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岐阜県多治見市を舞台に、地元企業・株式会社エネファントとパナソニックが二人三脚で進める省エネ・脱炭素プロジェクトが、「多治見モデル」としていま注目を集めている。本プロジェクトは、太陽光パネルと電気自動車を用いたエネルギーサービス事業を展開する若き経営者・磯﨑顕三さんと、パナソニックでスマートエネルギー担当を務める西川弘記の出会いから始まった。
理想や問題意識を共有し、強い絆で結ばれた2人。プロジェクトを叶えるための理想のパートナーシップについてや、日本の地域の抱えるエネルギー問題の「これから」について話を聞いた。
太陽エネルギーに見た、「世界平和」の可能性
――エネファントとパナソニックが二人三脚で進めている再エネ・脱炭素プロジェクトは、どのようにスタートしたのでしょうか。
磯崎われわれエネファントは、岐阜県多治見市に拠点を置く、いわば「地域のエネルギー・ベンチャー企業」です。2011年の創業以来、エネルギーの「つくる」と「使う」を最短でつなぐという基本思想のもと、地域のエネルギー循環を安価に、かつ持続可能なかたちで回していくことを目標に仕事をしてきました。そのためには、3つの視点が重要になってきます。
まずは、いかに効率よく電動化を進めるか。そして、電動化したものに対して、いかに脱炭素の電源をぶつけていくか。さらに、省エネやシェアリングなど、電気の消費の仕方に変化を加え、いかにエネルギーの最適化を行なうか。つまり、「電動化」「脱炭素化」「最適化」のかけ算を地域のなかで最大化させ、その先に「多治見を日本一電気代の安い町にする」というのが、ぼくの掲げている理想なんです。
――そもそも、なぜ電気に関する事業だったのでしょうか。
磯崎ぼくがこの会社をスタートさせたのは22歳のとき。大学を中退して、卒業までに使うはずだったお金くらいしか元手もないという、本当に心許ない状態でした。でも、当時から夢は大きく持っていました。ぼくはパナソニックの前身である松下電器の創業者、松下幸之助さんを経営者としてすごく尊敬しているんです。松下さんの『道をひらく』という本を、つねにカバンに入れているくらい。
彼は、仕事を始めるにあたって、志を立てることの大事さについて語っていました。自分なりに、人生において多くの時間を占めるであろう「働く」ということのテーマを考えたときに、思い至ったのが「エネルギー」なんです。
あるとき、60億人の人が1年間に使うエネルギーの総量が、太陽が地球に送ってくるたった1時間分のエネルギー量とイコールなのだと聞いて衝撃を受けました。でも一方で、地球の反対側では、エネルギー資源をめぐって国同士の戦争が繰り広げられている。
無料の巨大なエネルギー源が頭上にあるのに、なぜ地面の下に眠っているエネルギーをめぐって人は争っているのだろう? と、率直に疑問を感じたんですね。これを上手に使うことができれば、世界平和----というと大袈裟ですが、それに近い状態を実現できるのではないかと考えたのが、エネルギー事業に乗り出したきっかけです。
電気自動車で、電気の「つくる」と「使う」を直結させたい
――では、エネファントとパナソニックの関わりは、どのようにして始まったのでしょうか。
磯崎抱く夢は大きかったですが、まずは電気工事業者として丁寧に仕事をまっとうしていくことが大事だと考えました。エネファントは、太陽光発電やオール電化のシステムなどを販売することからスタートしたのですが、このときに、パナソニック製品の素晴らしさにあらためて感銘を受け、お客さんに自信を持って販売を続けていたんです。その結果、気づいたら、東海地区でいちばんパナソニックの製品を販売するエキスパート工事店になっていた。
そうしたなかで、われわれがこれからやっていきたいと考えている方向性について、パナソニックの方たちが耳を傾けてくれるようになっていきました。で、あるとき「ウチに面白い人がいるから会ってみたら?」という感じで紹介してもらったのが、西川さんなんです。
西川突然、弊社の営業から「多治見にオモロイ電気工事屋さんがおってな、車を売りたいとか、ワケわからんこと言うとるのよ」と話を振られたのが、磯崎さんを知ったきっかけです。それを聞いて、「いやいや、ちょっと待て。電気工事屋さんは車売れへんし、実際のところ『車』そのものを売りたいワケじゃなくて、ほかに何か考えがあるんちゃうの?」と。それで興味を持ち、会いに行きました。
磯崎たしかに、EV(電気自動車)を扱いたい、みたいなことは言いましたけど、別に車屋さんになりたいとかではありませんでしたね(笑)。
西川磯崎さんに話をうかがうと、電気事業をやっていくなかで、地域にEVを組み込むことで、電気の「つくる」と「使う」を直結させたい、ということだった。その頃、偶然ぼくも同じような計画を考えていたんですね。沖縄の宮古島でエコキュートを推し進める事業を進めていて、そのなかでEVにも挑戦したいという話をしていたんです。それが2018年のこと。そこから、協同してプロジェクトをスタートしました。
――お互いの、最初の印象はどんな感じでした?
磯崎関西弁バリバリの、陽気で冗談ばかり言っている面白いおじさんがやってきて、正直なところ、「本当にパナソニックの人なの?」って思いました(笑)。でも、このキャラクターだからこそ接しやすかったですし、気楽にいろいろ相談できましたね。
西川ぼくの磯崎さんの最初の印象は、「評価を気にせず暴走する人」でしょうか。でも、これはぼくも似たようなところがあるから、人のことは言えないんですけどね。だから、ぼくらは「暴走する2人」として仲良くやれていると言えるかもしれません(笑)。
磯崎ぼくもこういう性格なので、つい勢いに任せて「こういうことをやりたいんです!」みたいな理想を語ってしまいがちなのですが、現実を無視したような話を一蹴するでもなくちゃんと聞いてくれて、真剣に意見をくださったのはありがたかったですね。もちろん、ときにはこてんぱんにやられるわけですが、真剣に考えてくれたうえでのフィードバックなので、ぼくも真面目に聞いたし、さらに負けじといろいろ考えて再挑戦したり。こうしたやりとりがあったからこそ、いまぼくらがやるべきことがクリアになったと思っています。
西川一緒に仕事をしていくうえで新鮮だったのは、地域の実情に合わせて磯崎さんがいろいろな意見を出してくれるので、弊社だけではわからなかった部分まで見えてくるところです。メーカーと電気工事屋さんが、地域の現実についてしっかり話をしながら一緒にやっていけるのが、このパートナーシップの最大のメリットだと思っています。
エキスパートたちとの信頼関係がイノベーションを生む
――お互いの、最初の印象はどんな感じでした?
西川太陽光発電は電気工作物ということになっているので、基本的に機器のまわりを囲って安全にしなくてはいけません。ぼくらの進めていた事業は、太陽光発電のパネルを設置し、そこで貯めた電力でガレージ内の車が動くというものです。そのため、いわゆるソーラーガレージの下に車を入れることが必須になります。でも、そうなると建築物という扱いになってしまう。
つまり、構造をちゃんと計算して、建築物としての確認申請を行ない、じつに細かなチェックを受けなければならなくなる。それって、車4台分のガレージをつくるのに対して、コストが大きすぎて割に合わないわけです。
磯崎たしかに、もっとスピーディーに進めていきたいのに、煩雑な申請業務などによって阻まれる、みたいなことはありましたね。そこで西川さんと一緒に、制度の簡略化を国にお願いしに行ったりもしました。こういう部分では、やはりパナソニックさんの長年の仕事の蓄積や信用があったからこそ、実現できたことも多かったと思います。
西川磯崎さんは、いわゆる社会起業家です。地域のなかでイノベーションを起こすべく、必死になって働いている人。やっぱり、新しいことをやろうとすると障害も多い。法律や国の政策など、ネックになってくるものはたくさんあります。
おこがましいかもしれないけど、パナソニックの看板を使うことでビジネス的に難しい領域を突破できるという部分は少なからずあるでしょうし、だからこそ、どんどん使ってほしいとすら思っています。もちろん、磯崎さんの掲げる理念に共感している、という前提があるからですけどね。
磯崎実際、西川さんといろいろなところに談判に行き続けるなかで、徐々に話を聞いてくれる人が増えていきましたし、建築基準法や電気事業法などにかかわる保安・安全規制などの見直しも進んでいます。
西川パナソニックで共有されている考えの一つに、社内 / 外問わず、道理さえあれば、人の決めたことは変えられる----というものがあるんです。つまり、ルールというのは人の決めたものだから、一生懸命変えようと思えば、そしてそこに意義があれば変えることは不可能じゃない、と。
磯崎さんと仕事をしていくなかで、この教えが、まさに実践されていくのを目の当たりにしました。例えば、河野太郎さんが規制改革大臣のときにぼくらがプレゼンしたことを後日自身のブログで取り上げてくださったり。ここまで届くんだ、と非常に感動したことをよく覚えています。
西川また、こうした新たな動きや関係性が、このコンビでやっていくなかで、どんどんと広がっているのを感じています。例えば、多治見市役所経済部産業観光課の久田伸子さんには、大変お世話になりました。行政には公平性が求められるし、リスクが取れない。太陽光発電機を設置して地域でエネルギーを循環させようと思ったら、いちばんいいのは行政を味方につけることなんですが、補助金をもらおうにも、利益を還元するのには15年から20年という長い期間が必要です。ゆえに、なかなか地方行政の政策にアプローチするのは難しい。
そういった事情も含めて理解してくれていて、「じゃあ、まずは先に町の環境を変えるところからアプローチしてみては」とアドバイスしてくださった。それで、ビジネスコンテストをとおして、ぼくらの提案を聞いてもらえる場を用意してくれたんです。
磯崎多治見市では、地域活性化を目的に、出店や創業へのチャレンジを募集する『TAJICON』というコンテストが2018年から開かれています。この地で毎年新しいビジネスを創造する文化をつくったのが、久田さんなんです。このコンテストで、ぼくらは「多治見で働こCAR」という企画をプレゼンしました。
西川「地域+ビジネス」という視点を提案してもらえたことで、ぼくらの理念やそれを反映したプロジェクトを、地域の現実やニーズをより意識したものへと進化させることができた。それによって、賛同してくれる企業が一気に増えたりと、プロジェクトが大きく前に進みました。
それから、今年(2022年)4月に発表された、中国電力さんと一緒に推進していく「ソーラーカーPPA」と「ゼロカーボン・ドライブチャージャー」をめぐるプロジェクトも強く印象に残っています。前者は、初期費用とメンテナンス費用をかけずに太陽光発電システムを導入できる仕組みで、後者は、系統につなげないソーラーガレージのこと。
でも、これも当初は「半年でかたちにする」というかなり無茶なスケジュールだったがゆえに、「そんなん実現できるの!?」という感じでした。これをパナソニックの商品開発部に頼んだら、普通は「2年かかります」と言われてしまうような大きな仕事です。さすがに無理かと思ったのですが、大手自動車業界出身のトップエンジニアたちで構成されるAZAPAという会社に相談したら、なんと「実験環境があればできますよ」って。
で、実際にその短い期間で試作ができてしまったから驚きました。ぼくらパナソニックからすると、AZAPAさんもエネファントさんも、信頼できるプロなんです。彼らエキスパートたちと信頼関係を築きながら仕事ができるというのは、本当に頼もしいし、何よりも「こんなことができてしまうのか!」というワクワクがある。そして、イノベーションというものは、そうした環境や関係性があるからこそ起こせるものだとも思っています。
「社会が笑顔になることを、事業をとおして成していく」
――お2人が中心となって進めているプロジェクトは、現在、多治見市という場所に密接に結びついていますが、これから先にどのようなビジョンを思い描いているのでしょうか。
磯崎端から見ると、ぼくは多治見とその周辺の地域のことを「なかばヤケになりつつも一生懸命やっている人」に見えるかもしれません。でもそれは、自分という人間を育ててくれたこの地域に対して、本当に感謝しているからなんです。しかしいま、そんな大切な場所が2000年をピークに人口が減少に転じ、今後もそのまま減少傾向が続くと目されている。つまり、このままいけば、町として持続できなくなるかもしれないわけです。
故郷の危機を黙って見ていることはできません。では、どうすればこの町が魅力的になり、人が集まってくるのか? ぼくらはエネルギーを扱う会社なので、その課題にエネルギーというものを介して関わっていきたい。創業時に打ち立てた「日本一電気代の安い町にする」という目標も、実現したら、それをきっかけに人がこの地に集まってくるのではないか、という考えがあったからです。
でも、町の「これから」を考えるなら、ただ単純に安いというだけではなく、いま進めているシェアEVやシェアサイクルのように、地域を交通の面から支え、移動の不便を解消していくような視点も大事だと思っています。さらにいえば、その拠点であるカーポートを町のなかに分散させていくことは、環境事業や、非常時の電源確保という側面からも意味があるはずです。そうしたことの積み重ねの先に、「暮らしやすい町・多治見」があるのだと思っています。
ぼくは今年33歳になるのですが、ひとまず30代はそのためにひたすら走り続けたいです。そしてゆくゆくは「この国に対して何ができるのか」まで考えていきたい。例えば、先ほどの人口減少の問題だって、多治見だけの問題ではありません。日本全国を見渡せば、同様の悩みを抱えた地方の町はたくさんある。ぼくらの取り組みが、日本の地方活性化の一つのモデルになれば嬉しいですし、いまの多治見にとってよいことは、きっと日本にとってもよいことだと信じているので。
西川実際、この「多治見モデル」は非常に評判も良くて、いろいろな方からノウハウを教えてほしいと言われます。社会貢献とビジネスを両輪で回していく、ある種の「新しいインフラ」としての可能性を秘めていることは間違いない。
もっとも、磯崎さんのやろうとしている「地域格差をなくす」みたいなことって、正直ビジネスにしづらい部分もあるんです。でも、本当に必要とされていることだし、そこにみんなイノベーションを求めている。で、ぼくは彼ならできると信じているし、これまで一緒にやってきたことからも、それが机上の空論でないことは確信しています。
だって、このエネファントのオフィスを見ても、何か新しいことが始まっていきそうな、そんな雰囲気があるじゃないですか。風通しがよくて、みんな楽しそうに働いていて。ぼくにとっては、シンプルに「活き活きと笑顔で働く」ということがすべてなんです。既成概念で凝り固まった壁に何度も何度もボールをぶつけまくって穴を開けようとするのも、心が折れそうになってもまたチャレンジし続けるのも、すべては楽しく働ける社会をつくりたいから。そうした仕事ができる限りは、どんなに大変でも、笑顔でいられると思っています。
磯崎社会が笑顔になることを、事業をとおして成していく----これこそが、企業とその経営の王道だと思っているので、とても共感します。ぼくも一緒になって笑顔になれるような、そんな気の合う方たちといろいろな夢を見ながら仕事を続けていけたら、きっとこのプロジェクトもやり遂げることができると信じています。西川さん、これからもよろしくお願いします。
――最後に、西川さんの「Make New」を教えてください。
西川「活き活きと笑顔で働く!」です!
パナソニックのアクションをシンプルなメッセージ動画でもお伝え中!
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Profile
西川 弘記(にしかわ・ひろき)
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 コミュニケーション企画室兼スマートエネルギー営業部主任技師。1983年にパナソニックへ入社し、半導体の生産技術や住宅・ビル・街の省エネ設計支援を経て現職に就く。
磯崎 顕三(いそざき・けんぞう)
株式会社エネファント 代表取締役。1989年生まれ、岐阜県多治見市育ち。2010年に愛知大学を中退。太陽の巨大なエネルギーを有効活用できないかと考え、2011年にエネファントを創業。地域のエネルギーを通じた地域課題解決型の事業を、岐阜県多治見市を中心に展開している。