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17のゴール・169のターゲットから構成されるSDGsは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。さらにSDGsでは「ジェンダー平等を実現しよう」(目標5)や「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)が掲げられており、社会全体で多様性の尊重を推進する動きに注目が集まっています。
世の中の動きに先駆けて、美しさの多様性をあと押しするブランドへとアップデートをはかっているのが、パナソニックが展開する美容家電群です。「パナソニックビューティ」では、ピンク色からブランク(透明 ※詳細は後述)へとロゴも刷新しました。また、メンズシェーバーでは「ビジネスパーソン」から「ヒゲを剃る人すべて」にペルソナを変更。プロモーションには、噺家、漁師、ドラァグクイーンなどさまざまな職業・ライフスタイルの人物を起用し、反響を呼んでいます。
従来の「美容が好きな若い女性」や「会社員の男性」というユーザー像から進化を遂げた背景にあるのは、「性別で分けて考えるのではなく、すべての人に向けて、一人ひとりが願う・想う美しさを叶えるサポートをしたい」「LGBTQの潮流に関わらず、あらゆるライフスタイルを送る一人ひとりの悩みを解決したい」というつくり手の熱い想い。彼らの「Make New」な活動を紐解くべく、美容家電部門のブランディングやプロモーションを担う中心メンバー4名へのインタビューを行ないました。
男女を分けず、頑張っているすべての人に向けてブランドをアップデート
――コロナ禍をはじめ、ここ数年のあいだで世の中のライフスタイルに大きな変化が生じました。みなさんが携わる美容家電の領域ではどのような変化や傾向を実感していますでしょうか。
角田マスク着用の生活があたり前になったこの数年で、「マスク老け」という言葉が生まれました。この言葉に代表されるように「顔が隠れているので表情を動かす機会が減り、顔のもたつきが気になる」という声が多く届くようになりました。そうした声を受け、パナソニックでは2022年5月に筋肉を効率よく鍛えられる(※1)リフトケア(※2)たるみケアの美顔器をリリースしたところです。
※1)電気刺激を筋肉に伝え、筋肉を収縮させること、※2)引き上げるように動かすこと
市川メンズシェーバーにおいては、リモートワークが定着化しつつあるいま、ヒゲを剃る頻度に変化が生まれています。「毎日はヒゲを剃らない」という方に好評を得ているのが「ラムダッシュPRO 6枚刃」。この製品はクセの強いあご下のヒゲ剃りに効果的で、その点を強く訴求しました。販売も好調で、メディアの方々からも高く評価されるなど、市場に対する影響力も大きかったのではないかと思います。
高橋私が担当するムダ毛ケア領域にも変化が見られました。従来からの女性に加え、男性も「腕や脚のムダ毛ケアをしたい」という方が増えたと実感しています。それだけでなく、若いうちから美容意識の高い中高生が、親御さんと二世代でシェアして使っていただくといった傾向も見受けられるようになりました。
――世の中が変化をしていくなか、2021年には「Panasonic Beauty」のロゴカラーを変更、新たなコンセプトを打ち出すなどブランド自体も新たなフェーズに入ったと思います。そもそも、なぜリニューアルを行なったのでしょうか?
角田2010年に、働く女性を中心に、日々の忙しさゆえに美容に時間をかけられない女性を応援するというコンセプトを立てました。そして、「忙しいひとを、美しいひとへ。」というメッセージのもと、女性の目を引きやすいピンク色をメインカラーに、お客さまとコミュニケーションしてきました。
しかしいまや女性の社会進出は当たり前。性別で分けて考えるのではなく、心地よい自分を探そうとするすべての人に向けて、一人ひとりが願う・想う美しさを叶えるサポートをしたい。そのような意味を込めて、昨年9月に、ロゴをピンクから「ブランク」へアップデートしました
便宜上、ロゴは「ホワイト」で表現されますが、 これは色彩としての「白」ではなく、「ブランク」を意味しています。特定の「色」を押しつけないというスタンスを示すと同時に、お客さま一人ひとりが、ご自身が好む色をのせて、「Panasonic Beautyとなら思い思いの理想や未来へ向かっていける」とイメージしていただきたいなと考え、「ブランク」にしています。
製品開発においてエビデンスをとる際も、これまで女性を対象に実施していたところを、男性にご協力いただくこともあります。「光エステ」はその最たる例で、女性のムダ毛ケアだけでなく、男性のヒゲも想定したうえで、企画の段階から、きちんとお客さまにその効果や良さをお伝えすることを考えていました。
一方、パナソニックビューティのコンセプトやロゴは更新したものの、私たちの姿勢自体に変化はありません。例えば、絶対的に真面目で真摯なものづくりを行ない、お客さまにきちんと効果を実感してもらえる製品を提供するという姿勢もその一つ。それらをないがしろにしないという想いは、ずっと変わらずにあり続けています。
ドラァグクイーン、漁師。多様な職業の方を起用したメンズシェーバーのCM
――みなさんが手がける広告やプロモーションにも変化があらわれているのでしょうか。
二本木私はこれまで長くAV機器に携わってきたのですが、3年前からメンズシェーバーのラムダッシュのクリエイティブまわりに携わるようになりました。
従来、ラムダッシュのような高価格帯の製品は、「東京・港区在住、高収入の男性会社員」といったペルソナを設定し、男性タレントを起用した広告やプロモーションを打つことが業界のセオリーになっていました。
しかし、ラムダッシュは日々お客さまの身体に直接触れる繊細な製品です。品質には自信があったので、これまでのように職業や年収、住まいなどを限定するのではなく、誰にとっても良い製品であるというコミュニケーションが必要だと考えました。そしてたどり着いたのが「ヒゲを剃るすべての人へ」というものでした。
――たしかに、ラムダッシュPRO 6枚刃のテレビCMやプロモーション動画には、会社員・バリスタ・噺家・漁師・ドラァグクイーンなど、多様な職業の方々が出演していますね。
二本木はい。彼らに共通しているのは、「ヒゲを剃る」という一点のみ。ヒゲを剃る理由も、「若々しく見られたい」「一日の始まりに気合いを入れるために剃る」「お化粧のノリをよくするために剃る」.........といったように十人十色です。
本プロモーションに対するリアクションも各方面から頂戴しましたが、なかでも「パナソニックはヒゲを剃るすべての人たちと真摯に向き合おうとしているよね」という声は非常に嬉しかったですね。
市川もちろん、ラムダッシュPRO 6枚刃という製品の良さについても、きちんと伝えていかなくてはなりません。わかりやすい例でいえば「従来の製品の何倍剃れる」といった類のキャッチフレーズです。たしかにそうしたメッセージングも大切ですが、それをメインにコミュニケーションするのでは従来のプロモーションと何も変わりません。パナソニックがお客さまと向き合う姿勢の変化を示しつつ、製品の良さも伝えていく。そのバランスには苦労しましたね。
角田オフィスで同製品のポスターを見たときの第一印象は「意外」だということ。思わず立ち止まるほどでした。これまでのように黒背景に製品が一面にアピールされたわかりやすい広告とは程遠いというか。
メンズシェーバーなので、自分がユーザーではありませんが、この広告を見たときに「自分のまわりの人にいい変化をもたらしてくれる製品なのではないか」とポジティブな印象を抱いたことを覚えています。
―― 一人ひとりと向き合うようなメッセージに変化した結果、みなさんの仕事への向き合い方やお客さまとのコミュニケーションにどのような変化をもたらしましたか。
市川誤解のないようにお伝えしておきたいのですが、ターゲットやペルソナを設定することは当然必要です。ただし、その切り口を年齢や性別といった考え方から、価値観やライフスタイルといったものに変えていく。「柔軟に考える」ということが大切です。そのため、いままで以上にあらゆる立場や年齢の方と会話するよう意識しました。
今回のラムダッシュの場合、私と同世代の男性のインサイトを探るだけではなく、自分よりひと回りやふた回り年下の子や、女性と会話して探ることもありました。コミュニケーションをとる人の幅が広がった点は自身のなかでの大きな変化でしたね。
二本木今回のクリエイティブでは、噺家・漁師・ドラァグクイーンなど、「自分がメンズシェーバーの広告に出るとは思ってなかった」という方々とお話する機会もありました。そうしたさまざまな職業の方と対話するなかで、ヒゲを剃る人が10人いれば10通りの悩みがあるし、10通りの剃る頻度、剃る理由が存在するということがわかったんです。会社の外に出て、より多くの人と触れ合うことが大切だとあらためて学びました。
高橋私が担当するVIO専用シェーバーでは、理想のVIOについて調査を実施しました。一口にVIO処理といっても、完全にツルツルにしたいという方もいれば、かたちを整えたい、毛量を減らしたいなどニーズはさまざまです。
そのため、お客さまとのコミュニケーションでは、「ツルツルにするべき」というような限定的なメッセージは避けるようにしています。特にVIOとなると、周囲の人がどういったケアをしているのか聞きづらい。だからこそ、こちらからさまざまな選択肢があることをお伝えし、お客さま一人ひとりがご自身に合ったVIOケアを選んでいただけるような環境づくりを意識しています。そうすることで、お客さまの「○○しないといけない」という先入観やストレスを解放し、美容への向き合い方やそこにかける時間をポジティブなものにできれば、と思っています。
角田男女どちらに対しても多様な選択肢のある情報を届けたいという意識は年々強くなっています。男性に対しても「○○しないとモテないよ」という決めつけではなく「○○することで、気持ちよく暮らせるきっかけになるよ」という言い方に変化させて、コミュニケーションを工夫するようになりました。
想いを押しつけず、一人ひとりに寄り添って美しさのサポートをしたい
――ここまで聞いていると、みなさんの思いや考えがこれらの活動の軸にあるように感じます。今後目指したい未来や大事にしたい想いについてお聞かせください。
市川最近、製品の発表会やインタビューの場で「パナソニックらしくないですね」といわれることが増えました。それはつまり、従来のパナソニックは保守的で尖った製品が少なかったとお客さまに思われていたということのあらわれだと捉えています。昨今ではメンズシェーバーらしくないデザインや、従来になかったような新しいコンセプトの製品(スキンケアシェーバー ラムダッシュ 3枚刃)を発売するなど、新しい挑戦を続けているなかでこういったコメントをいただけるのは非常に嬉しく感じています。
市川私は、大切にしたい想いが二つあります。一つは、「絶対的な基準を設定して、そこにみんなを導く」のではなく、「昨日の自分よりも何かが良くなる」お手伝いをしたいという想いです。つまり、一人ひとりに寄り添いその人の美しさを引き出すことが、自分の仕事だと思っています。
そしてもう一つは、いまお話ししたことと相反するようですが、そうした想いを押しつけたくないということ。人間ですから、成長したくないときだってあります。誰しもが「昨日の自分より良くなりたい」と願うわけではないですから。「キレイになりたい」「カッコよくなりたい」と思ったとき、パナソニックビューティの製品がすぐ傍にいて、あなたを応援するよというスタンスを大切にしています。
――最後に、みなさんが考える「多様性」もしくは「多様性のある社会」とはどういったものでしょうか。また、それらを実現するうえで仕事において大切にしたいことはなんですか?
高橋私は、多様性という考え方が浸透し始めて「自分自身どうあってもいいし、どんな生き方でもいい」と思ったら、すごく心が軽くなったんです。しかし、「多様性を大切にしましょう」と言葉で押し出しても、それはそれで多様性を押しつけることになってしまうと思います。ですから、「あらゆる選択の余地があるんだよ」というメッセージを大切に、伝えていきたいと思っています。
二本木正直なところ、多様性という言葉を初めて聞いたときは違和感がありました。世界にはおよそ約80億の人間がいますが、それはつまり「80億通りの違いがある」というただそれだけのこと。ラムダッシュのプロモーションを企画した際も、決してLGBTQの文脈につなげたくてあのキャスティングに至ったわけではありません。伝えたかったのは、あらゆるライフスタイルを送る一人ひとりに対して、それらの悩みを解決するメンズシェーバーがあるということなんです。
市川多様性という言葉は、裏を返すと、一人ひとりが多様であるという事実が定着していない、認められていないことのあらわれなのではないかと思っています。だから、私は多様性という言葉そのものをなくしたい。
もっと掘り下げていくと、本来は一人の人間のなかにも多様性が存在しているはず。朝の自分と夜の自分では気分が違うこともありますよね。気分にムラがあって当たり前のこと。昨日と今日では考えが180度変わることだってあるはずなんです。
角田DEI(ダイバーシティー、エクイティ&インクルージョン)以外にも、モノの価値や定義、価値観などが進化しています。幸いにも、私たちは自社で複数のSNSを運用しており、ありがたい言葉も苦言も日々たくさん頂戴しています。自分以外の人がどんなものの捉え方をしているのかを知ることのできる手段がある以上、それらをインプットして、次のものづくりにつなげていくことが、私たちのすべきことなのかなと思っています。
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Profile
角田 あかね(つのだ・あかね)
パナソニック株式会社 CMJ メディア戦略課(パナソニックビューティ担当)。2018年に転職し、パナソニックビューティのウェブマーケティング担当に。2022年より宣伝担当に就任し、2022年のブランドチェンジやアドバンスドラインローンチキャンペーンなどを手がける。
二本木 克好(にほんぎ・かつよし)
パナソニック株式会社 CMJ クリエイティブ課(パーソナル・ヘルスケア担当)。 クリエイティブ職として入社以来約20年、AV製品や情報通信機器の宣伝を担当。 スキンケアシェーバーやラムダッシュ6枚刃のキャンペーンなどを手がける。
市川 央(いちかわ・なか)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部のパーソナル部門において、国内のマーケティングを担当。メンズシェーバーからメンズグルーミング、オーラルケアなど幅広く手がけている。
高橋 瑠菜(たかはし・るな)
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部(ビューティマーケティング担当)。 入社以来ビューティ製品に携わり、現在は光エステやフェリエなどボディケア製品のマーケティングを手がける。