「管理職になりたい人、周りにいる?」「昇進したいとかまだ興味ないかも」。
Make New Magazineの編集会議で、キャリア関連の企画について議論がなされるなか、そんな何気ない会話をきっかけに、「リーダーを積極的に目指す人の少なさ」についてさまざまな意見が飛び交いました。
いまの世の中、マネージャーや管理職というと重責のイメージが独り歩きしていたり、性別によってロールモデル不在という課題もあったりと、積極的に目指す人は多いとは言い切れないのが現状です。
しかしながら最近は、キャリアも家庭も諦めずリーダー役を務める人も増えています。この企画ではその一つの例として、パナソニックで課長として活躍する北澤奈津子さんと、SHE株式会社代表取締役 / CEO・CCOの福田恵里さんに話を聞きました。リーダーのあり方や仕事と家庭の両立に関する独自の意見や経験談は、今後のキャリア形成に悩むあなたの参考になるかもしれません。
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強くあろうとしなくていい。「自分がなれそうなリーダー像」を考える
――今回は出産や育児を経験しつつリーダーを務めているお2人に、リアルな話をうかがいたいと思います。福田さんはリクルートに入社後、女性のキャリア課題や働き方・生き方におけるジェンダーギャップを解決するため、26歳のときにSHE株式会社を立ち上げ、オンラインでさまざまな職種について学べる女性向けキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」というサービスを提供しています。リーダーになることへの不安はありましたか?
福田起業してから8年が経ちましたが、正直いまも不安です(笑)。私はリーダーになりたいとは思ったことは一度もなく、「学習の場をつくりたい」という気持ちだけでここまで来ました。
特に、会社を立ち上げて3年ほどは、自分よりも優秀な人を集めることが会社の成長につながると考えていたので、自分と違う専門性を持った人や、経験豊富な歳上の方々を採用していました。でも、周りが優秀な人で固められていくほどに「私はマネージャー経験もないのに、社長としてやっていけるのか」と不安になっていきました。
無意識のうちに、「リーダーとなる人は、人より秀でている存在であるべきだ」と思っていて、自分自身にプレッシャーをかけていたんだと思います。
――そのようなプレッシャーを抱く人は多そうです。一方、北澤さんはいわゆる大企業、パナソニックに入社されて15年目ですよね。これまで主務職(※)や課長職などを担当され、現在は、住宅管理システム「AiSEG3(Home IoT)」の利用状況を評価する業務など担っています。リーダーを務めるにあたり、不安はありましたか?
※一般的な主任クラス
北澤私が初めて主務職に就いたのは入社8年目のときでした。
まだ20代だったので、オファーされた際は「この先自分はリーダーになっていけるのか」と不安になりました。私も福田さんと同じように役職者に対して先入観があったのだと思います。
一方で、私は幼少期から漠然と「キャリアのある女性」に憧れていました。母は専業主婦でしたが、叔母は2児の母でありながら会社では管理職で、プライベートも仕事も両方を楽しんでいる人でした。休日には子どもと一緒にゲームをすることもあるし、仕事の話をしてくれることもあって、キラキラして見えたんです。叔母の背中を見て「ああいう大人になりたい」と思っていたので、私も働くのであれば管理職にはつきたいと思っていました。
――お2人ともそれぞれまったく違うキャリアを歩んでこられたかと思いますが、役職者に対するさまざまなイメージがあったのですね。不安を払拭するために、どのようなことをされましたか?
福田私はまず自分と向き合って、意識を変えるところからスタートしました。起業当初は、社長とは少年マンガの主人公のようにパワフルでずば抜けた才能がある人がなるものだと思っていたのですが、少しずつ私はそういうカリスマ的な存在にはなれないと悟りました。
そんななかで「自分がなれそうなリーダー像」を考えて、一番しっくりきたのが『ドラえもん』ののび太です。のび太は弱虫で頼りがいのないタイプであるものの、なんだかんだ周りの人から助けてもらいながら世界を救う主人公です。
私は経費精算も苦手だし、マネージャー経験もない......できないことが多いタイプの人間なので、「みんなに助けてもらえるようなリーダーになろう」と腹落ちしたんです。この気持ちを、社内のメンバーにプレゼンしたときに「リーダーだからといって、気張らなくてもいい。等身大でいよう」と決意できました。
北澤私も似ています。やっぱり、管理職やリーダーに対して「1人でうまく仕事を回せる超人」というイメージがあったのですが、自分にはそれはできないと思っていたんです。チームのメンバーにも「私は、いわゆる強いリーダーにはなれません。みなさんに助けてもらいながらチームを回していきたい」と宣言していました。
私の場合は、会社の先輩や同時期に主務職に就任した同僚に相談できる環境があったので、何か懸念材料ができた際はすぐに相談して助けをもらえるようにしています。1人で何かをするのではなく、誰かに頼る姿勢を大事に......まさに等身大で職務を全うしようと思っていました。
まずは自分に近いロールモデルを見つけてみる
――とても素敵ですね。しかし周りを頼ると言いつつも、リーダーになるとどうしても責任が大きくなる場面もあると思います。特に女性は出産や育児などもキャリアに影響すると思いますが、その点で苦労してきたことはありますか?
北澤自分が女性だからといって抑圧されたり、「女性ならではの意見」を求められたりすることはなく、1人の人間として見てもらえてきた気はします。
ただ、自分の部署にほかに技術職の女性社員はおらず、数としては圧倒的なマイノリティ。入社3年目に妊娠、4年目に第1子を出産したのですが、周りは全員男性だったので、そのあと自分がどうやって働けばいいのかイメージが湧きにくく、不安を抱いていました。
妊娠がわかった際は、人事に「出産後にリーダー職をしている人はいますか?」と相談し、他部署で活躍している先輩と会話する機会を設けてもらえました。労働時間が減るなかでキャリアを諦めないために何をすればいいのかを、教えてもらいたかったんです。
その際にお話させていただいたのは、技術職で出産を経験された方でした。彼女は「出産を経て変わることは何もない。仕事面では会社が協力してくれるし、育児面ではいろいろなサービスを駆使すれば、乗り越えていける」と話してくれて、安心したのを覚えています。そのときに「仕事とプライベートの両立も、周りに協力を仰いで進めよう」というビジョンが見えたような気がします。
北澤不安になるのは、やっぱりロールモデルが少ないことが原因だと思います。私が課長職についたとき、後輩の女性社員から「女性でも成果が出たらリーダーになれるとわかった」「自分たちの道も開けました」という言葉をもらって、自分の選択に自信が持てました。
福田私は、起業した年に結婚して、2年後ぐらいに妊娠・出産しました。社長就任と同時に産休に入ったので、仕事で大事な時期とライフイベントが重なったんです。
子どもについて考えたのはSHElikesのイベントで、ある子育て中のユーザーさんから「SHElikesが助けたい女性のなかに、私たちは含まれてないんですか」と、言われたことがきっかけです。
当時のSHEのサービスは「働く女性」に特化していたので、通学型で土日か平日の夜に開講するスタイルだったんです。この時間帯では、ママは受講できない。ユーザーさんからの切実な問いかけで、初めて「自分が見えている世界でしか考えられていない」と気がついて「ママの生態系を知りたい」と思うようになりました。
私が妊娠・出産したときは、会社はまだ10人規模。事業を進めるにあたって、子どもを生む選択をとることが、会社にとってメリットになる確信もありました。いずれ社員が妊娠したときに、安心して働ける環境をつくっておきたかったですしね。
「ワークライフバランス」という言葉がありますが、私は仕事とプライベートに関して「バランスを取る」よりも「ミックス」したほうが、双方にいい影響があると思っているので、社内外で「SHEは『ワークライフミックス』を大事にしています」と言っています。
仕事と家庭の両立はできる?その自己犠牲は必要?
――お2人ともお子さんがいらっしゃいますよね。仕事と家庭、また育児も......となると両立は大変だと思いますが、どのように対応していますか?
福田夫も経営者なので私の仕事には理解がある方なのですが、一度家事分担の偏りで大喧嘩したことがありました。そのときに「家事分担を可視化して負荷を確認しよう」と話したら「それって本当に解決につながるの?」と夫から疑問を投げかけられまして......(笑)。
「負荷を平等に分配する」よりも「負荷を極限まで減らす」ことをイシューにして考えようという提案をされて、納得したんです。そこからは、皿洗いをしたくないから食洗機を買い、掃除機をかけたくないからロボット掃除機を導入しようという話になりました。
職業柄、私も夫も会食が多いのですが、一応週2回までと回数を決めています。それでも、やむを得ずシッターさんに子どもの世話をお願いすることもあります。
北澤我が家も可能な限り家事の負担自体を減らすように考えています。夫は残業があまりない会社なので私以上に家庭にコミットしてくれますが、それでも夫婦で出張が重なることがあります。そういうときは、ママ友たちで互助会のように助け合うようにしています。育児を家庭のなかに閉じないことも、じつはすごく大事な気がします。
――たしかに夫婦だけで解決しようとせず、周りの人に頼ったり、アイテムを有効に活用するのも大事ですよね。それでもやはり育児や家庭のために、キャリアを諦める人も多いと聞きます。
北澤そうですね。昔は、保育園の迎えが一番遅いことに罪悪感を覚えて悩んだこともありました。でも、そのときに自分の笑顔がなくなったら働く意味がなくなるなという結論に至って。私自身が子育てでキャリアを諦めてイライラしていたら、子どもにとって悪影響しかないような気がしたんです。
そこからはとにかく「今日も精一杯働いてきたよ!」という気持ちで、お迎えに行くようにしました。
――ここ数年で家庭と仕事の両立がしやすい社会になってきたと感じますが、北澤さんが入社された当時から変わった点はありますか?
北澤入社当時とは比べものにならないぐらい、いろいろ変わった気がします。
たとえば、コロナ禍以降は必要に応じて在宅勤務もできるようになったので、本当に楽になりました。かつては子どもが熱を出したという連絡が来ると、保育園に迎えに行き、病児保育に預けて、会社に戻り......と移動だけで数時間かかっていましたから。
育休を取る男性も増えていますし、上司との面談で家庭の話をすることも増えて、社内の雰囲気が変わりました。私は、第2子を妊娠する前から「そろそろもう1人考えているので......」と上司に相談していました。
社内制度としても、育児や介護をしながら管理職にチャレンジしやすい仕組みが整ってきました。こうした背景もあって、女性の課長職への登用が増えたのは、肌で感じます。かつては女性の管理職と言うと、スーパーウーマンのようなイメージが強かったと思いますが、いまはいろいろなタイプの女性が管理職に登用されるようになってきています。
福田固定観念から解き放たれている女性が増えている印象はありますね。女性に自己犠牲を強いる雰囲気が、弱くなっているのかもしれないです。まだまだロールモデルは少ないですが、追い風が吹いている気はしています。
自分らしいキャリアを築くために「憧れの5人」を挙げてみる
――上の世代が積み重ねてきた努力の結果、女性のリーダーも増えてきていると思います。「女性リーダー」についてお二人の身近な範囲では、どのような意見を聞くことがありますか?
福田北澤さんの「身近にロールモデルがいなかった」という話は、私自身も感じますし、周りでもよく聞きます。ロールモデルのレパートリーが少ないがゆえに、スーパーウーマンの武勇伝か苦労話という極端なストーリーが独り歩きして「何かを犠牲にしないと活躍できないのでは」と固定観念を抱いている女性は、多い気がします。
北澤「キャリアウーマン=ストイック」というイメージが、まだありますよね。私は基本的に「助けてください」というスタンスで仕事をしてきましたし、母親業も決して上手にこなせているわけではありません。たまに「課長やってるの? バリキャリだね」と周りから言われたりすると、歯がゆいというか......そうしたイメージと実態のギャップを感じます。
――そんななかで、自分らしいキャリアを実現するためには、まずどんなことをしてみると良いでしょうか?
福田ゼロから「自分はどう生きたいのか」を考えるのは難しいですが、「憧れている人5人をあげて、その人たちのどこに憧れているのかを言語化する」のならば、もう少し簡単なはずです。
それをやると、自分が大切にしている軸が見つかると思います。たとえば、私はDeNAの南場智子さんに憧れているのですが、南場さんのチャーミングで、知的で、それでいて最後まで絶対にやり抜く姿勢が大好きなんですよね。
南場さん以外に尊敬している方をあげると、たいてい同じところに憧れを抱いています。こんな風に尊敬している方の特に憧れるポイントを組み合わせていけば、自ずと「自分がなりたい姿」を見つけられると思います。
北澤私も福田さんと似ていますが、なりたい姿をイメージすることをおすすめしたいです。 いまはいろいろな情報があるので、他人の意見に惑わされがちというか、他人の姿を「これが正解なのか」と錯覚してしまいがちです。ですがキャリアに関しても、自ら望んでいないのであれば必ずしもリーダーになる必要はないと思っています。
「こうあるべきだ」という思い込みはいったん捨てて、純粋に「自分はどう生きていきたいのか」を突き詰めていくのが、キャリアを切り拓く近道のような気がします。
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Profile
北澤 奈津子(きたざわ・なつこ)
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 電材&くらしエネルギー事業部 品質革新センター 品質企画推進部
2010年入社。IoT商品を中心としたシステム評価に従事。評価活動を通して、よりお客さまにご満足いただける商品を提供したいという思いから、新たな評価手法を提案。2024年から、新評価手法の実運用に向けた技術開発をしながら、更なる品質向上に繋がる企画提案を担当。
私のMake New | Make New 「真の笑顔」
お客さまの声なき声をキャッチして、本当の意味でご満足いただける商品を品質から提案していきたい。そのためには、社員も楽しんで取り組むことが必要だとメンバーに伝えています。
福田 恵里(ふくだ・えり)
SHE株式会社 代表取締役CEO / CCO
1990年生まれ。リクルートホールディングスを経て、女性向けにキャリア支援を行う「SHE」を設立。女性の理想のキャリア実現に伴走するキャリアスクール「SHElikes」は累計会員数17万人を突破。そのほか、ファイナンススクール「SHEmoney」や転職サービスの「SHE WORKS」などを運営。2020年より現職。