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家族が子どもを迎える際、多くの家庭でこれまでのくらしが大きく変わるのではないでしょうか。世界に同じ家族のかたちは1つとしてなく、それぞれのおかれた状況や価値観に応じて新しいくらしをつくっていくものだと思います。
一方で、政府があえて男性の育児休業や育児目的休暇(以下、育休)の取得を推進するように、「育休は女性がとるものだ。子どもが生まれた場合、女性は一時キャリアを中断するものだ」といった性別によって区分けされた考え方はいまだに残っているともいえます。それはくらしのなかのジェンダーギャップともいえるのかもしれません。
なぜジェンダーギャップが起こってしまうのか。フリージャーナリストの中野円佳さんに取材を行なった際、男性の育休取得についても話が及び、男性が育休を取ることは「家庭にとって大きな意味がある」「女性だけが戦ってきたフィールドに男性も入って一緒に闘ってくれる、ポジティブな変化が期待できる」といった言葉をいただきました。
そこで今回は、育休を取得した3名の男性社員による座談会を実施。まだまだ男性の育休取得者が多くはないパナソニックですが、そのなかでも育休を取得した彼らが、その経験を通じて考えたこと、見えてきた社会の課題などを語り合い、男女ともに自分に合ったくらし方や生き方をできるようにするためにはどうなるといいか、感じたことを話してもらいました。
育休を取得しようと思ったきっかけは?
――そもそも3人が育休を取得しようと決めたきっかけは何だったのでしょう?
もともとぼくは「育休を取る」ということを、あたり前の感覚で考えていました。というのも、ぼくと妻の両親が離れた場所に住んでいて、さらに育休取得時はコロナ禍まっただなかで移動がしづらく、誰かの手を借りることが難しかったんです。また、自分でしっかり子育てをしたいという思いが強かったことも、取得をした理由の一つです。
ただ、育休って、子どもが産まれてからじゃないと取れないんです。そのため、10月がちょうど期の切り替わりのタイミングだったこともあり、そこから有給休暇を取って、出産直前の妻をサポートしていました。
ぼくの場合は、いま考えれば不純な動機だったのですが、育休が節税対策になると知ったことが取得を考えたきっかけの一つでした。当時、ボーナスのある月に育休を取ると、そこにかかる社会保険料が免除されたんです(※)。妻とも話をして、十数万円が節税できるのであれば、年末年始休暇と合わせて育休を取ろうと決めました。
(※)2021年当時の制度による。2022年10月より制度が変更され、育児休業期間が1か月を超える場合に、ボーナスの社会保険料が免除される。
私は管理職に就いているので、まずは役職を持っている自分が率先して男性の育休取得の見本にならなければと考え、5日間という短い期間ではありますが育休を取得しました。
会社に育休の相談、いつするのがベスト?
――なかしさんは期の変わり目で休みに入ったとのことですが、男性の育休取得について前例がまだ少ないなかで、社内調整は大変だったのではないでしょうか。
ぼくの場合はスムーズでした。最初は上司に3か月の育休を打診していたのですが、むしろ上司から「しっかり育児をするためにも6か月にしなさい」と勧められて。仕事も家庭も大切にせよという考えを持った上司だったので、育休取得までの大変さはなかったです。
一方で「妻が妊娠したことをいつ打ち明けるか」という点はとても悩みました。妊娠期間中って本当に何があるかわからない。最悪の場合、流産してしまう可能性もあります。とても不安定でデリケートな状態だからこそ、妻と何度も話し合いながら、安定期に入った妊娠6か月目で上司に報告しました。
適切なタイミングを判断するのは、難しいですよね。じつは今年の6月に2人目が生まれる予定で、ぼくも今回は安定期がきてから上司に相談しました。
管理職の立場からすると、お二人のように早めに報告・相談してもらえるとありがたいですね。育休を取得すると仕事が回らなくなる、という声を社内の男性からよく聞きますが、仕事についてはリソースマネジメントの問題、つまり会社側の問題なんですよ。
先日公開された中野円佳さんの取材記事にもありましたが、育休は事前に取得する時期が把握できるので、業務量の調整や育休中の人員補てんなど、仕事のマネジメントはしやすいはずなんです。
――事故や病気と違ってある程度スケジュールが見えるからでしょうか。
女性の場合は妊娠がわかってから安定期までのあいだに上司と相談するケースが多いと思いますが、男性の場合はまだそのあたりの意識が薄い。なるべく早期に家庭内でコミュニケーションをとってもらい、どのくらい育休を取得する予定か、上司や職場に早めに周知していくことが大切だと思います。
ちなみに育休を取りたい場合、どんなふうに相談をもちかけるのがベストでしょうか?
ぼくが実際にやったのは、休むことを伝えるだけでなく、仕事の状況や今後の見通しと、リソースマネジメントしてほしい部分をセットで上司に伝えました。次は3か月の育休を取るつもりなので、3か月分の仕事のうち2か月分は前倒しで進め、残りの1か月分だけ誰かに引き継がせてもらえないかと相談したんです。
そういう具体的な計画を持ってきてもらえると、業務の調整がしやすくありがたいですね。
家事と育児、夫婦でどう分担してる?
――育休中の生活はいかがでしたか? ぜひ率直な感想を教えてください。
ぼくは生まれた直後から3か月間は1時間睡眠を細切れにとる生活で、本当にしんどくて、思い出したくないくらいです......。家事はもちろん3時間おきの授乳の準備も大変なのですが、何より赤ちゃんの突然死を心配しすぎてしまって。赤ちゃんが寝ているあいだ呼吸をしているか何度も確認してしまい、睡眠時間が削られていきました。
でも不思議なもので、こんな生活は辛すぎると嘆きつつ、赤ちゃんと一緒にいると天にも昇るような幸せな気持ちにもなるんですよ。辛い気持ちと幸せな気持ちが両立するなんて、いままでの人生にはありませんでした。
ぼくは育休取得が出産から6か月後だったので、育休期間中は早い段階で赤ちゃんとの生活リズムがつかめました。一方で、産後から3か月くらいまでは、赤ちゃんのお世話も頻繁にする必要があるうえに仕事もあったので、両立がとにかく大変でしたね。在宅勤務もしていましたが、妻にもかなり負担をかけてしまいました。その反省をふまえて、次の育休は産後すぐに取得する予定です。
――けいさんの場合はお子さんが3人いますが、どんな工夫をして日々生活していますか?
私の場合、夫婦共働きで子どもが3人いるからこそ、いかに破綻せず家庭を回していけるかが大切になります。家事も育児も自分たちだけでこなすのは無理なので、掃除は週に1回シルバー人材センターの方に来ていただいたり、食事もミールキットを利用したりして、いかに効率化するかをつねに考えていますね。
目下の課題は、完全在宅で働いている妻の出社日が4月から増えること。また生活の仕方に工夫を加えないといけません。
それは大変ですね。やはり、けいさんの出社日数を今より減らすとか?
それも検討中です。いま妻にお願いしている保育園や習いごとの送迎に関しては、私が対応したり、義実家の協力を仰いだりして妻の負担を減らす方法を話し合っています。
そういった役割分担は、やはりこまめに話し合うようにしているんですか?
はい。コミュニケーションはしっかり取る必要があると感じています。
うちの場合、役割分担はとくに決めていませんが、「自分ですべての家事を担う」を2人とも前提に考えているので、妻が家事をしていると、自分の代わりにやってくれたと思えてすごくありがたく感じます。
夫婦のどちらが子どもを見るかは決めていますか?
妻にどちらがいいか聞きますね。家事をやるか、子どもを見るか。子どもを見ると言えば、ぼくが家事を担います。
なるほど。ちなみにわが家ではお互いの苦手なことを補い合うように家事を分担しています。ただ、この分担方法だと妻の負担が多くなってしまい、見直す必要があると感じています。
育児に対するジェンダーギャップについて、どう感じる?
――みなさん家事と育児を積極的に担当されているのですね。日本では「家事育児は女性のもの」という固定観念もある気がしますが、このようなジェンダーギャップを感じる機会はありましたか?
ネガティブなギャップを感じる機会はあまりなかったです。むしろ、ぼくが子どもと2人で街に出ると、電車で席を譲っていただいたりとか、レストランで店員さんに手を貸していただいたりとか、周囲のサポートを実感することが多かったですね。「育児は女性がするもの」というジェンダーギャップが周囲に根づいてしまっているから、逆に優しくしてもらえていたのかもしれないです。
――周囲のサポートもじつはジェンダーギャップによるものだ、というのは、いかに社会が「育児は女性がするもの」と無意識に思ってしまっていることに気づかされますね。
同意です。ただ、男性だからこそ困る機会もありました。男性トイレにおむつ替えスペースがついていなかったり、地域イベントに参加したら名前を書く欄に「ママの名前」と書かれていたり。父親の育児参加がまだ社会に浸透し切っていないのだなと実感することもありますね。
私もなかしさんと似たような経験で、子どもの習いごとの先生から連絡事項を「ママに伝えておいてください」と言われることがよくありますね。
こういった経験は、中野さんの取材記事にあったような、社会のジェンダーギャップにつながっているのかもしれません。
――中野さんは、育児に対するジェンダーギャップをなくすには男性も育休を取得しやすい環境にすることが一つの方法だと仰っていました。みなさんは男性の育休取得についてどう感じていますか?
ぼく自身は男性も1か月の育休取得義務と1年間の残業禁止くらい厳しく制度をつくってもいいのではないかと考えています。いまの社会では、男性は育休を取得するか否かを選べて、女性は子育てにおける向き不向きにかかわらず、育休を取得していることがまだ多いと思います。女性だけが育児と向き合わざるを得ない環境になっているように感じていて、おかしいと思っています。
育児は女性だけが向き合うべきものではないですよね。大変情けない話なのですが、子どもが生まれてすぐは親としての自覚がそこまで持てていなかったと、いま振り返ってみて感じます。ぼくの場合、育休を取って全力で育児と関わったことで、子育ての苦労や喜びを身に染みて理解できました。その経験によって、自分の人生に父親としてのもう一人の自分が生まれた感覚がすごくあるんです。
多様性を大切にする社会では、自分のなかに性質の異なる自分を何人持てるかが鍵になるはずです。これは、いまを生きるみんなが共通して意識しておけるといいかもしれないな、と思いました。
なかしさんのように半年間の育休を取得すると、自分のなかに新たな視点が生まれるのかもしれませんね。一方で、連続して長期間の育休を取得するだけでなく、期間を分けて複数回休めるようにするなど、もう少しフレキシブルな制度設計も必要ではないでしょうか。仕事を長く離れることが不安な方は、女性も男性もいると思います。
たしかに、仕事から長く離れるとキャッチアップが心配になりますよね。
育休はある意味、各家庭の生き方や働き方といった価値観も現れるテーマだとも考えていて。画一的な制度で取得を強制するのは少し違う気もしています。
なるほど。ただ、社会にはまだ男性が育休を取得することに難色を示す方もいますよね。だからこそ、男性の育休取得を義務化して、強制力を働かせることには意味があると思います。
「マインドを変えよ」というメッセージとしては、たしかに意義があるかもしれませんね。
仕事とくらし、どちらも大切にするために必要なことは?
――「育休の取り方には各家庭の価値観が現れる」というけいさんの話は、「個人がどういうくらしをしたいか」という問いに近いかもしれません。多様な価値観を尊重しながら自分に合った働き方をするためには、どうしたらいいと思いますか?
なかなか難しいですよね。なかしさんやぼくの世代は、近い将来けいさんのように管理職になっていくと思います。だからこそ、いまのうちに育休も含めた多様な働き方に触れ、さまざまな選択肢があることを知ることが大切なのではないでしょうか。
私はやはり、夫婦や個人の価値観としっかり向き合って、家族として、自分としてどういう働き方やくらし方をするのが幸せなのか見極めることが大切だと思います。そして、会社や社会はその決断を受け止めて、可能な限り尊重することが求められるのかなと。
家族単位、個人単位での幸せの総量を見ることは大切ですね。ぼくは仕事が大好きで、120%のアウトプットを出したいタイプなんです。でも、子どもが生まれてからは家族とのくらしも譲れないくらい大切になって。
いまはどれか1つではなくて、全体で俯瞰してみたときの幸せの量を最大にする選択ができるようにチャレンジしています。仕事も自分ひとりで120%の成果を出そうとするのではなく、周囲の人に頼り、頼られながらチームとして成果を出す。そんな働き方ができないかと考えるようになりました。
ぼくは人に頼らないタイプなので興味深いです。なかしさんはどんなふうに仕事を進めているんですか?
どこに注力すれば自分が一番役に立てるかを考えて、自分以外が担当したほうがよりよいアウトプットを出せると感じたものは、遠慮せずにお願いするようになりました。組織で、夫婦で、いかに生産性を最大化するか。ここを意識するのがポイントだと思います。この点、管理職の立場から、けいさんはどう考えますか?
そうですね。組織の観点からいうと2つのポイントがあると思います。1つが業務タスクをチーム内で見える化すること。誰がどんな仕事に取り組み、進捗具合はどうなっているのかをチームメンバーが見えるようにしておくと、組織全体の生産性は上がりやすくなりますよね。
2つ目は、チームビルディングです。これは特に管理職側が意識すべき点かもしれませんが、やはりチーム内でいかに話しやすい雰囲気をつくるかは、メンバー間で助け合いやすくするためにも、大切なことだと思います。
チャンスは公平にあるべき。自分にあった働き方を実現するためには?
生産性の向上や多様性について考えると、やはり女性が社会のなかで活躍しやすい状況かという点も欠かせない論点になるのかなと思うのですが、いかがでしょう。
女性の活躍については、論ずるレイヤーがいくつかあるような気がします。社会、会社、個人のどのレベルで話をするかによって、対策や考え方が変わってくる。組織レベル、個人レベルの話をすると、チャンスが公平にある環境をつくることがもっとも大切なんじゃないかと。
公平にある、とは?
例えば妊娠や出産など、女性にしかできないことはあります。ただ、仕事をするうえでの能力に差がないのであれば、性別によらずみんなが公平に同じ成果が出せるよう、環境を整えることが重要です。そのためにも、ITインフラの整備は必須ですし、働く場所や時間をフレキシブルに選べる制度設計、効率性を追求するマインドセットが求められるように思います。今ではリモートワークもあたり前になりましたが、ここからが大事だと思います。
なるほど、同意見です。ぼくらの後輩が子育て世代になる頃には、もっと公平で誰もが働きやすく、くらしやすい社会を実現していたいですね。
Profile
わだちゃん
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 ソリューション開発本部 ST開発センター ヒューマンオーグメンテーション技術部。2018年入社。データサイエンティストとして人の動作データを起点とした新規技術の研究開発に従事。2020年10月よりヒューマンオーグメンテーション技術部に在籍。歩行画像による転倒リスク推定技術や、高齢者の生活自立度評価システムの開発などに携わる。
私のMake New|Make New「健康」
意識しなくても、過ごしているだけで心も身体も健康になれる空間をつくりたいです。
なかし
パナソニック株式会社 デザイン本部 未来創造研究所 デジタルリレーションラボ。2015年入社。人間中心・未来起点に基づいたグランド / ビジョンデザイン業務に従事。2022年4月よりデジタルリレーションラボに在籍。未来研究活動の一環で、月の環境を身近なくらし視点でまとめた「月のくらし未来のきざし」カードを世界で初めて開発。宇宙視点をくらしに活かす構想を練る日々。
私のMake New|Make New「共存共栄」
理由:土、微生物、植物、動物、個人、地域、社会、地球……多様で複雑な関係をひもとき、共に生き、共に栄えるくらしをつくりたいです。
けいさん
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部調理機器BU商品企画部。2006年入社。商品企画としてオーディオ商品を中心に商品開発やマーケティングに従事。2021年4月より調理機器BU商品企画部に在籍。オートクッカーや自動計量IH炊飯器を含む調理器カテゴリーにおいて、商品戦略構築や課のマネジメントなどを手がけている。
私のMake New|Make New「プロフェッショナル」
いかにプロ意識をもって仕事ができるかが、自分にとっても組織にとっても重要だと考えています。