2025年4月上旬に、パナソニックは新しい全自動コーヒーメーカー「NC-A58」を発売します。
コーヒーは、日常のなかでほっと一息ついたり、誰かと過ごす時間の媒介になったりと、くらしの中で身近な存在です。
一方で、生産者の労働環境や経済的な問題、地球環境への影響など、さまざまな社会課題と切り離せない側面もあります。
おいしいコーヒーを今後も飲んでいくために、一人ひとりがどのような考え方を持って暮らしていくとよいのでしょうか。
コーヒーやチョコレートなどを通じてサステナブルな環境の実現を目指す「imperfect(インパーフェクト)」ブランドプロデューサーの佐伯美紗子さんと、パナソニックの調理商品企画担当である富岡新平、マーケティング担当の藤原大志が座談会を行いました。
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コーヒーにまつわる社会課題にどう取り組む?
富岡本日はよろしくお願いします。imperfectさんで取り扱われているコーヒーは、おいしさと同時にサステナビリティを追求されているそうですが、どのような経緯でブランドを立ち上げられたのですか?
佐伯imperfectを立ち上げたメンバーは、もともと世界中のコーヒー農園からコーヒー豆を日本に輸入する仕事をしていたんです。そのなかでさまざまな課題を目の当たりにして、このままではコーヒー産業が続かないと感じていたので、サステナブルなコーヒー豆の生産を実現したいという想いでブランドを立ち上げました。
生産現場に社会課題を抱えているという不完全さを放置するのではなく、できることから一歩ずつ一緒に取り組んでいきませんかというメッセージをお伝えしたくて、imperfectというブランド名になりました。

佐伯生産国などによっても異なるのですが、コーヒー農園は中小規模で家族経営しているところが比較的多いんです。そのため、経済面に問題を抱えている場合があり、短期的に収穫量を上げるために過度に農薬を使ったり、森林破壊が行われたりしている状況を目にしています。その状況を否定するのではなく、私たちもサポートしながら、少しでもこれから先のことを一緒に考えていくための取り組みをさせていただいています。

富岡実際にどのような取り組みをされているのでしょうか?
佐伯コーヒーやチョコレートなどのimperfectの商品は、社会的・環境的価値の高い取り組みを通じて生産されたコーヒーやカカオ、ナッツなどの素材を使用しています。
また、お客さまに課題を知っていただくための工夫の一つとして「Do well by doing good.投票」という試みを行っています。お客さまからもっとも投票数を集めたプロジェクトを私たちが実行するというものです。


さまざまな好みの方に楽しんでいただくために
藤原佐伯さんはコーヒーを飲まれる機会が多いと思いますが、普段コーヒーメーカーを使われますか?
佐伯はい、自宅で使っています。ハンドドリップやフレンチプレスで淹れることもありますが、できる限りおいしいものを飲みたいけれど時間がないときなどは、コーヒーメーカーに頼ることが多いです。
新しいコーヒーメーカーは、どのような想いで開発されたのでしょうか?
藤原NC-A58のキャッチコピーは「挽きたてを、もっと手軽に。」なんです。カプセル式や粉からのドリップ式を採用しているコーヒーメーカーも多いなかで、あえて豆を挽く形式にしています。そこには、豆を買いに行ってどれにするかを選ぶ時間や、豆を挽いてコーヒーを淹れる時間も含めて大切にしていただけたらという想いがありました。

富岡実は旧機種にも長年の間根強いファンがいたのですが、さらに仕様やデザインを進化させました。今回大切にしたのは、自宅のリビングに置いてもいいと思えるような外観にすることでした。その背景には、コミュニケーションツールとしてコーヒーを会話のきっかけにしてほしいという想いがあったんです。


佐伯私たちも、コーヒーは自分自身の心のスイッチを変える大事な存在であることと同時に、コミュニケーションツールだと思っているんです。コーヒーを飲む空間の心地よさや、お味の違いをきっかけに会話が弾むこともそうですし、生産される現場のサステナビリティにまで話が深まっていったら嬉しく思います。だから、会話が生まれるきっかけとしてリビングにおいてほしいという想いはすごく素敵だと感じました。
このような開発をされるときには、味をどのように追求するのでしょうか?
富岡市場のトレンドを知るためにいろいろなコーヒー屋さんに伺いました。多様な味わいを知るため、コーヒーの濃さと、一つのコーヒー豆からどれくらいの量が抽出されているかを示すための指標を用いて、それぞれのお店の味わいがどの位置にプロットされるのかをまずは考えました。
佐伯そうなんですね。以前のモデルが発売されてからおよそ30年の間に、好まれやすい味わいについて変化はあったのでしょうか?
富岡我々としては、好みは変化したのではなく、広がったと考えています。コーヒー豆の選択肢が増え、カフェチェーン店が増えてきたことも影響していると思われます。それを受けて、今回は一台でさまざまな好みの方に楽しんでいただくために、より濃いコーヒーを抽出することができるストロングというコースを追加したんです。
佐伯コーヒーの選択肢が増えたことに伴って、お客さまの嗜好も広がっていると私たちも感じます。それにお応えできるように、さまざまな産地や味わいのものを、シングルオリジン(特定の地域・原産地のみで栽培されたコーヒー)でご提供させていただいているんです。

手軽に挽きたてを味わえるからこその楽しみ
藤原今日はimperfectさんがコーヒーを持ってきてくださったので、パナソニックの新しいコーヒーメーカーNC-A58で淹れてみたいと思います。今回お持ちいただいた「シグネチャーブレンド」はどのような特徴がありますか?
佐伯ブラジルの女性が運営する農園のコーヒー豆を主に使用し、他にグアテマラとタンザニア、インドネシアの農園の豆が入っています。シングルオリジンに比べるとバランスが取れたお味でありながらも、全体的に浅煎りなので、豆の果実感と共に、チョコレートやナッツのようなコクや甘みを感じていただけるようなブレンドです。
コーヒーは、産地によってその豆がつくられた風景が違うんです。見晴らしのいい高原でつくられたコーヒーはすーっと広がるような味がするし、鬱蒼と茂った森の中でつくられたコーヒーは草木をぎゅっと詰め込んだような味わいです。そういう風景なども思い浮かべながら飲むと、楽しみの幅が増えますよね。知識を広げていくことも、コーヒーをおいしく飲んでいただくことに繋がると思います。

藤原シグネチャーブレンドをマイルドコースとストロングコースで淹れましたが、飲み比べてみていかがですか?
佐伯マイルドコースは、豆が持つ複雑さも含めて抽出されているような印象を受けました。複雑な味を楽しめるのがコーヒーの面白さの一つだと思うのですが、赤い果実の濃厚な甘みや、プラムっぽい甘み、チョコレートっぽい甘さなど、いろいろな味を感じていただける淹れ方だと思います。ストロングコースの方は、果実感やチョコレートっぽい甘さが、マイルドコースよりも際立っている印象を受けながら味わわせていただきました。


佐伯やはりコーヒーは、豆を挽いた瞬間に一番いい香りがするので、パナソニックさんのコーヒーメーカーのように一台で手軽に挽きたてを淹れることが実現できるものを使っていただくことは、おいしく飲むためのポイントですね。
富岡自宅でコーヒーを淹れるハードルになるのが手間の部分だと思います。コーヒーメーカーにコーヒー豆のかすが残っていると、若干えぐみが出やすくなるのですが、この製品は、従来の機種でも特に支持が高かった、お手入れ性のよさを継承しているんです。お湯が通る経路と挽いた豆が通る経路を一緒にすることによって、清掃の手間を削減できるうえに、味の担保もできるようになっているんです。


佐伯お二人は、NC-A58を開発するなかでコーヒーの楽しみ方についての変化などありましたか?
富岡私は大学生のときにカフェでバイトをしていたこともあり、コーヒー豆を選んで飲む楽しさはもともと知っていたのですが、今回コースを追加したことによって、一つの豆からでもさまざまな味を楽しめることを感じましたし、豆が挽かれている香りを楽しみながら待っている時間にも落ち着きを感じるようになりました。

藤原これまではリラックスしたり、集中したいという目的に応じてコーヒーを飲んでいたのですが、コーヒーメーカーの開発に携わるようになって、自分で豆を購入したり、豆の香りや味を楽しんだりすることが、どれだけ素敵なことなのかを深く感じるようになりました。マーケティングに携わる身として、どうやってそれをお客さまに伝えていけばいいのか、あらためて考えています。

消費行動は投票のようなもの
佐伯楽しみが増えたのは素敵ですね。マーケターであり消費者でもある藤原さんが、普段ものを選ぶときに大切にされていることはありますか?
藤原学生時代は自分の懐事情に応じて購買していたのですが、社会人になってメーカーに入って初めて、その商品をつくるのにどんな人が携わっているか、どんな思いでつくられたのかを見聞きして、視座が広がってきました。それからは、そもそも価格に見合っていないのではないか、もしかしたら誰かが不利益を被っているのではないかと考えるようになって。ものを買うことが社会とのコミュニケーションであると考えたときに、自分の意思表示になるような買いものであるかどうかを、少しずつ考えられるようになってきたように思います。

佐伯藤原さんがおっしゃっていた「意思表示」という言葉を伺って思ったのですが、消費行動は投票のようなものだと感じます。
私たちは食品原料の調達・輸入・販売も行っているのですが、メーカーさんも小売さんも、流通業にいらっしゃる方も「原料がいいことや、それが農家の方を支えていることはわかったけれど、店頭に並んだときに消費者の方が手に取ってくださるんでしょうか」と仰います。ということは、最終的に決定力を持っているのは消費者なんです。翻って、自分も一消費者であると考えたときに、自分も社会を変えられる力を持っているかもしれないと感じます。
毎日たくさんの消費行動をするなかで、せっかくなら応援したいブランドさんや企業さんに、意思表示としての消費をしたいですし、それが社会に対して自分の意思を見せることに繋がればと思っています。

藤原理念や生産環境が応援したいものであったとしても、あまりおいしくなかったり、使いづらかったりすると継続が難しいと思うのですが、継続することに関してはどのようにお考えですか?
佐伯それは企業側の責務だと思うんです。そもそも魅力あるものをご提供するのが私たちの責任だと思っているので、妥協しないものづくりをしたいです。真面目な方だと、「買うものすべてに気を配らなければ」と自分にプレッシャーをかけてしまうかもしれないのですが、例えば好きなものから始めてみるのでもいいと思いますし、気が向いたときだけでもいいと思うんです。気が向いたときにやる人が100人、1万人と増えていけば、少しずつ社会を変えていくと考えています。

富岡企業側の責務とおっしゃっていただきましたが、調理家電というのは実際に食べて、飲んでいただくためのものなので、我々も製品をつくるうえで妥協しないのはもちろんのこと、自分自身が使いたいと思えることを大事にしたいと心がけています。
今日のお話のなかで、imperfectさんでコーヒー豆を購入された方が、みなさんそれぞれのお考えのもとプロジェクトに投票されるというお話がありました。今回のコーヒーメーカーも、いろいろな好みの方に楽しんでいただきたいという思いを持って開発したのですが、実際に商品を使われるお客さまのさまざまな考えやくらしに思いを馳せることを忘れないでいたいと感じました。
藤原商品の先にいるお客さまが、どんな考えを持っていて、どんな味を楽しみたいのかということに想いを馳せることもメーカーとしての責務であるのかなと、今日のお話を通じて強く感じました。商品のよさを知っていただくだけでなく、その先にいるお客さまに関わらせていただけるようなマーケティングができたらと思います。
佐伯素敵ですね。パナソニックのみなさんは、商品を買われる方のご自宅での生活やライフスタイル、喫食されるシーンをリアルに考えながら開発されていらっしゃるんだと感じました。私たちにできるのは、魅力的だと思うコーヒー豆などをお届けさせていただくことなのですが、パナソニックさんはコーヒーメーカーを通じて、コーヒーの世界や魅力を広げられていることを感じて、刺激をいただきました。

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Profile

佐伯 美紗子(さえき・みさこ)
imperfect ブランドプロデューサー
2008年に大手総合商社に入社。コーヒーやカカオなどの原料調達に携わる中で、ビジネスを通じて社会課題を解決したいという想いで、2019年にimperfectを立ち上げ、ブランドを活用した事業展開を主導。

富岡 新平(とみおか・しんぺい)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU コンシューマーSBU 商品企画部
2018年入社。海外マーケティング本部 キッチン商品担当として調理小物を中心にマーケティングに従事。2020年7月より調理機器BU 商品企画部に在籍。海外向けの高速ジューサをはじめ、日本向けには、全自動コーヒーメーカーや、フラグシップモデルの炊飯器などを手がけている。
私のMake New|Make New「コミュニケーション」
人と人とのつながりが調理家電を通してうまれ、「なんか今日いい日だな」と思える。そんなきっかけ作りができる商品開発がしたいです。

藤原 大志(ふじわら・たいし)
パナソニック株式会社 コンシューマーマーケティングジャパン本部 商品マーケティングセンター 調理機器マーケティング部
2024年入社。調理機器商品の商品担当として調理小物を中心にマーケティングに従事。全自動コーヒーメーカーをはじめ、オーブントースターや電気圧力鍋などを手がけている。
私のMake New|Make New「smile」
商品やサービスによる体験を通して、お客様に新しい「笑顔」を届けたいです。