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車や家、衣服などを中心に、シェアリングエコノミーが急速に拡大している。一般社団法人シェアリングエコノミー協会の調査によれば、日本の市場規模は2.4兆円に上る(2022年)。
そんななか、パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社が2022年にローンチしたのが、賃貸住宅向けサブスクリプションサービス「noiful(ノイフル)」だ。コンセプトは「より自分らしく・より上質なくらし方」。
同事業を統括する太田雄策(パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ハウジングアプライアンス事業推進室 室長)は、本サービスを通じて「住まいやくらしの価値観を変え、新しい文化を創りたい」と語る。noifulが提唱する「新しい価値観」とは。そして、所有しない生活だからこそできる、自分らしさや上質さの追求とは?
パナソニックの強みを結集してできた、まったく新しい「空間ソリューション」
――2022年1月からスタートしたnoifulは、どのようなサービスですか?
太田パナソニック製の先進家電を貸し出すBtoBのサブスクリプションサービスです。賃貸物件の管理会社や法人オーナーさま向けに、「noiful ROOM」と「noiful LIFE」の2種類を提供しています。
太田まず「noiful ROOM」は、パナソニック製の先進家電を選んで物件に備えつけられるサービスです。ほぼすべてのパナソニック製品を利用できるうえに、家電の費用まで家賃に「固定費」として織り込めるというメリットがあります。
もう一つの「noiful LIFE」は、先進家電のサブスクに加えて、オーナーさまの所有する物件をリノベーションから手がけるサービスです。日々の生活動線から家電の収まりにまでこだわり、空間をデザインするのが最大の特徴です。
実際に「noiful LIFE」でリノベーションした物件をご覧いただきましょう。
――冷蔵庫や電子レンジが、本当にぴったりと収まっていますね。
太田まるでビルトインのようなフルフラットなつくりになるように、棚の幅やキッチンの奥行きをオリジナルで設計してあるからですね。ちなみに、テレビや洗濯機、エアコンなどの家電製品はもちろん、IHクッキングヒーター、トイレ、バス、ドアホンなどの住宅設備に加え、床材や扉にいたるまで、一部を除き、ほぼすべて実際に販売しているパナソニック製品です。
noifulは、パナソニックの事業を結集して、空間全体をソリューションとして提案するまったく新しいサービスなのです。
――「空間のソリューション」という発想は、どこから生まれたのでしょうか?
太田もともと「住まい」を起点に新規事業の検討を始めました。
一般的にパナソニックといえば、家電メーカーのイメージかと思いますが、いまお見せしているように、じつは床材や壁材といった建材や電気設備の事業など、くらしのさまざまな部分を手がけているメーカーです。
私たちの事業を組み合わせれば、新しいシナジーが生み出せる。家具家電のサブスクは増えていますが、空間リノベーションまで踏み込むのはnoiful独自。1社でそこまでできるのは、日本でもパナソニックだけだと自負しています。
住まいやくらしの価値観を変えていく挑戦
――メーカーであるパナソニックがサブスクサービスに乗り出すのは意外でした。
太田noifulを始めた背景はいくつかあるのですが、一つは「モノを所有しない」という考え方がZ世代を中心に広がっていることにあります。このトレンドをとらえながら「持たない豊かさ」という新たな価値観を提案しよう、と考えました。
モノを所有しなくても、豊かなくらしは創っていける。そんな想いから「より自分らしく・より上質なくらし方」をコンセプトに掲げました。
具体的なポイントとしては、多種多様なライフスタイルの入居者が、先進家電のパッケージから、自分のくらし方にフィットするものを選べるという仕組みが挙げられます。
太田たとえば、料理が好きな人であればスチームオーブンレンジなど調理家電を中心に、多忙でもしっかりとセルフケアをしたい方には美容家電を中心に、などお選びいただけます。
単なる家電のサブスクではなく、パナソニック製の高品質な製品をラインナップすることで、上質なくらしに貢献できると考えています。これを購入というかたちで一度に買い揃えようとすると、どうしても金銭的なハードルが高くなってしまいますよね。
その経済的なハードルを、月々の家賃に含めた月額制というかたちで、初期費用を抑えることによってクリアできれば、本当はあの家電が使いたいけれど、高くて買えないからこの家電で我慢する、といった妥協も少なくなり、「豊かなくらし」がより多くのご家庭で実現できると考えます。
また、時折耳にするのが「コスト重視で家電を購入したら、すぐに調子が悪くなった」という声です。リーズナブルな製品を選んだのに、修理にお金がかかったり、最悪は買い替えとなったりで、結局高くついてしまうこともあります。
noifulは、自然故障による修理・交換の費用はすべて当社負担なので、アフターサービスの点でもストレスなく安心してお使いいただけます。
――新規事業であるnoifulにおいて、社内から見て「新たな挑戦」といえる部分はどこでしょうか?
太田さまざまな側面で新しい取り組みですが、私たちが「新しいくらしの文化を創る」ことを目指している点でしょうか。
じつは海外では、サービスアパートメントと呼ばれる家具家電つきの賃貸物件がスタンダードなのですが、日本の賃貸物件は、家具家電なし物件が当たり前。一部、家具家電つきの物件もありますが、ウィークリー・マンスリーマンションなどの短期賃貸が中心です。備品は「コスト重視」になりがちで、必ずしも居住者がそこでのくらしに満足できているわけではない現状があります。
こうした現状の賃貸物件とは一線を画し、「家具家電つき物件=仮住まい」という常識を覆したい。そして、自分のライフスタイルやライフステージに合ったくらしをもっと気軽に選べる社会にしたいと考えています。
そのために「noiful LIFE」では、パートナー企業と協業しつつ、弊社が入居募集から運用管理までを行ない、敷金・礼金はすべてゼロ。できるだけ初期費用を抑えて、気軽に引っ越せるようなサービス設計にこだわりました。
将来的な姿としては、たとえばお子さんが小さいうちは自然が豊かな地方で生活し、成長して学校に通い始める頃には教育に力を入れている自治体の地区へ引っ越す。あるいは、いま増えている2拠点生活で、地方と都市を季節ごとに行ったり来たりも可能になります。実際に、noifulをセカンドハウスとして活用したいといった声もすでにいただいています。
引っ越しのニーズが生まれやすいのは、ライフステージが変化するタイミングです。主にZ世代やミレニアル世代などの若年層を中心に、単身赴任の方や、もともと家具家電つき物件の価値観を持っている海外からの就労者、留学生のニーズも見込んでいます。
空き家問題、家電廃棄。noifulのサービスで課題解決も
――noifulが導入されている物件の数が増えれば、私たちの生き方の選択肢が広がりそうですね。
太田そうですね。noifulの普及が社会課題の解消にもつながっていくのでは、と期待しています。
アプローチできる社会課題の一つは「人口減少に伴う空き家化」です。少子高齢化に伴う人口減少で、日本全国の空き家の数が急激に増えています。
【図版】
太田もっと気軽に住み替えられるような規模まで、noifulの物件のバリエーションが増えていけば、地方移住のほか、一時利用も含めた空き家の有効活用の基盤になり得ると思います。
また、都市部であっても、立地や築年数等の条件的に入居希望者が集まりにくい物件があります。これらも、noifulによって物件の付加価値を上げられます。ほかの物件と差別化していくために、導入を検討されるオーナーさまも少なくありません。
今後、家電以外の生活に関するサービスとの連携が進んでいけば、街の活性化にも貢献できる可能性もあると見ています。
――ただの賃貸のサブスクサービスではなく、社会課題解決の可能性もあるのですね。
太田はい。もう一つ解決したい課題が環境課題です。具体的には、「家電の廃棄問題」です。
大量に廃棄される家電のなかには、まだ問題なく使えるのにライフステージや家族構成の変化といった事情で捨てられてしまうものも少なくありません。SDGsに向けた動きが活発化するなかで、こうした環境負荷は、パナソニックが当事者として解決に動くべき課題です。
サブスクですから、利用者が変わるタイミングで家電に対して状態に応じたクリーニングやリファービッシュ(電化製品をメーカーで修理・調整して再出荷まで行なうこと)を施せば、つぎの利用者の方も繰り返し使えます。市場に再投入する循環をつくり、環境負荷を可能な限り抑制した住まいを志向するnoifulを世の中により広げていくことで、大きなインパクトを生み出していきたいですね。
プロジェクトは始まったばかり。新しい生活様式浸透への道のりとは
――noifulローンチ後の手応えはいかがですか?
太田ありがたいことに2022年1月の発表から、想定を超え、数百件もの問い合わせをいただいています。「導入したい」というお客さまからだけでなく、「何か一緒にやりませんか?」といったパートナー企業としての協業のお誘いもあります。
「まさかパナソニックが自らやると思わなかった」という驚きの声を多くいただきますが、弊社ブランドだからこそのサービスへの期待の大きさを感じています。
――社内の反応も気になります。自社で市場のシェアを取り合うことになりかねない新規事業に対して、反発の声もあったのでは......?
太田そういった声はまったくありませんでしたね。もともと社内でも、当社の家電事業について、これまでの売り切り型のビジネスだけでは頭打ちで、新たなかたちのサービス、価値提供が必要だという強い課題認識がありました。noifulは、この経営課題に対して社長(品田正弘。2022年4月にパナソニック株式会社の社長に就任)がオーナーシップをとって立ち上げた社内横断プロジェクトから生まれた取組になります。
特に最近は、社内でも新しいことに挑戦する風土が醸成されつつあり、さまざまな部門から期待と応援、支援を受けながら取り組みを進めています。
また、「所有しない」価値観を持つ方は私の周囲にも多くおり、その広がりを実感しています。当社がやらなくても、誰かがやるのは時間の問題だと考えていました。先を越されるくらいなら自らやるという意志のもと、2019年の夏にプロジェクトを立ち上げて以降、社内の部門を横断しながらスピード感を持って検証を重ね、先手を打ってかたちにしてきました。
想定外だったのは、プロジェクトを進めるなかでコロナ禍に突入したこと。「おうち時間を充実させたい」という傾向が強まって、当初想定していたニーズをさらに後押しする流れになりました。
noifulには大きなポテンシャルがあると信じていますし、社内外の反響や期待も大きいです。私自身もゼロからイチを創り、立ち上げることが好きなので、「新しいくらしの文化を創る」というチャレンジにワクワクしています。
――壮大なビジョンです。実現へのロードマップをどのように描いていますか?
太田2030年にnoiful全体で全国20万戸の導入を目標に掲げています。目下の課題は、これまで話したような「新しいくらしの文化」をどのように認知してもらうかですね。
noifulの物件数を増やしていくには、質の高い家電付き物件の潜在的なニーズを証明する必要があります。しかしそれを証明するには、noifulの物件をある程度増やさなくてはなりません。「鶏が先か、卵が先か」のようなジレンマがあります。
また、物件の魅力をどう伝えていくかも重要です。不動産を仲介される方々は家電に関する専門知識があるわけではないので、noifulが持つメリットをしっかりとご案内いただけるとは限りません。
そもそも現時点では、物件探しで「家電つき」を条件に指定して探す人の数も多くありません。どのように新しい価値観を浸透させていくか、スケールさせていくかは、戦略的な投資も含めて現在いくつかの施策を検討中です。
いまだ存在しない需要を創っていく、需要創造型の取組になりますので、何が正解かは誰にもわかりません。色々な施策を積極的にどんどん仕かけていこうと思います。
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noiful 公式サイト。ウェブサイトにて、募集中の賃貸物件の情報など掲載しています。
Profile
太田 雄策(おおた・ゆうさく)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ハウジングアプライアンス事業推進室 室長。1999年パナソニック株式会社に入社。デジタル・IT系のエンジニアとしてSDカードや携帯電話等のシステム開発や規格標準化、白物家電のIoT化に従事。2019年より新規サービス事業の創出・立ち上げを担当、現在はnoifulの事業推進責任者としてスケール化に取り組む。
私のMake New:Make New Verb “ノイフる”
Googleで検索することを“ググる”というように、noifulのサービスを利用することを“ノイフる”という新しい動詞で表現されるくらいに、お客さまのくらしに浸透したサービス、お役立ちできているサービスに育ててゆきたい、という思いです。