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今年の4月から新体制となってスタートしたパナソニック株式会社。その発足を前に、戦略部門、デザイン部門のメンバーが集まり、未来の理想の社会を考える「2039ビジョンプロジェクト」が昨年立ち上がった。パナソニックが思い描く未来の社会と人々のくらしとは。
未来起点でつくる旗印
「2039ビジョンプロジェクト」を実施した経緯について、プロジェクトリーダーの足立さんは次のように語ります。
「パナソニックは創業以来、生活者のくらしを見つめ、新たな価値を届けることで、社会に貢献してきました。しかし、短期的に事業を判断していくと、理想的な未来の姿とはかけ離れてしまう可能性があります。そこで、パナソニックでは20年くらいの長期のスパンで社会や生活者のくらしの変化を捉え、未来のビジョンを描く必要があると考えました。今から20年先の2040年代の未来予測では、日本だけを見ても急激な人口減少や高齢化、都市インフラの老朽化、地球の平均気温上昇による環境問題の深刻化など、必ずしも明るいものとは言えません。プロジェクト名の2039には、2040年代をより良いものにするため、今から2039年までの時間を私たちがどう生き、どう事業を営んでいくのか、その旗印となるものを創りたいという思いを込めました。また、2039年は当社の創業者・松下幸之助の没後半世紀にあたり、パナソニックの今後の未来を見据える一つの節目となると考えました。」
未来の手掛かりは人々の価値観の変化
――プロジェクトでは、将来どのような価値観の変化が起こると考えたのでしょうか?
メンバーの豊島さんは「まず、多様性に対する捉え方が大きく変わると思います。LGBTQや障がい者の方を取り巻く課題の解消に向け、世の中の価値観は今もアップデートされようとしています。それが解決された未来には、個人の能力が正しく評価され、一人ひとりが個性を活かして活躍できる時代にきっと変わっていくでしょう。」と言います。
さらに「自己実現に対する、気持ちや年齢のハードルもなくなっていくと思います。例えば、身体拡張技術や予防医療の進歩で、身体的な老いが克服される。そうすれば、年齢を問わずに新しい趣味や学び、おしゃれにもチャレンジしたくなりますよね。人生100年時代、何歳になっても新しいことに挑戦したり、社会に貢献できることで肯定感が得られたりすれば、精神的にも健やかでいられると思います。」
「人と社会との関係も大きく変わると思います。」とメンバーの針尾さん。
「特に、個人が持っている情報やスキルといったものは、社会全体で共有する財産であるという価値観になっていくと思います。すでに現在でも、医療データを研究機関の間で共有することで、新たな特効薬や治療法が見つかるようになっています。それと同じような考えで、個人の情報やスキルが安全に活用され、自分のくらしも社会も豊かになるという感覚が広がっていくでしょう。」
「そんな社会では、誰かのための思いやりが循環し続けるようになっていくと思います。」とメンバーの佐々木さん。「単身世帯が今以上に増加する中、人々の支えあいを支援するコミュニティやサービスがますます広がっていくと思います。私は、同じマンションに住むおばあさんに頼まれた食材を買い物ついでに買ってきてあげたりしますが、その代わりに子どもの面倒を見てもらうことがあります。こういった感謝の循環があると、ささやかなことでも心を豊かにしてくれる。そういったものが社会に溢れていくようになると思います。」
さらに、地球環境との向き合い方に関してもこう言います。
「若い人たちは、地球環境の問題を自分事として本当に真剣に捉えています。彼らが世の中の主役になる時代には、自分の幸せは自分が生きる地球環境の健やかな状態の上に成り立っている。そのような人と地球の幸せを一緒に考える感覚が当たり前になっていくと思います。」
一人ひとりの幸せと豊かな関係性のあるくらし
ではこのように価値観が変化していくと、人々のくらしはどのようなものになると想像しますか。
足立さんは、「AR(拡張現実)の技術や触覚などをリアルに伝える技術が進化すれば、1LDKでなく1MDKのような、リビングがメタバース空間とつながっている、そんな家の間取りもあり得るかもしれません。長野の自然豊かな環境にいながら、東京の最先端の音楽やアートが学べたり、海外の事務所との仕事できたりする。生活の場所は日本全国に分散し、住み替えももっと自由になるかもしれません。そうなれば、家族一人ひとりがやりたいことと、家族みんなで大事にしたいことを両立できる住まい方が可能になると思います。」
針尾さんは言います。「新しいものを求めて、次から次に買い換えていたくらしが過去のものになっているかもしれません。革製品のように、長く使えば使うほど自分らしくなっていく家電があってもおもしろいですよね。使う人のクセや好みが記憶されていて、修理して新しくなっても、また使い慣れた馴染みの仕様で使える。愛着がデータとして見えるようになっていて、大切に使われてきたものは高く評価され、同じように大切に使ってくれる人の手に渡っていく。そんなことができれば家電との付き合いの中に喜びが感じられ、ライフサイクルも長くなっていくと思います。」
佐々木さんは「宇宙に行けるようになっても地球に住み続けたいって思ったんです。なので、地球環境との関わりが深いエネルギーや資源の問題を、生活者に無理を強いるのではなく、くらしの利便性や楽しさと両立できるようにしていきたいですね。例えば、普段の行動をエネルギーに変えるエネルギーハーベスト(環境発電)によって、家の中のセンサーや通信など、くらしを支える機器のエネルギーは全部自分で生み出せるようになればいいですよね。また、地域のコミュニティで、自分たちの使うエネルギーを地産地消できる仕組みやサービスを広げられれば、エネルギー問題への取り組みを通じて、人と人の豊かな関係性がうまれる街をつくれると思います。」と言います。
理想の未来に意志を込める
――プロジェクトで得られた気づきと今後の展望をお聞かせください。
豊島さんは「どのような未来を創りたいのかという理想の姿があることで、普段の業務の中でも、それは本当に未来の社会にとって良いことなのか、どんな未来に繋がっているのか考える視点が持てるようになりました。また、そう発想することで、既存の枠組みにとらわれず、くらし起点で事業のあるべき姿を描けるようにもなりました。」と言います。
「今後は、この未来を実現するため、パナソニックが具体的に何をすべきかを考えていかなくてはなりません。プロジェクトは、品田(パナソニック株式会社CEO)に対してもプレゼンを行い、未来の生活者の価値観や理想とするくらし方を、前向きに理解してもらえました。現在は、経営幹部と議論を重ねながら、意志のこもった長期戦略への落とし込みを進めています。未来は日々の取り組みの延長線上にあります。未来を想像して終わるのではなく、これから時間をかけ、自分たちの手で未来をつくっていきたい。」と足立さん。パナソニックが描く理想の未来は、一歩ずつ着実に近づいています。
子どもたちへのメッセージ
大事な人を笑顔にできる未来を想像してみてください。そんな未来にどうすればできるか考えることで、きっと日々の行動も変わるはずです。
こちらの記事に関して:
本取材は5月5日(木・祝)のこどもの日に朝日新聞社より発行された「未来空想新聞」の紙面に掲載されたものです。
「こどもの日は未来を考える日」というメッセージのもと、パナソニック株式会社と朝日新聞社とで議論を重ね、より良い未来をみんなで空想をする「未来空想新聞」を作り上げました。
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