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1989年、当時の松下電工が発売した家庭用高周波治療器「パナコラン」。肩コリに悩む人々の新たな選択肢として、累計130万台の大ヒットを記録した。
それから30年近い年月を経て、2017年にデザインの改良や防水機能の追加などを行なった後継機器「コリコラン」を発売。そして2023年の12月、羽織るタイプの高周波治療器として生まれ変わった「コリコランワイド」が発売されることになった。
「より生活に馴染む治療器」を目指したという「コリコランワイド」誕生の裏側とは――。同商品の開発をリードした担当者3名に話を聞いた。
「パナコラン」登場から34年を経て発売される「コリコランワイド」
――そもそもなぜパナソニックがコリの治療器をつくり始めたのでしょうか。
小川日々の健康の悩みのなかでも、肩や腰のコリに悩んでいる方は非常に多く、当時から重要なテーマとして考えられていました。技術的には、バイブレーターを応用したものからスタートしたのですが、もっと良いマッサージ器が欲しいという声が多くあり、社内でも良い技術がないか探していたそうです。
欧州において手術後の早期回復などに利用されている高周波治療(※)の技術を社内で研究していたこともあり、そこから家庭用の高周波治療器をつくれないかと商品開発が進んでいき「パナコラン」が誕生したと聞いています。
※電磁パルスが血管に働きかけ、血管拡張を促し、血行を促進する治療。
小川その後時代が移り変わり、パソコンなどを使用したデスクワークが増え、仕事中に無刺激で肩コリ治療ができる商品にニーズが高まっていきました。しかし、その頃にはパナコランはすでに販売を終了しており、金型もなくなっていたため、新しいニーズに沿った商品をつくりなおすことになりました。そうやって企画されたのが、2017年に発売した「コリコラン」です。
――「パナコラン」と「コリコラン」の販売を経て、今回「コリコランワイド」の企画をスタートさせた経緯を教えてください。
小川「コリコラン」のユーザー調査を実施した際、満足できていない方も一定数いることが見えてきました。そこで分析を行なってみると、満足できていない方のなかには、短時間しか「コリコラン」をつけていない、治療したい範囲が広くてカバーできない、コリの箇所に手が届かずしっかり装着できない、といった課題があることが判明しました。こうした部分を改良して、誰もが満足するような「肩コリ治療器市場の定番商品をつくろう」と企画をスタートさせたんです。
まるで「羽織る」ように、くらしの一部になる商品へ
――「コリコランワイド」の商品企画を進めるうえで、こだわった点はどんなところにありますか?
小川肩や腰まわりのコリの治療範囲を広げることと、毎日でも身につけられることを目指して、試作品を何度もつくり直し、使い勝手の良さを追求しました。
これは私がつくった試作品第一号です。まずはどのようなものをつくりたいのか、この試作品を見せながらデザイン担当や設計担当にそのイメージを伝えました。こういった簡素なものでも試作品としてかたちにしてみると、「ここはもっと改善できる」とかどんどんメンバーからアイデアが出てくるんですよね。
――そこからどのようにデザインを検討していったのでしょうか。
桑原肩掛けタイプやネックレスタイプ、肩に乗せるタイプなどさまざまなスタイルを試作しながら、肩コリに本当に悩んでいる人が一日中使い続けられるようなデザインを追い求めました。
桑原最近ではネックスピーカーや扇風機を首にかけて歩く人もよく見かけます。何かを首にかけるということに抵抗がなくなってきたいま、それでも「コリコランワイド」をネックレスタイプにせず、体にフィットした羽織るタイプにしたのは、肩コリを解決するための商品だから。肩コリに悩んでいる人は肩にかかる重さにとても敏感で、たとえば社員証みたいなストラップすら首からかけたくないんですよ。
――たしかに、「コリコランワイド」のデザインは体にも、そして服にもフィットしますよね。
小川パナソニックは、未来のくらしの定番となるような製品をつくりたいと考えています。その実現のためには、お客さまのくらしの一部となる商品でなくてはなりません。ウェアラブルなデザインにすることで、「治療器を使うぞ」という意識ではなく、「さっと羽織る」という感覚で使用してもらうことを狙っています。
桑原「コリコランワイド」は治療器ですが、「治療器」だと思うと、使うことに対して億劫に感じてしまうんですよね。なので、服のうえから1枚羽織るような感覚で使えるウェアラブルなデザインにすることで、毎日気兼ねなく使えるようにしたかったんです。
装着感へのこだわり。「薄さ」や「重さ」を徹底的に追求
――今回の商品デザインについては、デザイン担当の桑原さんと設計担当の岩崎さんが二人三脚で取り組まれたとうかがっています。どのような点にこだわりましたか?
岩崎商品の「薄さ」にはかなりこだわりましたね。お客さまからも「使っているのを隠したい」という声を多くいただいており、服の下で着用しても気づかれないような薄さを目指しました。
岩崎特に苦戦したのは「電池」です。先行機種の「コリコラン」では厚さ2mmのコイン型電池を採用しているのですが、「コリコランワイド」では厚さ0.45mmの薄型軽量のパウチ型電池を採用しました。薄型軽量化と使用時間などの性能確保を両立するために、設計検討に時間を要しました。
桑原「薄さ」や「柔軟性」は、フィット感にもつながります。フィット感というのは、そのまま効果感にも直結すると思うので、重要なポイントなんですよね。
――なるほど。ほかにフィット感を高めるために工夫した点はありますか?
桑原「コリコランワイド」本体には、体に最適にフィットするような切欠きを入れています。本体を入れる生地もそれに合わせてデザインしたのですが、首の後ろにあたる「スリット」にもこだわりました。
正直、デザインとしては切れ目がないほうが造形としてきれいにまとまるんですが、切れ目がないと上を向いたときに首に刺さってしまい、違和感があるんですよね。いっそその部分を削って完全に服に隠れるデザインも考えたんですが、それはこの箇所もケアしたいというお客さまの気持ちを無視することになってしまいます。治療器としての効果を重視しつつ、違和感なく着用できる形状にするため、このあたりのデザインは最後まで悩みましたね。
岩崎違和感という点では、「重さ」にもこだわっています。「コリコランワイド」は約120gなんですが、これが130gになっただけでも肩コリに悩む方にとっては違和感になってしまいます。あとは、体の前面にかかる部分の先端にバランスを取るための重りがあるのですが、その重さの決定にも苦労しました。重りが軽いと後ろにズレてしまい、重すぎるとのしかかっている感覚になる。モニター調査を繰り返して、最適な重さのバランスを決めています。
――細かいこだわりが詰まっているんですね。
桑原ほかにもまだまだあります。アタッチメントの生地は、糸を使った縫製工法ではなく糸を使わない圧着工法にすることで、体や服に馴染むようにしています。また、実際にいろんな生地を見ながら、治療器っぽく見えず、下着っぽくも見えない色合いや生地感を検討しました。
桑原できるだけ多くの人に日常的に使っていただきたいので、使いやすくて、みんなに「永く愛されるデザイン」を意識しました。
スペックだけではない、新しい価値の創造を
――「コリコランワイド」の開発をするなかで、どのような気づきがありましたか?
小川お客さまは、商品をスペックだけで評価しているわけではありません。機能面はもちろん重要ですが、それ以外の部分でどう新しい価値を生み出すかが大事だと思っています。
また、「コリコランワイド」は高度な技術があったから生まれたというよりも、「くらしの一部になる」という考え方があったからこそ生まれた商品だと思っています。
桑原飛躍した考えかもしれませんが、こういった健康商品は「生きる希望に寄り添うもの」だと思っています。肩コリの問題は個人のパフォーマンスだけではなく、社会全体の生産性にもつながるので、その意識を持ってこれからも開発を続けていきたいですね。
――最後に、「コリコランワイド」の発売を前に皆さんの思いをお聞かせください。
小川「コリコランワイド」は、肩や腰まわりで広範囲のコリに悩まれる方に、ぜひ使っていただきたいです。また、仕事を開始するときなどにこれを羽織って、「よし、始めるぞ」という気持ちの切り変えのスイッチにもなったら嬉しいですね。
「コリコランワイド」は生活に馴染むようウェアラブル仕様にしたので、そうした価値も世の中に発信しながら、肩コリの定番商品として多くの人に認めてもらい社会に貢献していきたいと思います。
桑原低周波治療と違い、高周波治療は実感としての刺激はありません。だからこそ、「コリコランワイド」は無意識のうちに治療ができるウェアラブルなデザインを実現できたんだと考えています。これからも、本当に苦しんでいる人の悩みに寄り添い、本質的な価値を訴求するプロダクトデザインをしていきたいですね。
岩崎「コリコランワイド」はいままでの技術を組み合わせ、工夫を凝らし完成した商品ですが、この商品は「くらしの一部になる」という価値を重視するようになったいまの時代だから生まれたものだと思っています。
私自身「コリコランワイド」の試作品を毎日使っているんですが、いまでは服を羽織るようにあたり前のように装着して、くらしの一部になっています。これをお客さまにも実感してもらいたいですね。
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Profile
小川 進(おがわ・すすむ)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ヘルシービジネスユニット ヘルシーブランドマネジメント部
1994年入社プランナーとして住宅外廻り商品の先行企画に従事。2006年4月より現ビューティ・パーソナルケア事業本部に在籍。浄水器やディスポーザー、スチーマーや脱毛器をはじめ、リフレシリーズのマッサージャーなどを手がけている。
私のMake New|Make New「女性を笑顔にする健康サポート企画」
女性向け商品を担当してから、女性特有のさまざまな悩みや苦労を知りました。特に朝から晩までフル稼働で頑張っているワーキングママには尊敬しかありません!
桑原 慎司(くわばら・しんじ)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター AD2部
2015年入社。プロダクトデザイナーとして商品開発や先行開発、ブランディングなどに従事。イメージング事業、クリーナー事業などを担当し、現在はビューティーヘルスケア事業の商品を手がけている。
私のMake New|Make New「COLORFUL」
「ずっと永く愛される」その人の人生に彩りを与えられる、そんなかけがえのない存在となる製品を大切にデザインしていきたいです。
岩崎 威(いわさき・たけし)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 ヘルシービジネスユニット ヘルシー商品部
2006年入社。技術者として健康家電を中心に本体設計に従事。2013年よりヘルシー商品部 健康小物設計課に在籍。アルカリイオン整水器をはじめ、エアーマッサージャー、低周波治療器、血圧計などを手がけている。
私のMake New|Make New「ウェルネス」
私たちの開発する商品をとおして、すべての身体的なストレスから解放し、本来の生き生きとしたくらし(ウェルネス)を実現したいと思っています。