トレーラーハウスがコンビニやスーパーのあり方を変えて、かつ地域課題の切り札に!?
パナソニックは2024年10月、トレーラーハウスを活用した移動型出店ソリューション「HAKOSOL(ハコソル)」の提供を開始した。
事業の主体は、コンビニやスーパーにショーケースなど業務用の設備を提供している、パナソニック産機システムズ株式会社。コロナ禍で「トレーラーハウスが小売業の課題を解決できるかもしれない」というアイデアが生まれたのをきっかけに、事業化に漕ぎつけた。
トレーラーハウス、そしてHAKOSOLは、いかにして小売業や私たちの生活を変えうるのか。プロジェクトメンバーに聞くと、目を輝かせながら話してくれた。
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コロナ禍をきっかけにコンビニ出店の課題解決のためトレーラーハウスに着目
――まずは、HAKOSOLの概要について教えてください。
大江HAKOSOLとは、まさしく読んで字のごとく「箱のソリューション」です。私が所属するパナソニック産機システムズはコンビニやスーパー、飲食店などに向けて、ショーケースや業務用冷凍・冷蔵庫、空調設備といった機器を販売・メンテナンスしています。
HAKOSOLはそうした小売系の企業に対して、トレーラーハウスを使った出店を支援するソリューションです。トレーラーハウスという箱を売って終わりではありません。独自の調査データを用いた出店ロケーションの提案から、オープン後の点検・保守まで、全面的にサポートするのが特徴です。
――大江さんはHAKOSOLプロジェクトのリーダーであり、発起人でもあるそうですね。この事業を思いついたきっかけはなんだったのでしょうか。
大江4年ほど前、大手コンビニチェーンの営業担当をしていたころでした。当時コロナ禍でコンビニの新規出店が止まってしまったうえに、私が得意としていた対面営業もできなくなってしまった。
そんななかで対策を模索していたところ、キャンプ関連の動画チャンネルで偶然トレーラーハウスを目にしたんです。面白いなと思って少し調べてみたら、店舗や住居に利用されている事例が見つかり、これは小売業の出店支援に使えるのではないかと、ピンときました。
大江というのも、コンビニの課題として、出店しても周辺環境の変化などで業績がふるわなくなり、すぐに閉店・移転しなくてはならないケースが結構あるんです。そうなると、莫大な予算をかけて建てたものを取り壊して、大量の廃棄材を出すことになってしまう。
その点、トレーラーハウスで出店できれば、移転の際は車を移動するだけで済みますから、費用も最小限になり環境にも優しいですよね。これはコンビニの課題を解決できる切り札になるのではないかと思いました。
――アイデアが浮かんでから、どのように事業化まで漕ぎつけたのでしょうか。
大江まずは下調べとして、一人でトレーラーハウスのメーカーや、顧客企業の方々にヒアリングしたところ、概ね良い反応を得ることができました。それで仲間を巻き込み当社の経営層にプレゼンして、「いいね、やってみよう!」と進めていけることになったんです。
ただ、そこからが順調にはいきませんでした。メンバーがほかの組織に異動になったり、退職したり、一喜一憂した話を始めたらいくらでもできそうなくらい、いろいろなことがありましたね(笑)。
――中原さんはいつごろからプロジェクトに参加したのですか。
中原HAKOSOLに携わったのは2023年の8月からですね。新事業開発本部という2018年にできた部署で、当初からメンバーとしてHAKOSOLに限らずさまざまな新規プロジェクトを担当してきました。大江さんは、トレーラーハウスのプロジェクトをきっかけに異動してきて。私は社内で関係者のサポートをとりつけたり、収支の試算をして経理面で支えたりするプロセスの経験があったので、それを生かしてHAKOSOLの実務面を推進しています。
低い設置や移動のハードル。「買い物困難者」対策や災害時の可能性に期待
――なぜトレーラーハウスの売り切りではなく、ソリューションとして提供する形式を選んだのでしょうか。
大江トレーラーハウスの分野ではわれわれは後発なので、差別化が必要でした。他社と比較した強みを考えてみると、空調などの機器に関するノウハウや全国的な保守メンテナンス網、また大手小売チェーンとのつながりといった、既存事業で培ってきた貴重な財産があると気づきました。
そういった財産を生かしつつ、出店ロケーション探しから設計、施工、運搬、メンテナンスまでトータルでサポートすることで、パナソニックならではの価値を出せると考えたんです。
他社との差別化要素としては、トレーラーハウスのスペックにもこだわりましたね。われわれが提供するトレーラーハウスは、側面を引き出すことで人力で室内を拡張できるのですが、これは共同開発先の特許技術なんです。
――新規参入するにあたり、市場のポテンシャルをどのようにとらえていますか。
大江トレーラーハウスが注目されるようになった最初のきっかけは、コロナ禍で密集を避けつつ楽しめるレジャーとして、キャンプがブームになったことだと思います。ただ、トレーラーハウスを使ったホテルや事務所、店舗が出てくるにつれて、それにとどまらない可能性が見えてきました。
メリットの一つは、建築物ではなく車両なので、市街化調整区域や工業専用地域など、通常は店舗を出せない場所に出店できること。また、出店や移動のコストを下げられるので過疎化が進む地域でも出店のハードルを下げることができ、「買い物困難者」の問題解決の糸口になる可能性があります。
また、建築業界では人手不足が喫緊の課題ですが、トレーラーハウスの店舗なら設置する現場での職人さんの作業が、ほとんどゼロで済みます。
中原2024年1月に能登半島地震がありましたが、あのような大規模災害への対応で仮設住宅を建てるとき、建設許可を取るのが大変で、完成までに何か月もかかることがあるようです。でもトレーラーハウスなら、自治体への設置確認は必要なものの、建設許可はいりません。私たちはまず店舗向けにトレーラーハウスを提供していますが、これから住宅や宿泊施設などとしても、どんどん活用が進んでいくと思っています。
自社の敷地内で実証実験、ユーザーのニーズや店舗オペレーションに手応え
――2024年4月から、実際にトレーラーハウスの店舗で販売を行う実証実験を実施したそうですね。
大江本格的に事業を展開するとなったら、机上で検討するだけでは不十分だと考えました。それで実証用の車両を確保したうえで、群馬県大泉町にあるパナソニックの大泉拠点の敷地内に、店舗を設けたんです。
大泉拠点は広大なので、一部の棟は食堂まで250メートル以上離れていて......。限られた休憩時間のなかでの移動は、なかなか大変です。実証実験の店舗は、そうした食堂から離れている棟の近くに設置して、お菓子、おにぎり、サンドイッチなどを販売しました。
中原私たちもなんとか売上を上げたいという思いがあり、拠点で勤務する社員へのアンケートでニーズを探って、品揃えに反映しましたね。ほかにも、イベントを開いたり地元のパン屋さんに来てもらったり、いろいろと工夫しました。昼間のピーク時は店員がいる有人店舗、それ以外の時間は無人店舗としてオペレーションの実証をしていたのですが、その一環で自分が店員として働くこともありました。
――実証実験から得た手応えや、見えてきた課題はありますか。
中原さまざまなコンビニチェーンの方々が見学に訪れて、好意的な意見を得ることができました。口で説明するだけでは伝えきれない部分が多いので、実物を見て「意外と通路幅があるね」などと理解を深めてもらえたのは、よかったです。
ただ課題として、売上を上げるべくさまざまな取り組みを行ったものの、通常のコンビニの出店に必要とされる1日の売上には、達しにくいことが見えてきました。
大江路面店は競合が多いので、工場の敷地内のような「閉鎖立地」と呼ばれる場所に出店したいという要望自体は、すごく多いんです。いまは、どうにか収支が合うようなパッケージにできないかと試行錯誤しているところです。
具体的には、トレーラーハウス自体のコストを見直したり、リースやレンタルの仕組みを導入したりすることができないか検討しているところです。また、出店ロケーションの紹介についても、条件をさらに高めに設定して、より売上の見込める場所を紹介していけるようにしたいと考えています。
トレーラーハウスが夢を持つ人を後押しして、柔軟なまちづくりにも貢献する未来へ
――小売業向け以外の可能性も、見えてきましたか。
大江そうですね。フランチャイズという形式を取っているのは、コンビニやスーパーだけでなく、飲食店や学習塾、整体などさまざまな業態があります。多様な業態のニーズを取り込みつつ、たとえばスーパーの駐車場に美容室のトレーラー店舗を置いてもらうとか、「フランチャイズとフランチャイズのかけ合わせ」ができないかと考えているんです。
来店客にとっては2つの用事を1か所で済ませることができて利便性が高まりますし、スーパー目線では集客力向上につながります。かなりニーズがあるので、HAKOSOLの売上の牽引役になるのではないかと期待しています。
――HAKOSOLのソリューションが広まったら、世の中に大きな影響を及ぼす気がします。大げさかもしれませんが、社会変革につながるというか......。
中原われわれも、そう信じていますよ。トレーラーハウスの店舗は、やってみてもし売れなければ別の場所で再チャレンジできるので、始めるハードルが低いところがいいなと思います。
たとえば2人のビジネスオーナーがシェアをして、朝から夕方まではカフェ、夜はバーにするみたいなやり方で、さらに気軽に店を始めることができますよね。
現役会社員の方の副業とか、定年後のセカンドキャリアとか、いまの時代はさまざまな可能性がありますから、「お店をやってみたい」という夢を持つ人の後押しができたらいいなと思いますね。
大江まちづくりの面でも、すごくポテンシャルがあると思います。地方自治体や都市計画を行うコンサルティング企業の方々と話をするなかで感じるのは、人口減少や過疎化などでまちづくりも変化を求められているということ。そこで、柔軟に対応できるトレーラーハウスが提供できる価値は、たくさんあるはずです。
たとえば、いま自治体会館のような地域のコミュニティスペースがどんどん減っているんですよ。それなら、トレーラーハウスで簡易的な公共のスペースをつくって、夏場は暑さをしのぐためのクーリングスポットとして運用できるかもしれない。「一石三鳥」のようなプロジェクトができないかなと考えているところです。
中原あとは、やはり災害対応ですね。
群馬県庁や大泉町役場の方々と話をする機会があった際にも、災害時のトレーラーハウスの導入には前向きで、行政として取り組んでいく流れがあるのを感じました。
大江それから個人的には、「トレーラーハウス村」ができたら面白いと思っていて。地方の空いている土地に、たとえば数十棟規模の宿泊施設、小売店、飲食店などをトレーラーハウスで設けて、一つのコミュニティーとして運営する。対象の土地を日本中に何か所も用意して、季節ごとに移動させてもいいかもしれません。現段階では、妄想ですけどね......。
われわれが伸ばしたいと思っている店舗の出店と、人口減少や過疎など社会課題の解決を両立しながら、みんなが夢を持って暮らせる未来をつくれたら最高ですね。
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Profile
大江 圭太郎(おおえ・けいたろう)
パナソニック産機システムズ株式会社 経営企画センター 新事業開発部 担当部長(トレーラーハウスプロジェクトリーダー)
1989年入社。入社以来、産機システムコールドチェーン部門でコンビニエンスストア向けのソリューションを主に担当。2021年から現職で新規事業開発担当としてHAKOSOLを手掛ける。
私のMake New|Make New「movement」
移動型店舗を活用した新たな出店ソリューションで、お客さまや当社の経営課題、社会課題を解決し、難しいといわれる新事業事業化へチャレンジいたします。
中原 恵子(なかはら・けいこ)
パナソニック産機システムズ株式会社 経営企画センター 新事業開発部 シニアアドバイザー
1989年入社。入社以来、医療用ソフトウェアの商品企画に従事。産機システムズに異動後は主に新規事業を担当。2023年から現職、2024年9月からシニアアドバイザーとして引き続きHAKOSOLに携わる。
私のMake New|Make New「second career」
自身も職種が変わったり、ゼロ→イチの生みの苦しみを感じたりしつつも達成感を糧にHAKOSOL事業に携わっています。HAKOSOLが自分だけでなく多くの人のセカンドキャリアのチャンスとなれば良いと願っています。