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水なのに濡れない。フォトグラファー・青木柊野が写す極微細ミスト×工場の違和感

シルキーファインミスト | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    水でできたミスト、なのに「濡れない」。それが、パナソニックが開発した極微細ミスト「シルキーファインミスト」だ。

    パナソニックが独自に開発したノズルにより、水一粒につき約6マイクロメートル(1マイクロメートル=1mmの1/1000)の細かさを実現。ミストには冷却効果があるため、商業施設などの屋外での暑熱対策や、ミストに照明を当て光の軌跡を表現する空間演出にも利用されている。パナソニックでは、現在これらの事業に加え、加湿・静電気対策として精密機器を扱う工場内への導入を開始。

    今回は工場にてシルキーファインミストが活用されている様子を、UNDERCOVER(アンダーカバー)など有名ファッションブランドのメインビジュアルを手がけたことでも知られる気鋭のフォトグラファー・青木柊野が撮影。精密機器と水が共存する不思議な光景をとらえた。また後半では、シルキーファインミストの仕組みやその価値について開発者にインタビューを実施した。

    青木柊野が切り取る、「濡れない」ミスト×工場

    工場の精密機器と水。シルキーファインミストなら、通常であれば相入れない存在同志の共存も見ることができる。フォトグラファー・青木柊野が、デジタルとフィルムのレンズをとおして見た新たな景色。

    青木 柊野(あおき しゅうや)
    1998年生まれ。秋田県出身。東京工芸大学写真学科中退。2017年に発表された作品群『hill』を皮切りに、作品展示、パブリケーションを通して、実験的な作品を多数発表している。主な作品に『autonomy(2019)』『project "cejitos"(2023)』など。

    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    工場の中でのシルキーファインミストの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

     

    工場での撮影の様子。

     

    撮影に協力いただいた佐賀工場の写真と説明。1964年に操業開始。主にB to B向けの製品を製造。顧客要望に応じた量・リードタイムで生産する「変種変量生産」が最大の特徴。モノづくりを革新し、IoT化、AIなどを駆使したCPS(サイバーフィジカルシステム)で現場の見える化やデータ化を推進することで、さまざまな製造ソリューションの創出にも取り組んでいる。   | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    ※今回工場にて撮影したミスト噴霧機器は実証機のため、市販品とは異なる形状です。

    触れた瞬間蒸発する。開発者が語る、極微細ミストの可能性

    さまざまな可能性を秘めたシルキーファインミスト。そもそもどんな仕組みなのか。また、これから生み出していきたい価値とは? 開発者の尾形 雄司(おがた たけし)と大久保 直哉(おおくぼ なおや)にインタビューを行なった。

    ――シルキーファインミストとはどのような技術・仕組みなのでしょうか?

    大久保シルキーファインミストは、パナソニックが独自に開発した2流体ミストノズルから噴霧される、平均粒子径6〜10マイクロメートルの極微細なミストです。ノズル内部を高速に旋回する空気により水を砕くことで、従来のミストよりも細かい粒子のミストを実現しています人の肌に触れた瞬間すぐに気化するので濡れる感覚がありません。それでいて、ミストならではの涼感や視覚効果はしっかり得られるため、さまざまな使い方ができます。

    シルキーファインミストの噴霧ノズルの写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    シルキーファインミストの噴霧ノズル
    シルキーファインミストのミストの細かさの図  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    シルキーファインミストのノズルについての図  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ――具体的に、どのような使い方をされていますか?

    尾形現時点では大きく4つの用途があります。「暑熱対策」「空間演出」「製造現場(工場)での静電気対策」「(アロマなどを配合した)特殊液体の噴霧」です。

    まず、暑熱対策ですが、北千住駅西口の商店街や新橋の駅前広場、ほかにもオフィスビルや商業施設などさまざまな場所で、体感温度をやわらげるために導入されています。近年では、従来のミストでは導入が難しかった飲食店などへの導入事例も増えました。シルキーファインミストは人やテーブルに近い場所から噴霧してもすぐに蒸発するため、ミストが口に入ったり、料理が濡れたりすることはありません。また、後付けで設置ができる点も、既存の構造物をそのままに使いたいと思われるお客様に選ばれやすい大きな理由だと思います。

    ――「空間演出」や「工場」での活用事例も教えてください。

    尾形空間演出については国内から国際的なイベントまで様々な場所で使われていますが、最近だと『Ambient Kyoto 2023』という世界最高峰の視聴覚芸術の展覧会に出展された、Cornelius(コーネリアス)による音楽展示の空間演出にも活用されています。

    Ambient Kyoto 2023 -』にてシルキーファインミストを使用した展示『霧中夢 -Dream in the Mist-』  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    『Ambient Kyoto 2023-』にてシルキーファインミストを使用した展示『霧中夢 -Dream in the Mist-』。「霧」に包まれた部屋で、光と音の幻想的な体験を提供。(画像提供:パナソニック株式会社)

    大久保静電気対策としての工場導入についてはまだまだこれからですが、今回の撮影場所であるパナソニック コネクトの佐賀工場の一部では稼動しています。製造現場では静電気が大敵で、異物の付着による製造品質の低下や、機器の誤操作、火災といったさまざまなトラブルの原因になります。そこで、決済端末などのプリント基板を製造する現場の加湿・静電対策として、シルキーファインミストを導入しました。

    佐賀工場で製造されている決済端末などのプリント基板  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    佐賀工場で製造されている決済端末などのプリント基板

    空間演出や工場での使用は「偶然の産物」だった

    ――非常に用途の幅が広いシルキーファインミストですが、もともとはどのような目的で開発されたのでしょうか?

    尾形もともとのきっかけは、2021年の東京オリンピック・パラリンピック。海外からの来場者に対して、日本の夏の猛暑という課題の解決策として、省エネルギーで効率的に涼感が得られる「ミストを使ったソリューション」を考えることになりました。

    ――暑熱対策からはじまり、そこからどのように「演出」や「工場」での活用にまでアイデアが膨らんでいったのですか?

    尾形演出や工場など多用途での活用はある意味「偶然の産物」でした。まず演出効果についてですが、水は空気より重たいので、通常はすぐ下に落ちてしまいます。しかし、粒子を細かくすればするほど、長時間にわたり空間に漂う特性が出てくるとわかりました。この特性を生かせば、スモークのような演出効果に使えるのではないかと考え、チャレンジしてみることになったんです。

    さっそく、2018年にイタリアで開催された『ミラノサローネ』という家具の国際見本市で導入したところ「従来のスモークよりも爽やかで、かつ不思議な演出効果がある」というお声をいただきました。また、スモークよりも機器や人体への影響も少ないため、人の近くにミストを噴霧できるなど、演出の幅が広がる点も高評価でした。以降は空間演出の分野でも積極的に導入いただけるよう働きかけています。

    『MILANO SALONE 2018』にてシルキーファインミストを使用した展示『 Air Inventions』。空気の発明をコンセプトに、直径20メートルのエアドームを設置。ミストに加え映像、音響、照明技術などを駆使した思わず深呼吸したくなるような空間は「ユニークな技術や設備が可能にした新しいインスタレーションである」との高い評価を受けた。その年の「ベストテクノロジー賞」を受賞。

    ――では、工場への導入のきっかけは?

    大久保従来の電気ボイラー(※1)による蒸気を活用した加湿・静電対策自体は、パナソニックの一部の工場ですでに導入されていたのですが、消費エネルギーが大きいというデメリットがあります。

    ※1 従来は電気ボイラー式で水蒸気を発生させ加湿・静電対策を実施

    大久保その点、シルキーファインミストは、従来よりも加湿に要するエネルギーが非常に少なく、CO2の削減にも貢献できます。さらに、極微細ミストで蒸発しやすいため機器への負担も少なく、音も静かなんです。

    尾形そこで、このアドバンテージをうまく生かせば、製造現場のトラブル防止と省エネ化のさらなる促進ができるはずと考え、工場導入も事業活動の一つに加えました。特に、省エネの観点では、かなり大きなインパクトではないかと。そして実際に導入した結果、従来に比べて加湿に要する消費電力を約90%削減することができたんです

    ――これをパナソニックの静電対策が必要な工場すべてに導入すればランニングコストの大幅な削減になりますね。パナソニック以外の工場にも普及していくことで地球環境に対しても大きなインパクトがありそうです。

    尾形そうですね。パナソニックの環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」が掲げる、自社のCO2排出の削減に加え、社会のCO2排出削減というところにも、大きく貢献できるソリューションであると考えています。今後は佐賀以外の地域のパナソニックの工場はもちろん、自社以外にも広げていきたいですね。

    ミストを「世界になくてはならないもの」にしたい

    ――最後に、お二人がシルキーファインミストでつくりたい未来について教えてください。

    尾形正直、これまではミストって、世の中になくても別に困らなかったと思うんです。街中で見かけたときに「涼しそうだな」と感じるくらいで、どうしても必要というほどではなかった。そんなミストを「世界になくてはならないもの」にしたいというのが私たちの事業ビジョン、そして個人的な思いでもあります。

    大久保私も同じく「世界になくてはならないもの」を目指し、技術者としては、設置条件やシステムへの負担、エネルギー削減など様々な制約を乗り越えて理想のノズルを実現することが自身の役割と考えています。

    ――「世界になくてはならないもの」にするために、具体的な目標や計画はありますか?

    尾形まずは、暑熱対策や空間演出、工場での導入事例を国内外に広げ、100億円規模の事業に成長させていくことを目指しています。それだけの規模になれば、世界に貢献できているといえるのではないかと思います。

    また、それと同時にミストの新たな価値も創造し続けたいです。この技術は、言ってしまえば「水を細かく砕いた」だけなんです。しかし、それだけで、ここまで使えるシーンが広がってきた。今後もさらに、さまざまなジャンルに活用していける可能性があると思っています。

    そして、ゆくゆくは街中のあらゆる場所、シーンでシルキーファインミストが使われている。そんな世界を見てみたいですね。

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    グリーンAC - Panasonic 日本

    パナソニックのグリーンACシリーズは、濡れを感じにくい極微細ミストによって、暑熱対策、幻想的な演出、除菌、農業、屋内加湿など、空間に新たな価値を提供します。

    Profile

    尾形 雄司さんのプロフィール写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    尾形 雄司(おがた・たけし)

    パナソニック株式会社 事業開発センター ミスト事業推進室
    2003年入社。本社R&D部門にて、技術者として冷凍サイクルおよび圧縮機・膨張機などの研究開発に携わり、欧州向けの自然冷媒を活用した温水暖房機などの先行開発、家庭用エアコン向けの圧縮機開発などに従事。2018年4月より事業開発センターに在籍。新規事業としてのミスト事業の責任者として事業開発に取り組んでいる。

    私のMake New|Make New「1→10」
    不確実性高い新規事業の領域では自身のスキルや知識というのは全体の一部に過ぎず、知らないことややったことのないことを他の仕事仲間や協業先の力を借りて1の力を10にして新たに挑戦していかねば到底物事の達成はあり得ないという心持を意味しています。また、新規事業として0→1(ゼロイチ)の事業立ち上げが過ぎたいま、1→10(イチジュウ)という事業のスケール化に新たに挑戦する気持ちで頑張りたいと思います。


    大久保 直哉さんのプロフィール写真  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    大久保 直哉(おおくぼ・なおや)

    パナソニックホールディングス株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部 マニュファクチャリングソリューションセンター 環境システム技術部
    2018年入社。入社以来、熱・流体に関する技術に立脚した省・創エネソリューション開発に従事。なかでもミスト事業のコアデバイスであるノズル開発をはじめ、それらを活用した新規ソリューションの創出を手掛けている。

    私のMake New|Make New「オトナ」
    次の世代のために全力で、そんな大人・世代でありたい。

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