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2023年6月28日から30日の3日間にわたって開催された『IVS2023 KYOTO』(会場:京都市勧業館「みやこめっせ」)。30回目を迎える今回は、これまでの完全招待制からチケット制に移行するなど、初めてオープンなイベントとして行なわれた。
国内外の起業家やスタートアップ関係者、投資家、そして大企業のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や新規事業担当者などが出会い、つながる貴重な機会。パナソニックも参加した、国内最大規模のスタートアップカンファレンスの模様をレポートする。
参加者1万人超え。「開かれたIVS」がもたらす価値とは
『IVS』は2007年から続く国内最大級のスタートアップカンファレンス。国内外の起業家やスタートアップ関係者、投資家、研究者、エンジニアらが集い、新たな出会いを創出する場として、回を重ねるごとに規模を拡大してきた。
2023年6月28日から30日の3日間にわたり、京都市勧業館「みやこめっせ」を会場に行なわれた『IVS2023 KYOTO』では参加者数、コミュニティパートナー数、連携VC数、協賛企業数など、軒並み過去最高を記録。特に、参加登録者は1万人を超え、前回の『IVS2022 NAHA』の2,000人から約5倍の規模となった。
参加者が急増した大きな要因は、今回からイベントを「オープン化」したことだ。じつは、前回までのIVSは完全招待制。参加者同士の密な交流やネットワーキングの醸成につなげるために、あえてクローズドなコミュニティに閉じていた。
しかし、今回はチケットを購入すれば誰でも参加できるように。これから起業を志す人や、スタートアップに関わりたいと考える個人や企業にも、広く門戸を開いた。
初開催から15年目、30回目の節目にして大きな変革に踏み切った背景には、IVSという場をインナーなカンファレンスで終わらせず、さらに大きく発展させていきたいという主催者側の明確な意図が感じられる。イベント後、IVS運営者の一人である前川寛洋氏(ファンズCFO)は、以下のように思いを綴った。
結果的に自分たちはカンファレンスを作りたいのではなく、スタートアップが持続的に生まれ、飛躍的に成長していくために必要な全てを提供できる場でありたい。そして日本発を世界へ送り出し、また世界と日本を繋ぐ場所でありたい。つまりグローバルTOPのスタートアッププラットフォームを目指すのだと決意しました。
(「Nobuhiro Maekawa」note「あなたのスタートアップ物語は、ここから始まる-IVS NEXT CITY」より引用)
こうした目論見どおり、当日の「みやこめっせ」会場には、どこかギラギラとした活気がみなぎっていた。複数箇所に設けられたステージではさまざまなトークセッションやピッチが代わるがわる行なわれ、どの回も席数のキャパを上回る盛況ぶり。ピッチに登壇した起業家のもとにはVCや大企業のCVC担当者が集まり、出資や協業に向けたコミュニケーションが行なわれるシーンも。ここから何かが始まりそうな予感が、会場のそこかしこに漂っていた。初めての「開かれたIVS」は、まさに狙いどおりの結果を生んだと言えそうだ。
スタートアップから選ばれる大企業であるために
今回のIVSにはスタートアップだけでなく、彼らと協業の道を探る大企業も多数参加。パナソニックも、そのうちの一社だ。ブースの出展に加え、メーカーとして初めてイベントのスポンサーにも名を連ねた。その狙いについて、パナソニック株式会社CVC推進室 室長の郷原邦男は次のように語る。
郷原パナソニックは2022年7月に、CVC(パナソニックくらしビジョナリーファンド)を設立しました。国内外のスタートアップに対し10年間で80億円の投資を予定し、すでに複数社への出資・協業が始まっていますが、まだまだスタートアップとの接点は少ない。そのため、まずはパナソニックにCVCがあることを多くの人に認知してもらう必要があります。
どんな理念を持ち、どんな領域で、どのような価値を生み出そうとしているのかを知っていただき、スタートアップのみなさんから協業のパートナーに選んでいただけるような存在にならなければいけない。
そこで今回、国内最大級のスタートアップカンファレンスIVSをスポンサードし、積極的に発信を行なわせていただくことになりました。
郷原は何度も「いまは大企業がスタートアップを選ぶのではなく、向こうから選んでもらう時代」と口にした。特に、パナソニックくらしビジョナリーファンドは大企業のCVCとしては後発であり、先行企業を上回るバリューを示せなければスタートアップからは見向きもされないと語る。
郷原当然、パナソニックとしては共に事業シナジーを生み出せるスタートアップの方々とつながりたいと考えていますが、すでに素晴らしい取り組みをしているスタートアップは大企業と協業しなくても、自力で成長できるわけです。
そのようななかでパートナーに選んでいただくためには、パナソニックがこれまで培ってきた技術力や実際のプロダクト、さらにはグローバルに広がる販売網など、私たちにしかない強みを打ち出し、いかに魅力的なラブコールを送れるかが鍵。スタートアップの事業ステージに合わせ、彼らがいま求めるものを明確に提示していくことが必要です。
そういう意味では、国内外の優秀なスタートアップと直接つながり、密にコミュニケーションできるIVSのような機会は、パナソニックのCVCをアピールする大きなチャンスだ。実際、この3日間だけでも、数多くの刺激的な出会いがあったという。
郷原起業家の方々はもちろん、国内外の優秀なスタートアップを知り尽くすVCの方や、起業や協業の支援を行なっている方なども、私たちのCVCに興味を持ってくださいました。たとえば、イスラエルのスタートアップと日本の企業の協業を橋渡しする会社など、ある領域に特化した強みを持つプロフェッショナルと知り合えたことも大きかったですね。せっかくのこうした出会いを、具体的な出資や協業の動きにつなげていきたいと思っています。
出資先スタートアップとの「共同ブース」に込めた思い
「NEXT CITY」会場内に設けられたパナソニックくらしビジョナリーファンドのブースにも、3日間で多くの人が足を運んだ。単にパナソニックの最新技術や商品をアピールするのではなく、出資したスタートアップと共同でブース展示を行なっていたことも大きな特徴だ。
パナソニックの出資先の一つであるIoTコネクテッドプラットフォーム・開発支援サービスを展開するMODE社は、Panasonicブースにて新型UIのプレビューを実施した。デモは、みやこめっせ会場内の温度・湿度をセンサーで感知し、MODE社のIoTプラットフォーム「BizStack」が解析。それをさらにOpenAIのChatGPTが「言語化」してダッシュボードに表示するというものだ。
現在の空間の状況を自然な会話に近い言語でリアルタイムにレポートしてくれるシステムは、パソコン作業の難しい状況で異変を報告するシーンなど、幅広い領域での活用が期待される。MODE社とパナソニックは現在、センサーを使ったIoTシステムをあらゆる領域に広げていく共同事業を模索している。
じつは、こうしたスタートアップの技術をパナソニックのブースで紹介することは、これまでのパナソニックでは珍しい事例と言える。これも「出資企業とパナソニックが一枚岩になって、価値創造に取り組んでいく」という意志の現れ。従来の自前主義から本気で脱却し、信頼できるパートナーと共創していく決意と覚悟がそこに込められていた。
郷原スタートアップの方々からすれば、大企業なんていつ方向転換するかわからない。そんな不安もあると思うんです。少しでもそんな疑念を抱かせてしまったら、誰も私たちと本気で向き合おうとはしてくれないでしょう。
重要なのは、スタートアップのみなさんと同じ熱量で、新しい事業領域を本気で開拓する姿勢を示すこと。だからこそ出資もしていますし、今回のように共同でブースをつくり、同じ目線に立ったパートナーとして事業開発をしているかを発信したいと思ったんです。
初めてのオープン化で、大きな注目を集めたIVS2023KYOTO。そこで、国内外のスタートアップに対し、パナソニックの本気の姿勢を発信できた意義は大きい。郷原は次回のIVSへの参加も含め、こうしたスタートアップへのアピールの機会、出会いの機会をさらに増やしていきたいと語る。そこで生まれた出会いから、社会にどんな価値を生み出せるのか。パナソニックくらしビジョナリーファンドの今後の動きに注目したい。
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Profile
郷原 邦男(ごうはら・くにお)
パナソニック株式会社 CTRO(Chief Transformation Officer)兼 CVC推進室 室長
2003年入社。ネットワークエンジニアとしてテレビや録画機を中心としたクラウドシステム開発に従事。家電と連携するサービス開発や新規事業立ち上げを推進。2021年10月よりCTROとしてスタートアップやITプラットフォーマとの連携などを手がけている。
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