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2026年7月1日から3日間、京都にて国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2026」が開催されました。
IVSは2007年に始まった大規模スタートアップイベントです。ベンチャーキャピタルであるHeadline Japanと京都府、京都市が協力してIVS KYOTO実行委員会として運営しているもので、国内外のスタートアップやベンチャーキャピタル、大企業・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、行政関係者などが年に一度、一堂に会する機会となっています。
本稿では、IVS2026の概要と、パナソニックのCVC「くらしビジョナリーコラボ」が現場で感じた2026年時点のスタートアップトレンドなどを紹介します。
IVSの独自性 現場の熱狂はなぜ生まれるのか
2007年から毎年開催されているIVS。2026年は「Japan is Back」をテーマに掲げて開催され、1万3千人が京都に集まっています。今年は第100・101代内閣総理大臣の岸田文雄氏や、防衛大臣の小泉進次郎氏ら政治家も登壇。スタートアップが政府からも注目を集めている様子が窺えました。
IVS2026では、137の公式セッションが開催されています。「AIエージェントを現場でどのように活用するか」など、昨今の経営課題を反映したテーマのセッションには、人が溢れ返っていました。東京やオンラインでも似たようなコンテンツはあるかもしれませんが、「普段なら公開しないが、IVSだから特別にオフレコで⋯」と、踏み込んだ内容が共有されたりするのもIVSの特徴と言えるでしょう。
特に盛況だったのは、国内外から厳選されたスタートアップがブース出展する「IVS Startup Market」です。各日100社以上が日替わりで出展し、3日間で計340社が参加。スタートアップと投資家や事業会社が出会う機会となっていました。

当然ながら、国内で開催されている大型スタートアップイベントはIVSだけではありません。例えば、東京都が開催するアジア最大級のイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo」。同イベントはスタートアップの展示色が強く、また海外スタートアップが出展する割合も高いのが特徴です。多くのセッションも開催されているものの、SusHi Tech Tokyoのセッションには業界の重鎮や海外投資家も多く登壇し、内容もマクロ的で長期的な視点のものが少なくない印象です。
一方でIVSのセッションは、前述の「AIエージェントの現場活用」など現場に即した内容や、学生のみが立ち入れるエリア「IVS Youth」に代表されるように、直近のテーマを反映したものや、若手起業家を応援するコンテンツも少なくありません。この点は、IVSの運営者に若い世代が多いことも影響しているでしょう(ちなみに、IVS代表の島川敏明氏は1992年生まれの33歳とのことです)。
この若さはイベントの運営にも反映されています。IVSのイベントシステム4S(フォース)を開発しているのは、IVSの関係会社。バイブコーディングを駆使しながらシステムは会期中にもアップデートされており、この「運営しながら同時に改善していく」というライブ感にも、若くて勢いのある「スタートアップさ」を感じました。

京都の街と融合するサイドイベント
IVSの特徴の一つに「サイドイベント」が挙げられます。サイドイベントとは、IVS期間中やその前後に、参加企業、投資家、自治体、コミュニティなどが主催するイベントのこと。公認・非公認のものがありますが、各参加者がエコシステムの形成に資すると考えられる内容のイベントを自発的に開催し、交流の場を設けています。独立系VC数十社が共催するイベントから、寺院での坐禅、鴨川沿いのモーニングランまで、2026年は360を超える公認サイドイベントが開催されていたようです。
IVS KYOTO実行委員会に京都府・京都市が入っていることも背景にあってか、京都の街全体が出会いと商談のインフラとして機能していました。特に今回は、M&AやVC・CVC系などの領域特化型のイベントが多かったように感じています。
パナソニックからも、多くのサイドイベントに参加しました。あるVCが主催したイベントでは、高市政権における戦略17分野とスタートアップの関わりを解説。経済産業省の関係者やスタートアップも参加しており、トレンドの把握に加え、ネットワーキングも行えました。特に量子コンピューティングや核融合など、VCがディープテック分野を緻密に分析し、真の成長領域を見極めている姿勢は、CVCとしての戦略を考える上でも非常に有益な学びとなっています。

CVC代表の郷原邦男も「『推しと祈り』〜川邊健太郎と僧侶が語る"宗教"と"アイドル"の交差点〜」というサイドイベントに参加。ユーザーの心を掴む「推し」の重要性を、AI時代におけるビジネスと体験価値のあり方に繋げて語られた公演は切り口も新しく、会場となった金戒光明寺、非公開スペースという場の力も相まって、単なる機能提供ではなく、体験的な価値を提供すべきという視座の高さは、パナソニックの今後の取り組みにとっても大きな学びとなりました。
なお、くらしビジョナリーコラボは、スタートアップとCVC・大企業の理想的な向き合い方を掘り下げる、IVS内のプログラム「CROSS TIDE」の運営協力もしており、こちらのサイドイベントも開催しました。CROSS TIDEおよびサイドイベントの様子は、こちらの記事をご覧ください。

グローバル、ハードテック、M&A 変わるスタートアップの潮流
IVSの目玉は「次世代の起業家の登竜門」とも呼ばれるピッチイベント「LAUNCHPAD(ローンチパッド)」です。今年は500社以上の応募から選ばれた15社のスタートアップが決勝でピッチを繰り広げています。入賞した企業は以下の通りです。
優勝:
株式会社Space Quarters
宇宙建築業 - Robot System「DAIQ」
2位:
株式会社あかり保証
弁護士運営の身元保証サービス「あかり保証」
3位:
株式会社MUSE
小売店舗向けマルチユース型ロボティクスプラットフォーム「Armo」
4位:
株式会社inprog
便器ふち裏まで磨くトイレ清掃ロボット「CleanK」
5位:
株式会社ZetaX
Edge AIで切り開く製造業の未来
オーディエンス賞:
株式会社TAIAN
460兆円の "祝祭" 市場で世界に挑む「TAIAN」

2026年のLAUNCHPADで目立ったのは、数年前までは少なかった海外企業の存在感です。公式発表によると、今年は全体の20%ほどが海外からの応募であり、ファイナリストも海外勢が15社中4社を占めていました。
ハードテック・ディープテックも増加しており、スタートアップ業界は新しいトレンドを迎えていると言っていいでしょう。とはいえ、まだこの分野はIPOやM&Aの事例が少なく、投資を躊躇している投資家も少なくありません。先駆者の躍進と、後続の追随が期待されます。
パナソニックメンバーもLAUNCHPADは現地で観戦しました。特に印象に残ったのが、トイレ清掃ロボット「CleanK」。米中がヒューマノイドロボット開発に勢を出す中、日本が同じ土俵で戦うのは現実的ではない側面もあります。一方で日本が昔から得意なのは、産業用ロボットや工場自動化など、産業用途に特化させていくこと。そこに昨今のフィジカルAIのテクノロジーを取り入れたロボットを体現しようとしているCleanKには、家電メーカーとして共感を抱かずにいられませんでした。

IVS2026ではIVS本体とサイドイベントを通じて、M&Aに関する議論が活発化している点も印象的でした。グロース市場における時価総額100億円基準の影響でIPO数の減少が見込まれる中、M&Aが現実的な出口戦略として強く意識されてきています。この戦略転換を多くの関係者が公然と語り始めたことは、市場の潮目が明確に変わったことを示唆していると言えるでしょう。
ハードテックへの投資難易度が高く、SaaSを取り巻く環境も厳しさを増す中で、事業会社やCVCがエンターテインメント領域に活路を見出そうとする「消去法的」な動きもあったように感じています。
また、M&Aセッション「XDEAL」では、「バイブコーディングによって、開発力ではプロダクトの差がつかなくなり、パソコンの前だけでビジネスが成立しているサービスは競争優位性を失っていく」という、コメントもありました。今後は、フィジカルでの接点の重要性が増し、画面越しのやり取りだけをするSaaSが価値を提供できなくなっていく可能性も決して低くないでしょう。

「Japan is Back」への問い 海外との接続に見るスタートアップの現在地
先述の通り、IVS2026のテーマは「Japan is Back」でした。セッションやサイドイベントを通して「Go global」、すなわち日本から世界へ打って出ることが意識されていたのは間違いありません。
IVS本体のセッションでは、自動同時通訳が投影されており、英語は日本語に、日本語は英語に、登壇者の発言がほぼリアルタイムで翻訳されていました。英語話者の発言も、大意を掴むには十分だったので、日本語が堪能でない外国人が来てもセッション内容がわかるインフラは整ってきたように感じています。

普段は中国で活動しているメンバーもIVSに合わせて来日し、「登壇者の話には示唆があり、パネルディスカッションやサイドイベントのクオリティは非常に高かった」と語っています。一方、スタートアップについては以下のコメントもありました。
「スタートアップは数こそ多かったものの、スケールの大きい事業が少ないように感じました。今年の一大テーマはAIだと思いますが、インフラレイヤーが少なく、アプリケーションレイヤーのビジネスが多かった印象があります。各社なりのニーズは感じたものの、率直に言って『ちょっとAIを使ってアプリを開発しました』くらいのものもあり、参入障壁がなかったり、スケールが難しそうだと感じるアイディアが多かったのも事実です。また、自社ならではのセールスポイントをうまく訴求できているスタートアップも少なく感じました。実力として見劣りしているわけではないので、日本のスタートアップはもっと自信をもって自社のユニークさ、優位性をアピールしてもいいのかもしれません。

また、Slushなどの海外の大規模スタートアップカンファレンスと比較すると、来場者に海外VCの姿をあまり見かけませんでした。CROSS TIDEに参加していたポルシェのCVCが「日本市場に関心がある」と発言していたように、日本の市場やスタートアップを宣伝し、VCを呼び込む余地はまだまだありそうです。
前述のパナソニックCVCの中国メンバーは、お寺で写経をするイベントに参加していたのですが、「参加者のほとんどは日本人でした。現状、IVSには『もともと日本のスタートアップに興味がある投資家』がイベントに参加しているのだと思います。スタートアップ側も日本市場をターゲットにしている会社が多かった印象です。海外市場を狙う日本のスタートアップがもっと多く出てくれば、必然的に海外の投資家も集まり、グローバルをターゲットにする事で、結果として日本市場のプレゼンスも高まると思います。」
現地メンバーのコメントも受けて、改めて2026年のIVSは、日本のスタートアップエコシステムが次なるフェーズへ向かう転換点を示しているように感じました。国内市場にとどまらず、いかに海外市場と接続できるか。AIやハードテック・ディープテックの波に乗れるか。M&Aを通じて大きな成長を描けるか。京都で体感した熱量を起点に、パナソニックとしても、新たな事業の芽を育て、産業の未来を切り拓く挑戦を続けていきます。
執筆・インタビュー:pilot boat
撮影:ソネカワアキコ
編集:くらしビジョナリーコラボ
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