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新しいアイデアで社会の課題解決を目指す。そのような情熱を持った人たちをサポートするパナソニックの新規事業創出活動Game Changer Catapult(以下、GCカタパルト)では、アイデアのきっかけ作りとして、さまざまなイベントを実施しています。
今回は「起業の科学 スタートアップサイエンス」の著者で、株式会社ユニコーンファームCEOの田所雅之さんをゲスト講師に招き、オンラインセミナーを開催。「イノベーションを起こすための6つのポイント」についてご講演いただきました。
ゲスト講師:田所 雅之(たどころ まさゆき)
スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援する株式会社ユニコーンファームのCEOを務める。日本とシリコンバレーで起業した経験を持ち、著書「起業の科学 スタートアップサイエンス」は大手ネット通販サイトの経営管理部門で売り上げランキング115週連続1位を記録。
優れたアイデアは現場を観察した深い洞察から生まれる
パナソニックでの講演経験も豊富な田所さんは、「パナソニックさんとは縁がある」と講演を始め、自身の経歴とともにスタートアップ型とスモールビジネス型の起業の違いや、イノベーションの重要性について紹介しました。
その上で田所さんは今回の講演を通じて、話を聞くというインプットだけではなく「スタートアップの着想の仕方や、戦略、アイデアの見つけ方を知って、新しい気付きをアウトプットしてほしい」と話されました。
そしてまず1つ目のポイント「破壊的イノベーションを理解し活用する」について製品開発の事例を交えながら解説が始まります。
既存の市場で起こるイノベーションである「持続的イノベーション」とは、「より高性能に」「より安く」「より優れたものを」などのユーザーニーズに応えるため、従来製品の改良を行う、改善領域のイノベーションを指します。一方「破壊的イノベーション」とは、従来製品をベースとせず、新たな切り口から製品開発を行う、新領域のイノベーションを指します。
既存ユーザーが示す価値基準に沿って行われる「持続的イノベーション」では、従来製品の改良を続け、ユーザーに見放されないことが大切です。しかし、性能に対するユーザーニーズの高まりを、改善スピードが上回ってしまい、ニーズを超過した過剰性能を持つ製品やサービスが誕生してしまうことがあります。
田所さんはこの現象について、「持続的イノベーション」を電気ポット、「破壊的イノベーション」を電気ケトルに例え、「高価な電気ポットは高性能で多機能だが、『メーカーが作りたいもの』であった。だが、ユーザ―が本当に求めているのは、大量のお湯が沸かせることや温度設定を変えられることではなく、『1分でお湯が沸くから早くラーメンが食べられる』といった価値であった。結果として、ユーザーニーズである『お湯が早く沸く』ことに機能を絞った圧倒的に価格の安い電気ケトルがユーザーに選ばれた」と話しました。
こうした「破壊的イノベーション」によって生み出された製品やサービスは潜在的なニーズを見つけてスタートするので、提供する製品やサービスの性能は、ゆっくりと向上します。そして、ある地点でユーザーの求める性能ニーズに追いつき、それまで持続的イノベーションによって生み出された製品やサービスの需要を超えます。
これは2つ目のポイントの「よい新規事業のアイデアは何かを理解する」にもつながる内容で、優れたビジネスアイデアがソリューションではなく課題にフォーカスしていることを示しています。
田所さんは「質の高い課題を見つけるには深い洞察が求められる。そのためには、現場を観察することが大事」と話した上で、ユーザーは現状の違和感や、ほしいものを言語化できないものであると言及。さらに、アイデアを考えるときは、「医者」のような立場になり「頭痛は寝不足が原因、その寝不足の原因は、さらにその理由は......」と掘り下げて考えて根本的な原因を断ち切る処方箋(=適切なアイデア)を提案することが重要だと話しました。
ユーザーを観察して「ユーザーのあるべき体験」を考える
3つ目のポイントは「現状の分析ではなく徹底的にユーザーを観察して『ユーザーのあるべき体験』を考える」こと。
これは「部分体験ではなく、全体体験として優れているか」ということで、田所さんは「現代はモノづくりから、コト(=体験)づくりの時代へ向かっている。コンテクストを理解した上で『コト』を提供しないと、価値あるものは提供できない」と、UX(ユーザーエクスペリエンス)の重要性について話しました。
そのためにはユーザーが求めている「コト」を探す必要があります。田所さんは、ユーザーの意見を反映するためには「市場に製品を投入してからユーザーのフィードバックをもらう『ウォーターフォール型』では、学ぶタイミングが遅い。最低限の性能を持った製品をいち早く提供して、ユーザーの意見を反映しながら開発を繰り返す『リーンスタートアップ型』であれば、短期間で多くを学べる」と解説。この「高速で市場に投入してユーザーからフィードバックを得る」ことが、イノベーションを起こす4つ目のポイントだと話しました。
さらに、5つ目のポイント「最初は小さな市場を支配する」では、まずは必要最小限の機能を持つ製品やサービスを提供することも有効で、サービスを提供するには「初期ユーザーを考え、ターゲットとするエントリー市場を見極めることが大切」だと話しました。
そして田所さんは市場を考える上での戦略にも触れ「市場のどこで戦い、逆にどこで戦わないのか。戦術はどうするか考えることが大事」と語りました。加えて、戦略に必要なインサイトを探るには、特定のユーザー活動を観察して記録するジョブシャドウイングが有効で「その作業をしているとき、時間のかかる特定の作業はあるか」「何に対してうんざりしているか」などの質問をして、ユーザーの本音を探ると話しました。
また、事業を考える場合は「仮説を構築し、ヒアリングして情報を集め、仮説検証をするという3つの要素をしっかり押さえているアイデアは強い」と述べたほか「この先、生まれるであろう需要に対して供給できるかが大事。例えば今後は自動運転などで行動様式が変わる。そうなると移動時間に提供するサービスが求められる。つまり、少し先の未来を見ているユーザーで、積極的にソリューションを探しているアーリーアダプターを見つけることが重要だ」と説明しました。
そして、6つ目のポイント「Data is King 顧客データを定量的に取る」では「事業では、どうすればユーザーに成功体験を提供できるかを可視化して、ユーザーとの関係性をデータで表すことが大切」としました。
SNSを活用して現場の情報を知るための「3つの質問」とは
各ポイントの解説後、質疑応答では田所さんに「今日の講演で感じたことがあればコメントを」と促され、参加者からは「マーケットのセグメント評価を定量的にすることが大事だと気付いた」「再現性確保の重要性を再認識した」など、セミナーでの気付きがアウトプットされました。
また、参加者から「課題を見つけるために、情報や人にどうアクセスすればよいか」という質問に対して、田所さんはSNSの活用方法を紹介。「ユーザーに対して『現状の課題を解決するための代替案を利用しているか』『その代替案の不満はなにか』『課題が解決できるなら、どれくらいの予算を確保できるか』という3つの質問をすることで、エバンジェリストとなるユーザーかどうか見極められる」と説明し、書籍やインターネットで検索しても出てこないような現場の情報を集められると話しました。
最後に田所さんは、新規事業の仲間(メンバー)集めについても触れ「大事なことは自分の特性を知り、タイプの違うメンバー同士が、それぞれ補い合えるバランスのよいチームを考えること」と、成果を出すためにはチームの多様性も大切だと伝えました。
イノベーションの本質、他企業の新規事業創出の事例を知り、新規事業アイデアのきっかけに
今回は田所さんに「イノベーション」について、6つのポイントを挙げながらご講演いただきました。ソリューションではなく課題にフォーカスすることの重要性や、あるべきユーザー体験を考えることの必要性など、新規事業創出活動のヒントが多く出た有意義なひと時になりました。
GCカタパルトでは、今後もパナソニック社員向けにイベントの開催を予定。さまざまな形でゲームチェンジャーたちの挑戦をサポートします。