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【後編】「家電の終着駅」では何が起こっている?
関係者が語るリサイクルの思いとメッセージ

RECYCLE | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    生活の必需品である家電。新品や、元気に動いている様子は普段から見ているが、その「終わりの瞬間」を見ることはほとんどありません。私たちの家電は、役目を終えたときどこに帰り、その先には何があるのでしょうか? 前編では、実際に工場を訪れたことで、リサイクルの仕組みがわかりました。また、リサイクルとは、工場内で完結しているのではなく、家電を使う私たちの行動も重要になってくることも。

    では、私たちはこれから、リサイクルに対してどのような意識を持てば、より良い循環が生まれるのでしょうか? パナソニック エコテクノロジーセンター(以下、PETEC / ピーテック)で働く2名と、再生樹脂をつくる加東樹脂循環工場の責任者、リサイクル事業全体の運営に関わる方に集まっていただき、家電リサイクルの現状や、一人ひとりができることを語りあってもらいました。
    前編はこちら

    パナソニックでリサイクルや資源循環に携わるメンバーが語り合う。「捨てる」と「活かす」をつなぐものは?

    PETEC 総務部長 大坪 達弘氏、リサイクル事業統括部 小島 厳氏、PETEC 藤原みのり氏、加東樹脂循環工場 責任者 筒井 裕二氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ―― 早速ですが皆さんは、昔から環境問題への関心が高かったのでしょうか?

    藤原私はこの辺で育ってきたので、緑があるのは当たり前で、「環境問題ってなんなん?」というくらい関心がありませんでした。でも、ここに入って地球環境の変化を知るようになってから、環境問題にすごく興味が湧いて。だから工場案内の仕事をしていても、環境にぜんぜん興味がない人の気持ちもわかりますし、そういう人にどう言ったら理解してもらえるか、自分なりに考えて伝えられると考えています。

    PETEC 藤原みのり氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    藤原 みのり。PETECの工場見学の案内や出前授業を担当

    大坪私の場合はもともとプラズマテレビのパネルをつくっていたので、それまではリサイクルにはほとんど携わっていなくて、興味もそんなにありませんでした。異動してきた10年ほど前は、パナソニックが「エコアイディア宣言」をしたときでもあり、環境意識がぐっと盛り上がった時期。そのタイミングでこちらに来て、実際にリサイクルに携わるようになってから、資源循環を意識するようになりましたね

    PETEC 総務部長 大坪 達弘氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    大坪 達弘。PETEC 総務部長

    小島私が環境問題に興味を持ち始めたのは、地元である新潟県の冬の雪下ろしの作業が、子どもの頃に比べてどんどん回数が減っていると実感してからです。明らかに年々気温が上がっていて、そこからなぜ地球温暖化がこれほど進んでいるのか、何が原因で起こっているのか、気になるようになったんです。

    実際に前にいた部署では、タイで稲わらの野焼きの問題に取り組むNGOをサポートするボランティアに参加したこともあり、環境に貢献できるような仕事をしたいという思いが募って、ここにやって来ました。

    リサイクル事業統括部 小島 厳氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    小島 厳。リサイクル事業統括部所属

    筒井私は学生のとき、燃料電池に興味があって、入社後、その開発・事業化に携わることができて、それ以外にもなんだかんだ環境に関わる仕事に携わることができたので、環境問題に対しては、より強く興味を持つようになりましたね。また、リサイクルについては原体験もあって。それが1978年に放映されたテレビアニメ『未来少年コナン』第5話のワンシーンです。

    2008年の未来、リサイクル工場で廃プラスチックからパンをつくる工程が描かれていて、中学生ながらそれがすごく強く記憶に残っています。40年以上前といえば、大量生産・大量消費の時代。飲み終わったビンの回収など、リユースが中心に行なわれていた時代でしたが、その時代にイメージされていた未来のリサイクルの様子が、いまのリサイクルの工程と重なる部分が意外と多くあって、何か繋がっているという面白さを感じます。

    加東樹脂循環工場 責任者 筒井 裕二氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    筒井 裕二。加東樹脂循環工場 責任者

    家電を「きれいな状態で」リサイクルに出せば、その後の処理もスムーズになる

    ―― 家電リサイクルで「難しい」と感じる点はありますか?

    大坪数字で現状を捉えますと、長年にわたるリサイクルへの働きかけの甲斐もあり、近年はエアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4品目について、PETECのリサイクル率(再商品化率)はかなりの水準まで上がってきています。廃棄物を原料に戻す再資源化を行なうマテリアルリサイクルは90%を超え、廃棄物を燃やしたときに発生する熱を再利用するサーマルリサイクルと合わせると、95%以上がリサイクルに回されています。

    テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機のマテリアルリサイクル率、サーマルリサイクル率のグラフ | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    マテリアルリサイクル:新しい製品の材料や原料として再利用すること。サーマルリサイクル:ゴミとなった部分を燃やす際に発生する熱をエネルギーとして利用すること

    小島日本全体の家電回収率について、環境省によれば、2019年度の回収率は64%となっています。日本の場合、冷蔵庫や洗濯機の回収率はすでに90%近くまで到達しています。ただし、エアコンはいまだ40%弱を推移しているため、こちらは回収に力を入れなければいけないという現状がありますね。

    藤原回収の仕組みがうまく機能しているからこそ、このリサイクル率や回収率が実現できているんです。ですが、一般の人は意外と、回収された先で家電がどうなっているのか、具体的にイメージできていない人も多いかもしれません。

    「つくる→使う→戻す→生かす」の循環図 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    「つくる→使う→戻す→生かす」という循環型の仕組みを確立している

    大坪そのためにも、やはりまず現場を見ていただくのがいちばん早いですよね。

    小島そうですね。リサイクルにくる廃家電はひとつひとつ微妙に違います。多くの解体作業を人の判断・手作業に頼っています。それ以外にも、たとえばエアコンの室外機なんかは、外に置いてあるぶん、錆びついたりものすごく埃で汚れていて、そういったダストの除去からはじめるとなると、リサイクルの作業は大変です。その手間をかけても資源を丁寧に回収しようとしているリサイクルの現場を見ていただければ、リサイクルに協力しようと思っていただけるのではないかと思います。私もその一人でした。

    PETEC 総務部長 大坪 達弘氏、リサイクル事業統括部 小島 厳氏、PETEC 藤原みのり氏、加東樹脂循環工場 責任者 筒井 裕二氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    私たちが日常でできることは、「正しいルートで廃棄すること」

    筒井家電製品は、きちっとリサイクルの工程で解体が出来れば資源は取り出せるのですが、じつはそれがとても難しいんです。製品をつくるうえでは、パーツ同士を接着したり、さまざまな素材やカラーを使ったりと材料が混在します。

    そのため、それらを素材別に分けるとなると、どうしても異物が混ざるもので、そうなるともとの素材に比べて強度が弱くなったり、素材の特性が崩れてしまったりする難しさもあります。だから解体する際は、機械で壊して、さらにバラバラにして、色や素材別にきっちりと振り分けたりする必要があって、工程が複雑になってしまうんですよね、そのプロセスをつくるだけでも大変なんです。

    綺麗に分けて、もとの状態に近いかたちへ戻すことは、使える資源を取り出すためにとても大事なこと。何をやっても分けなければゴミですからね。

    藤原実際にPETECを見学に来る方も、そもそもこれだけの家電が毎日来ているのかと驚かれる方が多いですね。ここではパナソニックの製品に限らず、いろんなメーカーの家電の処理をしていますが、やはりPETECだけで頑張っていても意味がないとも感じていて。

    家電から資源を取り出し新たなものへと生まれ変わらせるためには、私たち自身はもちろん、販売する電気店さまやお客さま自身がリサイクルの重要性と大変さを理解していただく必要があると思っています。家電を廃棄するときって普通のごみとは違って何だか面倒、あまり深く考えずに回収してくれる方にお任せしたくなっちゃいますよね。そのなかには金属部品だけを取って山中などに不法投棄してしまうケースもあるんです。

    大坪そうなんですよね、不法投棄されたゴミのなかにフロンガスなどが残ってたりしたら大変ですし......。

    小島実際にエアコンは1台あたりCO2相当で約1.3t、冷蔵庫は約0.6tという大きな影響を持つフロンガスが入っていて、これらが大気中に放出されると地球温暖化へ直結してしまいます。

    筒井海面が上昇したことで街や島が水没しかけている地域の人は、地球温暖化の影響をリアルに感じているかもしれませんが、私たち日本人はまだまだ危機感が足りていないというか。いま身近で起きていることを、もう少しリアルに、真剣に「やばい」と感じていただけたら、リサイクルに対する意識も変わるのではないかと思います。

    回収された家電を「おかえりなさい」の気持ちで迎える

    ―― 家電リサイクルで「難しい」と感じる点はありますか?

    藤原やはりPETECも、「パナソニックだから見にきた」という方が多くて、そのネームバリューの大きさを現場では実感しています。最近は環境問題に興味がある若い方も増えてきていて、意識の高さを感じますね。「子どもと一緒にリサイクルを勉強しに来ました」という若い親御さんもいらっしゃいます。

    コロナ前は海外から小学生が来てくれたりもしました。なかでも、モンゴルから来た子は、リサイクルの勉強を熱心にしてくれて、自分の国に帰ってからも家電をどう処理すれば環境に負荷をかけないのか、その知識を広める活動をしてくれました。実際に行動に移してくれたのは嬉しかったですね。

    PETEC 総務部長 大坪 達弘氏、リサイクル事業統括部 小島 厳氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    小島たしかに海外の視点から日本のリサイクルを見ると、その細やかさには驚かれるかもしれませんね。金属だけではなく、プラスチックのパーツまで破砕前に回収しているのは海外では見たことがなく、日本の家電リサイクルは世界でも群を抜いてプラスチックを資源に戻せる率が高いと思います。

    大坪もう少し解体が簡単にできて、素材をしっかり分ける仕組みが導入できれば、ペットボトルからペットボトルへの「水平リサイクル(同じ製品に生まれ変わる)」がかなり普及しているのと同じように、家電の水平リサイクルもいま以上にやりやすくなると思います。パナソニックの場合は、解体し、リサイクルし、また製造するという、全体の工程を手掛けられる強みがありますから、商品の設計から改善していく環境配慮設計については、引き続き進めていきたいですね。

    筒井まだまだ全部ができているというわけではありませんが、例えば、環境や人に有害な鉛ハンダを基板に使わないなど、環境への配慮で着実に改善されていっています。それが結果的に良かったかがわかるのは、家電がPETECに帰ってきたとき。長期的な取り組みが必要になるんですよね。

    ―― 家電リサイクルで「難しい」と感じる点はありますか?

    大坪PETEC創業以来21年間で、PETECは1,700万台以上の家電の処理を達成しました。これは国内の5%程度を占める割合です。これだけの数をリサイクルしてきたと思うと、感慨深いですよね。私も長年ここに勤めていますが、たまに、油性ペンで「ありがとう」と書かれた廃家電に出会います。文字を見るに、子どもが書いたものなんですね。そんなときは、生活者の皆さまとパナソニックの心がつながるあたたかな瞬間に立ち会えたようで、とても嬉しくなるんです。ですから私自身も、いただいた「ありがとう」の思いをしっかりと次の製品へとつなげていこうと、身が引き締まる思いで「おかえりなさい」と迎え入れています

    小島たしかに、私も回収に出す際は「いってらっしゃい」と感謝を込めて送り出すようになりました。嬉しさを感じる瞬間で言うと、私は回収率が上がったときかな。

    藤原私はやっぱり、見学者の意識が大きく変わったことがわかる瞬間が、いちばんのやりがいになっています。興味がなさそうに見えた子から帰り際に「ちゃんとリサイクルするから」と言ってもらえたときは「よっしゃー!」となりますね。

    筒井私は再生樹脂を使った家電が店頭に並んでいるところを見ると本当に嬉しいですね。リサイクルされた資源を、しっかりと処理して商品として売り出していく。ゆくゆくは、お客さま側にも「リサイクル資源を使った商品」という点に価値を感じていただく。そういう理解しあえる関係性が生まれることで、リサイクルの好循環が生まれていくんじゃないかと思います。

    そのためには教育も大切です。資源も潤沢にない時代だからこそ、みんなが環境への意識を高め、いまあるものをしっかり有効活用していく。そういうサステナブルな状態が機能する世界にしていきたいですね

    Profile

    藤原 みのり(ふじわら・みのり)

    2014年入社。総務部でPETECの工場見学の案内や、小学校への出前授業を担当。PETECの取り組みへの理解を促している。

    大坪 達弘(おおつぼ・たつひろ)

    PETEC 総務部長。もともとはパナソニックでプラズマのパネルづくりを担当。2011年にPETECに異動後は、現場工場長も歴任した。

    小島 厳(こじま・いわお)

    家電リサイクルを統括する、リサイクル事業統括部所属。それまでは半導体の回路設計をしていたが、環境問題への興味が増し2019年にリサイクル事業統括部へ。

    筒井 裕二(つつい・ゆうじ)

    2016年から加東樹脂循環工場を担当 。環境推進部所属主幹。半導体、太陽電池、リチウム二次電池、燃料電池、コールドチェーン事業など、電気や熱に関わる開発・生産に携わる。

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