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持ち手のない電気シェーバー?デザイン起点で生まれた「ラムダッシュ パームイン」の開発秘話

パームインシェーバー | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    パナソニックから9月に発売される、5枚刃の電気シェーバー「ラムダッシュ パームイン(以下、パームイン)」。これまでのシェーバーにはない斬新なデザインで、洗面所をはじめどこに置いても自然に調和するのが特徴だ。刃に近い部分を握ることになるため、「剃る」体験もこれまでとはまったく異なる。

    そんな本製品は、「デザイン起点」で生み出されたという。まずはつくりたい「未来の定番」をイメージし、それを蓄積された技術によって実現する。デザイン性も機能性も妥協しない。そんな開発背景にはどのような思いやチャレンジがあったのか。「パームイン」をデザインした別所潮と、そのデザインを実現させた技術担当・村木健一に話を聞いた。

    持ち手のないシェーバー「パームイン」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    (画像提供:パナソニック株式会社)

    シェーバーの「体験価値」を変えたかった

    ──「パームイン」の最大の特徴は、既存のシェーバーとはまったく異なるデザインです。この商品コンセプトにはどのような狙いがあったのでしょうか。

    別所「シェービングという行為を見直してみたい」という思いがまずありました。これまでのシェーバーは「いかに速く、深く、優しく剃れるか」という性能面を競い合ってきました。しかし、いまの時代は性能面だけでなく、デザイン性や「自分のライフスタイルに合っているかどうか」という基準で家電やガジェットを選ぶ人もいます。シェーバーも、ただヒゲを剃るだけのものではなく、肌をいたわるように使うことで気分をあげたり、日々のくらしを豊かにしたりするような道具であるべきなんじゃないかと。

    「パームイン」をデザインした別所潮氏  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    「パームイン」をデザインした別所潮

    ──世の中の価値観やライフスタイルに合わせてシェービングの体験価値を変えたかったと。

    別所そのとおりです。だからこそ色や質感、サイズ感など、徹底的にこだわりました。

    右から、国内シェーバー市場をリードしてきた「ラムダッシュ」と、さらに世界観を広げる「パームイン」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    国内シェーバー市場をリードしてきた「ラムダッシュ」(右)と、さらに世界観を広げる「パームイン」(左)

    ──肝心の「剃り心地」についてはいかがでしょうか。「パームイン」は、この形状で5枚刃を実現しているそうですね。

    別所それだけでなく、日本刀と同じ鍛造技術でつくられた切れ味鋭い刃やパワフルなリニアモーターなど、長年ラムダッシュで培われた技術をそのまま継承しているので、剃り心地は申し分ないと思います。

    加えて従来のシェーバーでいう「ヘッド」、つまり刃に近い部分を握ることになるため、扱いやすさが格段に増しています。なでるような感覚で剃ることができるんです。

    「持ち手のない」大胆なデザインはどこから生まれた?

    ──「パームイン」はデザイン起点で開発されたとのことですが、具体的にはどのような流れで企画が立ち上がったのでしょうか。

    別所パナソニックでは毎年、デザイン部門の先行提案を事業部や経営幹部と議論する「Advanced Design Review(アドバンスド・デザイン・レビュー)」という検討会を開催しています。そのなかで将来可能性のある提案は、事業化に向けて具体的に検討し詰めていきます。そこで提案したひとつが、「パームイン」の企画でした。

    デザインチームが最初に出したコンセプトビジュアル | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    デザインチームが最初に出したコンセプトビジュアル(画像提供:パナソニック株式会社)

    ──「持ち手をなくす」という大胆な発想はどこから生まれたのでしょうか。

    別所じつは、技術部門が元となる試作品をつくっていたんです。2017年に先行技術開発のなかでつくられたもののひとつですが、当時は全然社内で話題にならず、お蔵入りになっていました。

    技術部門が試作品としてつくった、持ち手のないシェーバー | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    技術部門が試作品としてつくった、持ち手のないシェーバー

    別所このプロトタイプを着想の源にしてアイデアを練り、実物に近い模型をつくって提案しました。

    左二つがサイズ検証用モデル、右二つがワーキングモデル | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    左二つ:サイズ検証用モデル、右二つ:ワーキングモデル

    ──社内の反応はいかがでしたか?

    別所事業部や経営陣からの反応は最初の段階から良かったですね。シェーバー市場が成熟化しているなかで、何か新たな打ち手を求めていたのは共通認識としてありましたから。

    また、性能を落とさずこのサイズに収めるというほかには真似できない技術的な優位性も、評価されたポイントだと思います。一般的なシェーバーは刃を振動させるモーターを持ち手部分に格納していますが、ラムダッシュでは小型の「リニアモーター」を採用し、ヘッド部分に格納しています。その違いが、持ち手がない「パームイン」のデザインを実現したのです。

    あとは当社独自の骨格としてアイコニックなデザインにまとまったことも良かったポイントだと思います。

    手のひらに乗るシェーバー「パームイン」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    (画像提供:パナソニック株式会社)

    ミリ単位のせめぎ合い。デザインを実現する設計の手腕

    ──設計者として、はじめてデザインのコンセプトを見たときどう感じましたか?

    村木デザイナーから出てくるアイデアは商品化が難しいものが多いんです。新しいものを考えるためにやっているわけなので、ある意味当然なんですけどね。しかし「パームイン」はコンセプトも面白いし、実際に試作品を触ってみると質感も良く驚きました。

    「パームイン」の本体設計を担当した村木健一氏  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    「パームイン」の本体設計を担当した村木健一

    ──デザインが決まってから中身をつくっていったとのことですが、設計はどのように進められたのでしょうか。

    村木「パームイン」の設計における大きな問題は、規定のサイズにすべての部品を収められるかという点でした。まずはデザイナーから渡された3Dデータを検討し、「ここは入るけど、ここは難しそう」といったフィードバックをします。部品をなかに収める際、「熱が出る部品を電池の周りに近づけてはいけない」「強度を高めるために厚みを確保しなければならない」といった考慮すべき点がいくつもあるので、単純にスペースがあれば大丈夫というものでもないんです。

    ──必要に応じてデザインを修正してもらうということですね。

    村木はい。ただ、そこはどうしても毎回議論になります。どうやっても収まらないので「縦を5mmぐらい長くできない?」と相談したら、ばっさり「ダメです」と返ってきたり(笑)。

    別所本当に数mm違うだけで握ったときの感覚が全然違うんです。見た目のプロポーションも思った以上に変わってしまいますしね。

    村木もちろんわれわれも、このデザイン案のまま実現できなければ意味がない企画だということはわかっていましたから、なんとか実現する方法を探りましたよ。

    インタビューの様子 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ──具体的に大変なのはどの部分なのでしょうか。

    村木一番は電池じゃないでしょうか。モーターに次いで大きなパーツなので、サイズを削るにはなるべくここを小さくしたい。なのでスマホに使うラミネート電池など、普段使わない小さな電池もいろいろ試してみたんです。でも結局出力や安全面に不安が残り、電池は変えずにほかのスペースを削ることになりました。

    「パームイン」の断面(小さな機体に収まるモータや電池などの部品) | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    「パームイン」の断面(小さな機体に収まるモータや電池などの部品)

    ──断面図を見ると、本当にパズルのような複雑さですね。

    村木回路も、普通は1枚の基板が入っているだけなんです。「パームイン」の場合はスペースが小さいので、その基板を三分割して無理矢理収めています。もちろん普段はそんな方法をとらないですし、つくるのも大変になるので、回路設計の部門にお願いしてなんとかかたちにしてもらいました。

    「究極の道具」として、質感にもこだわり抜いた

    ──質感にもこだわったというお話がありましたが、材質などはどのように決められたのでしょうか。

    別所目指していたのは、「石のような自然物の佇まい」です。石ってどの空間においても自然ですよね。洗面所にあっても不自然じゃないし、デスクにあってもいい。そんな佇まいをつくりたかったんです。質感の面では、やわらかな手触りがありつつもひんやりした感触も出せる、というのが理想でした。

    インテリアに溶け込むシェーバー「パームイン」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    (画像提供:パナソニック株式会社)

    ──たしかに、一般的にイメージする「家電」らしさがなく、インテリアにも馴染みそうな佇まいです。「石」がモチーフになっていたんですね。

    別所僕自身、もともと石を拾うのが結構好きなんです。それもあって、「石らしさ」という裏テーマを今回自分のなかで持っていました。

    石をモチーフにした「パームイン」のデザイン | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    石をモチーフにした「パームイン」(画像提供:パナソニック株式会社)

    別所理想をいえば、大理石を削ってつくるのが一番良かったんですけどね。とはいえ、人工大理石などを素材にするのは加工の難しさやコストなどさまざまな面から難しく、結局は樹脂のなかから候補を探すことになりました。

    質感の良い樹脂を新たに探すなかで出会ったのが、海洋ミネラルを配合した三井化学さんの「NAGORI™」です。ミネラルは金属なので比重も重く熱伝導率も高いのが特徴で、ひんやりとした陶器のような質感があり、触った瞬間に「これだ!」と思いましたこれまで家具や雑貨などには使われていたようですが、家電に用いられるのは「パームイン」が初めてだそうです。

    「NAGORI™」のペレット | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    「NAGORI™」のペレット

    ──素材の面でも常識破りだったのですね。この模様も「NAGORI™」由来なのでしょうか。

    別所「NAGORI™」自体はもともと真っ白な素材なのですが、理想とする大理石の模様を表現したくて色のついたペレットを混ぜ込んでいます。現在の模様に至るまでにはかなり苦労がありました。

    村木塗装やフィルムの貼り付けではなく、色つきのペレットを混ぜて金型に流して成形しているんですよね。模様は素材の色の濃さ、量、溶かす温度、圧力などによってがらっと変わります。理想の模様を出せるようになるまでに、半年以上かかったと思います。

    別所最初はタイルや着色剤のメーカーに依頼してみましたが、イメージどおりの模様がなかなか出ず、結局何種類もの色つきペレットを入手し、自ら配合してつくることにしたんです。前例のない試みなので、何もかも手探りでした。期限が決まっていたので正直焦りもありましたね。

    理想とする大理石の模様を出すため、何パターンも成型試作を重ねた | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    模様のリファレンスになった大理石のサンプルと、成型の試作品

    別所理想の色味や模様を生み出すために、専用の金型をつくって何回も試作品をつくりました。

    村木一つひとつ模様が異なるなか、品質や統一感を担保するのが非常に難しかったです。模様が薄くなっても濃くなっても汚く見えちゃうので。

    別所幸い経営層から「お金はかけていいから、納得のいく品質のものをつくってくれ」という声をかけてもらっていたので、とことんこだわらせてもらいました。

    「どんな未来やくらしをつくりたいか」をイメージしながら、開発を進める

    ──さまざまなこだわりが詰め込まれているのですね。最初のデザイン企画案から販売開始まで、どれくらいの期間がかかったのでしょうか?

    別所企画から仕様完成まで約1年、そこから販売開始までさらに1年ほどですね。

    ──あらためて開発の工程を振り返ったときに、「デザイン起点」での開発の利点はどこにあると思われますか。

    別所メーカーはやはり「どうしたら売れるか」を考えて商品をつくることが大半です。もちろんユーザーのニーズをしっかり拾ったうえでの販売戦略なので、それが間違っているとは思いません。

    ただ、いまあるニーズから出発するのではなく、「どんな未来をつくりたいか」「社会や人々のくらしをどう豊かにするのか」をイメージしながら、人間中心かつ未来起点で開発を進めていくというのも一方では必要です。それを目に見えるかたちにしてリードするのが、われわれデザイナーの役目かなと。今回はそれらを踏まえたうえである意味、「世に問う」商品になったかと思います。

    村木数mmの違いを譲らないのも、模様が出るまで試行錯誤するのも、ユーザー体験を妥協したくなかったからですよね。そこはぜひ、実際に触れて感じていただけたら嬉しいですね。

    浴室に置かれた、コンパクトなシェーバー「パームイン」 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    (画像提供:パナソニック株式会社)

    ──「パームイン」はいよいよ9月に発売となります。あらためて、この商品に込められた思いを教えてください。

    村木どうしてもヒゲ剃りって、毎朝面倒だなと思いながら仕方なくやるのがあたりまえになっていますよね。「パームイン」をきっかけに、それが少しでも楽しい時間になるといいなと思います。

    別所「化粧品売り場に置いても違和感がないようなシェーバーをつくりたい」というのが、開発時からずっと考えてきたことでした。「パームイン」をきっかけに、これからの社会のなかでシェーバーが「新たなライフスタイルをつくるアイテム」として定着してくれたら、これ以上嬉しいことはないですね。

    左から設計担当の村木氏、デザイン担当の別所氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    Profile

    別所 潮氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    別所 潮(べっしょ・うしお)

    パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 くらしプロダクトイノベーション本部デザインセンター AD2部。
    2015年入社。プロダクトデザイナーとしてパーソナルケア商品を中心にデザイン開発に従事。冷蔵庫、オーラルケア商品、浄水器などを担当し、現在はメンズケア商品を手がけている。

    私のMake New|Make New「Answer」
    刻一刻と変わる世の中に対して一歩先にひとつの「答え」を見つけて提示したい。難しいですがそんな思いで商品開発をこれからも進めていきたいと思います。

    村木 健一氏のプロフィール写真 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    村木 健一(むらき・けんいち)

    パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 パーソナルビジネスユニット パーソナル商品部。
    1999年入社。技術者として女性用理美容機器を中心に本体設計に従事。2018年4月よりパーソナル商品部メンズ商品設計課に在籍。脱毛器、光エステ、スキンケアシェーバーなどの開発を手掛けている。

    私のMake New|Make New「Life」
    生活スタイルを変えるような商品を生み出すという意味で。

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