あたらしい時代を生きるふたりに今のパナソニックについて感じること、そして未来のパナソニックへ期待することを自由に語っていただく本企画「拝啓、パナソニック」。
今回のゲストは、バーチャルビーイングの研究に取り組み、2025年大阪・関西万博の大阪パビリオンのディレクターを務める佐久間洋司(さくま・ひろし)氏と、所属するTakramにて未来洞察のプロジェクトを数多く実施し、メディア『Lobsterr』では未来のカルチャーやビジネスについて発信を行う佐々木康裕(ささき・やすひろ)氏。
Make New Magazineの記事を読んで感じたことから、パナソニックのこれからに対する期待まで、パナソニックとも関わりがある二人ならではの視点で語り合ってもらった。
Index
パナソニックらしくないから面白い
──はじめに、パナソニックとの関係性を教えてください。
6年ほど前から主にデザイン部門をメインに、さまざまなプロジェクトのサポートをしています。そこから「VISION UX」(※)という、生活者起点で捉えた未来の兆しから長期的なビジョンを構想するプロジェクトもサポートさせていただきました。
私が大学生だったときに立ち上げた「人工知能研究会」という学術交流や人材育成のコミュニティに、パナソニックの方々にも参加いただいたのが最初のご縁でした。その後は、カナダのトロント大学に留学していたときに、シリコンバレーにあるパナソニックのラボでインターンをさせていただいたり、帰国後に若手社員の方々とさまざまな研究やプロジェクトでご一緒したりしました。
※生活者起点で捉えた未来の兆しから長期ビジョンを構想するデザイン本部の取り組み
──「Make New Magazine」をご覧になって、どんな感想を持ちましたか?
Make New Magazineを読ませていただいたのですが、いい意味でパナソニックらしくないメディアだなと。パナソニックは何事もカチッと手堅くされているような印象があるのですが、このメディアは未来の可能性みたいなこととか、まだ定まっていない状態のプロジェクトについて取り上げていて、さらにその背後にいる人たちの思いや考えにもスポットを当てている感じが面白いですね。
僕も佐々木さんと似ていて、拝見する前はパナソニックでメインストリームのものを扱っているのではないかと思っていました。でも、実際に読んでみると、まだ開発段階の小規模なプロジェクトや、立ち上がったばかりのチームの話もあって、「新しいものにも焦点を当てていこう」という意志を感じました。攻めているメディアだと思うし、共感するところも多いです。
個人的に印象深い記事を挙げると、パナソニックがシリコンバレーのスタートアップと一緒に取り組んでいる「無線給電」のプロジェクトです。記事では「大阪のおっちゃん」と表現されていた黒田さんが、プロジェクトを進めていくなかで思い悩んだことがリアルに語られていて「面白いなあ」と思いながら読みました。
僕も十数年前はシリコンバレーにいて、どんな会社に投資をすれば面白いか考えていました。ちょうどiPhoneが出た直後くらいの時期でしたが、当時からシリコンバレーには無線給電のスタートアップがたくさんあって、興味深いテーマだなと思っていたんです。その頃は安全性などに大きな課題がありましたが、ここ15年でかなり進化したようですね。
無線給電の記事は面白かったですね。シリコンバレーの会社と共創していく経緯を読んで「一緒にやっている」という印象が伝わってとても良いなと感じました。
パナソニックほどの大企業になると技術を持ったスタートアップを買ってしまえば、それですべてが解決するような気になってしまうところもあるかもしれません。今回の無線給電のケースのように適切なパートナーを探し、一緒につくっていく体制というのは関わっている人も楽しいだろうなと思いますし、大企業側の姿勢が変化していることの現れなのだろうなと感じました。
シリコンバレーでは、3年から5年に一度くらいの周期で大きなブームがくる感覚があります。たとえば、最近では猫も杓子も「生成AI」という感じですが、そうしたシリコンバレー側の変化と、日本の大企業のスピード感が噛み合わないことってすごく多いんですよね。それでいうと、無線給電もそうですが、生成AIの分野でもパナソニックは海外のスタートアップと共創している記事があって、いい意味で私の感覚とは違う動きをされているなと感じました。
そこに物語はあるか
あとは、パナソニックの精密機器工場で「シルキーファインミスト」が活用されている様子を撮影した記事も面白かったです。フォトグラファーの青木柊野さんの技術と製品の見せ場がうまく噛み合っていますよね。写真の強さ、かっこよさがあるので工場内の様子もワクワクした気持ちで見られますし、技術のことを紹介する内容とも両立していて。お説教じみていない見せ方が素敵だなと思いました。
青木さんが撮影したミストがフィルムカメラの粒子のざらつきのようにも感じられて、面白い写真になっているなと感じます。シルキーファインミストの技術そのものについても、すごく興味深いなと。工場内の精密機器の加湿や静電気対策としての活用から、ライブやイベントの空間演出まで、先端技術と先端芸術のどちらにも使われるというのは驚きでした。
ほかには「Technics」の記事も気になりました。僕自身もTechnicsのイヤホンを愛用していたのですが、ブランドが一度なくなって復活したエピソードや、ターンテーブルやレコードの歴史などはこの記事を読むまで知りませんでした。ブランドの背景にある歴史や、それに関わる人たちのレコードへの思いを知ると、より製品に対して愛着が出てきますよね。
僕は「チアホン」の記事ですね。個人的にサッカーが好きなので、まさにスタジアムにいるときに解説が聞けたらいいなと思っていました。現状はチームのOBだったり、ゆかりのあるゲストが解説者として登場するということですが、ゆくゆくはただただそのチームのことが大好きな、いちファンが解説するといった「誰でも解説ができて、それを聞きたい人が自然発生的に集まる」ようなプラットフォームになると、さらに面白くなるのかなと想像しながら読んでいました。
「未来の予言書」をつくる旗振り役になってほしい
――最後に、お二人が実現したい未来について教えてください。また、そこにパナソニックはどのように貢献できると思いますか?
個人的に、大学生の頃から変わらず目指しているのは「人類の調和」です。個人の幸福と集団としての幸福を両立させるような未来に、テクノロジーが寄与することもあると思います。それは、無意識的なレベルでのキュレーションをする仲介者のような技術かもしれないし、多様性を担保するように情報流通を制御するアルゴリズムかもしれません。そうした技術によって、今よりも少しだけ自分らしく生きること、他者を傷つけず幸福を実現することができる社会に近づいたらいいなと考えています。
その際に重要なのは、本当に社会を良くしたい、人々を幸せにしたいという観点で、旗を振ることができる存在。みんなが共感し、その方向性に向かっていけるような「未来への道筋」を描いて、みんなと一緒に実行していける存在です。
その点、パナソニックは松下幸之助さんが創業した頃から「社会を、人のくらしを良くする」というビジョンを持たれています。そんなパナソニックだからこそ、「こういう未来をつくりたい」という予言書を書いてくれるのではないかと期待しています。
暗い未来を前提に。明るく照らしてくれるサービスを
たしかに、予言書は必要ですよね。ただ、未来を考えるプロジェクトってどうしても「楽しいことだけ」を考えていて、暗い話からは目を背けてしまいがちだと思うんです。
たとえば今朝、コンビニでたまたま目にした新聞の見出しに「若者の孤独死が増えている」と書いてありました。あまり話題にしたくないようなテーマですが、未来について考えるときにはそうした社会の陰の部分を無視してはいけないのではないでしょうか?
ですから、私がパナソニックとVISION UXのプロジェクトを始める際もそこから逃げずに、しっかり着目していこうという話をしていました。個人的には、日本の未来はかなり暗いと考えていて、10年後、20年後には、いまあたり前にあるものの多くがなくなってしまう可能性がある。たとえば、気候変動でリンゴが減り、果汁100%のリンゴジュースが飲めなくなるとか。そうした暗い未来が訪れる前提のなかで、何ができるのか、何をすべきなのかを考えることが重要です。
パナソニックには明るい未来を想像するだけでなく、そうした陰の側面にも目を向けてサービスをつくっていってほしいなと、個人的には思いますね。
Profile
佐久間 洋司(さくま・ひろし)
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ特任研究員。世界経済フォーラムによる「Shape New World Initiative」の代表も務める。研究テーマは、バーチャルビーイング、未来社会デザイン。
佐々木 康裕(ささき・やすひろ)
デザイン・イノベーション・ファームのTakramに所属。個人では未来のカルチャーやビジネスの種を発信する「Lobsterr」というスローメディアの運営や、未来の消費者やビジネスの関係性を考察した本の出版も行う。