビジネスアイデアを理解する」こと。田所さんは、良いビジネスアイデアはソリューションではなく、課題にフォーカスしているとし、「カスタマーが本当に何が欲しいのかを見つけることがあなたの仕事だ」というスティーブ・ジョブズの言葉を引用しました。
    実例として、排泄のタイミングを知らせるウェアラブルデバイス「DFree」を紹介。
    ウェアラブルデバイス「DFree」
    これまで高齢者の排泄は、おむつを着けることで対処していましたが、これにより自力での排泄を諦める、おむつに排泄をしたくないので食事量が減る、食事でのコミュニケーションが減り、認知症が進むという負のループを生んでしまう課題がありました。それでも、より吸収性の高いおむつを開発する持続的イノベーションが続いていました。

    課題の質と課題に対するソリューションの質についてのグラフ
    「DFree」は「漏らすことで人としての尊厳が失われる」という新しい課題を設定し、「そもそも漏らすことを防ぐ」というソリューションから開発されたデバイスです。
    「このように"常識的な"課題設定にとらわれず、新しい構造・論点で"非常識な課題"を設定できたのは、幅広い視野でユーザーを観察し、どうしたら価値がでるのかを考え抜いた結果でしょう」と解説しました。
    さらに、AirbnbやLINE、Zoomなどの事例から「イノベーションはユーザーが諦めていることにある」と言及し、「一見悪く見えるアイデアを持つスタートアップが、世界を変えてきた」と話しました。

    バリューチェーンからバリュージャーニーへ。UXの重要性を語る

    田所さんは3つ目のポイントとして「ユーザーのあるべき体験を考える」を挙げ、機能追加よりもUXの改善が重要であると解説しました。
    「今の時代は、商品が売れたタイミングがユーザーとの最初の接点です。そこを始まりとし、ユーザーとの関係を維持する仕組みづくりが求められます」また、機能性や価格などが競争力となる従来型の「バリューチェーン」から、顧客にすべての魅力を体験してもらい、企業が寄り添いながら改善していく新しい「バリュージャーニー」へのシフトが重要だと述べています。
    具体的な実例として、タニタの事例を挙げ、「タニタは健康状態を測るだけでなく、『からだカルテ』で計測結果をグラフ化し健康状態をユーザーに気づかせ、『タニタ食堂』などで健康を作るという、新しい方向にバリューチェーンを作りました。ここで重要なのは、測る・(健康状態に)気づかせる・変えるという、ヘルスケアジャーニーでユーザーを囲んだ点。ジャーニー全体の付加価値を高めるためには、全体だけでなく一つひとつのUXにこだわり、設計・改善する必要があります」と説明しました。
    UX設計についてのイメージ
    また、アストラゼネカ、NIKE、マクドナルドの事例を挙げ、ユーザーが思わず使ってしまうような状況にすることが大切だということも伝えました。

    変化の激しい時代だからこそ未来志向を身に付ける

    続けて、イノベーションの実行方法や実行場所などについて下記のようにまとめました。

    • ポイント4...高速で市場に投入して、顧客からフィードバックを得る(実行方法)
    • ポイント5...最初は小さな市場を支配する(実行場所)
    • ポイント6...顧客データを定量的に取得する(Data is King)

    そして、7つ目のポイントとして挙げたのが変化の激しい現代において「未来志向を身に着ける」こと。
    田所さんは、新規事業創出にあたって行う分析のフレームワークとして「PEST(政治・経済・社会・技術)分析」を紹介しました。経済や人口動態、文化変容といった外部環境によって起こる変化を分析する方法で、中でも人口動態は読みやすく日本で言えば超高齢化社会が進む中での労働者の供給不足などが考えられます。
    PEST分析について
    「このようなフレームワークを用いることで、鳥の目となって全体像を見ることができます。さらに、新規事業を考える際にこれから予測できる未来に対してフィットさせていくこと、"プロダクトフューチャーマーケットフィット"が重要といえるでしょう」と田所さんは語りました。

    講演が終わると「視野が広がるヒントをもらえた」「AIにできないことがあると知り勇気が出ました」といった多くの感想が寄せられました。
    GCカタパルトでは、2023年度も活動を続けていきます。新しいイノベーションを一緒に起こしていきましょう。

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