Index
「未来のカデン」創出に向け、取り組みを行うGame Changer Catapult(以下、GCカタパルト)。日々さまざまなアイデアが生まれ、事業化に向け活動を続けています。
今回は、先日開催されたGCカタパルト主催によるピッチイベント「Cat7」でもプレゼンがあった「Spodit(スポディット)」の現状について紹介。
プロジェクトメンバーの小梶裕貴に、実証実験で感じた手応えや、広島で開催したイベントについて語っていただきました。
Interview
「Spodit」のプロジェクトメンバー 小梶 裕貴
Spoditの価値を確かめるために有償による2~3カ月の長期的な実証実験を実施
――改めて「Spodit」のサービス概要についてお教えください。
小梶「Spodit」は、映像×コーチングによってスポーツをする選手たちの「こころの成長」を導くサービスです。具体的には、サッカーの試合を撮影し、記憶が新しいうちに映像を見てチーム全員で振り返ります。そこで課題を見つけながら仲間との対話を通じて解決策を考えます。このサイクルを通じて自ら課題や解決策を考える力やコミュニケーション力といった人としての本質的な力を養います。私たちは、撮影に必要な機材と効果的な振り返りプログラムを提供しています。
――効果的な振り返りプログラムとは?
小梶スポーツで何かを学ぶ・経験する際の心理的な影響を学問にしたスポーツ心理学と、選手たちの主体性を促すコーチング学を基に構築したプログラムで、「映像を見る」「考える」「話し合う」「実践する」のサイクルからできています。もちろん、そのPDCAサイクルを一度試しただけでは、正しく変化・成長したのかを証明することは困難です。そこで私たちは、本当に価値があるのかを検証するために、中・長期的な実証実験を行い、選手たちの成長を計測しました。
選手・指導者から高評価。実証実験で得られた確かな成果と課題
――実証実験は、どのように進めましたか?
小梶小学校高学年と中学生のサッカーチーム3つを対象に、約2~3カ月間サービスを利用していただきました。選手の成長を「導入期」「個人成長期」「集団成長期」と3つのステップに分けて段階ごとに適したアプローチ方法を指導者に提示。選手・指導者へのヒアリングと、スポーツ心理学の知見を基に作成した選手向けのアンケートで、定性・定量の両面から調査を行いました。
――具体的にどのようなことをヒアリングしましたか?
小梶選手には、検証の前後で、発言や人の話を聞く回数が増えたか、増えた理由は何だったのか、チーム内でどんな変化が起きたかなどを調査しました。指導者には、検証毎にチームとしての変化を深堀していきました。
検証期間中は私たちもチームの試合に同行し、撮影機材の設置から試合後のミーティングまで、終始立ち会いました。
――しっかり顧客と向き合われたのですね。
小梶大変でしたが、「ミーティングが指導者対選手ではなく、選手対選手というコーチングのスタイルになってきている」という声や、チームを掛け持ちしている指導者からは「『Spodit』を利用した小学生チームの方が、中学生チームよりも思考が整理されており指導しやすい」といった感想もいただき、チーム内に大きな変化が起きています。
選手からは「もっとサッカーが好きになった」「今までわかっていなかった課題が明確になった」と言う選手たちが大半で、率直にうれしかったですね。主体性が育まれ、自ら課題を考え、改善を行うことでプレーをすることがより楽しくなっている印象を受けました。
また、定量的に評価するために実施したアンケート調査でも自立性(考える力)や論理的思考力(PDCA力)、有能感(成功期待)といった項目が伸びている結果が出ており、確かな手応えと「Spodit」の価値を感じました。
――中・長期的に取り組んできたからこそ出た成果ですね。
小梶そうですね。チームの中には元からリーダーシップがある子や、少し内向的な子など、さまざまなタイプの選手がいます。初期は全員に同じアプローチを行っていましたが、それでは全員が思うような成長を遂げられないことがわかりました。そこで選手たちの役割や属性(リーダー・サブリーダー等)を加味したうえで、より一人ひとりに合ったアプローチができるように工夫するなど、実証実験期間中にサービスの改善も行いました。
――一方で課題を感じた部分はありますか?
小梶指導者の中には、複数のチームを掛け持ちされている方や、試合当日は指導だけでなく審判など大会運営と奔走されている方が多くいます。現場に入り込むことで改めて指導者の多忙さを知り、より誰でも使いやすい撮影機材の開発や、試合後は手軽に映像の振り返りが出来る仕組みづくりなど、プロダクトとプログラムの両面でブラッシュアップしていく必要性を強く感じました。
次のステップはテストマーケティング。Spoditの認知度を高めるセミナーと体験会を実施
――実証実験を終えて、次はどのような取り組みを行われたのでしょうか?
小梶3チームでの検証を通じて定性・定量の両面で「Spodit」の顧客価値の蓋然性を確認できました。次は事業性の観点で実際にサービスを展開した際にどのように顧客を獲得していくのかを検証する必要があります。そこでまずは、テストマーケティングとして8月には、セミナー(6日)/少年サッカー大会の会場での宣伝(20日)を、9月ごろに体験会等を広島で実施していきます。
――セミナーの内容や実施目的について教えてください。
小梶「選手の主体性を育むコーチング術について」と題したトークセッションを開催しました。主にサッカーの指導者を対象とし、サンフレッチェ広島にてアカデミーヘッドオブコーチとして育成に携わられていた方や、「Spodit」のサービス開発にもご協力いただいているスポーツ心理学の専門家をお招きしました。セミナーを通じて選手たちの主体性を育む重要性とそれを引き出すコーチングの重要性を理解してもらい、「Spodit」の思想を広め、認知度を高めることが狙いです。
――ちなみになぜ広島なのでしょうか?
小梶広島の皆様とは紹介などで以前から縁があり、特に私たちの想いが、広島にあるアマチュアスポーツチームを取材するメディアに共感をいただけたことが大きな理由です。また、エリアを絞って成功例を作り、そこから拡大していく...という戦略的な観点もありました。
ターゲットに合わせたアプローチの必要性。セミナーで見えてきた今後の課題
――8月6日に開催されたセミナーの手応えはいかがでしたか?
小梶セミナーを通して参加者の「主体性を育むコーチングのベースの考え方や、何でも話し合えるチームの雰囲気づくりの重要性について理解ができた」といった生の声を聞けたのが一番の収穫でした。セミナー後のアンケートでも満足度は高かったのですが、思った通りの成果を出せない部分があり課題が残りました。しかし、次につなげるための学びとしてポジティブに捉えています。
左:早稲田大学教授 堀野氏、右:福山大学サッカー部強化担当 岩成氏
――どういったことを課題に感じたのでしょうか?
小梶「Spodit」の初期顧客となるターゲット層を集客できなかったことです。初期顧客となりうる「指導に情熱を傾け、新しいテクノロジーにも寛容な」指導者へのアプローチ方法が今後の課題だと感じました。
もちろん、世代を問わず多くの方に「Spodit」を使っていただきただきたいと考えています。そのためには、ターゲットのニーズに合わせたアプローチをかける必要があることを今回学びました。また、セミナーの内容に関しても「もっと現場の声を聞きたい」といった意見もいただいたので、オープンディスカッションなどを盛り込んでいけたらいいですね。
今後セミナーを開催する際は、集客方法や開催方法を見直し、アプローチしたい層に届けられる施策を検討していきます。
――今後は体験会も予定されているのですよね?
小梶はい。「Spodit」の魅力は実際に手に触れチームの中で使っていただくことが効果的だと思っています。そこで9月以降に開かれる少年サッカーの大会で、体験会の実施を検討しています。また8月に開催された大会では、ビラ配りや名刺交換を行いました。そのうち「Spodit」に興味を持っていただいた、いくつかのチームに対して個別にアプローチをかけている段階です。
地域社会にも貢献するサービスを目指して。情熱を持ち取り組み続けたSpoditのこれから
――これまでの活動を振り返りって、いかがですか?
小梶選手の競技力だけではない「本質的なこころの成長」にコミットしていきたいという想いは変わりません。サービス利用の判断を下すのはあくまで指導者側なので、指導者に使いたいと思ってもらえるサービスを作る必要があります。しかし選手自身が成長を実感し、楽しんでサッカーを続けるためのサービスであることも重要だと考えています。その意味では実証実験やセミナーで得られた選手や指導者たちの実際の声は大きく、「こころの成長」に貢献できていると実感できました。また、実証実験先の選手の保護者の方からも、スポーツを通じた「こころの成長」に共感頂き、「自分の意見をみんなの前で話せるようになっていた」など選手の成長を評価頂きました。
――今後の展望についてもお聞かせください。
小梶まだ検討中の段階ですが、「地域の子どものこころの成長にコミットする事業」としてより地域社会に貢献できないかと考えています。将来を担う子どもの育成という観点でのスポンサー獲得など、新たな人脈作りも見据えています。
今後はテストマーケティングとして、サッカー会場の前や、町にある小さなスポーツ店の前でブースを展開するなどの施策も実施しながら、ビジネスとして成立させる方法を模索していきます。
――改めて「Spodit」の可能性と熱い想いを感じました。
小梶ここまで続けてこられたのは、情熱(パッション)があるからだと思います。「Spodit」は、自分がスポーツを通して育ってきたので「スポーツを通じて何か恩返しがしたい」という想いから始まりました。活動を続けるなかで、想いに共感していただける方も増え、徐々に形になりつつあります。道のりは長いですが、事業化に向けて進めていきます。
――最後にビジネスコンテストの参加者や、参加を検討されている方へメッセージをお願いします。
小梶どんなことでもいいので、簡単な行動から始めるといいと思います。身近な人のお困りごとをヒアリングすると「この人たちのために何かしたい」と思うようになるかもしれません。
私自身、最初から強い情熱があったわけではなく、活動をしていく中で「Spodit」への想いがどんどん強くなっていきました。
GCカタパルトでは、人材の紹介や活動費用の支援、マーケティングプランの提案など手厚くサポートしてもらえるので、苦手なことがあるからと諦めずに、周囲の人を巻き込みながら進んでいってください。