Index
家電メーカーのイメージが強いパナソニックだが、じつはくらしのさまざまなシーンに、さまざまなかたちのプロダクトが潜んでいるのをご存知だろうか。思わず「こんなところにパナソニックが!?」と驚いてしまうような製品の数々を、珍しいプロダクト好きなライターが取材する本企画。
第二回目は「スーパーショーケース」。スーパーマーケットやコンビニエンスストアの商品を陳列するショーケースである。毎日のように目にしながら、その存在を意識したことはほとんどない不思議なプロダクト。そこで今回、本製品を手がけているパナソニック コールドチェーンソリューションズ社の3名に取材を敢行。そこには、「あくまで主役は商品」と語る開発担当者の徹底した「裏方精神」があった。
あらゆる店舗や商品に対応する1,200種類のスーパーショーケース
「スーパーショーケース」。つまり「スーパーマーケットのショーケース」のことだが、ある意味スーパー(すばらしい)な代物でもある。食品や飲料などの「陳列」と「保冷」を兼ねるショーケースは、スーパーやコンビニに欠かせない商売の要だ。ほとんどの消費者はその存在を見過ごしている。しかし、これがなければスーパーの「セルフサービスの販売方式」は成り立たない。
でも、それでいいんです。スーパーの主役は、あくまで肉や魚、野菜などの商品。ショーケースが目立つ必要はありません。逆に存在感を消し、それぞれのお店にいかに違和感なく溶け込ませるかが大事。パナソニックのロゴもできるだけ小さくしていますし、お客さまの要望によってはなくしてしまうこともあります。
生まれながらにして控えめであることを義務づけられたスーパーショーケース。まさに、「こんなところにパナソニック」というテーマにふさわしいプロダクトといえる。
そんなスーパーショーケースを今回あえて深掘りしてみると、いろいろと面白いことがわかった。まず、とんでもなく種類が多いのである。
「標準機器」と呼ばれているものだけで、およそ1,200種類くらいのショーケースがあります。
「え? どれも(見た目)同じでは?」と思うかもしれない。私もそう思う。だが、表面的なデザインは似ていても、「形状」や「保冷温度」などにより、細かくタイプが分かれているという。
お店の大きさやレイアウトによって、適応するショーケースの形状やサイズは異なります。もっと細かくいえば、同じ形に見えてもじつは温度帯によって冷気の出る吹出しの位置、構造なども微妙に違っていて、それぞれ適正な温度を保てるようになっているんです。スーパーやコンビニに置かれる商品には、それぞれ適正な温度帯があるため、それぞれに合わせたラインナップを揃えなくてはいけません。すべてのお店のレイアウト、商品に対応するためには標準仕様の1,200でも足りず、お客さまのご要望に応じて特注することもあります。
なお、一般的なスーパーマーケットに置かれているショーケースを図解したものがこちら。標準的な大きさの店舗でも、これだけの種類が置かれているのだ
今度スーパーに訪れた際は、ぜひショーケースのタイプにも注目してみてほしい。そして友人や恋人に「ほう、これは冷蔵セミ多段タイプだな」と豆知識を披露してみるのもいいかもしれない。きっと、ケース内のように冷えた空気が2人を包み込むことだろう。
スーパーマーケットの発展を予見し「コールドチェーン事業」に参入
パナソニックがショーケースを含む「コールドチェーン事業」に乗り出したのは、1963年(当時は三洋電機株式会社)。これから国内でスーパーマーケットが普及していくことを見越し、アメリカの「ウーバーショーケース・アンド・フィクスチェア社」と技術援助契約を締結。翌年には国内メーカーとして初めてスーパーショーケースを生産した。
日本で最初のセルフサービス方式(※)のスーパーマーケットといわれる紀ノ国屋が、東京・青山でオープンしたのが1953年。それから10年が経ち、物流も含めたコールドチェーンのシステムが国内でも徐々に発達していました。そんな背景もあり、これからスーパーマーケットという業態が台頭していくだろうという読みもあったのではないかと思います。そこで当時の三洋電機として、他社に先駆けスーパーショーケースの生産に踏み切ったのではないでしょうか。
予見は的中し、スーパーマーケットは急速に拡大していく。それに伴いショーケースのさらなる開発も進み、1984年には業界初の「氷温ショーケース」が製品化。肉や魚、野菜や果物を凍らせることなく鮮度を長く保ち、熟成による食品の旨みを引き出す画期的なプロダクトだった。美味しい精肉や鮮魚がスーパーで気軽に買えるようになったのは、ショーケースの進化によるところも大きいようだ。
※セルフサービス方式......お客さま自らが商品を選び、レジで精算する方式
店舗全体の約4割の電力を消費するショーケース。時代に合わせて省エネも加速
三洋電機株式会社が開発した国内第一号のスーパーショーケースは「エアカーテン方式」と呼ばれるものだ。冷気を循環させることで目に見えないカーテンをつくり、外気を遮断する。これにより扉が不要になるため、陳列された商品が見やすく、手に取りやすくなる。
ほかにも、エアカーテン方式には効率よく温度管理ができるメリットがあります。また、ショーケース同士を何台も連結させることが可能で、連結した複数のショーケースを1台の冷凍機で稼働できるため、ランニングコストも安く済むんです。
ちなみに、冷凍機とはエアコンの室外機のようなもので、ショーケースを冷却するための機械のこと。この冷凍機とショーケースの両方を開発しているのはパナソニックだけです。2つをコントローラーによって効率よく制御することで、無駄な電力消費を抑えることができます。
品を陳列するだけで、決して軽くないコストがかかり続けることになるわけだ。電気料金が上がればスーパーにとっては死活問題になりかねない。そこで、パナソニックでは長年にわたり、ショーケースの冷却性能や省エネ性能の向上に努めてきた。
たとえば、ショーケースの上部などについている照明も、 いち早くLEDに切り替えました。また、近年では高い省エネ性能と商品の見やすさを両立した「扉つき冷蔵ショーケース」を開発し、コンビニエンスストアなどに導入いただいています。さらにはノンフロン化にも注力しており、地球環境にも配慮した開発を進めてきました。オゾン破壊係数ゼロ、かつ地球温暖化係数の低い「CO2冷媒」を採用したシステムで、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた企業の動きを後押しするなど、これからも時代やお客さまのニーズに合ったプロダクトづくりを心がけていきたいと思います 。
スーパーを訪れるお客さんには見えないところで、目立たぬように、はしゃがぬように、しかし確実に進化してきたショーケース。スーパーやコンビニの拡大・普及を陰ながら支えてきたことを考えると、日本人のライフスタイルの変化に一役買ったと言っても、大げさではないかもしれない。
そんな感想を今回取材に応じてくれた3人に伝えると、「さて、どうでしょうね」と謙虚な反応。ショーケース同様、控えめな人たちである。
最後に開発責任者である森山さんに聞いてみた。「開発担当者として、この製品のどこに注目してほしいですか?」
繰り返しになりますが、あくまでスーパーの主役は商品です。スーパーショーケースの役割は保冷と同時に、主役である商品の見栄えをいかに良くするか。その点にもこだわっていますので、ぜひスーパーに足を運んだ際には、ショーケースのなかで商品がどんなふうに陳列されているかご覧になっていただけたら嬉しいです 。
あくまで縁の下の力持ちというスタンスを崩さない森山さん。われわれが今日も快適に買い物ができる裏には、開発者の知られざる貢献があることを覚えておきたいと思う。
【関連記事はこちら】
Profile
森山 直樹(もりやま・なおき)
コールドチェーンソリューションズ社 コールドチェーン事業部 商品技術部
1999年パナソニック株式会社(旧:三洋電機株式会社)に入社。スーパーショーケースの開発者としてDCモータを搭載したEBシリーズの開発に従事。その後もEX、EVシリーズの開発をはじめ、リーチインケースの開発などを手がけている。
私のMake New|Make New「SuperShowCace」
モデルチェンジとなる新シリーズ立ち上げていきます。
岡村 隼次(おかむら・じゅんじ)
コールドチェーンソリューションズ社 コールドチェーン事業部 商品技術部
2006年パナソニック株式会社(旧:三洋電機株式会社)に入社。技術者として冷凍サイクルの要素部品を中心にスーパーショーケースの開発に従事。催事用ショーケースをはじめ、環境に配慮したショーケースの開発などを手がけている。
私のMake New|Make New「Solution」
コールドチェーン全体の商品開発でお客さまの要望に応えたい。
高山 悠(たかやま・ゆう)
パナソニック産機システムズ株式会社 コールドチェーン事業本部 企画統括部
2016年パナソニック産機システムズ株式会社に入社。営業としてコンビニエンスストア様向けのショーケースや業務用空調の販売に従事。2021年4月よりコールドチェーン事業本部 企画統括部 企画1部に在籍。スーパーショーケースや冷凍機の企画などを手がけている。
私のMake New|Make New「お店づくり」
お客さまのお困りごとを解決できるような新しいお店を、お客さまとともにつくっていきたい。