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2021年6月にスタートした、キッチン家電と食材のサブスクリプションサービス「foodable(フーダブル)」。パナソニックのキッチン家電をレンタルしつつ、その家電で調理できる食材のセットが毎月自宅に届くサービスで、家電と食材の良さを互いに引き出し合うことで生まれる「新たな食体験」を提供している。家電単品ではなく、家電を活用するためのコンテンツも併せて提供するサブスクリプションサービスの提供はパナソニックとしては初の試みとなる。
家電を売買して終わりではなく、食の体験を通じてメーカーとユーザーがつながり続ける新しい仕組み。これによって、さまざまな価値が生まれているという。家電メーカーのビジネスモデルを大きく変える可能性を秘めたfoodableの裏側に迫る。
foodableとは
foodableは「キッチン家電と食材」のサブスクリプションサービス。キッチン家電のレンタルができることに加え、対象の家電と相性の良い食材が自宅に毎月届く。例えば、家電と食材の組み合わせとして「炊飯器+銘柄米」や「コーヒーメーカー+コーヒー豆」「スチームオーブンレンジ+冷凍デリセット」など複数あり、月額3,980円(税込)から利用可能だ。なお、最低利用期間を過ぎれば、レンタルした家電を買い取って食材だけが届くコースに移行することもできる。毎月、豊かな食体験を楽しみながら、人気のキッチン家電を手軽に試せるとあって、ユーザー数も順調に増加中。約90%という高い継続率(1~2年の最低利用期間満期まで継続したユーザーの割合)を誇る。
パナソニックがfoodableのようなサービスを始めた背景には、家電市場の変化が大きく影響している。2000年代までは右肩上がりで販売数を伸ばしてきた国内市場だが、人口減少や海外メーカーの台頭などにより頭打ちに。「いいものをつくって売る」というビジネスモデルでは、生き残れない時代になりつつある。
また、家電販売におけるECサイトの比重が年々高まっている影響も大きい。パナソニックのキッチン家電でいえば、電子レンジの売り上げの4割近くがECサイト経由だ。ECサイトは価格やスペックの単純比較になりやすく、製品に搭載された高度な技術やこだわり抜かれた機能までは伝わりづらい。店に来てもらわなくても、製品への理解を促すための「顧客接点」をいかにつくるかが、マーケティングの大きな課題だった。
そうした背景もふまえて生まれたのがfoodable。この新しいサービスを通じて、パナソニックはユーザーとどんな関係を築いているのか、調理家電の国内マーケティング責任者である助川 学(すけがわ まなぶ)と、foodable事業のリーダーである關 智子(せき ともこ)に聞いた。
食を通じて「生活者とつながる」サービス
――はじめに、foodable立ち上げの背景や経緯を教えてください。
關まず、大きな背景としてあるのが、世の中の価値観の変化です。よく言われることですが、生活者のニーズが「所有(モノ消費)」から「利用(コト消費)」にシフトし、「どんな体験ができるか」がより重要視されるようになっています。その変化を踏まえて、「これまでのような売り切り型のビジネスだけでいいのか」「ユーザーに本当に満足してもらえるのか」と、ずっと考えていました。家電を売って終わり、ではなく、その家電を使った豊かな体験を継続して提供する。そのようなサービスができないかと、キッチン家電×食材で良質な食体験を届けるfoodableが誕生しました。
助川キッチン家電は、製品で食材を調理してこそ価値が生まれます。製品の価値を最大化するためには、「食材」と「レシピ」の組み合わせが大切になってきます。これまでもその価値をつくり、伝えていくために、さまざまな試みを行なってきました。
また、關が言うように、「家電を売って終わり」というビジネスモデルには限界があります。販売後もユーザーとつながり続けるためには、家電というハードだけでなく、ソフト面も磨いて製品の体験価値を最大化する必要がある。そういう意味では、食材を通じてユーザーとつながることができるfoodableは、生活者とパナソニックの新しい関係をつくる可能性を秘めていると思います。
家電の機能を活かし、食材の美味しさを最大限に引き出す
――foodableには自動調理鍋「オートクッカー ビストロ」をはじめ、新しいタイプのキッチン家電がラインナップされています。こうした家電と組み合わせる食材は、どのように選んでいるのでしょうか?
關最大のポイントは、家電の機能を引き出し、相乗効果を生み出せる食材であることです。たとえば、「炊飯器+銘柄米」のコースでは、炊飯器が持つ「銘柄米の個性を存分に引き出す銘柄炊き分け機能」を生かすため、日本全国50種類以上の銘柄米を用意しています。そこから毎月2種類を選んで、色々な銘柄を楽しめるようになっています。
關また「スチームオーブンレンジ ビストロ」と組み合わせるのは、デパ地下惣菜などを手がけるロック・フィールドさんの冷凍食品ブランド「RFFF(ルフフフ)」です。冷凍から一気に焼き上げる機能や、短時間で蒸し器同様の仕上がりになる機能などを最大限に活かせるよう、Panasonic Cooking @Lab(※)のメンバーからアドバイスをもらいながら、ロック・フィールドさんと厳選した食材を届けています。
※おいしさを科学的に追求し、誰でも手軽にワンランク上のおいしさを実現できるようなキッチン家電のソフトウェアを開発するチーム
關ほかにも、遠近トリプルヒーター搭載で冷凍パンもなかまで美味しく仕上げる「オーブントースター ビストロ」には、素材にこだわり、職人が石窯で焼き上げた敷島製パン様の冷凍パンセットを組み合わせるなど、それぞれのキッチン家電と親和性の高い食材をセレクトしています。
――食材を提供するパートナーさんにとっては、どんなメリットがありますか?
關たとえば銘柄米であれば、生産者さんにとってもメリットがあると思います。生産者の方は日々研究と努力を重ね、さまざまな銘柄のお米をつくっています。しかし、いくら美味しくても生活者に届かなければつくり続けることが難しくなり、結果的に素晴らしい銘柄がどんどん減ってしまう。そういう意味でも、このサービスを通じて「知られざる美味しいお米」を多くの人に食べてもらう機会をつくるのは意義があると思います。
また、相性の良いキッチン家電とセットで届けることで、食材が持つ本来の味を感じてもらえることも、大きな利点ではないでしょうか。お米やコーヒーって、適当に炊いたり淹れたりするとイマイチだったりしますよね。でも、パナソニックのキッチン家電を使えば、本来の美味しさを引き出すことができる。こだわりを持つ生産者さんほど、家庭での調理や仕上げを気にするので、そこが担保される点は評価いただいています。
――サービスを利用する人からの反応はどうですか?
關最低利用期間が1~2年なので、当初は途中解約が続出するのではないかという不安もありましたが、現時点では最低利用期間満期まで継続しているユーザーが9割以上になっていますし、最低利用期間が終わったあと、家電を買い取ったうえで引き続き「食材のみプラン」を利用する人もいらっしゃいます。正直、想像以上の継続率ですし、多くの人に満足してもらえているのではないかと思います。
また、あるユーザーさまからは「このキッチン家電を使ってみたいと思っても、なかなか購入する踏ん切りがつかなかった。買う前にサブスクで使ってみて、自分のくらしにフィットするか試せるのはありがたいです」といった声もいただきました。高機能なキッチン家電の導入を検討するための、「入門用サービス」としても活用できるのではないでしょうか。
foodableで集めた声を、次世代のキッチン家電開発につなげる
――新しい家電をサブスクで貸し出すことで、販売の機会を逃してしまうというリスクもあると思います。既存の事業部からの反対の声などはなかったのでしょうか?
關foodableに限らず、新しいことを始める際には丁寧な説明が求められます。このサービスに対しても社内から反対や懸念の声がなかったわけではありませんが、関係部署とは密にコミュニケーションをとりながら進めてきました。そうやって少しずつ理解を得ていった結果、当初は取り扱えなかった新型のキッチン家電もラインナップできるようになっています。
また、立ち上げから約2年半が経過し、このサービスによって得られる新たな価値が、社内で認められはじめていると感じます。特に評価されているのは、やはり「ユーザーとつながり続けられる」点です。ユーザーと直接つながり、意見を聞き、継続して価値をブラッシュアップし続けられるのは、家電メーカーとして大きな強みになると思います。
――ユーザーの声を拾いやすくなることで、次の製品開発にも活かしていけると。
關そう思います。サブスク型サービスの利点は、ユーザーのニーズがリアルタイムでわかること。それをもとにサービスをどんどんアップデートできるだけでなく、既存事業に活かせるようなヒントも得られるんです。
特に、foodableは食材とセットで季節に合ったレシピを提案するなど、ユーザーと毎月、細やかにコミュニケーションをとっています。ユーザーから、「実際につくってみましたよ」「こんなふうにアレンジしました」といった反応が来ることもあって、私たちの想定とはまるで違うキッチン家電の使い方がなされているケースもある。これらは、密にコミュニケーションをとっているからこそ得られる気づきだと思います。
――foodableの今後の展開を教えてください。
助川今後は個人ユーザーだけでなく、企業との連携などBtoBの展開も考えています。プレゼント企画の景品としてfoodableをご採用いただく事例も出てきており、1回きりのプレゼントではなく、くらしのなかで接点の多い調理家電をご利用いただききながら、毎月食材が届くことで、その都度ブランドを想起してもらえる点がメリットと考えています。
こうしたプレゼント企画だけでなく、たとえば企業の福利厚生などにも利用してもらえるのではないかと思います。たとえば、健康経営に注力している企業に1年プランで契約してもらい、キッチン家電とともに低糖質の食材を提供する。それにあわせて、「食から健康をつくりましょう」といったメッセージを送ることもできるのではないでしょうか。
――さまざまな可能性を秘めたサービスですね。最後に、このfoodableを通じてユーザーとどんな関係を築いていきたいと考えていますか?
關パナソニックの強みは、生活者のくらしを理解し、そのくらしに寄り添った「ちょうどいい提案」ができることです。その意味では、生活者のニーズを常に吸い上げられるfoodableは、私たちの強みを最大化する絶好のツールにもなると思います。これまではなかなか拾えなかった細かな意見も拾い上げ、それを反映したソリューションを提案することで、ユーザーと新しい関係をつくっていきたいですね。
助川繰り返しになりますが、従来の売り切り型のビジネスでは、下手をすると購入いただいた方が製品を買い替える数年後まで、接点がなくなってしまいます。一方、foodableの場合は食材を通じて定期的にユーザーとコミュニケーションがとれますし、そこからパナソニック製品の良さが伝わって、キッチン家電以外の製品にも関心を持ってもらえるかもしれません。
このサービスが私たちのことをより深く知ってもらえるきっかけになればと思いますし、そんな関係性をユーザーと築いていけるようにしていきたいです。
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Profile
關 智子(せき・ともこ)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU コンシューマーSBU 国内マーケティング部
2000年入社。通信キャリア向けB2Bシステム開発営業を経て、携帯電話・スマートフォンの商品企画部門でモバイルコンテンツ・サービスの企画開発を担当。その後、コンシューマーマーケティング部門でIoT家電のマーケティングを担当し、2020年4月より現職でfoodableをはじめとしたD2Cサービス事業を手がけている。
私のMake New|Make New「ワクワク」
ユーザーが日々ワクワクできるサービスを、私たちも日々ワクワクしながら提供し続けていきたいと思います。
助川 学(すけがわ・まなぶ)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU コンシューマーSBU 国内マーケティング部
1993年テレビ事業部に入社。テレビやレコーダーなどAV商品の営業や国内マーケティングを担当、2017年からの台湾勤務を経て、2023年6月より現職場に在籍。国内調理家電のマーケティングを手がけている。
私のMake New|Make New「調理体験」
パナソニックの調理家電で誰でも簡単に驚くほどおいしい料理がつくれます!この体験をひとりでも多くの人に味わって感動してもらえたら良いなと思います。