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IoTで現場のDXを加速する。MODE社×パナソニックの協業は「私たちの仕事」をどう変える?

MODE, Inc. Panasonic | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

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    パナソニックは2022年7月に、SBIインベストメント株式会社と共同でコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)「パナソニックくらしビジョナリーファンド」を設立。生活者のウェルビーイングを実現するため、くらしに深く関わる「エネルギー」「食品インフラ」「空間インフラ」「ライフスタイル」領域に強みを持つ国内外のスタートアップに、10年間で80億円の投資を予定している。

    そして、同年11月にIoTコネクテッドプラットフォーム・開発支援サービスを展開するMODE社にファンド設立後、はじめての投資を行なった。MODE社は、業界、機器、メーカーなどの垣根を越え、あらゆるセンサーデータをIoTでつなぐサービスを提供しているシリコンバレー発のスタートアップだ。家電メーカーという印象も強いパナソニックと協業することで、人々のくらしにどのような変化がもたらされるのだろうか? パナソニック株式会社 CVC推進室 室長の郷原邦男、MODE社CEOの上田学氏に話を聞いた。

    左からパナソニック株式会社 CTRO兼 CVC推進室 室長の郷原氏、MODE, Inc. CEO / Co-Founderの上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    パナソニックの自前主義に限界を感じ、新たな一歩を踏み出すべくパートナー探しへ

    ――まずは郷原さんから、現在に至るまでのキャリアを教えてください。

    郷原2003年にパナソニックに入社してから、テレビやレコーダーのクラウド側を長く担当していました。最初に携わったのが、携帯電話からブルーレイ・DVDレコーダー「ディーガ」に、リモートで録画予約できるシステムの開発。それから2008年にシステムを刷新し、お客さまの録画一覧をクラウドで管理するように変更しました。

    すると、日本全国でどの番組が録画されているかがわかるようになり、その情報を録画ランキングとしてサービス提供できるようになったのです。私たちは他メーカーに先駆けてクラウドを活用してきましたが、この経験によってデータによって新しいサービスが生み出せることを強く実感し、データを活用したサービス、ソリューションに深く関わるようになりました。

    郷原氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    郷原邦男。チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー(CTRO)としてCVC推進室を兼務。過去に自社で確立した手法にとらわれず、新しい手法や技術を吸収し、社内に浸透できる環境づくりを推進している

    ――どういった経緯で、なぜ「パナソニックくらしビジョナリーファンド」を立ち上げたのですか?

    郷原2014年頃からIoTやビッグデータという言葉が出始めて、「パナソニックは、家のなかのさまざまなデータを持っていますよね?」と異業種の方々からも声がかかるように。IoTが家電だけでなく、あらゆる事業領域で活用されるようになりました。

    ただそこで、私たち自身で新しい一歩を踏み出そうにも、製造業以外でのケイパビリティーがなく、思うように事業領域を拡大することができなかったのです。また一方で、近年、異業種から家電領域に進出を図ろうという動きも出てきており、モノづくりとサービスづくりの垣根が徐々に無くなってきているという強い危機感もありました 。スピーディーに新たな事業を生み出す必要に迫られるなか、当社の自前主義に限界を感じ、信頼できるパートナーを見つけられる仕組みが不可欠だと考えたのです

    そのようなタイミングでSBIグループの投資事業における中核的企業・SBIインベストメントさんと出会い、経験豊富な彼らと共にCVCである「パナソニックくらしビジョナリーファンド」を2022年7月に立ち上げ、スタートアップとパートナーシップを結ぶことを目指しました。

    ――次に、上田さんにお聞きします。シリコンバレー発のIoTスタートアップであるMODE社の設立や、同社の事業・サービスについて教えてください。

    上田私は2001年、シリコンバレーに移住し、Yahoo!、Google、Twitterなどでウェブサービスの開発に10年以上関わっていました。そうしたなかで、さまざまなモノがインターネットに接続される「IoT」というテクノロジーが注目されるようになったのです。 IoTはハードとソフトの両方が必要となるため、技術的な難易度も大幅に上がります 。

    ちょうどこれまで手がけていたウェブサービスの開発から次のステップに挑戦したいと考えていたこともあり、この難易度の高いテクノロジーなら次の20年は楽しめると感じてMODE社を設立しました 。

    上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア
    上田学。MODE, Inc. CEO / Co-Founder。IoTを用いて「Unknown(わからないこと)」をなくす世界を実現させる各種サービスを提供し、企業のビジネスの進化をサポートしている

    ――上田さんはIoTのどのような点に可能性を感じたのでしょうか。

    上田いままでのインターネットは、人と人とをつなげてきました。IoTの出現によって、人とモノがつながる、インターネットの拡大版のような世界をつくり上げることができます。車や家電、工場内の機器など、さまざまなモノがインターネットを介してつながれば、そこから収集されたデータによって、これまでわからなかったことがわかるようになる。まさにデータ活用により、「Unknown」がなくなる世界が実現できるのです

    決裁を待つ時間ももったいない。「スタートアップの成長のために、早い段階から必要とされるパートナーでありたかった」

    ――スタートアップとパートナーシップを結び、協業を推進していくためにはさまざまなアプローチ方法があると思います。今回、なぜCVC立ち上げという選択肢をとったのでしょうか。

    郷原スピード感が当社とスタートアップでは違いますし、何より、いままでのやり方では成功事例が少ないというのが理由です。スタートアップとうまく話が進んだとしても、NDA(秘密保持契約)を締結するために上長の許可や決裁を待っていると、1か月くらいはあっという間に過ぎてしまいます。

    そこから「何を始めましょうか」と話し合いの場を設けても、そのあいだに成長し続けるスタートアップにとって当社はすでに数ある企業のうちのひとつになってしまい、相談相手にすらなれない状態に陥る可能性さえある。

    私たちがCVCにこだわったのは、スタートアップの成長のために、早い段階から必要とされるパートナーでありたかったからです。また、パートナーと近い距離で仕事をすることで、パナソニックの社員にスタートアップについて知ってもらう機会を増やし、私たちがスタートアップと同じスピードで成長できるようになることも目指しています。

    ――なるほど。では今回、CVCとしてMODE社と協業を決めた理由についてお聞かせください。

    郷原まず、ファンドを立ち上げるにあたり、どの領域に注力するかを決めました。それが、くらしに関わる「エネルギー」「食品インフラ」「空間インフラ」「ライフスタイル」です。そして、どの領域でも中心になるテクノロジーがIoT です。この核となるテクノロジーを担うに相応しいパートナーを探すなかで、IoT領域に特化しているシリコンバレー発のスタートアップ・MODE社に声をかけさせていただきました。

    左から郷原氏、上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ――MODE社とパナソニックは以前からおつき合いがあったと聞いています。上田さんが出資を受ける意思決定をした理由を教えてください。

    上田パナソニックとは、当社の社員が数名だったアーリーステージの頃からのおつき合いがあります。

    今後、パナソニックのハードウェアやサービスが進化していくために、IoTの技術があらゆる領域で必要でしょう。だからこそ、IoT技術と実績を持った私たちとしてはパナソニックとより密接に関わっていきたいと考えていました。

    一方、当社も去年からお客さまが増え、事業を加速させていくフェーズにきたと感じていました。アクセルを踏むために資金を集めようとしたタイミングで、ちょうどパナソニックから出資のお話をいただき、「タイミングはいまだ!」とパートナーになることを決意しました

    上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    労働力不足の解決も? IoTの活用で、仕事の手作業がデジタルで完結する未来

    ――今後、パナソニックとMODE社はどのように協業していくのでしょうか。

    郷原MODE社では、センサーを利用し簡単にデータが収集できるIoTシステムを各領域でラインナップしています。大規模な事業で使われるIoTシステムはパナソニックで対応できますが、新規事業など大きな規模でないIoTシステムは予算の関係などでイチから開発することが難しく、スモールビジネスにおける生産性向上のボトルネックになっている事が多い。そのため、当社にとってMODE社が持つIoTシステムはキラーソリューションになるのではと考えています

    具体的には、MODE社のシステムをBtoBソリューションの提案に組み込んでいく予定です。アグリ事業などでもIoTの技術を必要としていますが、自前でセンサーやシステムの開発まで手が回りません。そこで、MODE社のシステムを活用し、お客さまにすぐに試してもらいながら、高速で実証実験を重ね、実用化を目指していくつもりです。

    ――今後、BtoBにおけるIoTビジネスはどのように広がっていくのでしょうか。

    上田IoTを活用することによって、たとえば工場の現場で行なわれていたことが、今後データ上で再現できるようになっていきます。いままでは週に1回現場でしていた機械のチェックなどを「点」とすると、これからは「線」で追っていくイメージです。

    具体的に説明すると、データを継続的に収集しながら機械の状態をデジタルで再現。そこから故障が発生する箇所を予測していきます。デジタル上で完結できるため、現場でのチェックが不要になります。

    企業などで実施されている社員の健康診断も、1年に1回受診し、そのとき初めて病気がわかりますよね。それを毎日チェックできれば、身体が悪くなっているのか、良くなっているのか定点観測できる。これと同じように、企業の日頃のオペレーションも、データを連続して収集しながら、悪化しているのか良化しているのかを把握することができるのです。

    郷原MODE社のIoTシステムを活用することで、継続的にデータを取得することが可能となります。上田さんがお話したように、ユーザーに届ける価値が「点」から「線」になることで、従来ではできなかった新しいサービスやソリューションを生み出すことができるでしょう。

    上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ――IoTを活用した「BtoBビジネス」がメインのお話でしたが、「BtoCビジネス」に関しては、そこまでニーズがないということでしょうか。

    上田ニーズはあるのですが、ビジネスを継続させるためにはサブスクリプションモデルを導入しなければなりません。ですが、一般のユーザーに毎月お金を払ってもらうことは、とても難易度が高いのです。

    スマート家電の場合は、たとえば3万円で商品を買ってもらい、サービスは無料にしないと売れないでしょう。アメリカではこのビジネスが成り立たず、ほとんどのスマート家電会社が姿を消しました。IoT領域で残っているのは、ホームセキュリティー会社くらいです。盗難や不法侵入のリスクが高いため、かろうじてサブスクリプションモデルが成立しているんです

    一方、IoTを活用した「BtoBビジネス」については、労働人口の減少が深刻化する日本では成立しやすいと考えています。

    ――パナソニックとMODE社の協業によって、社会課題の解決に貢献するサービスが生まれる可能性もありますね。

    上田たとえばロボット領域において、働く人の作業効率向上や、より力を引き出すような技術は面白いと思っています。

    郷原パナソニックは家電メーカーだと思われていますが、くらしを支える社会インフラも担っている自負があります。社会インフラの領域で、IoT技術を駆使してオフィスや工場で働いている人の行動を理解し、働く人の負担を減らしたり、生産効率性を上げたりすることで、そこで働く人が新たな価値を生み出すことができるようにしていきたいですね

    人々の行動データを収集・把握してサービスに活かすために、MODE社との協業はマスト

    ――「社会課題の解決を目指す」というお話もありましたが、あらためて、協業によって実現したいビジョンをお聞かせください。

    郷原長い間、パナソニックはモノを売ることによって、人々のくらしを良くしてきました。しかしながら、いまのお客さまの生活においては、モノに接する時間が減り、家電などを使う時間も短くなってきています。そうした現状に対して、当社はモノではなくサービスで人々に価値を提供する方法はさまざまあると考えています。

    一方で、人々がどのように行動しているのかを理解しないと、適切なサービスを届けることはできません。その一歩を踏み出すために、センサーを使ってデータを収集し、人々の行動を知らなくてはならない。それを実現するためには、IoTを駆使してデータ収集する技術を持つMODE社との協業が必要だと思っています。

    郷原氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    ――協業することで、お互いにどのような刺激があるのでしょうか。

    郷原スタートアップは短い期間で成長していくために、KPI達成への姿勢に目を見張るものがあります。今回の出資によって身近になったスタートアップから刺激を受け、社内の新規事業の取り組み方や、社員に変化が起こることを期待しています。

    上田正直、大企業というのは保守的で、スタートアップなどに対して上から見るようなイメージもありました(笑)

    左から郷原氏、上田氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    上田しかし、パナソニックはそうしたことがなく、対等な関係でやり取りできるのが嬉しいです。「組織を変えよう」「スタートアップから学ぼう」「新しいものを取り入れよう」とする姿勢は、私たちにとっても刺激になっています。

    郷原CVCを立ち上げるなかで、一番に大切にしたのは謙虚さです。私たちがまだ挑戦できていない領域に、足を踏み入れているのがスタートアップです。そこに対するリスペクトを忘れずに、これからも新しいことに果敢に挑戦していきたいですね。

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    Profile

    パナソニック株式会社 CTRO(Chief Transformation Officer) 兼 CVC推進室 室長  | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    郷原 邦男(ごうはら・くにお)

    パナソニック株式会社 CTRO(Chief Transformation Officer) 兼 CVC推進室 室長。2003年松下電器産業株式会社に入社。ネットワークエンジニアとしてテレビや録画機を中心としたクラウドシステム開発に従事。家電と連携するサービス開発や新規事業立ち上げを推進。2021年10月よりCTROとしてスタートアップやITプラットフォーマとの連携などを手がけている。
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    社会の新しい潮流に立ち向かっていきたい

    MODE, Inc. CEO /  Co-Founderの上田 学氏 | Make New Magazine「未来の定番」をつくるために、パナソニックのリアルな姿を伝えるメディア

    上田 学(うえだ・がく)

    MODE, Inc. CEO / Co-Founder。早稲田大学大学院卒。日本で就職のち渡米。2003年、2人目の日本人エンジニアとしてGoogle入社、主にGoogleマップの開発に携わる。その後Twitterに移り、唯一のEng directorとして公式アカウント認証機能や非常時の支援機能などのチーム立ち上げ、開発チームのマネジメントを経験。2014年、Yahoo!出身の共同創業者のイーサン・カンとシリコンバレーを拠点にMODE, Inc.を設立。2022年12月、パナソニック ホールディングス株式会社 事業開発室 BTCイノベーション室のアドバイザーに就任。

    • 取材・執筆:サナダユキタカ
    • 撮影:タケシタトモヒロ
    • 編集:MNM編集部、服部桃子(CINRA)

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