あたらしい時代を生きるふたりに今のパナソニックについて感じること、そして未来のパナソニックへ期待することを自由に語っていただく本企画「拝啓、パナソニック」。
今回のゲストは、「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆されているライターであり、研究者でもある竹田ダニエル(たけだ・だにえる)氏と、社会派クリエイティブを掲げ越境クリエイターとして活躍されている辻愛沙子(つじ・あさこ)氏。
Make New Magazineの記事を読んで感じたことから、パナソニックのこれからに対する期待まで、多様な価値観に寄り添った発信をされている二人に語り合ってもらった。
Index
日本企業はもっと「顔が見える」発信を。
オウンドメディアってどうしても「企業」としての主張が強くなって、個人の顔が見えなくなってしまうものが多い印象です。でもこのMake New Magazineは聞き手、話し手、書き手、それぞれが自分の目線でしっかりと思考して物事を捉えているのが伝わってきて、人間らしい記事が多くていいですよね。
企業広告でよくある「商品を売ろう!」という意図を感じさせずに、商品が開発された背景や、どのような事業に投資しているのかなどを丁寧に語っている点が面白いと思いました。
例えば「育休」をテーマにした記事を読んでも、「パナソニックは男性の育休を推進しています」と宣伝しなくても意図がちゃんと伝わってくる。
若い人たちが会社を選ぶ際、企業が社会的責任を果たしているかを意識する人もいると思います。一方で、社会的責任を伝えられている日本の会社は少ない。企業広告ひとつで人々の価値観を変えたり、社会にインパクトを与えたり、社会的責任の表明がすごくポジティブに働く時代。
だから、「顔が見える」発信はとても重要になると思います。
同時にソーシャルグッドやDEIが、表層だけ捉えられて「とりあえずいいことやっていこう」みたいにふわっとしたメッセージになってしまうこともあります。でもやっぱり、はっきりと言わなければいけないし、広くあまねくだと誰にも届かないメッセージになってしまう。それは結果的に商品の選ばれ方にも影響してくる時代ですよね。
いろんな商品をつくるために、いろんな人がいたらいい。
この4、5年は日本でも「ジェンダードイノベーション」の必要性が謳われるようになってきていると思うんですが、まだまだ大学内での研究領域に留まっていて企業のアクションに落ちてない気がしますよね。
きっと増えているんだと思うんですが、もっと具体例が見えるといいですよね。どういうプロセスで行われているのか、社員一人ひとりがどういう変化を起こせるのか。
学校や企業、社会全体においても、自分の一票、自分の一言、自分のアクションじゃ変わらないという感覚を刷り込まれている人も少なくないと思います。でも実際は一つひとつ積み重ねることでしか社会は変わっていきません。
パナソニックのようにイノベーションをベースとしている会社だからこそ、いち社員がそこにどう貢献できるのかを知りたい。「いろんな商品を作りたいから、いろんな人が欲しい」というメッセージがあればいいなと思います。
生活者の中には、商品を選択するとき値段や機能性だけでなく会社がどういう発信をしていて、どういう人格を持っているかで選びたいって思う人も一定数いるように思います。私自身、この数年いろいろな方達とお話しする中で実感としてはあるのですが、なかなか可視化されづらい層でもあり......。
そういう人たちは意思表示をする会社を待っているところもあるので、企業も一個人と同じく、ちゃんと意思表示をしていいっていう風土ができていくといいなと。
「買い物は投票」という感覚って、海外の若者の風潮みたいな感じで言われるけど、日本でも潜在的に大きな客層として存在すると思います。みんなにいい顔をしてると本質的なところが抜け落ちてしまうっていうのは、人間も会社も一緒だと思っていて。 みんなに魅力的になろうとすると、みんなからどうでもいい人になっちゃうみたいな。
わたしたちがパナソニックに求めるもの
米国と比べても、日本の家電カルチャーってすごいと実感します。 日本は生活者が求める水準が高いから企業間の競争も激しいし、何より使う人のことを考えて作られている。
この、ひとり用食洗機「SOLOTA」の記事もとても面白かったし興味深いものでした。
"売れるモノ"という目線で開発するだけでなく、今の時代や価値観、生活スタイルにあった家電のあり方ってなんだろうと問い続けて、自分たちが作ってきたプロダクトのあり方すら都度疑いながら選択肢を増やしていく。
そういう物づくりを大企業が担うことで、従来的な家族像だけでない、例えばSOLOTAを使うような"ひとり"で過ごす生き方など、多様な暮らし方がなかったことにされず、マーケットとしてきちんと可視化される。
そういう意味で家電メーカーの目線は、テクノロジーだけでなく価値観や生き方に向いているべきだなと思います。
人々の価値観も、くらしのあり方も多様化し、家電や身近なモノに求められる配慮も変化していきますよね。そうなるとプロダクト作りに関わるメンバーは、モノ自体だけでなく、多様な思想や価値観についても考えを深めていく必要がある。
社員の方も、学生においても「変化を起こしたい」と思う個人も多くいると思います。そういう人を求めている、ということを大企業が発信してくれるだけでも、声を上げやすい空気感は生まれるはず。大企業がもつ安定と、イノベーションが両立する会社があれば、私も入りたいと思います。
この「地域のために家電メーカーは何ができるのか」という記事も好きでした。
私自身、複数選択肢があるなら、チェーン店よりもその街にしかないような小さなコーヒー屋を選びたい、みたいな気持ちが強くなっていて。自分が住む街に根ざしていて、作っている人の顔が見えるものを選びたいっていう感覚。
どこにいても便利でコモディティ化している今の時代、そういう目線を大事にしている人は増えてきているように思います。大企業のあり方が難しい時代だなと。。
ローカルや手の届く範囲のものがあらためて注目される声が増えているなかで、大企業としてそれにどう向き合うか。二項対立ではなくて補い合うことができたらと思っています。
大きな存在だからこそ、マイノリティにできることは何かを考える姿勢に通じるなと。声無き声に光を当てていくことは、大企業の大きな宿命であり、可能性でもあるなと思います。
Profile
竹田ダニエル(たけだ・だにえる)
1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。ライター・研究者。著書に『世界と私のA to Z』、『#Z世代的価値観』。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞。UCバークレー大学院在学中。
辻愛沙子(つじ・あさこ)
株式会社arca CEO / Creative Director
社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として領域を問わず手がける越境クリエイター。