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連続企業家が語る「現代にふさわしい持続可能なビジネス開発

連続企業家が語る「現代にふさわしい持続可能なビジネス開発 | くらしビジョナリーコラボスタートアップと、くらしでつながり新しい価値や事業を創出するオープンイノベーション活動

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    パナソニックの新規事業創出活動Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)では、社員が新しいことにチャレンジして、発信したいと思えるような風土醸成を目的に、さまざまなイベントを実施しています。

    311日に開催された講演会【「起業の科学」著者が語る〝イノベーションを起こすための6つのポイント〟】に引き続き、田所雅之さんをゲスト講師として招き317日にオンラインセミナーを開催。

    SDGsSustainable Development Goals:持続可能な開発目標)必須な企業でなければ伸びない時代の事業開発」というテーマでご講演いただきました。

    ゲスト講師:田所 雅之(たどころ まさゆき)

    スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援する株式会社ユニコーンファームのCEOを務める。日本とシリコンバレーで起業した経験を持ち、著書「起業の科学 スタートアップサイエンス」は大手ネット通販サイトの経営管理部門で売り上げランキング115週連続1位を記録。

    2010年代以降に起きているパラダイムシフトとは

    田所さんは今回のテーマを話すにあたり、「SDGsはバブル的に使われていることが多いように感じる。もっと本質的な話をしたい」と、まずは2010年代以降に起きた価値観の変化について語りました。

    2010年代以前は「最大多数の最大幸福を今の世代で追求すること」が事業開発の目的や意義でした。
    しかし、 SNSやクラウド、4Gの成熟により新たな産業が誕生した2010年代からは「最大多様の最大幸福を次の世代以降も追求していくこと」が、重要になります。つまり、多様性を高めながらサステナブル(持続可能)な成長ができるかどうかが、新たな事業を考える上で鍵となるのです。

    そのために、マーケットだけではなくソーシャルインパクトも考える必要があり、田所さんはこれを「プロダクトインパクトフィット」と呼びました。

    また、国内や海外では二酸化炭素排出削減目標を掲げており、エネルギー問題を含め、次の世代のことも考えて中・長期的な動きが必要。20世紀から21世紀初頭にかけてGDPGross Domestic Product:国内総生産)が国の経済規模を測る指標として用いられていましたが、GDPでは多様性までは測れず、そのアンチテーゼとして生まれたのがSDGsです。
    「今までと違い、現代では多様性を加味した利益追求をする必要がある」と田所さんは話しました。

    変化したステークホルダー。その中にあるビジネスチャンスとは

    2010年代以前と以降で価値観が変化する中で、田所さんはもう一つ重要な流れがあるといいます。

    これからは「株式市場資本主義からステークホルダー資本主義」になっていくと予測し、「『売り手・買い手・世間』の三方良しの考え方から、『未来・地球・作り手』も加わった六方良しのステークホルダーに変化。企業は今まで取引先との関係など内部経済性のみを考えていれば良かったのが、次の世代に繋げていくため、これからは環境や社会など、外部経済性も考える必要がある」と述べました。

    例えば、先のことは考えない一時的な消費活動があることで、ファッションロスやフードロスなどの問題が生まれています。
    田所さんは「こういう消費も大切で、否定したいわけではない」と前置きした上で、「ただ、廃棄ロスは地球に負担がかかり、サステナブルではない。このような消費パターンは見直されるはずで、そこにビジネスチャンスがあると思っている」と話しました。

    それでは、物にあふれた現在、今までの「物質的欲求を充足するビジネス」は役割を終えているのでしょうか。
    田所さんは、世界的な格差の広がりや、カーボンニュートラル宣言を踏まえた世界の取り組みといった情勢に触れながらも、「人間の欲求は変わっていない」と述べ、「人間の根源的な欲求、インサイトを捉えつつ、持続可能な事業にしていくことが重要」と伝えました。

    その中で、ESGEnvironment:環境 Social:社会 Governance:ガバナンス)投資の勃興は一つの重要なキーワードです。これまでは一部の企業が社会・環境貢献を意識すればよいという風潮がありましたが、これからは会社規模に関わらず、事業の立ち上げ時から、社会・環境貢献を意識していく必要があります。

    2020年代にビジネスアイデアを考えるための5つのポイント

    田所さんは、これからの事業開発についてアドバイスするにあたり、1900年代~2010年代の市場の変化について簡単に説明をしました。

    まずは、環境への配慮もなく経済成長を続けた19001960年代。
    続けて、19701980年代のバブル期で市場は完全に買い手が主導を握り、企業は買い手のニーズを把握することが重要になりました。
    1990年代にはインターネットが誕生。リオ宣言で持続可能な環境目標が採択され、CSRCorporate Social Responsibility:企業の社会的責任)なども注目されるようになってきました。

    2000年代に入ると「極度の貧困と飢餓を撲滅する」などを目標に掲げた SDGsの前身であるMDGsMillennium Development Goals:ミレニアム開発目標)の取り組みがスタート。2008年のリーマンショックが資本主義の終焉ともいわれ、そのほか、地球温暖化などのリスクが顕在化するなど、こうした流れからSDGsに向かう要因が整ったといえます。
    そして2000年代後半~2010年代にかけては「マーケティング4.0」と呼ばれ、顧客に寄り添いながら精神的価値を満たすことが大事といった考えが生まれました。
    この時代に生まれ、育ってきた世代は「ミレニアル世代」や「Z世代」と呼ばれ、物が満たされているため、自己実現に価値を感じるようになってきました。

    ここまでが2010年代までの市場の流れです。それでは、2020年代はどうなるのか、新しい時代にはどういう風に事業開発を進めていけばよいのかを、田所さんは5つのポイントに分けて解説しました。

    1つ目は「オールド資本主義の終焉とステークホルダーと資本主義の台頭」
    世界の3分の1の企業がESG投資を念頭に入れ、持続可能な取り組みが行われています。風力・太陽光発電に取り組む企業なども例に挙げ、産業への影響の大きさも示しました。ここで田所さんはSDGsを「全ての人が、自分らしく、世代を超えて、より良く生きること」と定義し「ESG投資とは表裏一体の活動である」と話しました。

    2つ目は「COVID-19で加速するニューノーマル」で、リモートワークの普及などからもわかるように、日々の暮らしに新しいスタイルが定着しています。

    3つ目は「ユニコーン型企業とゼブラ型企業」。ユニコーン型とは、ユーザーの安全性や将来性よりも今の利益を重要視する企業のこと。一方でゼブラ型は、先ほど説明のあった六方良しの考え方で説明責任を果たす企業のことで、田所さんは「これからはゼブラ型で成長していくことが大切」と話します。

    4つ目は「SDGsネイティブとZ世代」です。Z世代とは1996年以降に生まれた世代のことを指し、田所さんは「承認欲求によってドライブされている世代」と分析。これからはZ世代を意識してプロダクトを考える必要があるとしました。
    同時にZ世代はSDGsネイティブでもあることに加えて、環境問題に関心があり、ダイバーシティを重要視しています。これらを踏まえた上で、現世代だけでなくこれからの世代のニーズを満たす価値を提供していくことが大切です。

    5つ目は「新たなバウンダリーを超える」という考え方。具体的には、5GAIIoTなどのテクノロジーと、エネルギーやメディカルといった領域、そしてSDGsが掲げる17の目標を掛け合わせることで、スタートアップとして起業に成功した実例を紹介しました。

    最後に、「不安定な時代ではあるが、今起きている価値観のシフトは中・長期的に変わらない。5つのポイントを踏まえながらインパクトのある事業アイデアを考えてほしい」と伝えました。

    スタートアップアイデアを考えるにあたっての重要なポイント

    講演後の質疑応答では、「どのような手順で事業開発を進めればいいのか」という質問が挙がりました。
    田所さんは「ソリューション課題は必ず隠れており、どこの需要に対して供給が足りないのかの仮説を立て、頭で考えるのではなく現場に出て検証することが大事」とアドバイス。
    そして、スタートアップアイデアの着想に必要な方法論として「中間プロセスの排除」「バンドルのアンバンドル化」「使われていないリソースの活用」「新しいコンビネーション」など、10個のフレームワークについて話しました。

    これらについては、具体的な事例も挙げながら、田所さんは「中間プロセスが排除できそうなものを挙げてほしい」と参加者に問いかけ、さまざまな意見が飛び交いました。

    また、ビジネス設計をする上での優先順位の付け方については、セグメントによって異なるとしつつも、「今までは利益がファーストファクトで、社会や環境への貢献がセカンドファクトだったが、その区分がなくなっており、SDGsに取り組まない企業は選ばれなくなってきている」と現状を分析しました。

    さらに、「ピボットの基準をどう見極めるか」という質問には「大事なのはビジョンを変えずに戦略を変えること」と、ピボットの成功例を交えながら回答しました。

    今回は田所さんに「SDGs必須な企業でなければ伸びない時代の事業開発」についてご講演いただきました。

    これまでの市場の変遷からこれからの事業開発までの充実した内容で、SDGsの重要性や本質について理解を深められたのではないかと思います。
    これからもGCカタパルトでは、事業アイデアを考えるヒントとなるようなイベントを開催、情報発信していきます。ぜひ、興味のある方は参加してみてください。

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