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マイノリティ出資に未来はあるか 今、CVCに必要なのは、存在意義の再定義|IVS2026レポート①

マイノリティ出資に未来はあるか 今、CVCに必要なのは、存在意義の再定義|IVS2026レポート① | くらしビジョナリーコラボPanasonic

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    2026年71日から3日間にわたり開催された日本最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2026」では、スタートアップと事業会社・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の理想的な向き合い方を深掘りする集中プログラム「CROSS TIDE(クロスタイド)」が実施されました。近年のCVCの存在感の高まりを受けて企画されたもので、2007年から続くIVSで、CVCに焦点を当てたプログラムが実施されるのは今回が初めてとなります。パナソニック株式会社は、CVCによるスタートアップエコシステムへのプレゼンス向上を目的に、各プログラムを支援しました。

    CROSS TIDEプログラム】
    ・Fireside Chat:シュトゥットガルトから世界へPorscheが目指すグローバル・イノベーション戦略
    ・企業内資産の融合と解放:M&A、スピンアップ・スピンオフ、アクセラレーター、本体事業支援が拓く新成長戦略
    ・スタートアップから見た大企業・CVCとの組み手:資本・事業の両面で「大企業を活用する」スタートアップの実践知
    ・ネットワーキングパーティ

    本稿では、以上のセッションの様子を振り返りながら、CVCの在り方を考えていきます。

    1,300億円で日本企業に買収されたポルシェの投資先。日本での関心領域は

    CROSS TIDE最初のセッションとして開催されたのは「シュトゥットガルトから世界へ Porscheが目指すグローバル・イノベーション戦略」。Porsche Ventures(以下「ポルシェ・ベンチャーズ」)のPatrick Huke氏がその投資戦略について語りました。

    登壇者(写真左から)Headline Asia パートナー 田中 章雄 氏 Partner & Head of Porsche Ventures, Patrick Huke 氏

    Patrick Huke 氏戦略的なシナジーと財務的なリターンのバランスは、世界中のCVCに共通する課題です。その点についてポルシェ・ベンチャーズは、VC出身人材と社内出身者をミックスさせることで、両者を実現できるようになりました。同社にはベンチャーキャピタル出身者がいるものの、長い間社内で働いていたメンバーも多く、自社の歴史やブランドの持つ価値を深く理解している点が特徴となっています。また、最高の創業者とテクノロジーへの投資こそが、二兎を追う秘訣でもあり同社の投資先の60%以上が、ポルシェまたは同社のパートナーと活発なビジネス関係を保っています。

    ポルシェ・ベンチャーズの投資先には、日本に縁深い企業も含まれます。その1社がNozomi Networksです。アメリカに本社を置くサイバーセキュリティ企業で、2026年、三菱電機によって10億米ドル(約1,300億円)で買収されたことが話題となりました。

    ポルシェ・ベンチャーズは日本市場にも関心を寄せており、特に歴史的に日本が強いロボティクスやオートメーション分野、現在の世界的な潮流である人工知能(AI)や半導体、資源のサステナビリティを巡るテーマに対しても、強い関心を寄せています。今後の有望なフロンティアとしては「宇宙」や「防衛」領域を挙げています。

    CVCはユニコーンより大規模なスタートアップの創出を支援できるか

    続いて開催されたセッションは事業会社CVCが登壇した、「企業内資産の融合と解放:M&A、スピンアップ・スピンオフ、アクセラレーター、本体事業支援が拓く新成長戦略」です。

    登壇者(写真左から)CVC vs CVC, Organizer 石井 達也 氏(モデレーター) スカパーJSAT株式会社 執行役員 宇宙事業部門 経営戦略本部長 茂成 奈央 氏 KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部 副本部長 舘林 俊平 氏 ソニーグループ株式会社 コーポレートインベストメント部門 担当部長 鈴木 大祐 氏 グローバルファンド 市場参入戦略 & パートナーシップ担当 堂田 丈明 氏 株式会社博報堂 生活者インターフェースデザインセンター Rally for Growthチーム 福永 モモ 氏

    最初に挙げられたテーマは、近年増加している大企業からの「カーブアウト」です。
    医療用モニターなどを販売するソニーグループは、社内の新規事業として手術ロボットの開発を進めていましたが、本業と遠すぎたため事業化には課題がありました。一方で、これまでこの事業に携わってきた社員は「この事業やテクノロジーをどうしても世に出したい」という強い想いをもっており、この事業のスピンアウトを決断しました。

    現在国内では、スタートアップ育成5か年計画をはじめ、国策としてスタートアップを支援する流れがあります。
    この点に関して、KDDIの舘林氏は、「政府や経済界が掲げるユニコーン企業輩出の数値目標は重要です。しかし、日本に必要なのはもうワンサイズ大きい規模へ成長を遂げるスタートアップを生み出すことです。その規模に到達するためには、人口減少が進む国内マーケットではなく、海外市場に目を向ける必要があります。」と指摘しました。
    ソニーの鈴木氏もこの意見に賛同し「海外スタートアップは創業当初から海外市場を目指すことが前提としている企業も少なくありません。」と、日本との違いを説明しました。

    海外での戦い方について言及したのは、グローバルファンドの堂田氏です。「創業者チームがいかにグローバルなコミュニケーションを取れるかが重要です。語学力は、必ずしも流暢である必要はなく、意思疎通が図れるレベルであれば十分。」と解説しました。

    政府や経済界の期待の元、日本のスタートアップが次のステージへ進むために必要な要素が具体的に示されたセッションでした。

    変革期にあるCVC。シナジー目的・マイノリティ投資のその先へ ~ CVCはM&Aを仕掛けるべき

    CROSS TIDE最後のセッションとして開催されたのは「スタートアップから見た大企業・CVCとの組み手:資本・事業の両面で『大企業を活用する』スタートアップの実践知」と題されたセッション。登壇者は以下の方々です。

    本セッションでテーマとなったのは、現在変革期に差し掛かっているCVCの役割でした。

    国内でCVCの設立ブームが起きたのは2020年頃です。一般的にスタートアップファンドの運用期間は810年程と言われています。とすると、ファンド形式で運営しているCVCは、そろそろ次のファンド設立はどうするのか、そもそもこれまでのCVC投資の成果はどうだったのかを問われる時期に来ていると言えるでしょう。ファンド形式ではなくとも、大企業は定期的に経営陣が交代することもあり、トップが変わるたびにCVCの存在意義や成果が厳しく問われるケースもあります。

    シナジーを期待して出資したケースでも、その証明は難しいかもしれません。投資リターンが十分に確保できていれば相乗効果が薄くても一定の評価は得られますが、現在の市場環境ではそれも容易ではないでしょう。CVC活動を通じて担当者個人の人脈やスキルが育っていたとしても、CVCという組織の継続性・正当性を主張するには論拠が弱い感じも否めません。

    そもそもマイノリティ投資は、スタートアップをコントロールできるわけではありません。事業部も、連結子会社ならいざ知らず、連結外の会社を成長させるために手を貸すインセンティブがないケースもあります。そう考えると、本体の事業シナジーを求めるのは無理があるケースも少なくないはずです。

    こうした課題に持論を展開したのがBoost Capital代表の小澤氏でした。
    ベンチャーキャピタル機能とPE機能を持つ同社を率いる小澤氏は、自身が創業したベンチャー企業を楽天やヤフーに売却し、その後ヤフーでEC事業の拡大、PayPayの立ち上げ、ZOZO・一休・ASKULなどの大型M&Aを指揮し、2022年から2023年にかけてヤフー代表取締役社長CEOを務めました。

    小澤氏マイノリティ出資に留まらず、51パーセント以上を取得する買収資金として活用すべきです。これにより、これまで投資に関わってきたCVCの担当者自身が、買収した企業の経営に参画するという道も開かれます。
    現在、経営人材の不足に悩む大企業は少なくありません。大企業の多くは、部門ごとに機能が分断された組織構造になっています。営業、工場といった特定の部門しか経験していない人材が、将来的に巨大な企業のトップに就任して急に経営の舵取りを行うことは極めて困難でしょう。この解決策にもM&Aは有効です。
    例えば「決済サービス『PayPay』の中山一郎社長は、買収した企業の経営者として参画する経験があったからこそ、現在のポジションに適任であると判断されました。

    スタートアップを買収し、その経営に携わる経験を積んだ人材を評価し、登用するのは合理的に思えます。同氏は「CVC担当者が、その立場を活かして自らが買収した会社の経営者になるべき」とも提言しました。

    CVCの存在がスタートアップの事業に役立つ場面

    近年、スタートアップのEXITにおけるM&A比率が高まっているように、大企業によるスタートアップの買収は、その存在感を増しています。東証グロース市場の上場維持基準⾒直しは、この動きに拍車をかけていると言えるでしょう。

    出典Speeda

    大企業がスタートアップを買収したからといってその関係者がハッピーエンドを迎えるとは限りません。実際にはスタートアップ経営者は、ロックアップ期間(買収された企業の経営陣などが、買収後の一定期間、会社を辞められない時期)を経ると、「大企業のお作法」に嫌気がさして大企業を辞めてしまうケースが少なくないのです。

    しかしながら小澤氏は、起業した会社を2度買収され、その両方で買収企業に経営陣として残っています。その理由について尋ねられると、「これまでスタートアップという限られたリソースで勝負していたものが、買収されると大企業のリソースを使えるようになって、より大きなことを仕掛けられるようになる。こんなに面白いことはない。スタートアップの経営者は大企業の人材よりも経営経験を積んでいるのだから、大企業としても買収したスタートアップの経営陣には新規事業やM&Aを担当させるべきです。M&Aを果たした起業家はぜひ買収した側の経営者を目指してほしい」と呼びかけました。

    その話を受けた佐藤氏は「でも僕は、大企業の経営陣は目指しません。0から1と、1から10の楽しみは別ですし、得意・不得意もある」と語ります。
    佐藤氏は株式会社メタップスを創業し、上場まで導いた人物です。同社のIT系サービスは大企業とのシナジーを生み出すようなものではなかったこともあり、未上場時代はCVCではなく、独立系VCから資金を調達する方針でした。一方で現在経営するスペースデータ社は、宇宙や防衛といった国・官公庁との取引も発生するビジネスであり、企業としての「信用」が大事になってきます。その結果「今では事業会社系CVCや金融機関系CVCのありがたみがわかるようになってきたし、実際に資金も調達している」と振り返りました。

    佐藤氏が経営するスペースデータのようなインダストリアルテックの領域は、既存VCが得意としてきたIT領域ではありません。一方でCVCを擁する大企業には、これまで政府や安全保障の領域に精通した人材が在籍しています。彼らからは有益なアドバイスを受けられるでしょう。実際に佐藤氏も「スタートアップと大企業・政府をつなぐハブがなくなってしまうので、CVCがなくなるのは困る」という見解を示します。
    小澤氏も「国家規模のメガディールに関わるなどして、CVCが存在価値を証明できるなら、CVCは今後も存続していくだろう」と呼応しました。

    先述した通り現在、CVCは経営陣から「この活動は何のためにやっているのか」と問われる時期に差し掛かっています。担当者がこれまで心血を注いで培ってきたノウハウや経験、築き上げた人脈を組織の都合で埋もれさせるのがもったいないのは間違いないでしょう。CVCは自身の位置づけを今一度問い直し、いかに次のステップへつなげていくのか。参加者はそれを問い直すセッションになったと思います。

    会場前にはパナソニックくらしビジョナリーコラボのブースを出展しました

    220名のCVC担当者が京都に集結

    3つのメインセッション終了後には、CVCのネットワーキングパーティとしてサイドイベントが開催されました。完全招待制にもかかわらず、220名を超えるCVC担当者が一堂に会しています。

    CROSS TIDE」を通じて浮き彫りになったのは、CVCという枠組みが単なるマイノリティ投資の時代を終え、真の事業成長を担うための変革期にあるという現実です。投資リターンと事業シナジーの両立という難題に対し、より深い経営関与や戦略的なM&Aなど、CVCはどのように「存在意義」を組織内で証明していくのか。今回の議論が、参加したCVC担当者一人ひとりにとって、自らの活動と組織の未来を再定義する重要な起点となることを期待しています。

    取材:pilot boat 
    撮影:ソネカワアキコ
    編集:くらしビジョナリーコラボ

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