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「Make New Magazine」では、パナソニックの思いを広く伝えるため、商品・ソリューションの開発秘話や、ものづくり制度、他社との共創プロジェクトなど、小さなアクションから壮大なプロジェクトまで多様な活動を取り上げてきました。
運営開始から約1年半。その思いは、どのように読者へ届いているのでしょうか――。
今回、年末の特別企画として、Make New Magazine編集部は、これから「未来のくらし」をつくっていくパナソニック株式会社の2023年度新入社員を対象にアンケートを実施(回答者:141名)。2023年に公開した計41本の記事(※)を対象に、「最も『Make New』だと思う記事」「その理由」に加え、「選んだ記事を読んで、どう思ったか」などの質問に答えてもらいました。
本稿では、そのランキング結果を第3位から順に紹介し、今年1年を振り返りたいと思います!
※本アンケートでは、Make New Magazineで公開されたarticle032〜072の記事を対象にしています。
第3位:ヒートポンプ式温水暖房機「Air to Water」のデザイン刷新、新技術「常圧凍結乾燥」の開発秘話
アンケートの結果、第3位には同票数を獲得した2記事がランクインしました。
ひとつは、欧州市場向けのヒートポンプ式温水暖房機「Air to Water」の記事。そしてもうひとつが、冷蔵庫の技術開発から生まれた「常圧凍結乾燥技術」の記事です。
まず、「Air to Water」の記事を選んだ理由としては、次のような内容のコメントがありました。
国や地域によって求められるニーズが異なるが、それに対して柔軟に対応していると感じた
その地域に住む人々に合った製品をつくるために、関連部署と密に連携して商品をつくりあげている
室外機は同じようなデザインが多いなかで、スタイリッシュなデザインにするという発想が新しいと感じた
目立たない存在である室外機に、デザイン性という新しい価値を追加している
欧州市場の変化に対応するため、工場側を説得する熱意に感動した
文化や価値観が違う欧州という市場において、ニーズを的確にとらえ、真にユーザーにとって有益な商品をつくろうとする姿勢に「Make New」を感じる人が多かったようです。また、「室外機は景観を阻害しても仕方ない」などといった従来の「あたり前」にとらわれず、デザインのあり方から商品企画を検討している点も評価されていました。
一方、「常圧凍結乾燥」の記事を選んだ理由には、次のような内容のコメントが。
従来の乾燥方法とは大きく異なるアプローチをとっている
乾燥技術と冷凍技術を掛け合わせることが革新的、技術進歩を感じた
フードロスなどの社会問題から基礎研究レベルまで掘り下げて開発をしており、社会問題の本質的な解決に貢献しようとしている
冷蔵庫の長年の課題である「食品の乾燥」を応用して新しい技術を生み出して、食の問題に取り組んでいる
常圧凍結乾燥技術の仕組みとして「水の挙動」について言及するなど、技術開発の醍醐味や面白さに迫った本記事は、特に技術職の社員から支持を集めました。既存商品の技術的課題をポジティブに捉え、発想の転換で新技術の開発につなげた点に、新入社員の皆さんも心を動かされたのではないでしょうか。
第2位:室内空間に自然の心地よさを取り入れる「(un)FORM」
続いて第2位には、自然の心地よさを室内で再現するプロジェクト「(un)FORM」の記事がランクイン。
選定理由としては、次のような内容のコメントがありました。
空間の温度湿度を一定に保つという空調管理の本来の役割とは異なり、あえて不均質にし、自然な心地よさを再現するという発想が斬新に思えた
「心地よさ」という数値化が困難な新しい評価基準に正面から取り組んでいる
普段の生活で感じている不快感に取り組んでいる
自分の「感性」を着眼点にプロジェクトがスタートしている
私たちは、普段なにげなく自然の心地よさを享受しています。しかし、その心地よさを室内空間に取り入れるとなると、感覚的な基準ゆえの難しさが。そうした抽象的なテーマへの取り組みに「Make New」を感じた人が多いようです。
今回のアンケート結果を担当者に伝えたところ、プロジェクトリーダーの中内菜都花から次のようなコメントをもらいました。
中内「体感すること」を大事にしていたプロジェクトでしたが、記事を読んで共感してくれた方も多かったようで、嬉しく思います。
「室内に自然の心地良さを取り入れる」というコンセプトは感覚的で、なかなか理解してもらえないのですが、プロトタイプ体感展示を行なったことで、社内のR&D部門やマーケティング部門、社外のメーカーさまなど、さまざまな方から声をかけていただくことができました。
今回の提案に限らず、くらしのあたり前を変えられるような家電やソリューションのアイデアはまだまだほかにもあると思っています。最近個人的に思っていることは、読まなくなった本がノートになるとか、家電のバッテリーを別の家電に使うとか、「まだ何かに使えそうだけど、自分には不要なもの」を活用できたらいいな、と。メーカーとして、ひとつのものを長く使える仕組みをつくれると良いなと妄想しています。
第1位:持ち手のない電気シェーバー「ラムダッシュ パームイン」の開発秘話
2位と圧倒的な差をつけて堂々の1位に輝いたのは、斬新なデザインの電気シェーバー「ラムダッシュ パームイン」の記事でした!
この記事は、回答者の職種を技術職・非技術職でわけた場合でも、ともにトップの票数を獲得。選定理由としては、次のような内容のコメントがありました。
常識にとらわれない新たな製品だと感じた
できあがった商品を見れば「たしかに良い」と感じるが、それを着想しかたちにするのは難しいだろうと感じる
シェーバーの概念をくつがえす斬新なデザインと、それを実現しようとする開発者のこだわりが、未来を切り開く姿として印象的
これまでのあたり前を刷新する、デザインとしても素晴らしいプロダクト
これからもこのような画期的な商品ができるきっかけの一つになると感じた
「石拾いが好きだった」という個人的な原体験が、商品開発につながっている点が面白い。事業に関係なさそうな、その人にしかない特徴が商品デザインに生かされているのは驚きだった
この記事は、本アンケートに限らず、Make New Magazineのなかでも多くの人に読まれた記事でした。おそらく、コンシューマー向けの商品としてくらしのなかでの変化をイメージしやすく、ひと目でその新規性を感じられるということが寄与したのでしょう。
今回のアンケートでは、その「ひと目でわかる新規性」の裏側のプロセスに「Make New」を感じたというコメントが多くありました。また、広く使われるプロダクトに担当者の個性や経験がにじみ出るという面白さを「Make New」と受け取った人もいたようです。
記事内では、デザイン起点での商品開発の意義について、デザインを担当した別所潮が次のように話しています。
メーカーはやはり「どうしたら売れるか」を考えて商品をつくることが大半です。もちろんユーザーのニーズをしっかり拾ったうえでの販売戦略なので、それが間違っているとは思いません。
ただ、いまあるニーズから出発するのではなく、「どんな未来をつくりたいか」「社会や人々のくらしをどう豊かにするのか」をイメージしながら、人間中心かつ未来起点で開発を進めていくというのも一方では必要です。それを目に見えるかたちにしてリードするのが、われわれデザイナーの役目かなと。今回はそれらを踏まえたうえである意味、「世に問う」商品になったかと思います。
「パームイン」の商品開発を通して、従来のプロセスとは違うデザイン起点での商品開発に、大きな意義を見出している別所。
これからのあたり前となる「未来の定番」をパナソニックがつくっていくために、デザイナーとしてどのような役割を担い、どのような姿勢でモノづくりに携わりたいと考えているのか、あらためて聞いてみました。
別所パームインの開発でのポイントは「自己否定」と「引き算」でした。長年お客さまと向き合い、性能向上のためにあらゆる機能を開発してきましたが、「豊かさ」の価値観が変化してきているいま、より多くの機能を搭載していく商品開発に疑問を感じ、自問しました。結果的に、肌に密着するサスペンション機構や過度な加飾を「引き算」し、「肌と対話するかのような直観的な剃り心地」や「どこにでも置けてどこでも剃れる」という体験を重視したんです。
こうした商品開発の手法は、「課題解決」というよりも、「課題提起」の意識があったからこそ生み出せたのだと思っています。お客さまが気づいていない潜在的な課題に対して、未来志向で応えていくという考え方です。それこそが商品の独自性になり、「社会をどう豊かにしていくか」という提案にもなります。
既存商品の延長として機能を積み上げていくのではなく、未来の理想のくらしのあり方を具現化し、事業に結びつける。未来のニーズと社内技術をつなぐ。それこそが、デザイナーの役割なんじゃないかと考えています。
パームイン開発の裏側にあったデザイナーとしての矜持。職種の枠をも押し広げようとする別所の姿勢には、既存の枠を壊す「Make New」の意志を感じます。そしてその姿は、未来のパナソニックを担う新入社員に強い刺激を与えたのではないでしょうか。
ランキング上位記事を一気に紹介
今回のアンケートの結果、上位10記事のランキングは次のようになりました。
5位には同票数で6つの記事がランクイン。選ばれた記事を見てみると、IoT家電やプログラミングを活用した教育プログラムをつくる「パナソニックの学校」や、照明や音響などを使った親子向けのリラックス空間「センサリールーム」など、パナソニックのなかでは異色のプロジェクトを選んだ人も多かったようです。
しかし、その選定理由を見てみると、ただ「そんなこともやっているんだ」という意外性だけで選んだわけではなく、そうした活動の裏側にある「未来のくらしをつくる」という担当者たちの思いに「Make New」を感じているようでした。
今回ランクインした記事は、新規商品の開発秘話や技術開発の裏側、環境配慮のプロジェクトなど、ジャンルはさまざまでしたが、コメントで多かったのは、「従来のあたり前を疑い、新しい価値基準を生み出すという点に斬新性を感じた」という意見でした。
「パームイン」のデザイナー別所も言うように、いま企業として重要なのは、「お客さまのニーズを満たすこと」ではなく、「新しいくらしを社会に提案し、自らアクションしていくこと」なのでしょう。そして読者視点でも、そうした新しい価値基準の提案に「Make New」を感じている人が多いということがわかりました。
今回のアンケート結果で見えてきた傾向や示唆をふまえて、Make New Magazineではこれからも、未来のくらしをつくる活動を取り上げ、その奥にある担当者の思いを発信していきたいと思います。