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【#こんなところにパナソニック】落ちてきそうで「怖い」?じつはスゴイ、知られざるトンネル天井の設備「ジェットファン」とは

ジェットファン | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    家電メーカーのイメージが強いパナソニックだが、じつはくらしのさまざまなシーンに、さまざまなかたちのプロダクトが潜んでいるのをご存知だろうか。思わず「こんなところにパナソニックが!?」と驚いてしまうような製品の数々を、珍しいプロダクト好きなライターが取材する本企画。

    第三回は「ジェットファン」。高速道路のトンネル内に設置される「巨大な扇風機」である。その役割はトンネル内の換気。自動車の排気ガスや火災時の煙がトンネル内部に充満しないよう、強力な風で空気ごと坑外へ送り出している。

    パナソニックでは、その製造から施工までを一手に担う。今回は、ジェットファンの施工、設計などを手掛けるパナソニック環境エンジニアリング株式会社の赤松修次に、トンネルやジェットファンのアレコレを取材。そこには「道路換気のスタンダード」をつくるべく奮闘してきた、半世紀におよぶ開発の歴史があった。

    日本中の道路トンネルの天井についている、パナソニックの「ジェットファン」

    日本には高速道路、鉄道などを合わせて全国約1万1,000か所ものトンネルがある。それだけ掘るのも大変なことだが、ただ山や地盤に穴をとおすだけで「トンネル」になるわけではない。開通したトンネルに、必要に応じて照明や消火設備、通信用ケーブルなどの、さまざまなインフラを施す必要がある。

    トンネルの設備のイラスト | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    トンネルはその長さと1日あたりの交通量によって「等級」が定められていています。AA等級を最高ランクとして、A、B、C、Dの5等級に区分されるのですが、等級が高いほど厳しい安全対策が求められるため、さまざまな設備が必要になるんです。

    短いトンネルであれば照明などの基本設備だけでOKですが、C等級のトンネルの場合は通話型、操作型の「通報設備」、「警報設備」を設置、B等級であれば消火器などの「消火設備」、誘導表示といった「避難誘導設備」の設置が法律で定められています。A等級以上のトンネルの場合はそれらに加え、自動通報設備などの「通報設備」、消火栓などの「消火設備」、避難通路、排煙設備(ジェットファン)といった「避難誘導設備」の設置がトンネルの構造、交通量の特性に応じて必要になり、最高ランクのAA等級になると「排煙設備(ジェットファン)」の設置が必要になります。

    日本道路協会で定められている基準によると、「全長10km以上もしくは1日の交通量が4万台以上のもの」が、AA等級に該当するトンネルだという。また、全長1kmのものでもトンネルの構造特性をふまえて排煙設備を設置しているケースもある。

    たとえば、東京の地下を走る「山手トンネル」(首都高速中央環状線)は全長約18.6kmで、もちろんAA等級。同じく東京の世田谷区大蔵から練馬区泉町までの地下に建設中の「東京外環トンネル」(東京外環自動車道)も全長約16kmで、こちらもAA等級に該当し、ジェットファンなどの換気設備が必須になる。

    これだけの長大なトンネルの換気となれば当然、ジェットファンにも相当なパワーと性能が求められるわけだが、半世紀にわたりその技術力を磨いてきたのがパナソニックだ。1968年、当時の旧松下電器が富山県にある「倶利伽羅(くりから)トンネル」にジェットファンの初号機を導入してから現在までに2,000台以上を製造し、全国各地のトンネルに設置してきた。

    ジェットファン&換気所で、クリーンな空気をトンネル外へ

    そもそも、ジェットファンとはいかなるものか。車を運転する人なら見たことがあるだろうが、長いトンネルには天井部に飛行機のエンジンのような、ごつくてかっこいいファンがある。もちろん、あれはかっこいいからついているのではなく、トンネル内の環境・安全対策において重要な役割を果たしているのだ。

    高性能なジェットファンには「台風並みの風」を送るパワーがあり、トンネル内に充満した排気ガスや、火災時に発生した煙などを坑外へと強力に押し出してくれるという。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    トンネル内における換気設備の役割は、大きく3つあります。1つ目は「煤煙や一酸化炭素濃度」の低減。昔の自動車は特に大量の排気ガスを排出していましたので、トンネル内が真っ黒になり視界を妨げないよう、あるいは排気ガスに含まれるCO(一酸化炭素)などがトンネル内に充満してドライバーに健康被害が出ないように、換気によって煤煙やCOの濃度を下げる重要な役割を果たしてきました。

    2つ目は、トンネル内での「火災発生時の安全確保」。ドライバーが車を降りて安全に避難できるよう、ジェットファンをフル稼働させて避難者へ煙がいかないように制御します。また、消防隊がトンネルに入る際にジェットファンを動かし、消火活動をサポートすることもあります。

    3つ目は、「トンネル坑口周辺の環境対策」。都市部などにおいては、トンネルから排気ガスが漏れださないように、ジェットファンと換気所内の大型排風機、集じん機等の設備の組み合わせによって空気を浄化し、トンネル坑口周辺に対する環境対策目的でも使用されています。

    トンネル内の換気設備の図解  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    トンネル内には、煤煙濃度を計測する「VI計」、一酸化炭素を検出する「CO計」などの計器類が設置されていて、トンネル内の視界や人体に影響が出るとされる基準値を超えた場合は、ジェットファンが稼働する仕組みだ。そうやってつねにトンネル内の空気をコントロールし、ドライバーが安心して通行できるようクリーンな環境に保ってくれる。ジェットファンとは、そんな頼もしい存在なのである。

    しかし、ここで気になるのは、坑外へ排出される有害物質の行方だ。いくらトンネル内がきれいになるからといって、煤煙がそのまま外部へ吐き出されたら周辺の住人はたまったものではない。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    そうならないよう、都心部の長いトンネルにはジェットファンなどの換気設備とは別に「換気所」が併設されています。強力な電気集じん装置でトンネル内の空気に含まれている有害物質のうち、煤煙を除去してから排気塔を通じて外部へ排出する仕組みですね。

    いわば「超巨大な空気清浄機」である。この換気所を経由すると、25mプール一杯分の空気が瞬時にクリーンなものになるという。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    都心部の高速道路を走っているときに、地下から突き出した巨大な塔をご覧になったことはないでしょうか?あれが排気塔で、その下に換気所が設けられています。たとえば、首都高速道路の山手トンネルや阪神高速6号大和川線の大和川トンネルにも複数箇所の換気所があり、その一部の換気所内に弊社が機器を納入、施工しています。

    トンネル内の換気システムの図解 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    換気所内に設置された装置の写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    換気所内に設置された装置の数々。(左)排風機、(真ん中)電気集塵機、(右)消音装置

    パナソニックが50年以上培ってきた「風の知見」を生かして

    このようにAA等級のトンネルには欠かせないジェットファンだが、等級が上がればそれだけ必要な設備の数も多くなる。限られた空間のなかで、さまざまな設備とスペースを分け合いながら巨大なジェットファンを施工するのは、じつはかなり難しいのだとか。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    トンネルは車が通行するためのものですので、設備が邪魔になり走行を妨げるようなことがあってはいけません。そのため、トンネル内には「建築限界」という規制が法律で定められていて、すべての設備を定められた範囲のなかに収める必要があります。特に都心部のトンネルは断面が小さいのですが、建築限界の範囲は一律なうえ、ほかの設備も含めてフル装備しなければいけない。そうなると、ジェットファンを設置するスペースが本当に限られてくるんです。

    トンネルの設置場所の図解   | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    斜線部分がジェットファンなどの設備を設置して良い範囲

    しかし、そんな厳しい条件だからこそ輝くのがパナソニックの技術力だ。省スペースでも施工できるよう、小口径かつ強力なパワーを備えたジェットファンを開発。そこには、50年以上かけて培われてきた「風の知見」が大いに生かされている。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    パナソニックの50年におよぶジェットファン開発の歴史は、いわば「道路換気のスタンダード」をつくるための取り組みでもありました。当然、そこには数多くの挫折と試行錯誤があったと聞いています。そのチャレンジの一つが、高い換気能力を保ったまま、いかに口径をコンパクトにするか。

    ジェットファンのメイン機種は口径1,030mmと1,250mmの2種類ですが、建築限界が300mm上方に移動したことから、800mmや630mmといった小口径タイプの開発に取り組んでいます。

    それができるのも、扇風機や換気扇をはじめ「風」にまつわる研究を重ねてきたパナソニックの知見があったからだと思います。今回の630mmのジェットファンのケースでも、トンネル換気の事業チームだけでなく、空質空調社内にあるR&D部門に蓄積されてきた、さまざまな商材の研究成果が大いに生かされています。

    検査中の小口径型ジェットファン | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    検査中の小口径型ジェットファン。工場での入念なチェックを経てトンネル内に設置される

    ちなみに、風力を高めるには「羽根の形状」も大きなポイント。羽根の形状や角度、微妙なバランスによって、性能に大きな違いが出る。そのため、パナソニックでは自社工場で羽根を削ったり、角度を調整したりして、つねに最適解を追求しているという。

    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    赤松

    羽根の鋳造そのものは外部の工場にお願いしていますが、その後の工程である羽根の角度調整や切削、動バランス調整は空質空調社が持つ愛知県の春日井工場で一貫して行なっています。少しでも小口径化や高性能化につなげ、顧客である道路会社さま、実際に高速道路を運転するドライバーの皆さまの安全な運転に貢献していきたい。そのために、いまも技術を磨き続けています。

    そんな技術者たちの研鑽が詰まったジェットファン。高速道路のトンネルを通過する際には、ぜひ注目してほしい。いや、脇見運転になってしまうので注目はせずに、その存在をなんとなく思い出していただければ幸いである。

    偏向型ジェットファン | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    バナナのようなアーチ型にし、非常駐車帯に設置することで、建築限界内への設置を実現した「偏向型ジェットファン」。技術革新がこうしてドライバーの安心・安全につながっていく。

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    赤松 修次氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    赤松 修次(あかまつ・しゅうじ)

    パナソニック環境エンジニアリング株式会社 エンジニアリング本部 設計部
    2015年入社。入社当初は道路環境事業の一員としてジェットファン、排風機の工事を中心に技術部の業務に従事。2020年7月より道路環境事業の設計グループに在籍。ジェットファンの換気機をはじめ、ジェットファンを制御する制御盤、ジェットファンを稼働させるための動力盤など換気設備全体のシステム設計などを手がけている。
    私のMake New|Make New「日々進化」
    固定概念に縛られず、現状がベストと思わず、つねに進化し続けて社会に貢献します。

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