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長年のデジタルカメラの開発で培った画像認識技術をオーラルケア領域に展開。「磨き残し」の確認が自宅で簡単にできる「プラークスキャンブラシ」を発売します。
開発を主導した大塚さんは、多忙な設計業務のかたわらで、くらしビジョナリーコラボの前身活動であるGCC(※1)のビジネスコンテストに自身のアイデアを起案。数多くのアイデアが生まれては消えていく厳しい新規事業開発のなかで、この提案は事業部での商品化を実現した稀有な成功事例となりました。アイデアを商品化へと導いた原動力は何だったのか?そして、その裏で関係者たちはどのような挑戦を重ね、どのような開発ストーリーがあったのか?イノベーションの代表例として語られる「技術の新結合」ですが、オーラルケアに画像解析技術を結びつけるには何が必要だったのか?
10月1日のプレスリリースを契機に、開発メンバーにお話を伺いました。
(※1)GCC:Game Changer Catapult。パナソニックの家電領域で2016年から2024年まで実施された、社内公募型の新規事業創出活動。
カメラ搭載歯ブラシで磨き残しを"見える化" 「プラークスキャンブラシ」とは
―今回発売になった「プラークスキャンブラシ」とはどんなものですか?
大塚さん皆さん毎日お口の中のケアはしていると思うんですけど、知らないうちにむし歯や歯周病になってしまうことって、残念ながら、実際ありますよね。パナソニックはもともと電動歯ブラシやジェットウォッシャーなどを商品として提供しておりますが、それらをきちんと正しくお使いいただいて、むし歯や歯周病を効果的に予防するところまでサポートできているかと問われると、そこまでしっかりとやりきれていないのではないかという懸念はありました。どんなに良い道具であっても、正しく使われていないと、優れた性能をきちんと発揮できないことになります。パナソニックのデジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」の開発を手掛けた経験から、我々が培ってきた画像認識の技術を使えば、お口の中のトラブルを早く簡単に気づかせることができるのではないか、ということを考えていました。
「プラークスキャンブラシ」は、専用の歯ブラシを取り付けることもできるスティック型のコンパクトな口腔カメラです。そのカメラでお口の中を撮影して、どこに歯垢があるのかを分かりやすく見せることで、"磨いたつもり"になっているところを簡単にチェックできる商品です。

―どんなシーンで「プラークスキャンブラシ」を使ってほしいですか
大塚さん歯磨きをされるすべての方にお役立ちできる商品だと考えておりますが、いろいろと調査をするなかで高い受容性を確信したのは、「お子さんの歯磨き」です。中でも大きく貢献できる場面が2つあると考えています。
1つは「仕上げ磨き」。
まだお子さんが一人できちんと歯を磨けない時期です。親御さんが仕上げ磨きをしてあげるときに、本当にきちんと磨けているのか、どこに磨き残しがあるのかは、なかなか分からないですよね。親御さん自身から「きちんと仕上げ磨きできたのかどうか不安」というお声も伺いました。磨き残しの不安を払拭しながら、親子の間で歯磨きのコミュニケーションを促すツールとしても、お使いいただきたいと思っています。
もう1つが「自立支援」。
お子さんが仕上げ磨きから卒業できるか不安な時期です。「もう親の手を離してもいいよね」というタイミングで、きちんと磨けているかをお子さんが自分で確認しながら、またその結果を「きちんと磨けたよ」と親に見せながら、歯磨きの自立を支援するために使っていただきたいです。
青柳さん6歳から12歳くらいのお子さんは、ちょうど歯が生え変わる時期でもあり、むし歯のリスクが高まる時期です。親御さんの中には、自分の歯の治療経験などから「子どもにはむし歯になってほしくない」という思いを強くお持ちの方も少なくありません。一方で、仕上げ磨きから一人磨きへと移っていく時期でもあるため、少しずつ子ども自身に任せていきたいとも感じています。
ただ、お子さん自身は、むし歯になることの大変さや怖さがまだよく分からないので、「歯を磨きなさい」と親が言っても、なかなかやってくれない。子どもの自立を促したいけれど、どこまで任せてよいのか分からない。どうやる気にさせたらいいか分からない。そこに、この時期ならではの親御さんの悩みがあるのではないかと思います。
大塚さん基本的に、お子さんは歯磨きがあまり好きではないですよね。
だから親御さんが「歯磨きしなさい」と言わないといけなかったりするじゃないですか。
プラークスキャンブラシを使うことで、お子さんが親御さんから言われるのではなく、自発的に歯磨きをするようになってほしい。自分で上達していることが分かったり、「楽しいな」と思ってもらえたりを通じて、歯磨きに前向きに取り組めるようになる。そういう動機づけができる商品だと思っています。
異業種技術の結合が実を結ぶまで―挑戦と試行錯誤の開発ストーリー

―プラークスキャンブラシ開発までのストーリーを教えてください
大塚さんもともと私はデジタル一眼カメラLUMIXの設計をしていました。
皆さんもご存知のとおり、スマートフォンの普及にともないデジタルカメラの市場が急速に縮小していくわけですが、その中で、「LUMIX で培ってきた、素晴らしい画像技術やノウハウを、いわゆるデジカメの領域だけに閉ざして活用しているのは、いかにももったいない」と思っていました。
ちょうどその頃に、ビューティ・パーソナルケア事業部で技術者だった鈴木さんと社内研修で出会い、プラークスキャンブラシの元となるアイデアで意気投合して、「Game Changer Catapult(※1)」のプログラムに応募したんです。
―大塚さんに初めて会ったときの印象をお伺いさせてください
鈴木さん9年前に初めて大塚さんとご一緒して、「なんてパワフルな人なんだろう」と思ったのを覚えています。当時、大塚さんが、電動歯ブラシDoltz(ドルツ)とLUMIXの技術を掛け合わせて、「"Dr.Doltz" お口の汚れやトラブルを自分で見つける口腔カメラ」という提案をされていて、「面白いな」と思ったんです。研修の中でもすごく印象に残っていたテーマでした。
そして、その翌年の2018年に「Game Changer Catapult」が始まって、大塚さんに声をかけていただいて、私もジョインしました。その後はしばらく空くのですが、2022年に中国赴任から帰ってきたタイミングでオーラル商品設計を任されることになりました。その時に改めて「これは商品化しないといけないんだろうな」と運命を感じ...(笑)。そこから、実際に事業化していくことになりました。
―この取り組みが事業化まで進んだポイントは、どこにあったと思いますか?
鈴木さん技術的に尖ったテーマであればあるほど、前に進めるうえで障壁が多く、そこで立ち止まってしまうことも少なくありません。一般的な新商品開発は過去の機種や開発事例があるので、障壁をどうやって乗り越えていけばよいか見当がつきやすいのですが、プラークスキャンブラシのような新規性の高い開発は前例がないので、どんな課題が出てくるのか、発生した課題をどう解決すればよいのかが分からず、前に進めていくこと自体が非常に難しいんです。そこには従来とは異なる新たな開発スタイルが必要でした。また、アイデアの出発点はGCCでしたが、商品化は限られたメンバーだけで実現したものではありません。事業部が中心となって商品化を強力に推進し、徹底した顧客視点で新価値創出を狙ったME制(※2)のもとで、アイデアのコンセプトを改めて練り直し、商品として磨き上げていきました。その過程では、開発・設計・製造・販売などのメンバーが部門を越えて連携し、それぞれの専門性を生かしながら、担当領域や責任の範囲を広げて取り組みました。さらに、MEメンバー以外の関係者や協力者にも力を貸していただきました。こうした多くの方々の支えと協働があったからこそ、難易度の高い商品化を実現できたと思います。
ビジネス面の難しさも大きかったですね。 当社のオーラルケア領域はこれまで電動歯ブラシや口腔洗浄器が中心で、それらとは異なる新しいカテゴリーの商品を手掛けた経験はほとんどありませんでした。そのため、新しい市場そのものをゼロから開拓していく機会も、当時は限られていました。
さらに、技術や法規制の面でも数々の壁がありました。 例えば、今回どうしても必要だった特殊なレンズは一般的な部材ではなく、対応できるパートナー企業を探すだけでもひと苦労でした。ほかにもハードウェア開発ならではの難しさがあり、法規制の観点では、医療機器への該当性も含め、薬機法の対象になるのかどうか、行政との確認作業も必要でした。
本当に、挙げればきりがないほど多くの壁がありましたが、一つひとつの課題に対して必要な人や情報を集め、粘り強く解決策を探し続けられたこと。それが、事業化までたどり着けた一番のポイントだったと思います。
(※2)ME制:製品開発において従来の縦割り組織(職能別)の壁を壊し、少人数の職能横断型チームで商品開発から収益責任までを一貫して担う商品開発体制
青柳さん振り返ると、社内のさまざまな仕組みを通じて「異なる知識やバックグラウンドを持った人材が集まった」という点が大きかったと思います。異なる技術や知見をどう掛け合わせるかということを、「技術」の前に、まず「人」でやることが必須条件の一つなのかなと思います。
あと、社外の協力も欠かせませんでした。
私たちは、歯科の専門知識や業界特有の流通に詳しいわけではありません。
そこで、歯科業界に明るい外部の方々にご協力いただき、私たちにはない知見や視点を補いながら、事業化を進めてきました。
社内だけで検討していると、どうしても従来のやり方や、これまで社内で培ってきた知見の延長で考えがちです。歯科の現場に根差した専門的かつ客観的な知見を取り入れることで、社内の既存の前提を問い直しながら、新しい事業に必要な議論を促していく。そうした進め方が、新規事業に取り組むうえでは重要なのではないかと思います。
―ターゲットを子どもに絞り込むまでに、どのような検証をされたのでしょうか?
青柳さん調べていく過程で、プラークスキャンブラシを活用できるシーンはいくつか見つかったのですが、最終的には小児歯科に携わる歯科医師からの反応が一番良く、メインターゲットは「6歳から12歳くらいの子ども」に絞っていきました。
専門家からも「汚れが見える」ということ自体は画期的だと言われていましたが、社内外で最も大きな議論になったのは、「どうすれば子どもが続けられるのか...?」という点です。
そこで、行動経済学の専門家にご相談しながら、ただ見るだけではなく、ブラシのアタッチメントを付けて、汚れを見つけたらすぐにアプローチできるようにしました。さらに、見ること自体にも情緒的な楽しさを持たせるために、汚れを見つけたら音が出るようにしたり、使うとメダルのご褒美がアプリ上でもらえるようにしたり、ゲーム感覚で続けられるような要素を入れていきました。
「見える」という技術的な機能だけではなく、「楽しく続けられる」というところまで含めて、商品としての形に落とし込んでいきました。
―プラークスキャンブラシがどのようなプロダクトなのか具体的に教えてください
大塚さん先端についている青色のLEDライトで歯垢を照らすと、歯垢内の細菌の代謝物がピンク色に蛍光発色します。ただし、その光はすごく弱い光で肉眼では見分けにくいため、独自の画像処理技術で検出し、歯垢部分をスマホのアプリ上でマゼンタ色にハイライトして表示します。一言で言うと、乳白色で歯と見分けにくい歯垢を、パッと見て分かるように「可視化」する商品です。
使い方としては、歯磨き後にカメラで歯垢の付着状態を確認し、磨き残しが見つかった場合はその部分だけを追加で磨く使い方を想定しています。歯垢の量はスコア化され、過去との比較もできます。これにより、お子さんの歯磨きが上達しているかを確認することができ、子どもの歯磨き習慣づくりにも役立ちます。
充電切れやWi-Fi接続の手間も考え、最終的にはUSB接続にしました。「挿せばすぐ使える」「充電不要」「軽量」という使いやすさを重視したかたちになっています。

ープラークスキャンブラシは主にどういったところで販売していますか
青柳さん歯科医院を通じて販売いたします。
歯科医師・歯科衛生士の方による商品の紹介や説明を踏まえ、患者さんに購入をご検討いただきます。「本当に必要としている人に、適切な説明とともにどう届けるか」を考え、この販売方法を選択しました。
次の新結合を生むために――脱自前主義と共創が拓く未来
―今後の展望についてお聞かせください
青柳さん全国に約6万5,000件もの歯科医院があるので、市場のニーズも踏まえながら着実に認知を拡げ、多くの患者さんに使っていただける機会を増やしていきたいと思っています。
子どもがメインターゲットの商品だと考えていますが、予防に関心のある大人や高齢者の方、カメラ機能を活かした遠隔での口腔状況の確認など、まだまだ可能性があると思っています。可視化による気づきや磨き残しの減少といった価値を、さまざまなかたちで展開していきたいと考えています。
大塚さん実は中国でも受容性を検討したことがあります。お子さんの歯に関する悩みは基本的には日本と同じでしたが、日本と違う点として、お茶を飲む機会が多いため、「歯が茶渋で着色しやすい」というような話もありました。こうしたことから、国や地域によって異なる生活習慣やニーズを捉え、着色汚れやホワイトニングなども視野にケア領域を広げながら、将来的には海外を含むより多くのお客様の健やかな口腔環境づくりに貢献できればと考えています。
鈴木さんこの技術は、在宅医療への転用もできるのではないかと思います。医療機器の分野にも応用の可能性がありますし、そういったところに展開できれば、活用の幅がさらに広がり、社会的な価値もより見えやすくなるのではないかと思っています。
オンライン診療も始まっていますし、口腔内のスキャン技術はさまざまな診療との親和性も高いので、私たちとしても、その領域については以前から関心を持って見ていました。
青柳さんまだこれから検討を進める段階ではありますが、口腔内の状態をデジタルデータとして蓄積し、どこに汚れが残っているのかを立体的に把握できるようになれば、診療や予防歯科においても大きな価値が生まれるのではないかと考えています。取得できたデータをどのようにヘルスケア領域の課題解決に活かすことができるかという視点で構想を進めています。
―今回のような、業種や領域が異なる技術の新結合を、今後も継続的に起こしていくためには、社内外を問わず、どのようなことが最も必要だと思いますか
青柳さん脱・自前主義だと思っています。
自分たちである程度のことはできてしまうからこそ、どうしてもいつものメンバーで手の届く範囲を少しずつ広げながらプロジェクトを進めてしまいがちです。しかし、本来実現すべきことから逆算すると自前ですべてを担うことが最善とは限りません。
まず、一歩踏み出し、課題解決に必要な知見を持つ人材を社内で探す。そして、もう一歩外に出て、社内では得られない知見や力を社外からお借りする。そうした姿勢が、新しい事業に取り組むうえでは重要なのではないかと思っています。
大塚さんとにかくたくさん動く。動き続ける。
「落ち着きがない」と思われるような状態も、新しいものを生み出すうえでは、実は、強みになるのかもしれません。動き続けているからこそ、自分の領域が少しずつ広がり、思いがけない場所で、貴重な出会いが生まれるものだと思います。
偶然の出来事から価値やチャンスを見いだす「セレンディピティ」という考え方があります。思い通りにいかなかったときに、「失敗した」で終わらせることなく、「こんなところに来てしまった。だったら、ここから何が見えるだろう」と捉えてみる。
新結合は、すべてをロジックで設計できるものではありません。だからこそ、寄り道が必要。そして、偶然の出会いの中にある「何か」を、見逃さず、つかむ。新しい価値を生み出し続けるために必要なものはいろいろあると思いますが、一言で言うなら、私はあえて「多動」を選びます(笑)。
今回、インタビューでお話を聞いて、異なる技術や、いくつもの偶然の出会い、それを支える仕組みなど、複数の要素が積み重なって、「プラークスキャンブラシ」の商品化につながったと感じました。
現在の状況や自分の専門領域に閉じこもらず、粘り強く動き続けたことが、偶然やチャンス、そして仲間を呼び込んでいったのかなと思います。この挑戦を起点に、パナソニックの新たな外部との新結合にもぜひご期待ください!
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