パナソニックの最新エアコンを使うだけで、地球環境に貢献できる。そんな業界初の取り組み「J-クレジット制度(※)を用いたエアコン環境貢献プログラム」がスタートした。省エネ性能が高いエアコンを使うことで生まれる環境価値(各家庭におけるCO2排出削減量)をパナソニックがとりまとめ、カーボンクレジット(J-クレジット)を創出。クレジットの売却で得た資金を、環境保全活動などに充てる仕組みだ。
2024年10月の開始以来、参加ユーザーは増加の一途。プロジェクトに関わるメンバーも増え、どんどん規模が拡大している。もともと事業企画部の太田弘平(おおた・こうへい)が一人で始めた取り組みが、なぜここまで大きな動きになったのか。太田を突き動かす原動力に迫りつつ、プロジェクトのこれからを展望する。
※省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度
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最新エアコンを「普通に使うだけ」で環境に貢献できる
――2024年10月からスタートした「J-クレジット制度を用いたエアコン環境貢献プログラム」とは、どのような取り組みですか?
太田お客さまが最新の省エネ基準に対応した当社のエアコン「エオリア」をお使いいただくことで削減されるCO2の量からカーボンクレジット「J-クレジット」を創出し、環境貢献活動や省エネ機器の開発に利用するプログラムです。
J-クレジット制度とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2などの排出削減量や、適切な森林管理によるCO2などの吸収量を、国が「クレジット」として認証する制度。クレジットは仲介業者を通じて売却できたり、カーボン・オフセット(※)に利用できたりと、さまざまな活用方法があります。基本的には企業や地方自治体、森林所有者などが対象の制度なのですが、私たちはエアコンを通じて一般の方も環境貢献に参加できるかたちが作れるのではと考えました。
※日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方
――具体的に、どんなスキームなのでしょうか?
太田最新のエアコンは旧型のエアコンに比べて省エネ性能が高く、CO2の排出量も少なくなっています。この旧型と新型の差分、つまり「旧型に比べてどれくらいCO2排出量を削減できたか」をパナソニックがとりまとめて計算し、お客さまに代わって国に申請することでクレジットとして認証してもらう仕組みですね。
このプログラムにご参加いただけるお客さまの条件は3つ。「対象のエアコンを使用していること」「エオリア アプリ を利用していること」「CLUB Panasonic (クラブパナソニック)へ登録していること」です。

太田なお、対象となるエアコンですが、現時点ではエオリアの「Xシリーズ」「UXシリーズ」「TXシリーズ」など、2022年以降に発売された上位モデルとなっています(2025年2月時点)。国の「トップランナー基準(※)」と比較して省エネ性能が高い製品が対象になるのですが、その基準自体も上がっていくため、そのたびに対象モデルも更新されていきます。
※家電製品などの機器の省エネルギー基準を、現在商品化されている製品のうち、最も優れている機器の性能以上にすることに加え、技術開発の将来の見通しなどを勘案して定めた制度

――創出したJ-クレジットはどのような用途で使われる予定ですか?
太田プログラムにご参加いただいているお客さまの意見もお聞きしながら、検討を重ねているところです。現時点では環境貢献活動の費用に充てることなどが候補にあがっています。
3か月で参加者2,000人を突破。お金ではない還元方法とは
――お客さまがプログラムに参加するメリットは何でしょうか?
太田まずは、日々のくらしのなかで「環境に貢献できる」ということです。そもそも最新モデルのエオリアをご使用いただいている時点で(旧モデルを使う場合に比べて)CO2の排出量削減にはつながっているのですが、プログラムにご参加いただくことでJ-クレジットが生まれ、それを私たちが有効利用することで間接的に環境貢献活動に関わることができます。
――ちなみに、J-クレジットで得た資金をギフト券やポイントのようなかたちでプログラム参加者に還元していくことは考えていますか?
太田そのような内容より、その資金を環境貢献に回して役立てたいと考えています。たしかに、当初は社内でも、「キャッシュバックのような直接的な見返りがないと、参加してもらえないのではないか」という声は挙がっていました。
ただ、CLUB Panasonicでエオリアユーザーさまに実施したアンケートでは「取り組みに賛同いただけますか」という問いに対して6割ほどの方が賛同してくれましたし、クレジットの使い道に関しても「より省エネ性能の高い機器の開発に使ってほしい」や「環境貢献活動への取り組みに役立てる」などの回答が多かったんです。こうしたお客さまの声もあり、直接的な見返りではないですが、環境貢献をしていくプログラムとして動き出しました。

――「環境貢献活動」の費用に充てることに関して、具体的にはどのような活動が候補に挙がっているのでしょうか?
太田たとえば、森の植樹活動や海洋ごみの清掃活動、さらには環境系スタートアップへの投資なども候補に挙がっています。このなかで当面、何を優先するかはCLUB Panasonicのアンケートを通じてお客さまとコミュニケーションを取りながら決めていきたいと考えています。
また、ゆくゆくはパナソニックグループ内で行っているさまざまな環境貢献活動ともコラボし、プログラム参加者の方が実際に参加をして何かしらの価値を直接感じていただきたいとも思っています。たとえば、お子さまのいるご家庭であれば当社主催の小学生向け環境イベントにご参加いただいたり、パナソニック草津工場の近くにある「共存の森」を散策してもらったりといったことも考えられるでしょうし、パナソニックのリサイクル工場の見学ツアーなども実施したいですね。

――ちなみに、現時点でのプログラム参加人数は?
太田2024年10月にスタートし、開始3か月の時点で約2,000名にご参加いただいていて、現在も日々増え続けています。ただ、事前アンケートで6割の方に賛同いただいたことをふまえると、目標にはまだ届いていないというのが正直なところですね。
現状はセキュリティ強化のため2段階認証になっていたり、必要な情報の入力が必要だったりするため、参加登録するのに少し手間と感じられて途中離脱されてしまうケースもあると考えています。そのため、例えばワンクリックで登録できるシステムを開発することも含め、参加のハードルを下げることは大きな課題の一つです。
ポイントは企業のビジョンに合致するプログラムの設計、そして最後はパッション
――そもそも、このプログラムはどんな経緯でスタートしましたか?
太田大きなきっかけは、2022年の組織体制変更ですね。私もそのタイミングで新たにできた空質空調社の事業企画に異動したのですが、お客さま起点で「新しいソリューションを考えてほしい」というミッションが下りました。
そこで、まずは空質空調社のなかでも異なるバックグラウンドを持ったメンバーやデザインのメンバーに声をかけ、ワークショップ形式で何ができるか検討するところからスタートしました。組織体制の変更に伴い、新しく生まれた「空気から、未来を変える。」という空質空調社のスローガンを体現するような取り組みを、みんなで検討しようと。それを深めていった結果、いろいろテーマはありましたが、一つの答えとして、お客さまが何らかのかたちで環境負荷低減に貢献できるくらしを提供することが弊社のビジョンに沿っていると考えたのです。

――なぜ、太田さんが主導的な立場を担うことになったのでしょうか?
太田私はもともとエンジニアとしてパナソニックに入社しましたが、新商品の開発や事業企画にも関心があって、以前から新しいサービスを提案していました。そうした背景もあって事業企画に異動してきたので、おのずと新しい事業やソリューションを考えるミッションが下ったのだと思います。
個人的にもゼロイチで何かを生み出す仕事にはやりがいを感じますし、学生時代から「仕事を通じて環境に貢献したい」という思いも持っていました。そこで、環境のテーマで新しいことができないかと思い、お客さまに環境負荷低減に貢献できるくらしの提案を考え始めました。いろいろと思考をめぐらせるうちに「J-クレジットを使ったらうまくいくかも?」と思い至り、今回の「エアコン環境貢献プログラム」を提案しました。
――最初に提案した際の、周囲や上長の反応はいかがでしたか? たとえば「もっとビジネスになることを考えてほしい」といった声もありそうな気がしますが......。
太田そうですね、仕組みだけを提案していたら「もっと儲かることを考えてくれ」と突っぱねられていたかもしれません(笑)。ただ、J-クレジットで得た資金で環境貢献活動だけではなく、このプログラムのメンテナンス含めて収支面でも完結できるモデルになっていることやブランド価値にも寄与することなど、「会社として全体でみたときにどうなのか」という姿勢を伝えることで、新しい事業のかたちとしての説得力を強めました。
また、あたりまえのことですが、会社が掲げる長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」やミッションを意識して、プログラムを設計するのも大事なポイントでした。そのうえで「パナソニックの目指すところに向かっている取り組みなんですよ」と説明すれば、基本的に否定する人はいませんでしたね。
この2つのポイントさえ押さえておけば、社内の承認は得られるだろうと。あともう一つ大事なのが、自分自身のパッションですね。新規事業って起案者にパッションがないとすぐに止まってしまうので、どんな困難があっても突破できると信じて突き進むこと。今回のプログラムを実現させるうえでは、これが最も大事だったかもしれません。

いずれはパナソニックだけでなく、日本全体のプロジェクトに
――これまで空質空調社内のメンバーやデザインチームとワークショップを行ったり、今後はパナソニックグループ内の各社で進めている環境貢献活動とコラボしたりしたいというお話もありました。徐々に部門や会社の枠を超えた活動へと広がりつつあるようですが、どのように仲間を増やしていったのでしょうか?
太田そもそも異動してきて知り合いも少なかったので、まずは提案書を持参して、エアコンの商品企画を担当するマネージャーに直談判しました。「こんなことを考えているのですが、一緒にやりませんか?」と。そこですぐに、マネージャー了承のもと、エアコンのチームから2人のメンバーに参加してもらえたのは大きかったですね。
以降も、さまざまな部署に説明にいき、徐々に協力者が増えていきました。彼らに話を聞くと、同じような志を持った人は社内にたくさんいたんですよね。上司の了承さえ得られれば、ぜひ一緒にやりたいという人が多かったので、仲間づくりで苦労した感覚はまったくありません。
――さらっとお話されていますが、決して簡単なことではないように感じます。人を巻き込むためのコツのようなものはありますか?
太田さほど特別なことではありませんが、人と会うための事前調整は大事にしていました。たとえば社内で面白い取り組みをしている人がいて、その人に会いたいと思っても、いきなりメールを送ったりすると警戒されてしまいます。まずは知り合い経由で一言伝えてもらったうえで、「話を聞いてもいいよ」となったら私からコンタクトするなど、段階を踏むようにしていました。ほかに意識していたのは、わかりやすく資料をつくるとか、普通のことをおろそかにしないというくらいですね。
あたりまえのことさえできていれば、みなさん時間をとって、快く話を聞いてくれます。基本的に前向きな取り組み、良い取り組みに関しては肯定的に耳を傾けてくれる姿勢が全社に浸透しているので、そこはやりやすかったですね。
――それでは最後に、今後のプロジェクトの展望を教えてください。
太田まずは「エアコン環境貢献プログラム」にご参加いただけるお客さまを増やすこと。そして、ゆくゆくはエアコンだけでなく、ほかの家電にも同じ取り組みを広げていきたいと考えています。すでにこちらから働きかけもしていて、該当部門には具体的に検討を進めてもらっているところです。
理想を言えば、パナソニック以外の家電メーカー、さらには他業種の企業にも参加してもらい、日本全体のプロジェクトにしていきたい。そこまでいけば、環境へのインパクトも相当なものになります。ただ、そのためにはまず、少なくともパナソニックグループ内で全社的な取り組みにしていく必要があると思いますので、引き続きパッションを持って推進していきたいです。

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Profile

太田 弘平(おおた・こうへい)
パナソニック株式会社 空質空調社 住宅システム機器事業部 日本事業ビジネスユニット 事業企画部
2016年キャリア入社。技術者として電子デバイス部品(チップ抵抗器)を中心に新商品開発やフィールドアプリケーションエンジニア(FAE)に従事。2021年5月より現空質空調社に在籍。IAQ商品企画を経て、事業企画では住宅IAQ事業の戦略構築、重点プロジェクト推進、TOPサポート、ガバナンス運営、新規事業創出活動などを手がけている。
私のMake New|Make New「環境経営」
カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現に向け新しいことに挑戦していきたい。