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事業には仲間との共存共栄が必要。パナソニック エイジフリーが学んだ介護ビジネス拡大のヒント

NURSING CARE BUSINESS | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    日本で介護保険制度が制定されたのは2000年のこと。その後、高齢化が急速に進み、2042年には65歳以上の高齢者がピーク(3,876万人)を迎え、さらに75歳以上の割合は、2055年に人口の25%を超えると見込まれている。

    家電メーカーとして知られるパナソニックだが、じつは介護保険制度が制定される以前から介護事業に乗り出していた。現在は「パナソニック エイジフリー株式会社 」として、「介護する人・される人すべてが『私らしく』いきいきとしたくらしを実現している社会を創る」というミッションのもと、介護用品の製造から在宅介護サービス、有料老人ホームの経営など、介護にまつわる幅広い事業を手がけている。

    一見すると、つながりが薄いように見えるパナソニックと介護だが、彼らがいち早く「日本社会の目下の課題」にアプローチし、ここまで事業を拡大できた理由は何だったのか。エイジフリーを支えてきた3人に、がむしゃらに駆け抜けた約25年間と、その背景にあった想いを聞いた。

    左から松元氏、坂口氏、黒田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    すべての障壁を取り払いたい。高齢化社会を見越して始まったパナソニックの介護事業

    ――パナソニック エイジフリーは、その母体となる「旧松下電工エイジフリーサービス株式会社」(1998年設立)時代を含めると、じつに20年以上の歴史があります。そもそもパナソニックが介護事業を手がけるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

    坂口じつは、エイジフリーとして大々的に介護事業に乗り出す以前から、パナソニックでは、高齢者が座りやすいよう浴槽の形状を工夫するなど、高齢者にとって使いやすい商品開発をしていました。パナソニックはものづくりの会社です。そこで生み出す商品は、住環境やくらしを快適にするためにある。そうした信念の延長線上に、介護事業もあります。

    設立の直接的なきっかけは、当時の経営トップが、高齢者のための事業をIR活動の中心に据えようと声をあげたことでした。その頃、日本の高齢化率はすでに17%ほどになっていたので、これからさらに増えていくことを見越し、「できるだけ早いうちに取り組むべき」という想いがあったのだと思います。加えて、2000年に日本で介護保険制度の開始が決まっていたこともあと押しになりました。

    パナソニック エイジフリー株式会社で代表取締役社長を務める坂口哲也氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    パナソニック エイジフリー株式会社で代表取締役社長を務める坂口哲也

    ――「エイジフリー」という社名には、どのような想いが込められているのでしょうか。

    松元「バリアフリー(物理障害からの解放)」「ケアフリー(介護負担からの解放)」「ストレスフリー(生活負荷からの解放)」という、3つのフリーを実現すべく名づけられました。

    介護が必要な高齢者だけでなく、介護をする側のケアも行なわなければ、あらゆる年代にかかる負荷をフリーにすることはできません。社名には、すべての障壁を取り払いたい、という想いが込められているんです。

    1998年の設立前にネーミングを考えていたときの資料 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    1998年の設立前にネーミングを考えていたときの資料

    ――現在、具体的にはどのような事業を展開されているのでしょうか。

    坂口デイサービスや訪問入浴、サービス付き高齢者向け住宅の提供といった「介護サービス」、介護用品の販売やレンタル、さらに高齢者のための住宅リフォームを提案する「流通」、そして介護用品の開発を行なう「ものづくり」の3つの事業を展開しています。

    松元この体制は、業界のなかから見るとすごく特殊なんです。なぜなら、サービス事業、ショップ事業、メーカー事業の3つを持っている会社はほとんどないからです。ショップ事業を介して福祉用具の営業社員がお客さまからご要望を伺えますし、サービス事業においては現場の介護スタッフを介してお客さまの声を聞くことができます。それをものづくりにフィードバックさせる。これらの3本柱があることで、現場の声を拾いやすくなっていることは間違いないでしょう。

    エイジフリーケアセンター | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    デイサービスやショートステイを提供するエイジフリーケアセンター。ここから訪問入浴等も行なっている
    エイジフリー開発の手すり「スムーディ」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    介護ショップでレンタルされている、エイジフリー開発の手すり「スムーディ」

    他社からノウハウを学び、エイジフリーの事業へ。地道な取り組みがいまをつくる

    ――もともと高齢者のための商品開発はされていたとのことですが、介護サービス事業に関しては未知なる領域だったことと思います。介護サービスを始めるにあたり、どのようにノウハウを習得していったのでしょうか。

    坂口おっしゃるように、パナソニックには介護サービスのノウハウは当初ありませんでした。そのため、ノウハウを持つ同業他社と一緒に出資し合って、合弁会社をつくったんです。それが、エイジフリーの始まりです。そこでノウハウを得て、徐々にエイジフリーとしての事業へと派生させていきました。

    松元介護ショップ事業も同様です。創業当初、坂口と私は、介護用品の販売・レンタルを行なう介護ショップをフランチャイズ展開する業務を担当していました。でも、こちらもどのように始めたらいいかがわからなかった。なので、すでに実績のある介護ショップに加盟していただいて、そこからノウハウを学んでいきました。さらに今度は、その知見を展開していく。つまり、初めて介護用品を扱うフランチャイズ店の方々に、ノウハウを伝えていくわけですね。

    介護ショップや介護事業者向け事業を担当する専務取締役でケアサプライ事業部長の松元崇氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    介護ショップや介護事業者向け事業を担当する専務取締役でケアサプライ事業部長の松元崇

    松元ベースとなる仕組みをつくるところからスタートだったので、最初は苦戦しましたし、なかなか赤字を脱することもできませんでした。フランチャイズ店からも、経営トップの方からも、いろいろなお叱りをいただきました。

    坂口私はもともとハウジング事業に関わっていたのですが、新しいことにチャレンジしたいと思いゼロから介護事業に挑戦したんです。業界のカルチャーもまったく異なるなかで、とにかくやれることをどんどんやっていこうと動いていました。そういった活動をフランチャイズ店の社長さんたちや、当時の経営トップの方々が、介護事業の未来を信じて温かく見守り、耐えてくれたからこそいまのエイジフリーがある。本当に感謝しています。

    どこまでも「お客さまのため」。介護を実現する、人と人との連携・連帯

    ――事業のためのノウハウを身につけた現在は、エイジフリー単独でビジネスができるようになったということでしょうか。

    黒田いえ、私たちは「エイジフリーだけで」という意識はまったくないんですよね。

    介護サービス事業を担当する南近畿エリア担当部長 黒田佳奈子氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    介護サービス事業を担当する南近畿エリア担当部長 黒田佳奈子

    坂口そうですね。というのも、パナソニックの商品だけでは、介護の世界で対応しきれないことが往々にしてあるからです。例えば、介護に特化したリフォームの依頼を受けたとしたら、そこに導入するトイレはパナソニックのものを勧めたい。でも、仕様的に入らないとなったら他社メーカーさまのトイレも使わせていただきます。

    自社の商品やサービスを提供しつつも、ある面では代理店みたいな感じなんです。なかには「介護リフォームが終わらないと退院できない」といった急な要望も発生する。そのために、汎用性と流動性をつねに意識しています。どんな局面にあっても迅速に動けるのが弊社の強みです。

    松元介護の仕事は、どこまでも「お客さまのため」でなければなりません。そのためには、「パナソニックだけ」という意識は捨てざるを得ない。もし、そんなスタンスで仕事をしていたら、「自社の利益」にがんじがらめにされて、前進することはできなかったのではないでしょうか。

    松元氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    坂口介護業界のいいところは、横のつながりでどんどん協力し合って、日々いろいろな情報交換をしながら相互に大きくしていきましょう、という考え方にあると思っています。

    松元まさに共存共栄の精神ですね。私たちがこの考え方を大事にしている理由としては、厚生労働省が「介護は地域包括ケアシステムである」と定義しているのも大きいと思います。高齢者の住む家があったら、その近辺には薬局があり、かかりつけの病院があり、介護施設があり、さらに介護に関する相談ができるケアマネジャーがいる。そんな環境を実現し、地域の人たちみんなで介護を必要とする人たちを支えましょう、というのが基本方針なんです。

    黒田現場の感覚としても、介護の世界は、どこまでも「人」起点で動いているという意識があります。そして、その連携・連帯こそが何よりも大事なのです。

    まずは「理念の共有」を。足元を見直すきっかけとなった「ある危機」

    ――介護はハードな仕事ですし、苦労をしたり危機的な状況に直面したりすることも多々あったのではないでしょうか。

    坂口いまとなっては「勉強になったな」と思えますけど、当時「どうしよう!?」と大いに困ったことは枚挙にいとまがありません(苦笑)。

    例えば2015年頃、社会のニーズを受けて、介護施設を量展開しようという動きが加速したことがありました。たしかに、施設を建てることだけなら可能です。でも、ビジネスモデルの立て方やスケジューリングが甘かったことが災いし、肝心の「介護をする人」が大幅に足りなくなってしまった。人がいないから、もとからいるスタッフが代わりに仕事をすることになり、時間外労働が増えてしまって。

    黒田いつ・どこに新施設がオープンします、というのが決まっているにもかかわらず、そこで働くスタッフの人数がまったく足りていない状況でした。仕方がないので、ほかの施設のスタッフをかき集めて、とりあえずかたちだけはオープンさせる。でも、すぐまた新しい施設ができてしまうので、まるで追いつかないという......。

    黒田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    黒田つねに人が足りず、仮に集まっても教育にあてる時間がないので、スタッフ同士の気持ちはバラバラ。働きづらくなって入ってもすぐに辞めてしまい、結果的にまた人手不足になってお客さまに迷惑をかけてしまう、という悪循環に陥っていました。そういった状況を受け、当時の経営トップをはじめ上の人たちが施設の質を高める方針に変えてくれたので、徐々に改善されていきましたが、あのときのことは思い出すだけでもしんどいです......。

    坂口教育が追いつかなかったことも、大いに反省しました。介護はチームワークなので、理念を共有できていることがとても大事になります。このときのことは、いまでも教訓として胸に強く刻まれていますね。

    坂口氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ――いま、理念共有のためにされていることはありますか?

    坂口コロナ禍で難しくなってしまいましたけど、以前は、各拠点で「パナソニック エイジフリー 事業理念」という、働くうえでの心得を唱和することを朝会の日課にしていました。昭和っぽい、時代遅れな感じに思う人もいるかもしれませんが、理念にふれる機会を持つというシンプルな日課を積み重ねることが、介護の現場で大きな力を発揮していると感じています

    黒田いまでも、みんなが理念カードを携帯しています。

    実際の、理念が記載されたカード | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    実際の、理念が記載されたカード

    坂口理念というのは、最初は上の人がつくるわけですけど、トップダウンではうまく浸透しないんですよね。もちろん、ただ丸暗記したところで意味がない。仲間たちのあいだで共有され、いわば横展開されていかないと一人ひとりに行き渡っていかないんです。

    結局、自分たちが理想とする介護をするにはどうしたらいいのか、ということをチームで話し合うきっかけとなるのが理念であって、やはり「人」のあいだで共有されることでしか意味を持ち得ないのでしょう。

    大変だからこそ、ビジネスは面白い。終わりなきアップデートの道を進め

    ――今後、新たに挑戦したいことはありますか。

    坂口障がい者に対するサービスや商品が、まだまだ足りていないと感じています。障がいを持った方たちのためのリフォームや、そのために必要なものづくりには、エイジフリーのこれまで培ってきたノウハウが応用可能だと思うので、積極的に取り組んでいきたいです。

    また、最初にエイジフリーの「3つのフリー」を紹介しましたが、加えて、これからの時代は「タイムフリー」も重要な観点になってくると思っています。パナソニックのみならず、介護業界全体として「DX(デジタルトランスフォーメーション)化が遅い」という課題があります。個人情報の扱いなど越えなければいけないハードルも多くありますが、サービスを効率的に、滞りなく進めるためには情報のクラウド化など柔軟な対応が必要です。

    取材の様子 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    坂口例えば、在宅介護を必要とするお宅にヘルパーさんを派遣したとします。その際、ヘルパーさん用のアプリを使えば、仕事が終わってアプリでレポートを書き、「終わりました」と送信し、そのまますぐに次の現場に行ける。でも現実は、一度帰社して、日誌に書き込んで----というような手順を踏まなければいけません。

    時間効率を高めることは、結果的にお客さまに寄り添える時間が増えることを意味します。そうすると、ケアの質も上がり、顧客満足度も上がる。ケアを受ける人たちのためになるのなら、会社のルールを変えてでも、新たなことにトライするべきでしょう。

    ――長年、介護のお仕事をされていても、まだまだやれること、やるべきことはたくさんある、ということですね。

    坂口介護を取り巻く状況も、どんどん変わってきていますからね。20年前の介護と、いまの介護とでは、ケアの仕方も、ニーズだって異なります。例えば、20年前は和式トイレがまだまだ現役でしたが、いまはほとんどが洋式になっています。昔はなかったスマホのようなツールだってある。それだけで、必要となるサービスも商品もまるで変わってきます。その時々に応じて、柔軟にやっていかないといけません。

    黒田だからいまでも、勉強の毎日です。何を求められているかを丹念に探り、苦労の末、お客さまから信頼を勝ち得たと感じた瞬間には、何ものにも代えられない喜びがあります。大変ですけど、だからこそ、すごくやりがいを感じます。

    黒田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    坂口絶えず勉強を続け、自分をアップデートし続けていかないと取り残されてしまうので、私たちも必死です(笑)。でも、それはどんな仕事でも同じじゃないでしょうか。大変だからこそビジネスは面白い

    それに、1人ぼっちで仕事をしていたら苦しいかもしれないけれど、私たちには介護に関わる仲間がいます。みんなでコミュニケーションを取りながら、共にアップデートしていく。これが、お客さまに必要なサポートを提供するための最短の道だと感じています。

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    パナソニック エイジフリー株式会社 | Panasonic

    パナソニック エイジフリー株式会社の企業情報サイトです。介護する人・される人、すべての人が「私らしく」いきいきと心豊かにくらす社会を創ります。

    Profile

    エイジフリー株式会社 代表取締役社長 (兼)ライフサポート事業部長 坂口 哲也氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    坂口 哲也(さかぐち・てつや)

    パナソニック エイジフリー株式会社 代表取締役社長 (兼) ライフサポート事業部長
    1992年旧松下電工株式会社に入社。2000年6月より現在のパナソニック エイジフリー株式会社に出向。介護ショップ事業の事業運営を長年担当し、現在は介護サービス事業(ライフサポート事業部)の事業部長を兼務している。
    私のMake New|Make New「KAIGO」
    介護事業領域における『社会生活の改善と向上』を目指し介護を変えていきたい

    エイジフリー株式会社 専務取締役 ケアサプライ事業部長 松元 崇氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    松元 崇(まつもと・たかし)

    パナソニック エイジフリー株式会社 専務取締役 ケアサプライ事業部長
    1992年旧松下電工株式会社に入社。2000年6月より現在のパナソニック エイジフリー株式会社に出向。介護ショップ事業の事業運営を長年担当し、現在はものづくりを加えたケアサプライ事業部の事業部長を担当している。
    私のMake New|Make New「AGE FREE(バリアフリー、ケアフリー、ストレスフリー)」
    これまでのAGE FREEも、お客様にとってより良いくらしができるなら、思い切って新しいエイジフリーをつくっていく

    エイジフリー株式会社 ライフサポート事業部 在宅介護サービス本部 南近畿エリア担当部長 黒田 佳奈子氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    黒田 佳奈子(くろだ・かなこ)

    パナソニック エイジフリー株式会社 ライフサポート事業部 在宅介護サービス本部 南近畿エリア担当部長
    2004年入社。デイサービスでの生活相談員を経て所長として現場運営を行う。2015年より課長としてエリア統括を行い、現在は在宅介護サービス本部で南近畿エリア担当部長としてサービス現場のマネジメントを担っている。
    私のMake New|Make New「お役立ち」
    自身の親も介護が必要な年代になり、改めて介護サービスの必要性を実感しています。介護する人・される人のお役に立てる拠点を増やしていきたいです。

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